「Na-K-2Cl共輸送体」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
20行目: 20行目:


 [[ヒト]]のNKCC1遺伝子は5番目の染色体上にあり、27のエクソンが連なり、mRNAが作製される。21番目のエクソン(16アミノ酸をコード)がスキップしたスプライスバリアントが存在し、NKCC1B と呼ばれる。NKCC2は15番目の染色体上にあり、約1100アミノ酸(ヒト型は1099残基)を含み、NKCC1同様グリコシル化を受けている<ref name=Payne1994><pubmed>7514306</pubmed></ref> 。NKCC2のORFは26のエクソンにまたがっているが、NKCC2のクローニングの際、4番目のエクソンが異なる3つのスプライスバリアント(NKCC2A, B, F)が見いだされている<ref name=Igarashi1995><pubmed>7573490</pubmed></ref> 。
 [[ヒト]]のNKCC1遺伝子は5番目の染色体上にあり、27のエクソンが連なり、mRNAが作製される。21番目のエクソン(16アミノ酸をコード)がスキップしたスプライスバリアントが存在し、NKCC1B と呼ばれる。NKCC2は15番目の染色体上にあり、約1100アミノ酸(ヒト型は1099残基)を含み、NKCC1同様グリコシル化を受けている<ref name=Payne1994><pubmed>7514306</pubmed></ref> 。NKCC2のORFは26のエクソンにまたがっているが、NKCC2のクローニングの際、4番目のエクソンが異なる3つのスプライスバリアント(NKCC2A, B, F)が見いだされている<ref name=Igarashi1995><pubmed>7573490</pubmed></ref> 。
 
[[ファイル:Inoue NKCC Fig2.png|サムネイル|'''図2. NKCC1/2が属するCCCファミリーの系統樹''']]
==サブファミリー==
==サブファミリー==
 NKCCが含まれるSlc12にはNKCC1/2の他に、Na<sup>+</sup>、Cl<sup>-</sup>の共輸送体である[[Na-Cl共輸送体]] (NCC)とK<sup>+</sup>、Cl<sup>-</sup>の共輸送体である[[K-Cl共輸送体]][[KCC]]1-4が含まれる。機能未知の[[CCC8]]及び[[CCC9]]を構造上ファミリーに加える考えもあるが、相同性はNKCC、NCC、KCCと比べて低い<ref name=Reid2020><pubmed>32286222</pubmed></ref>('''図2''') 。
 NKCCが含まれるSlc12にはNKCC1/2の他に、Na<sup>+</sup>、Cl<sup>-</sup>の共輸送体である[[Na-Cl共輸送体]] (NCC)とK<sup>+</sup>、Cl<sup>-</sup>の共輸送体である[[K-Cl共輸送体]][[KCC]]1-4が含まれる。機能未知の[[CCC8]]及び[[CCC9]]を構造上ファミリーに加える考えもあるが、相同性はNKCC、NCC、KCCと比べて低い<ref name=Reid2020><pubmed>32286222</pubmed></ref>('''図2''') 。
 
[[ファイル:Inoue NKCC Fig3.png|サムネイル|'''図3. 腎臓におけるNKCC2スプライスバリアントの発現分布'''<br>マウスの胎仔の腎臓組織を用いて行ったin situ hybridizationの結果<ref name=Gimenez2002 />を模式的に表示したもの。NKCC2Fは青、NKCC2Aは緑、NKCC2Bは灰色で示す。]]
==発現==
==発現==
[['''図2. 腎臓におけるNKCC2スプライスバリアントの発現分布'''<br>
 NKCC1はユビキタスに発現している。神経細胞においては、発達につれてNKCC1の発現量が減少するとの報告があるが、ある程度成長した後も野生型とNKCC1欠損マウスでの細胞内Cl<sup>-</sup>濃度が異なっており、成長後も一定量存在するものと考えられる<ref name=Khirug2008><pubmed>18448640</pubmed></ref><ref name=Yamada2004><pubmed>15090604</pubmed></ref> 。細胞内の局在に関しては、NKCC1A/B間で異なるエクソン21に相当する16アミノ酸が[[極性]]細胞におけるNKCC1の[[基底膜]]側への局在に重要であるとの報告がある<ref name=Carmosino2008><pubmed>18667527</pubmed></ref>。
マウスの胎仔の腎臓組織を用いて行ったin situ hybridizationの結果をカラー表示したもの<ref name=Gimenez2002><pubmed>11815599</pubmed></ref> 。]]
 
