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== 臨床診断 == | == 臨床診断 == | ||
=== 診断基準と下位分類 === | === 診断基準と下位分類 === | ||
[[DSM-5]]<ref name=American2013>'''American Psychiatric Association. (2013).'''<br>333.99 (G25.71) Medication-induced acute akathisia. In: Diagnostic and statistical manual of mental disorders. Fifth edition. DSM-5TM American Psychiatric Publishing, Washington DC, pp711</ref>28)における薬原性アカシジアは、[[遅発性アカシジア]]と[[急性アカシジア]]に分けて記載され、急性アカシジアは薬剤の投与に関連して発症することと、代表的な臨床症状のいくつかを列記しているだけのごく簡潔な内容のみであったが、[[DSM-5TR]]<ref name=American2022>'''American Psychiatric Association (2022).'''<br>G25.71 Medication-induced acute akathisia. In: Diagnostic and statistical manual of mental disorders. Fifth edition Text Revision. DSM-5-TR TM American Psychiatric Publishing, Washington DC, pp813-814</ref>45)では臨床症状の補足的記述に加え、原因薬剤・有病率・鑑別疾患等の概略的な記載が追記されるようになった。アカシジアの診断にあたっては、上記の臨床症状が存在すること(症状診断)に加え、薬原性アカシジアではその原因薬剤を特定する必要がある。アカシジアは、その発症時期や経過により急性アカシジア、遅発性アカシジア、[[離脱性アカシジア]]、[[慢性アカシジアに分類される]]('''表3''') <ref name=八木1991></ref><ref name=堀口2010>'''堀口淳, 稲見康司, 竹内賢, 内藤宏 (2010).'''<br>アカシジア 重篤副作用疾患別対応マニュアル. 厚生労働省 2010年3月 [http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1j09.pdf [PDF<nowiki>]</nowiki>]</ref><ref name=稲田2013>'''稲田俊也 (2013).<br>'''アカシジア. ''Clinical Neuroscience'' 31: 1334-1335, 2013. </ref>2,3,4)。 | |||
=== 臨床症状 === | === 臨床症状 === | ||
主観的な[[内的不穏症状]]と客観的な[[運動亢進症状]]で構成される。主観的な自覚症状としては、静座不能に対する自覚、下肢のムズムズ感、ソワソワ感、絶えず動いていたいという衝動などの自覚的な内的不穏症状がみられ、「体や足がソワソワして、じっと座っていられない、横になっていられない、動きたくなる」、「じっとしておれず、歩きたくなる」、「体や足を動かしたくなる」、「足がムズムズする」、「じっと立っていられない」、「体が揺れる」、「足踏みしたくなる」などの訴えがみられ、重度になると不安焦燥感が顕著となり、苦痛に耐えられなくなると、自傷行為や自殺企図など危険な行為に及ぶことがあり注意を要する。自覚症状に伴って認められる客観的な運動亢進症状としては、身体の揺り動かし、下肢の振り回し、「貧乏揺すり」のような足踏み、足の組み換え、ウロウロ歩き、ベッド上での体動の繰り返しなどがみられる<ref name=稲田2011>'''稲田俊也 (2011).'''<br>精神科・わたしの診療手順. 薬原性アカシジア. 臨床精神医学40増刊号: 125-127</ref>14)。 | |||
=== 評価尺度による重症度評価 === | === 評価尺度による重症度評価 === | ||
