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 アクチンはすべての[[wikipedia:ja:真核生物|真核生物]]に最も大量に存在する分子量約42 kDaのタンパク質である。[[wikipedia:ja:筋肉|筋肉]]細胞では20%以上、非筋細胞でも1~5%を占めている。単量体のアクチンはほぼ球状をしていることから、球状アクチン(G-アクチン;globular actin)と呼ばれている。生理的な[[wikipedia:ja:イオン|イオン]]条件ではG-アクチンは2本のプロトフィラメント(直鎖状のアクチン重合体)がらせん状に絡まった線維状アクチン(F-アクチン;filamentous actin)を形成する。イオン強度を下げると、線維状アクチンは球状アクチンに脱重合する。線維状アクチンからなるアクチンフィラメントは、[[中間径フィラメント]]や[[微小管]]と共に、[[細胞骨格]]の主要なメンバーであり、細胞の形態変化や運動に深く関わる<ref name="ref1"><pubmed> 19965462 </pubmed></ref>。<br>  
 アクチンはすべての[[wj:真核生物|真核生物]]に最も大量に存在する分子量約42 kDaのタンパク質である。[[wj:筋肉|筋肉]]細胞では20%以上、非筋細胞でも1~5%を占めている。単量体のアクチンはほぼ球状をしていることから、球状アクチン(G-アクチン;globular actin)と呼ばれている。生理的な[[wj:イオン|イオン]]条件ではG-アクチンは2本のプロトフィラメント(直鎖状のアクチン重合体)がらせん状に絡まった線維状アクチン(F-アクチン;filamentous actin)を形成する。イオン強度を下げると、線維状アクチンは球状アクチンに脱重合する。線維状アクチンからなるアクチンフィラメントは、[[中間径フィラメント]]や[[微小管]]と共に、[[細胞骨格]]の主要なメンバーであり、細胞の形態変化や運動に深く関わる<ref name="ref1"><pubmed> 19965462 </pubmed></ref>。<br>  
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== 遺伝子  ==
== 遺伝子  ==


 [[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]と[[wikipedia:ja:鳥類|鳥類]]の細胞ではアクチン遺伝子は6種類のアイソフォーム(α<sub>skeletal</sub>、α<sub>cardiac</sub>、α<sub>smooth</sub>、β<sub>cyto</sub>、γ<sub>smooth</sub>、γ<sub>cyto</sub>)が同定されている<ref name="ref2"><pubmed> 745245 </pubmed></ref>。α<sub>skeletal</sub>、α<sub>cardiac</sub>、α<sub>smooth</sub>、γ<sub>smooth</sub>アクチンの4つのアイソフォームはそれぞれ異なる筋肉細胞([[骨格筋]]、[[心筋]]、[[平滑筋]])に発現している<ref name="ref3"><pubmed> 20737541 </pubmed></ref>。これに対しβ<sub>cyto</sub>アクチンとγ<sub>cyto</sub>アクチンはほとんどすべての非筋細胞に発現している。  
 [[wj:哺乳類|哺乳類]]と[[wj:鳥類|鳥類]]の細胞ではアクチン遺伝子は6種類のアイソフォーム(α<sub>skeletal</sub>、α<sub>cardiac</sub>、α<sub>smooth</sub>、β<sub>cyto</sub>、γ<sub>smooth</sub>、γ<sub>cyto</sub>)が同定されている<ref name="ref2"><pubmed> 745245 </pubmed></ref>。α<sub>skeletal</sub>、α<sub>cardiac</sub>、α<sub>smooth</sub>、γ<sub>smooth</sub>アクチンの4つのアイソフォームはそれぞれ異なる筋肉細胞([[骨格筋]]、[[心筋]]、[[平滑筋]])に発現している<ref name="ref3"><pubmed> 20737541 </pubmed></ref>。これに対しβ<sub>cyto</sub>アクチンとγ<sub>cyto</sub>アクチンはほとんどすべての非筋細胞に発現している。  


