「むずむず脚症候群」の版間の差分

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==症状特性==
==症状特性==
 その症状発現が月2回以上の頻度になると慢性化しやすく11),13)<ref name=Leary2018><pubmed>30243181</pubmed></ref><ref name=Takahashi2015><pubmed>26002761</pubmed></ref> 、週2回以上になるとQOLに悪影響を及ぼすようになる5)<ref name=Allen2005><pubmed>15956009</pubmed></ref> 。また、初期には夜間に限局していた症状が、罹病の長期化、重症化につれて日中にも生じるようになることが少なくない11),14)<ref name=Leary2018><pubmed>30243181</pubmed></ref><ref name=Liguori2020><pubmed>31770614</pubmed></ref> 。また、その症状は季節変動を示すことがかなり多い11),15)<ref name=Allen2003><pubmed>14592341</pubmed></ref><ref name=Leary2018><pubmed>30243181</pubmed></ref> 。
 その症状発現が月2回以上の頻度になると慢性化しやすく11),13)<ref name=Leary2018><pubmed>30243181</pubmed></ref><ref name=Takahashi2015><pubmed>26002761</pubmed></ref> 、週2回以上になるとQOLに悪影響を及ぼすようになる5)<ref name=Allen2005><pubmed>15956009</pubmed></ref> 。また、初期には夜間に限局していた症状が、罹病の長期化、重症化につれて日中にも生じるようになることが少なくない11),14)<ref name=Leary2018><pubmed>30243181</pubmed></ref><ref name=Liguori2020><pubmed>31770614</pubmed></ref> 。また、その症状は季節変動を示すことがかなり多い11),15)<ref name=Allen2003><pubmed>14592341</pubmed></ref><ref name=Leary2018><pubmed>30243181</pubmed></ref> 。


 若年発症例に比べて高齢発症例の方が進展が早い。[[認知症]]を有する高齢者にもむずむず脚症候群はしばしば存在するが、このような症例では症状を正確に表現できないため、下肢の不快感に伴う頻回な歩行を、[[せん妄]]を始めとする精神症状と見誤られてしまうことがある。夜間特に前半に症状が集中する、睡眠中の周期性四肢運動、家族歴が存在する、後述する[[ドパミン受容体]][[作動薬]]が有効である、などの特徴の有無を吟味すべきである15)<ref name=Allen2003><pubmed>14592341</pubmed></ref> 。
 若年発症例に比べて高齢発症例の方が進展が早い。[[認知症]]を有する高齢者にもむずむず脚症候群はしばしば存在するが、このような症例では症状を正確に表現できないため、下肢の不快感に伴う頻回な歩行を、[[せん妄]]を始めとする精神症状と見誤られてしまうことがある。夜間特に前半に症状が集中する、睡眠中の周期性四肢運動、家族歴が存在する、後述する[[ドパミン受容体]][[作動薬]]が有効である、などの特徴の有無を吟味すべきである15)<ref name=Allen2003><pubmed>14592341</pubmed></ref> 。
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 野性マウスとBTBD9をノックアウトしたマウスに透析患者の血清を腹腔内投与した場合、後者においてのみ周期性四肢運動様の下肢筋活動が発現したとの研究報告もある33) <ref name=Muramatsu2019><pubmed>31704978</pubmed></ref> 。むずむず脚症候群の動物モデル作成と、その運動評価の研究は近年大きく進歩を遂げており、研究手法の標準化も進められているので34) <ref name=Salminen2021><pubmed>33382140</pubmed></ref> 、特に遺伝学的側面での進歩が期待されよう。
 野性マウスとBTBD9をノックアウトしたマウスに透析患者の血清を腹腔内投与した場合、後者においてのみ周期性四肢運動様の下肢筋活動が発現したとの研究報告もある33) <ref name=Muramatsu2019><pubmed>31704978</pubmed></ref> 。むずむず脚症候群の動物モデル作成と、その運動評価の研究は近年大きく進歩を遂げており、研究手法の標準化も進められているので34) <ref name=Salminen2021><pubmed>33382140</pubmed></ref> 、特に遺伝学的側面での進歩が期待されよう。


