「エンハンサーRNA」の版間の差分

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小西理予1、河岡慎平1,2
<div align="right"> 
1京都大学 医生物学研究所 臓器連関研究チーム
<font size="+1">小西 理予<sup>1</sup></font><br>
2東北大学 加齢医学研究所 生体情報解析分野
<font size="+1">[https://researchmap.jp/charlie_kawashin 河岡 慎平]<sup>1,2</sup></font><br>
''1. 京都大学 医生物学研究所 臓器連関研究チーム''<br>
''2. 東北大学 加齢医学研究所 生体情報解析分野''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2023年3月27日 原稿完成日:2023年3月29日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
</div></div>


英:enhancer RNA<br>
英:enhancer RNA<br>
英略語:eRNA
略語:eRNA


{{box|text= エンハンサーから転写されるRNAのことをエンハンサーRNAという。エンハンサーRNAは、エンハンサーの活性を示唆するものさしの一つとして役に立つが、その機能については不明な点が残されている。}}
{{box|text= エンハンサーから転写されるRNAのことをエンハンサーRNAという。エンハンサーRNAは、エンハンサーの活性を示唆する指標の一つとして役に立つが、その機能については不明な点が残されている。}}


== エンハンサーRNAとは ==
== エンハンサーRNAとは ==
[[ファイル:Kawaoka enhancer RNA fig1.png|サムネイル|'''図1.エンハンサーとエンハンサーRNA'''<br>複数のマーカーによって規定された エンハンサー領域にマップされるRNAのことをエンハンサーRNA (eRNA) と呼ぶ。]]
 [[エンハンサー]]とは標的[[遺伝子]]がいつ、どこで、どのくらい発現するかを決める非コードDNA領域の総称である<ref name=Li2016><pubmed>26948815</pubmed></ref><ref name=Sartorelli2020><pubmed>32514177</pubmed></ref><ref name=Statello2021><pubmed>33353982</pubmed></ref><ref name=TheENCODEProjectConsortium2012><pubmed>22955616</pubmed></ref> 。遺伝子が適時・適所に機能するために重要なゲノム領域として古くから盛んに研究されてきた。実際、エンハンサーの活性は状況や細胞系譜に特異的に調節されていることが多い。
 [[エンハンサー]]とは標的[[遺伝子]]がいつ、どこで、どのくらい発現するかを決める非コードDNA領域の総称である<ref name=Li2016><pubmed>26948815</pubmed></ref><ref name=Sartorelli2020><pubmed>32514177</pubmed></ref><ref name=Statello2021><pubmed>33353982</pubmed></ref><ref name=TheENCODEProjectConsortium2012><pubmed>22955616</pubmed></ref> 。遺伝子が適時・適所に機能するために重要なゲノム領域として古くから盛んに研究されてきた。実際、エンハンサーの活性は状況や細胞系譜に特異的に調節されていることが多い。


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 一般に、エンハンサーの同定には複数のヒストンマーカーや転写因子の情報を組み合わせる。興味のある領域がDNaseに対して高感受性を示すDNA領域かどうか (クロマチン構造が開いているか) を考慮することも多い。複数の方法によるエンハンサー候補領域の同定は強力な手法である一方、これらはあくまでエンハンサー「候補」領域と考えるべきで、実際に標的遺伝子の発現に貢献しているかどうかを調べるにはエンハンサー欠失などの実験が必要である。
 一般に、エンハンサーの同定には複数のヒストンマーカーや転写因子の情報を組み合わせる。興味のある領域がDNaseに対して高感受性を示すDNA領域かどうか (クロマチン構造が開いているか) を考慮することも多い。複数の方法によるエンハンサー候補領域の同定は強力な手法である一方、これらはあくまでエンハンサー「候補」領域と考えるべきで、実際に標的遺伝子の発現に貢献しているかどうかを調べるにはエンハンサー欠失などの実験が必要である。