 NKCC1はユビキタスに発現している。神経細胞においては、発達につれてNKCC1の発現量が減少するとの報告があるが、ある程度成長した後も野生型とNKCC1欠損マウスでの細胞内Cl<sup>-</sup>濃度が異なっており、成長後も一定量存在するものと考えられる<ref name=Khirug2008><pubmed>18448640</pubmed></ref><ref name=Yamada2004><pubmed>15090604</pubmed></ref> 。細胞内の局在に関しては、NKCC1A/B間で異なるエクソン21に相当する16アミノ酸が[[極性]]細胞におけるNKCC1の[[基底膜]]側への局在に重要であるとの報告がある<ref name=Carmosino2008><pubmed>18667527</pubmed></ref> 。


 NKCC2は腎臓特異的に発現しているが、[[腸管]]や[[膵臓]][[ランゲルハンス島]]の[[β細胞]]に発現するという報告もある<ref name=Alshahrani2012><pubmed>22759959</pubmed></ref><ref name=Xue2009><pubmed>19460103</pubmed></ref> 。腎臓では[[ヘンレ係蹄]]の太い[[上行脚]]から[[遠位尿細管]]に発現しており、その中でのバリアントの発現分布は、NKCC2Fは腎髄質内の[[尿細管]]、NKCC2Aは[[腎皮質]]尿細管と[[遠位尿細管]]、NKCC2Bは[[マクラデンサ]]に発現している<ref name=Gimenez2002><pubmed>11815599</pubmed></ref> 。  
 NKCC2は腎臓特異的に発現しているが、[[腸管]]や[[膵臓]][[ランゲルハンス島]]の[[β細胞]]に発現するという報告もある<ref name=Alshahrani2012><pubmed>22759959</pubmed></ref><ref name=Xue2009><pubmed>19460103</pubmed></ref> 。腎臓では[[ヘンレ係蹄]]の太い[[上行脚]]から[[遠位尿細管]]に発現しており、その中でのバリアントの発現分布は、NKCC2Fは腎髄質内の[[尿細管]]、NKCC2Aは[[腎皮質]]尿細管と[[遠位尿細管]]、NKCC2Bは[[マクラデンサ]]に発現している<ref name=Gimenez2002><pubmed>11815599</pubmed></ref> 。  
34行目: 31行目:
==機能==
==機能==
 Slc12に属する分子は、Na<sup>+</sup>-K<sup>+</sup>-ATPaseによって生じるNa<sup>+</sup>、K<sup>+</sup>の濃度勾配を利用してCl<sup>-</sup>の移動を行う共輸送体(シンポーター)であり、その中でNKCCは1つのNa<sup>+</sup>、1つのK<sup>+</sup>、2つのCl<sup>-</sup>を同時に同方向に輸送する。NKCC1を介するCl<sup>-</sup>の取り込みとそれに伴う水分の流入は細胞の高張ストレスに対する細胞容積調節の主因子となっている。腎尿細管(NKCC2優位)や[[唾液腺]]分泌上皮など極性のある細胞では一面に局在することにより、Na<sup>+</sup>やCl<sup>-</sup>等のイオンを一方向行に移行し、Na<sup>+</sup>の再吸収や分泌液の生成に作用する<ref name=Khalafalla2020><pubmed>32231563</pubmed></ref><ref name=MacAulay2020><pubmed>32870507</pubmed></ref> 。  
 Slc12に属する分子は、Na<sup>+</sup>-K<sup>+</sup>-ATPaseによって生じるNa<sup>+</sup>、K<sup>+</sup>の濃度勾配を利用してCl<sup>-</sup>の移動を行う共輸送体(シンポーター)であり、その中でNKCCは1つのNa<sup>+</sup>、1つのK<sup>+</sup>、2つのCl<sup>-</sup>を同時に同方向に輸送する。NKCC1を介するCl<sup>-</sup>の取り込みとそれに伴う水分の流入は細胞の高張ストレスに対する細胞容積調節の主因子となっている。腎尿細管(NKCC2優位)や[[唾液腺]]分泌上皮など極性のある細胞では一面に局在することにより、Na<sup>+</sup>やCl<sup>-</sup>等のイオンを一方向行に移行し、Na<sup>+</sup>の再吸収や分泌液の生成に作用する<ref name=Khalafalla2020><pubmed>32231563</pubmed></ref><ref name=MacAulay2020><pubmed>32870507</pubmed></ref> 。  
[['''図3. 腎尿細管におけるNKCC2の局在'''<br>
[[ファイル:Inoue NKCC Fig4.png|サムネイル|'''図4. 腎尿細管におけるNKCC2の局在'''<br>
腎尿細管ではNKCC2は尿管側に局在し、尿管内の Na<sup>+</sup>、K<sup>+</sup>、2Cl<sup>-</sup> を細胞内に流入させる。K<sup>+</sup>は[[ROMK]]を介して再び尿管側へ、Na<sup>+</sup>とCl<sup>-</sup>はそれぞれ[[塩素チャネル|Cl<sup>-</sup>チャネル]]([[ClC-Kb]])と[[Na+/K+-ATPase|Na<sup>+</sup>/K<sup>+</sup>-ATPase]]を介して[[血管]]内に輸送される。<br>
腎尿細管(TAL)ではNKCC2は尿管側に局在し、尿管内の Na<sup>+</sup>、K<sup>+</sup>、2Cl<sup>-</sup> を細胞内に流入させる。K<sup>+</sup>は[[ROMK]]を介して再び尿管側へ、Na<sup>+</sup>とCl<sup>-</sup>はそれぞれ[[塩素チャネル|Cl<sup>-</sup>チャネル]]([[ClC-Kb]])と[[Na+/K+-ATPase|Na<sup>+</sup>/K<sup>+</sup>-ATPase]]を介して[[血管]]内に輸送される。一方で、遠位曲尿細管(distal convoluted tubule: DCT)ではNKCC2の代わりにCCCファミリーの分子であるNCCがNaCl輸送に関わる。<br>
文献<ref name=Devuyst2015><pubmed>26579681</pubmed></ref>を改変]]
文献<ref name=Azlan2020><pubmed> 34094823 </pubmed></ref>よりCC BY-NC-ND 4.0に基づき利用。]]