 図2にTrenkwalderらが動物実験の結果をまとめた、むずむず脚症候群の低酸素状態に関連した細胞内での病態生理を示す6) <ref name=Trenkwalder2018><pubmed>30244828</pubmed></ref> 。図3に、むずむず脚症候群症状の発現に関わる遺伝学的背景と環境(二次性)要因の関与の関係を示す35) <ref name=Trenkwalder2016><pubmed>26944272</pubmed></ref> 。一般に若年発症の家族性発症の症例では遺伝的要素が主体となり、中高年期以降の症例では、身体的な背景の関与が高くなると考えられている。
 図2にTrenkwalderらが動物実験の結果をまとめた、むずむず脚症候群の低酸素状態に関連した細胞内での病態生理を示す6) <ref name=Trenkwalder2018><pubmed>30244828</pubmed></ref> 。図3に、むずむず脚症候群症状の発現に関わる遺伝学的背景と環境(二次性)要因の関与の関係を示す35) <ref name=Trenkwalder2016><pubmed>26944272</pubmed></ref> 。一般に若年発症の家族性発症の症例では遺伝的要素が主体となり、中高年期以降の症例では、身体的な背景の関与が高くなると考えられている。


==治療==
==治療==
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 プラミペキソールの主な副作用として、[[嘔気]]、[[傾眠]]、[[頭痛]]、胃部不快感(6.9%)、さらに、高用量を服用した場合には、前兆なく突然眠りに落ちてしまう[[突発的睡眠]]や[[衝動制御障害]]の報告があるので、これらに対する注意が必要である37),38) <ref name=Inoue2010><pubmed>20451927</pubmed></ref><ref name=Mierau1992><pubmed>1356788</pubmed></ref> 。また、プラミペキソールは未変化体が腎排出性のため、重度の腎障害患者への投与は原則禁忌である。他方ロチゴチンは、肝排泄性のため、腎機能への配慮は必要ないものの、貼付部位の発赤・かゆみに中止すべきである。
 プラミペキソールの主な副作用として、[[嘔気]]、[[傾眠]]、[[頭痛]]、胃部不快感(6.9%)、さらに、高用量を服用した場合には、前兆なく突然眠りに落ちてしまう[[突発的睡眠]]や[[衝動制御障害]]の報告があるので、これらに対する注意が必要である37),38) <ref name=Inoue2010><pubmed>20451927</pubmed></ref><ref name=Mierau1992><pubmed>1356788</pubmed></ref> 。また、プラミペキソールは未変化体が腎排出性のため、重度の腎障害患者への投与は原則禁忌である。他方ロチゴチンは、肝排泄性のため、腎機能への配慮は必要ないものの、貼付部位の発赤・かゆみに中止すべきである。


 ドパミン受容体作動薬によるむずむず脚症候群治療において、もっとも注意すべきなのは、長期服用下でむずむず脚症候群症状の発現が2時間以上早まり、症状の増悪、ならびに症状発現部位が拡大する[[症状促進現象]] (augmentation)を生じる危険性がある点である39) <ref name=Garcia-Borreguero2016><pubmed>27448465</pubmed></ref> 。表2に症状促進現象の診断基準を記す40) <ref name=Garcia-Borreguero2007a><pubmed>17544323</pubmed></ref> 。
 ドパミン受容体作動薬によるむずむず脚症候群治療において、もっとも注意すべきなのは、長期服用下でむずむず脚症候群症状の発現が2時間以上早まり、症状の増悪、ならびに症状発現部位が拡大する[[症状促進現象]] (augmentation)を生じる危険性がある点である39) <ref name=Garcia-Borreguero2016><pubmed>27448465</pubmed></ref> 。表2に症状促進現象の診断基準を記す40) <ref name=Garcia-Borreguero2007a><pubmed>17544323</pubmed></ref> 。