== 構造  ==
== 構造  ==
 
 アクチン単量体は中央の深い溝を挟んで2つのドメインからなり、さらにそれぞれは2つのサブドメインに分けられる<ref name="ref4"><pubmed> 21314430 </pubmed></ref>。アクチン単量体の溝の奥ではMg<sup>2+</sup>を結合した[[w:ATP|ATP]]または[[w:ADP|ADP]]が周りのアミノ酸残基と[[wj:水素結合|水素結合]]と[[wj:イオン結合|イオン結合]]により結合しており、[[wj:ヌクレオチド|ヌクレオチド]]の非存在下ではアクチン分子は変性する。アクチンフィラメントへの重合能を持つのはATP結合型である。アクチン単量体のADPは速やかにATPに変換されることから、大部分のアクチン単量体はATP結合型として存在する。重合後はアクチン分子の溝部分に存在する[[w:ATPase|ATPase]]活性によりATP結合型からADP結合型に変化し、アクチンフィラメントの大部分はADP結合型となる。この際、遊離した[[wj:無機リン酸|無機リン酸]]はアクチンフィラメントに留まる。  
(図があればと思います)  アクチン単量体は中央の深い溝を挟んで2つのドメインからなり、さらにそれぞれは2つのサブドメインに分けられる<ref name="ref4"><pubmed> 21314430 </pubmed></ref>。アクチン単量体の溝の奥ではMg<sup>2+</sup>を結合した[[wikipedia:ATP|ATP]]または[[wikipedia:ADP|ADP]]が周りのアミノ酸残基と[[wikipedia:ja:水素結合|水素結合]]と[[wikipedia:ja:イオン結合|イオン結合]]により結合しており、[[wikipedia:ja:ヌクレオチド|ヌクレオチド]]の非存在下ではアクチン分子は変性する。アクチンフィラメントへの重合能を持つのはATP結合型である。アクチン単量体のADPは速やかにATPに変換されることから、大部分のアクチン単量体はATP結合型として存在する。重合後はアクチン分子の溝部分に存在する[[wikipedia:ATPase|ATPase]]活性によりATP結合型からADP結合型に変化し、アクチンフィラメントの大部分はADP結合型となる。この際、遊離した[[wikipedia:ja:無機リン酸|無機リン酸]]はアクチンフィラメントに留まる。  


 アクチンフィラメントは直径7~9 nm、半ピッチは36 nmでおよそ13個のアクチン単量体から形成されている<ref name="ref4" />。このアクチンフィラメントに[[ミオシン]]の頭部にあたるS1領域(subfragment 1)を混合すると、S1領域はアクチンフィラメントの側面に一定の角度を以って結合する。この複合体はしばしば矢尻に形容され、この矢尻の先端方向を矢尻端(pointed end)またはマイナス端、他方の端を反矢尻端(barbed end)またはプラス端と称する。反矢尻端は、矢尻端に比べ、単量体アクチンとの結合定数が強く、生理的条件下でのアクチン伸長は主に反矢尻端より起こるとされる。それゆえ、反矢尻端での重合と矢尻端での脱重合が共存する動的平衡状態、すなわちトレッドミル(treadmill)が可能となる。  
 アクチンフィラメントは直径7~9 nm、半ピッチは36 nmでおよそ13個のアクチン単量体から形成されている<ref name="ref4" />。このアクチンフィラメントに[[ミオシン]]の頭部にあたるS1領域(subfragment 1)を混合すると、S1領域はアクチンフィラメントの側面に一定の角度を以って結合する。この複合体はしばしば矢尻に形容され、この矢尻の先端方向を矢尻端(pointed end)またはマイナス端、他方の端を反矢尻端(barbed end)またはプラス端と称する。反矢尻端は、矢尻端に比べ、単量体アクチンとの結合定数が強く、生理的条件下でのアクチン伸長は主に反矢尻端より起こるとされる。それゆえ、反矢尻端での重合と矢尻端での脱重合が共存する動的平衡状態、すなわちトレッドミル(treadmill)が可能となる。  
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=== 単量体結合タンパク質 ===
=== 単量体結合タンパク質 ===
 [[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]の非筋細胞では、アクチンの約50%が単量体として存在する。アクチン単量体が大量に含まれる細胞質では、アクチン単量体に特異的に結合するタンパク質が重合を阻害している。  
 [[wj:脊椎動物|脊椎動物]]の非筋細胞では、アクチンの約50%が単量体として存在する。アクチン単量体が大量に含まれる細胞質では、アクチン単量体に特異的に結合するタンパク質が重合を阻害している。  
==== チモシンβ4  ====
==== チモシンβ4  ====