 [[神経細胞]]においては、神経特異的[[KCC2]]と協働し細胞内Cl<sup>-</sup>濃度の調節に関与する。上述のようにNKCC1の発現レベルの変化については統一されていないが、KCC2は発達と共に発現レベルが上昇することが知られている<ref name=Rivera1999><pubmed>9930699</pubmed></ref> 。このため、KCCはCl<sup>-</sup>を細胞外にくみ出す活性を持つが、神経細胞では発達につれてKCC2の発現レベルが上昇し、KCC活性がCl<sup>-</sup>を流入させるNKCC活性を上回り、細胞内Cl<sup>-</sup>濃度は低下する。神経細胞に発現する[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]や[[グリシン受容体]]は陰イオンチャネルであり、活性化すると生理的条件下ではCl<sup>-</sup>やHCO<sub>3</sub><sup>-</sup>など陰イオンを透過する。細胞内外の陰イオンではCl<sup>-</sup>が最も多く、Cl<sup>-</sup>はHCO<sub>3</sub><sup>-</sup>より透過性が高いため(GABA<sub>A</sub>受容体ではP<small>HCO<sub>3</sub><sup>-</sup></small>/P<small>Cl<sup>-</sup></small>=~0.2<ref name=Kaila1994><pubmed>7522334</pubmed></ref> )、Cl<sup>-</sup>が優位に透過することになるが、その場合、膜電位変化はCl<sup>-</sup>の[[平衡電位]]に近づくように変化する。平衡電位はおおむね細胞内外の当該イオンの濃度から[[ネルンストの式]]から計算される。
 [[神経細胞]]においては、神経特異的[[KCC2]]と協働し細胞内Cl<sup>-</sup>濃度の調節に関与する。上述のようにNKCC1の発現レベルの変化については統一されていないが、KCC2は発達と共に発現レベルが上昇することが知られている<ref name=Rivera1999><pubmed>9930699</pubmed></ref> 。このため、KCCはCl<sup>-</sup>を細胞外にくみ出す活性を持つが、神経細胞では発達につれてKCC2の発現レベルが上昇し、KCC活性がCl<sup>-</sup>を流入させるNKCC活性を上回り、細胞内Cl<sup>-</sup>濃度は低下する。神経細胞に発現する[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]や[[グリシン受容体]]は陰イオンチャネルであり、活性化すると生理的条件下ではCl<sup>-</sup>やHCO<sub>3</sub><sup>-</sup>など陰イオンを透過する。細胞内外の陰イオンではCl<sup>-</sup>が最も多く、Cl<sup>-</sup>はHCO<sub>3</sub><sup>-</sup>より透過性が高いため(GABA<sub>A</sub>受容体ではP<small>HCO<sub>3</sub><sup>-</sup></small>/P<small>Cl<sup>-</sup></small>=~0.2<ref name=Kaila1994><pubmed>7522334</pubmed></ref> )、Cl<sup>-</sup>が優位に透過することになるが、その場合、膜電位変化はCl<sup>-</sup>の[[平衡電位]]に近づくように変化する。平衡電位はおおむね細胞内外の当該イオンの濃度から[[ネルンストの式]]から計算される。