 転写活性を有するエンハンサーが存在することが体系的に報告されたのは2010年に遡る<ref name=DeSanta2010><pubmed>20485488</pubmed></ref><ref name=Kim2010><pubmed>20393465</pubmed></ref> 。実際、RNAポリメラーゼIIの結合を認めるエンハンサーが多数存在する<ref name=DeSanta2010><pubmed>20485488</pubmed></ref> 。注意すべきこととして、エンハンサーRNAは、従来のトランスクリプトーム (RNA-seq) のプロトコルではかなり検出されにくい。複数の理由があるが、そもそもの発現量が少ないことや、半減期が短いために「気がつかれにくい」RNAであったと言える。エンハンサーRNAを効率的に捉えるには、新たに転写されつつあるRNAを捕捉できるCap analysis of gene expression (CAGE) 法<ref name=Kanamori-Katayama2011><pubmed>21596820</pubmed></ref><ref name=Shiraki2003><pubmed>14663149</pubmed></ref> や、native elongating transcript (NET)-CAGE<ref name=Hirabayashi2019><pubmed>31477927</pubmed></ref> 、global run on sequencing (GRO-seq)<ref name=Core2008><pubmed> 19056941 </pubmed></ref> 、precision run-on nuclear sequencing (PRO-seq)<ref name=Mahat2016><pubmed>27442863</pubmed></ref>  などの手法が必要で、ライブラリ調整における工夫によってエンハンサーRNAの捕捉効率が変わる<ref name=Hirabayashi2019><pubmed>31477927</pubmed></ref><ref name=Sartorelli2020><pubmed>32514177</pubmed></ref><ref name=TheENCODEProjectConsortium2012><pubmed>22955616</pubmed></ref> 。検出されたRNAがエンハンサー領域にマップされた場合に、これらをエンハンサーRNAと呼ぶ (図1)
 以前は、エンハンサーは染色体DNA配列上の概念であったが、2010年に転写活性を有するエンハンサーが存在することが報告され、エンハンサーRNAと呼ばれるようになった<ref name=DeSanta2010><pubmed>20485488</pubmed></ref><ref name=Kim2010><pubmed>20393465</pubmed></ref> 。実際、RNAポリメラーゼIIの結合を認めるエンハンサーが多数存在する<ref name=DeSanta2010><pubmed>20485488</pubmed></ref> 。エンハンサーRNAは、従来のトランスクリプトーム (RNA-seq) のプロトコルではかなり検出されにくい。複数の理由があるが、そもそもの発現量が少ないことや、半減期が短いために「気がつかれにくい」RNAであったと言える。エンハンサーRNAを効率的に捉えるには、新たに転写されつつあるRNAを捕捉できるCap analysis of gene expression (CAGE) 法<ref name=Kanamori-Katayama2011><pubmed>21596820</pubmed></ref><ref name=Shiraki2003><pubmed>14663149</pubmed></ref> や、native elongating transcript (NET)-CAGE<ref name=Hirabayashi2019><pubmed>31477927</pubmed></ref> 、global run on sequencing (GRO-seq)<ref name=Core2008><pubmed> 19056941 </pubmed></ref> 、precision run-on nuclear sequencing (PRO-seq)<ref name=Mahat2016><pubmed>27442863</pubmed></ref>  などの手法が必要で、ライブラリ調整における工夫によってエンハンサーRNAの捕捉効率が変わる<ref name=Hirabayashi2019><pubmed>31477927</pubmed></ref><ref name=Sartorelli2020><pubmed>32514177</pubmed></ref><ref name=TheENCODEProjectConsortium2012><pubmed>22955616</pubmed></ref> 。検出されたRNAがエンハンサー領域にマップされた場合に、これらをエンハンサーRNAと呼ぶ ('''図1''')。エンハンサーRNAはエンハンサーの包括的なアノテーションに役にたつ。エンハンサー制御におけるエンハンサーRNAの機能についてはさまざまな議論があり、統一的な見解に向かう途上にある。
 
 エンハンサーRNAはエンハンサーの包括的なアノテーションに役にたつ。エンハンサー制御におけるエンハンサーRNAの機能についてはさまざまな議論があり、統一的な見解に向かう途上にある。


 なお、これらの手法をもってしても検出されないエンハンサーRNAが存在する可能性もある。
 なお、これらの手法をもってしても検出されないエンハンサーRNAが存在する可能性もある。

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