 その発現メカニズムとして、ドパミン作動薬投与によるシナプス後膜のD2受容体のdown regulation、短時間作用のドパミン作動薬での血中濃度の変動性、ドパミン神経活動の[[概日リズム|概日変動]]などが考えられている41,42,43) <ref name=Garcia-Borreguero2007><pubmed>17580331</pubmed></ref><ref name=Paulus2006><pubmed>16987735</pubmed></ref><ref name=Takahashi2017><pubmed>28264052</pubmed></ref> が、症状促進現象の動物モデルが作成されていないためか、その病態は確定されていない。症状促進現象は治療を阻害する重要な副作用であり、プラミペキソールではその発現頻度は8~56%と報告されており44) <ref name=Trenkwalder2008><pubmed>17921065</pubmed></ref> 、日本人患者においては本剤の投与量が多いこと(0.375㎎/日以上)がその発現リスク上昇と関連していると考えられている43))<ref name=Takahashi2017><pubmed>28264052</pubmed></ref> 。安易にドパミン作動薬の用量を増加させることは症状促進現象発現リスクを高めるので、慎重を期するべきである44) <ref name=Trenkwalder2008><pubmed>17921065</pubmed></ref> 。症状の発現時刻を考慮して、一日量は増やさず、分割投与や服用時刻を前進させるといった対応を行うのも一法である45) <ref name=Inoue2010b><pubmed>19962941</pubmed></ref> 。また、症状促進現象を生じる症例では血清フェリチン値が比較的低水準にあるという報告もあり、これも治療管理上の注意点になるだろう。
 その発現メカニズムとして、ドパミン作動薬投与によるシナプス後膜のD2受容体のdown regulation、短時間作用のドパミン作動薬での血中濃度の変動性、ドパミン神経活動の[[概日リズム|概日変動]]などが考えられている41,42,43) <ref name=Garcia-Borreguero2007><pubmed>17580331</pubmed></ref><ref name=Paulus2006><pubmed>16987735</pubmed></ref><ref name=Takahashi2017><pubmed>28264052</pubmed></ref> が、症状促進現象の動物モデルが作成されていないためか、その病態は確定されていない。症状促進現象は治療を阻害する重要な副作用であり、プラミペキソールではその発現頻度は8~56%と報告されており44) <ref name=Trenkwalder2008><pubmed>17921065</pubmed></ref> 、日本人患者においては本剤の投与量が多いこと(0.375㎎/日以上)がその発現リスク上昇と関連していると考えられている43))<ref name=Takahashi2017><pubmed>28264052</pubmed></ref> 。安易にドパミン作動薬の用量を増加させることは症状促進現象発現リスクを高めるので、慎重を期するべきである44) <ref name=Trenkwalder2008><pubmed>17921065</pubmed></ref> 。症状の発現時刻を考慮して、一日量は増やさず、分割投与や服用時刻を前進させるといった対応を行うのも一法である45) <ref name=Inoue2010b><pubmed>19962941</pubmed></ref> 。また、症状促進現象を生じる症例では血清フェリチン値が比較的低水準にあるという報告もあり、これも治療管理上の注意点になるだろう。
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 この群の薬剤使用下では、眠気・めまいといった副作用が生じる可能性に注意すべきだが、ドパミン作動薬のような症状促進現象リスクは否定的である。また、この群の薬剤は周期性四肢運動の抑制性ではドパミン作動薬に劣るものの、睡眠の安定化作用において優れている。ガバペンチンエナカルビルないしプレガバリンも未変化体が腎排泄性であるため、腎障害を有する患者では減量もしくは投与を避ける必要がある。プラミペキソールとプレガバリンの効果の同等性を証明した研究でのプレガバリン用量は300㎎/日とかなり高い49) <ref name=Allen2014b><pubmed>24521108</pubmed></ref> 。
 この群の薬剤使用下では、眠気・めまいといった副作用が生じる可能性に注意すべきだが、ドパミン作動薬のような症状促進現象リスクは否定的である。また、この群の薬剤は周期性四肢運動の抑制性ではドパミン作動薬に劣るものの、睡眠の安定化作用において優れている。ガバペンチンエナカルビルないしプレガバリンも未変化体が腎排泄性であるため、腎障害を有する患者では減量もしくは投与を避ける必要がある。プラミペキソールとプレガバリンの効果の同等性を証明した研究でのプレガバリン用量は300㎎/日とかなり高い49) <ref name=Allen2014b><pubmed>24521108</pubmed></ref> 。


