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(ページの作成:「Dbxファミリータンパク質 熊本大学大学院 生命科学研究部 形態構築学講座 江角重行 英語名:Developing brain homeobox 1 /2 略語:Dbx1/2(マウス), DBX1/2(ヒト)、Dbx (ショウジョウバエ) 抄録  ホメオボックス型転写因子Dbx (Developing Brain homeoboX)ファミリーは、主に中枢・末梢神経系の発生時期に一過的・局所的に発現する転写因子であり、哺乳類ではDbx1と Db…」)
 
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江角重行
江角重行


英語名:Developing brain homeobox 1 /2 略語:Dbx1/2(マウス), DBX1/2(ヒト)、Dbx (ショウジョウバエ)
英語名:Developing brain homeobox family
英略語:Dbx


抄録
{{box|text= ホメオボックス型転写因子Dbx (Developing Brain homeoboX)ファミリーは、主に中枢・末梢神経系の発生時期に一過的・局所的に発現する転写因子であり、哺乳類ではDbx1と Dbx2が存在し、細胞分化や細胞運命決定に関わる。Dbx1・Dbx2は発生期の脊髄前駆細胞ドメインに局所的かつ一過的に発現しており、脊髄の介在ニューロン運命決定に必須である。Dbx1は終脳の背側腹側境界領域や視索前領域、中脳、視床上部、背側視床、視床下部の原基などにも発現しており、大脳皮質発生過程に一過的に存在するカハールレチウス細胞・扁桃体・視床下部外側核・中脳の呼吸中枢・中脳の交連線維などの発生や分化に大きく関与する。Dbx2は脊髄前駆細胞ドメインだけでなく、脊髄から視床ZLI (Zona limitans Intrathalamica) 周囲に至る翼板と基板間の領域や間葉系の細胞の一部で発現しているが、機能についての報告はほとんどない。}}
 ホメオボックス型転写因子Dbx (Developing Brain homeoboX)ファミリーは、主に中枢・末梢神経系の発生時期に一過的・局所的に発現する転写因子であり、哺乳類ではDbx1と Dbx2が存在し、細胞分化や細胞運命決定に関わる。Dbx1・Dbx2は発生期の脊髄前駆細胞ドメインに局所的かつ一過的に発現しており、脊髄の介在ニューロン運命決定に必須である。Dbx1は終脳の背側腹側境界領域や視索前領域、中脳、視床上部、背側視床、視床下部の原基などにも発現しており、大脳皮質発生過程に一過的に存在するカハールレチウス細胞・扁桃体・視床下部外側核・中脳の呼吸中枢・中脳の交連線維などの発生や分化に大きく関与する。Dbx2は脊髄前駆細胞ドメインだけでなく、脊髄から視床ZLI (Zona limitans Intrathalamica) 周囲に至る翼板と基板間の領域や間葉系の細胞の一部で発現しているが、機能についての報告はほとんどない。


== Dbxファミリーとは ==
 Dbxファミリーは、ホメオドメインを利用したクローニングによってマウスで同定された<ref name=Lu1992><pubmed>1355604</pubmed></ref><ref name=Shoji1996><pubmed>8798145</pubmed></ref> 。