薬原性アカシジアの重症度評価に用いられる[[バーンズ・アカシジア尺度]]<ref name=Barnes1989><pubmed>2574607</pubmed></ref><ref name=稲田2002>'''稲田俊也, 野崎昭子 (2002).''' <br>薬原性錐体外路症状の適正な評価. 臨床精神薬理 5: 31-38</ref><ref name=Inada1996>'''Inada T, Matsuda G, Kitao Y, Nakamura A, Miyata R, et al. (1996).'''<br>Barnes Akathisia Scale: usefulness of standardized videotape method in evaluation of the reliability and in training raters. Int J Meth Psychiatr Res 6: 49-52.</ref>8,9,39)は、客観症状、主観症状、主観症状に対する苦痛の3項目に、6段階評価の総括評価1項目を加えた計4項目で構成される。抗精神病薬による治療中にみられる副作用としての錐体外路症状の評価を行う際には、[[薬原性錐体外路症状評価尺度]]([[drug-induced extrapyramidal symptoms scale]]; [[DIEPSS]])の個別重症度評価8項目のうちの1項目としてアカシジアの重症度評価が行われる<ref name=稲田2012>'''稲田俊也 (2012).'''<br>DIEPSSを使いこなす 改訂版 薬原性錐体外路症状の評価と診断 -DIEPSSの解説と利用の手引き-. 星和書店, 東京</ref><ref name=稲田2017>'''稲田俊也 (2017).'''<br>薬原性アカシジア. Brain and Nerve 69: 1417-1424</ref><ref name=Inada2009>Inada T: DIEPSS: A second-generation rating scale for antipsychotic-induced extrapyramidal symptoms: Drug-induced Extrapyramidal Symptoms Scale. Seiwa Shoten Publishers, Tokyo, 2009. </ref>10,15,40)。 | |||
'''表4'''はDIEPSSによるアカシジアの重症度評価と評価診断面接のポイント、および面接における典型的な患者の回答例を示したものである<ref name=稲田2013></ref>4)。アカシジアの評価にあたっては自覚症状の程度を優先して評価し、運動亢進症状は、主観症状を支持する所見として用いることが原則である。アカシジアに特徴的な運動不穏の症状が顕著に認められても、内的不穏の自覚がない場合には、仮性アカシジアの位置づけとなる<ref name=稲田2012></ref><ref name=Inada2009></ref>10,40)。 | '''表4'''はDIEPSSによるアカシジアの重症度評価と評価診断面接のポイント、および面接における典型的な患者の回答例を示したものである<ref name=稲田2013></ref>4)。アカシジアの評価にあたっては自覚症状の程度を優先して評価し、運動亢進症状は、主観症状を支持する所見として用いることが原則である。アカシジアに特徴的な運動不穏の症状が顕著に認められても、内的不穏の自覚がない場合には、仮性アカシジアの位置づけとなる<ref name=稲田2012></ref><ref name=Inada2009></ref>10,40)。 | ||
=== 鑑別疾患 === | === 鑑別疾患 === | ||
[[不安]]・[[焦燥感]]・[[常同行動]]などの精神症状の悪化、[[ムズムズ脚症候群]]、[[遅発性ジスキネジア]]などがしばしば鑑別すべき病態として取りあげられる<ref name=稲田2014>'''稲田俊也 (2014).'''<br>アカシジア. 別冊日本臨牀 新領域別症候群シリーズ 30 神経症候群(第2版) -その他の神経疾患を含めて-: 568-572</ref><ref name=稲田2019>'''稲田俊也 (2019)'''<br>アカシジア. 日本臨牀 医薬品副作用学(第3版)下 -薬剤の安全使用アップデート-, ''日本臨牀'' 77 (増刊号4): 389-394</ref>13,16)。 | |||