 これに比べて日本国内で適応を得ているガバペンチンエナカルビルの量は600㎎とかなり低い(もちろんプレガバリンと等力価ではないが)ので、ドパミン作動薬に比べると有効性は低い。われわれが国内のプラセボ対照二重盲検比較試験データを結合して、ガバペンチンエナカルビルの有効例の特性を検討した研究では、家族歴があること、血清フェリチン値が正常であること、先行するドパミン作動薬による治療歴が存在することが本剤の有効性と関連していた<ref name=Inoue2021><pubmed>34329897</pubmed></ref> 50)。しかしながら、効果が若干劣るというデメリットを抱えながらも、症状促進現象リスクが決定的に低いことから、全世界的には治療の第一ラインをα2δリガンドにするという流れが出来つつある<ref name=Garcia-Borreguero2018><pubmed>29602660</pubmed></ref> 51)。
 これに比べて日本国内で適応を得ているガバペンチンエナカルビルの量は600㎎とかなり低い(もちろんプレガバリンと等力価ではないが)ので、ドパミン作動薬に比べると有効性は低い。われわれが国内のプラセボ対照二重盲検比較試験データを結合して、ガバペンチンエナカルビルの有効例の特性を検討した研究では、家族歴があること、血清フェリチン値が正常であること、先行するドパミン作動薬による治療歴が存在することが本剤の有効性と関連していた<ref name=Inoue2021><pubmed>34329897</pubmed></ref> 50)。しかしながら、効果が若干劣るというデメリットを抱えながらも、症状促進現象リスクが決定的に低いことから、全世界的には治療の第一ラインをα2δリガンドにするという流れが出来つつある<ref name=Garcia-Borreguero2018><pubmed>29602660</pubmed></ref> 51)。


 症状促進現象を避ける上では、血清フェリチン値を定期的に測定し、50-75μg/l以上を保つことが必要である。ドパミン作動薬使用下で症状促進現象が生じた場合には、分割投与や投与時刻の前進、α2δリガンドの投与を考慮する。International restless legs syndrome study group (IRLSSG)の治療アルゴリズム52) <ref name=Garcia-Borreguero2016><pubmed>27448465</pubmed></ref> )(表2)では、症状促進現象重症例では、ドパミン系薬剤の休薬(10日間程度)、ロチゴチン、α2δリガンド、[[オピオイド]]製剤(わが国では保険適応外)などを検討すべきとされている。
 症状促進現象を避ける上では、血清フェリチン値を定期的に測定し、50-75μg/l以上を保つことが必要である。ドパミン作動薬使用下で症状促進現象が生じた場合には、分割投与や投与時刻の前進、α2δリガンドの投与を考慮する。International restless legs syndrome study group (IRLSSG)の治療アルゴリズム52) <ref name=Garcia-Borreguero2016><pubmed>27448465</pubmed></ref> )(表2)では、症状促進現象重症例では、ドパミン系薬剤の休薬(10日間程度)、ロチゴチン、α2δリガンド、[[オピオイド]]製剤(わが国では保険適応外)などを検討すべきとされている。