Introductin
 哺乳類においては、Dbx1, Dbx2が存在し、細胞分化や細胞運命決定に関わる。脊髄発生においては、Dbx1, Dbx2は翼板(alar plate)と基板(basal plate)間に位置する領域(前駆細胞ドメイン)に一過的に発現し、介在ニューロンの発生に必須である<ref name=Briscoe2000><pubmed>10830170</pubmed></ref><ref name=Pierani1999><pubmed>10399918</pubmed></ref> 。
 Dbx ファミリーは、ホメオドメインを利用したクローニングによってマウスで同定された<ref name=Lu1992><pubmed>1355604</pubmed></ref><ref name=Shoji1996><pubmed>8798145</pubmed></ref> 。哺乳類においては、Dbx1, Dbx2が存在し、細胞分化や細胞運命決定に関わる。脊髄発生においては、Dbx1, Dbx2は翼板(alar plate)と基板(basal plate)間に位置する領域(前駆細胞ドメイン)に一過的に発現し、介在ニューロンの発生に必須である<ref name=Briscoe2000><pubmed>10830170</pubmed></ref><ref name=Pierani1999><pubmed>10399918</pubmed></ref> 。Dbx1は終脳発生過程でも一過的(胎生9.5-13.5日齢)に外套下部 /腹側外套(Ventral Pallium,VP/Pallial-Subpallial Boundary, PSB)や、視索前領域(Preoptic Area, POA)に発現する。この領域で産生されたDbx1系譜神経細胞(Dbx1-lineage cells/neuron)は大脳皮質のカハールレチウス細胞<ref name=Bielle2005><pubmed>16041369</pubmed></ref> 、扁桃体基底外側核の興奮性グルタミン酸ニューロンや扁桃体内側核の抑制性GABA作動性ニューロンになどに分化する<ref name=Hirata2009><pubmed>19136974</pubmed></ref> 。また、Dbx1は視床下部原基にも発現しており、視床下部外側核、弓状核ニューロンの発生を制御することがわかっている<ref name=Sokolowski2015><pubmed>25864637</pubmed></ref> 。さらに、中脳の呼吸中枢(pre-Bötzinger complex respiratory neurons)の発生にも必須であり<ref name=Gray2010><pubmed>21048147</pubmed></ref> 、Dbx1ノックアウトマウスは生後0日目に呼吸不全で死亡する<ref name=Gray2010><pubmed>21048147</pubmed></ref> 。Dbx2については発生期の脊髄前駆細胞ドメインだけでなく、脊髄から視床ZLI周囲の至るまで翼板と基板間の領域や、肢芽、歯芽、成熟したアストロサイトや間葉系の細胞の一部で発現するが、機能については、未解な部分が多い。これはDbx2遺伝子改変マウスを用いた報告がほとんどないためである。ショウジョウバエにおいては、Dbx1/2のオルソログであるDbxが見つかっており、介在ニューロンへの細胞分化や細胞運命決定に関わることが報告されている<ref name=Lacin2009><pubmed>19710170</pubmed></ref> 。


Dbxファミリータンパク質の構造
 Dbx1は終脳発生過程でも一過的(胎生9.5-13.5日齢)に外套下部 /腹側外套(Ventral Pallium,VP/Pallial-Subpallial Boundary, PSB)や、視索前領域(Preoptic Area, POA)に発現する。この領域で産生されたDbx1系譜神経細胞(Dbx1-lineage cells/neuron)は大脳皮質のカハールレチウス細胞<ref name=Bielle2005><pubmed>16041369</pubmed></ref> 、扁桃体基底外側核の興奮性グルタミン酸ニューロンや扁桃体内側核の抑制性GABA作動性ニューロンになどに分化する<ref name=Hirata2009><pubmed>19136974</pubmed></ref> 。また、Dbx1は視床下部原基にも発現しており、視床下部外側核、弓状核ニューロンの発生を制御することがわかっている<ref name=Sokolowski2015><pubmed>25864637</pubmed></ref> 。さらに、中脳の呼吸中枢(pre-Bötzinger complex respiratory neurons)の発生にも必須であり<ref name=Gray2010><pubmed>21048147</pubmed></ref> 、Dbx1ノックアウトマウスは生後0日目に呼吸不全で死亡する<ref name=Gray2010><pubmed>21048147</pubmed></ref> 。
 
 Dbx2については発生期の脊髄前駆細胞ドメインだけでなく、脊髄から視床ZLI周囲の至るまで翼板と基板間の領域や、肢芽、歯芽、成熟したアストロサイトや間葉系の細胞の一部で発現するが、機能については、未解な部分が多い。これはDbx2遺伝子改変マウスを用いた報告がほとんどないためである。
 
 ショウジョウバエにおいては、Dbx1/2のオルソログであるDbxが見つかっており、介在ニューロンへの細胞分化や細胞運命決定に関わることが報告されている<ref name=Lacin2009><pubmed>19710170</pubmed></ref> 。
 
== 構造 ==
 Dbxファミリーは、ホメオボックスドメイン(脳科学辞典 ホメオボックスドメインを参照)を持つ、進化的に保存された遺伝子である。Dbx1もDbx2もホメオボックスドメインに加え、Groucho/Tleファミリー依存的Engrailed阻害ドメイン(RD, Drosophila Groucho /Mammalian TLE family dependent Engrailed Repressor Domain)をDbx1は2箇所(RD1,RD2)、Dbx2は1箇所(RD1)持つ。Dbx1はさらにC末端に 酸性アミノ酸のクラスター(Cter)を持つことが報告されている<ref name=Karaz2016><pubmed>27525057</pubmed></ref> (図1)。CterドメインはDbx1がEvx1/2を制御するのに必要であり、Dbx遺伝子を持つ種間では進化的に保存されている<ref name=Karaz2016><pubmed>27525057</pubmed></ref> 。
 Dbxファミリーは、ホメオボックスドメイン(脳科学辞典 ホメオボックスドメインを参照)を持つ、進化的に保存された遺伝子である。Dbx1もDbx2もホメオボックスドメインに加え、Groucho/Tleファミリー依存的Engrailed阻害ドメイン(RD, Drosophila Groucho /Mammalian TLE family dependent Engrailed Repressor Domain)をDbx1は2箇所(RD1,RD2)、Dbx2は1箇所(RD1)持つ。Dbx1はさらにC末端に 酸性アミノ酸のクラスター(Cter)を持つことが報告されている<ref name=Karaz2016><pubmed>27525057</pubmed></ref> (図1)。CterドメインはDbx1がEvx1/2を制御するのに必要であり、Dbx遺伝子を持つ種間では進化的に保存されている<ref name=Karaz2016><pubmed>27525057</pubmed></ref> 。