==== 不安・焦燥感・常同行動などの精神症状 ==== | ==== 不安・焦燥感・常同行動などの精神症状 ==== | ||
アカシジアの運動亢進症状は、横断的な観察ではしばしば原疾患の精神症状の悪化や常同行動、不安・焦燥などの症状と鑑別が困難なことがある。精神症状の悪化と誤診され、抗精神病薬が増量されるとアカシジアの症状はますます悪化することから、これらの精神症状との鑑別は、抗精神病薬の増量あるいは減量を行い、縦断的に状態像の変化を観察することで判別が可能である。すなわち、不安・焦燥感などの精神症状は抗精神病薬の増量で軽減するのに対し、アカシジアは抗精神病薬の減量で改善・消失する。 | |||
近年、[[抗うつ薬]]による中枢神経刺激様症状として不安、[[易刺激性]]、[[軽躁]]、焦燥、[[敵意]]、[[躁]]、[[パニック発作]]、衝動性、[[不眠]]等を呈する[[Activation症候群]]が[[自殺]]関連事象として注目されているが、Activation症状群では、歩き回らずにはいられないといった運動亢進への自覚はそれほど強くなく、また[[β遮断薬]]が有効ではない点でも薬原性アカシジアとの鑑別は可能である。 | |||
==== ムズムズ脚症候群 ==== | ==== ムズムズ脚症候群 ==== | ||
ムズムズ脚症候群(restless-leg syndrom, RLS)<ref name=Ekbom1960><pubmed>13726241</pubmed></ref><ref name=稲田2017></ref>11,15)とアカシジアはいずれも内的不穏症状と下肢の運動亢進症状という症候学的類似性から、両者の異同はしばしば鑑別診断に挙げられる。八木ら(1991)<ref name=八木1991></ref>2)は、広義のアカシジア概念のなかに、[[神経症性アカシジア]]、[[下肢限局性アカシジア]](ムズムズ脚症候群)、薬原性アカシジアが含まれるとし、特発性ムズムズ脚症候群と薬原性アカシジアは、広義のアカシジア概念の中に棲み分けられている。類似の臨床症状を呈する両者は同様の病態生理が考えられているが、抗精神病薬等で発症する薬原性アカシジアを狭義のアカシジアと捉え、広義のアカシジアに含まれる特発性のムズムズ脚症候群との鑑別がしばしば論じられている<ref name=Ekbom2009><pubmed>19817966</pubmed></ref><ref name=堀口1999>堀口淳、山下英尚、倉本恭成、水野創一: アカシジアの最近の動向. 日本神経精神薬理学雑誌 19: 1-9, 1999</ref>30,31)。抗精神病薬服用患者の約3%は疫学的にムズムズ脚症候群素因者であると見積もられており、特発性ムズムズ脚症候群でしばしば認められる血清鉄値の低下は薬原性アカシジアの危険因子と考えられている。特発性ムズムズ脚症候群では下肢の異常感覚が一次症状としてあり、症状は夜間就床時の眠気とともに発現し、入眠困難をきたすといった特徴があるのに対して、薬原性アカシジアは日中の起きている時間に症状が増強し、「動きたい」という強い衝動が一次症状である点が異なる。抗精神病薬惹起性のアカシジアでは他の薬原性錐体外路症状と同様に睡眠中にはみられない<ref name=Hirose2003><pubmed>14609248</pubmed></ref>5)。 | |||
==== 遅発性ジスキネジア ==== | ==== 遅発性ジスキネジア ==== | ||
アカシジアの自覚症状がみられなくなり、下肢の運動亢進症状だけが目立つようなケースは、しばしば遅発性ジスキネジアへの移行例として報告される<ref name=Kahn1992><pubmed>1353716</pubmed></ref> | アカシジアの自覚症状がみられなくなり、下肢の運動亢進症状だけが目立つようなケースは、しばしば遅発性ジスキネジアへの移行例として報告される<ref name=Kahn1992><pubmed>1353716</pubmed></ref>12)。抗精神病薬の長期投与に関連して発症する遅発性ジスキネジアは、顔面、口部、舌、顎、四肢、躯幹等に出現する他覚的に無目的で不規則な異常[[不随意運動]]である。下肢や躯幹に運動亢進症状がみられるアカシジアでは内的不穏症状を訴えるのに対し、遅発性ジスキネジアにみられる下肢や躯幹の異常不随意運動には内的不穏の自覚がないことから鑑別が可能である。 | ||
== 原因薬剤と発症頻度 == | == 原因薬剤と発症頻度 == |