Dbxサブファミリー
== サブファミリー ==
 哺乳類では、Dbx1, Dbx2が存在し、細胞分化や細胞運命決定に関わる。ショウジョウバエにおいては、Dbx1/2のオルソログであるDbxが見つかっている。哺乳類以外ではショウジョウバエ<ref name=Lacin2009><pubmed>19710170</pubmed></ref> 、アフリカツメガエル<ref name=Gershon2000><pubmed>10851138</pubmed></ref><ref name=Ma2011><pubmed>21806971</pubmed></ref> 、ゼブラフィッシュ<ref name=Gribble2007><pubmed>17994542</pubmed></ref><ref name=Hjorth2002><pubmed>12141447</pubmed></ref> のDbxファミリーが報告されている。
 哺乳類では、Dbx1, Dbx2が存在し、細胞分化や細胞運命決定に関わる。ショウジョウバエにおいては、Dbx1/2のオルソログであるDbxが見つかっている。哺乳類以外ではショウジョウバエ<ref name=Lacin2009><pubmed>19710170</pubmed></ref> 、アフリカツメガエル<ref name=Gershon2000><pubmed>10851138</pubmed></ref><ref name=Ma2011><pubmed>21806971</pubmed></ref> 、ゼブラフィッシュ<ref name=Gribble2007><pubmed>17994542</pubmed></ref><ref name=Hjorth2002><pubmed>12141447</pubmed></ref> のDbxファミリーが報告されている。


Dbxファミリーの発現領域
== 発現 ==
<Dbx1>
=== 哺乳類 ===
==== Dbx1 ====
 哺乳類では、終脳の外套下部 /腹側外套 (VP/PSB) や視索前領域(POA), 視床上部、背側視床、視床下部の原基などに、局所的かつ一過的 (胎生6.5-15.5日齢)に発現する<ref name=Lu1992><pubmed>1355604</pubmed></ref><ref name=Shoji1996><pubmed>8798145</pubmed></ref> 。脊髄発生過程においては前駆細胞ドメインp0, pd6に発現する。  
 哺乳類では、終脳の外套下部 /腹側外套 (VP/PSB) や視索前領域(POA), 視床上部、背側視床、視床下部の原基などに、局所的かつ一過的 (胎生6.5-15.5日齢)に発現する<ref name=Lu1992><pubmed>1355604</pubmed></ref><ref name=Shoji1996><pubmed>8798145</pubmed></ref> 。脊髄発生過程においては前駆細胞ドメインp0, pd6に発現する。  
<Dbx2>
==== Dbx2 ====
 脊髄発生過程における前駆細胞ドメインp0,p1,pd5,pd6に発現する<ref name=Briscoe2000><pubmed>10830170</pubmed></ref><ref name=Pierani1999><pubmed>10399918</pubmed></ref><ref name=Pierani2001><pubmed>11239429</pubmed></ref>  。中枢神経発生においては、脊髄から視床のZLI周囲の至るまで翼板と基板間の領域をバンド状に発現している。Dbx2は間葉系細胞でも発現しており、肢芽形成領域(limb bud)で胎生11.5日以降に発現すること<ref name=Beccari2021><pubmed>33497014</pubmed></ref><ref name=Beccari2016><pubmed>27198226</pubmed></ref><ref name=Shoji1996><pubmed>8798145</pubmed></ref> や、歯芽形成領域であるエナメル器周囲の間葉系細胞に胎生13.5日以降に発現が認められる <ref name=Shoji1996><pubmed>8798145</pubmed></ref> 。
 脊髄発生過程における前駆細胞ドメインp0,p1,pd5,pd6に発現する<ref name=Briscoe2000><pubmed>10830170</pubmed></ref><ref name=Pierani1999><pubmed>10399918</pubmed></ref><ref name=Pierani2001><pubmed>11239429</pubmed></ref>  。中枢神経発生においては、脊髄から視床のZLI周囲の至るまで翼板と基板間の領域をバンド状に発現している。Dbx2は間葉系細胞でも発現しており、肢芽形成領域(limb bud)で胎生11.5日以降に発現すること<ref name=Beccari2021><pubmed>33497014</pubmed></ref><ref name=Beccari2016><pubmed>27198226</pubmed></ref><ref name=Shoji1996><pubmed>8798145</pubmed></ref> や、歯芽形成領域であるエナメル器周囲の間葉系細胞に胎生13.5日以降に発現が認められる <ref name=Shoji1996><pubmed>8798145</pubmed></ref> 。


<Dbx (ショウジョウバエ)>
===ショウジョウバエ===
   発生期 (larvae)のthoracic segmentのneuroblastや中枢の神経前駆細胞の一部に発現する。また、成体でもDbx1系譜神経細胞は存在し、大半はGAD(GABA合成酵素)と共発現しているため、抑制性GABAニューロンであると考えられる<ref name=Lacin2009><pubmed>19710170</pubmed></ref> 。
   発生期 (larvae)のthoracic segmentのneuroblastや中枢の神経前駆細胞の一部に発現する。また、成体でもDbx1系譜神経細胞は存在し、大半はGAD(GABA合成酵素)と共発現しているため、抑制性GABAニューロンであると考えられる<ref name=Lacin2009><pubmed>19710170</pubmed></ref> 。


Dbxファミリーの発現制御やシグナリング
== 発現制御やシグナリング ==
*脊髄ではソニックヘッジホッグ(sonic hedgehog, Shh)の影響を受けて発現が抑制されるため、Shhの濃度の薄い領域に発現する<ref name=Briscoe2000><pubmed>10830170</pubmed></ref><ref name=Pierani1999><pubmed>10399918</pubmed></ref><ref name=Pierani2001><pubmed>11239429</pubmed></ref> 。脊髄発生においてDbx1はEvx1 の上流として働く。Dbx1ノックアウトマウスでEvx1/2の発現が消失することからEvx1/2の上流であると考えられる。マウスやニワトリの大脳皮質・外套領域の解析からDbx1のプロモーター領域に存在するPax6応答配列は種を超えて保存されており、Pax6によるDbx1の発現誘導メカニズムは進化的に古い段階で獲得されていたと考えられる <ref name=Yamashita2018><pubmed>29661783</pubmed></ref> 。視索前領域(POA)においては、FoxG1がDbx1の発現を直接的に抑制することでDbx1の発現領域を限局させているとの報告<ref name=Du2019><pubmed>30843579</pubmed></ref> もある。
*脊髄ではソニックヘッジホッグ(sonic hedgehog, Shh)の影響を受けて発現が抑制されるため、Shhの濃度の薄い領域に発現する<ref name=Briscoe2000><pubmed>10830170</pubmed></ref><ref name=Pierani1999><pubmed>10399918</pubmed></ref><ref name=Pierani2001><pubmed>11239429</pubmed></ref> 。脊髄発生においてDbx1はEvx1 の上流として働く。Dbx1ノックアウトマウスでEvx1/2の発現が消失することからEvx1/2の上流であると考えられる。マウスやニワトリの大脳皮質・外套領域の解析からDbx1のプロモーター領域に存在するPax6応答配列は種を超えて保存されており、Pax6によるDbx1の発現誘導メカニズムは進化的に古い段階で獲得されていたと考えられる <ref name=Yamashita2018><pubmed>29661783</pubmed></ref> 。視索前領域(POA)においては、FoxG1がDbx1の発現を直接的に抑制することでDbx1の発現領域を限局させているとの報告<ref name=Du2019><pubmed>30843579</pubmed></ref> もある。
*肢芽形成においてDbx2はHox13の下流として働く。Hox13ノックアウトマウスでDbx2やEvx2の発現は消失する<ref name=Beccari2021><pubmed>33497014</pubmed></ref><ref name=Beccari2016><pubmed>27198226</pubmed></ref> 。
*肢芽形成においてDbx2はHox13の下流として働く。Hox13ノックアウトマウスでDbx2やEvx2の発現は消失する<ref name=Beccari2021><pubmed>33497014</pubmed></ref><ref name=Beccari2016><pubmed>27198226</pubmed></ref> 。

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