「アカシジア」の版間の差分

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== 治療 ==
== 治療 ==
=== 医薬品副作用に対する治療の大原則 ===
=== 医薬品副作用に対する治療の大原則 ===
 薬原性アカシジアに対しては、米国、カナダ、オセアニア、日本等で公表されているアカシジアの治療ガイドラインにおいて最初に行うべき治療アプローチとして、医薬品副作用に対する治療の大原則に基づいて、原因と考えられる薬剤の必要性についての再検討を行い、可能な限り減量・中止を試みることから検討を始めることが推奨されている。統合失調症患者では、アカシジアの原因となった抗精神病薬の減量に伴い、精神病症状が再燃した場合には、定型抗精神病薬が使われていた患者に対しては非定型抗精神病薬に切り換えるなど、錐体外路症状の出現頻度がより少ない薬剤への切り替えを試みる。ドンペリドンやメトクロプラミドなどドパミン遮断作用が強い制吐剤で発現した場合には、モサプリド等の非ドパミン系制吐剤への切り替えを検討する。
 薬原性アカシジアに対しては、米国、カナダ、オセアニア、日本等で公表されているアカシジアの治療ガイドラインにおいて最初に行うべき治療アプローチとして、医薬品副作用に対する治療の大原則に基づいて、原因と考えられる薬剤の必要性についての再検討を行い、可能な限り減量・中止を試みることから検討を始めることが推奨されている。統合失調症患者では、アカシジアの原因となった抗精神病薬の減量に伴い、精神病症状が再燃した場合には、定型抗精神病薬が使われていた患者に対しては非定型抗精神病薬に切り換えるなど、錐体外路症状の出現頻度がより少ない薬剤への切り替えを試みる。[[ドンペリドン]]や[[メトクロプラミド]]などドパミン遮断作用が強い[[制吐剤]]で発現した場合には、[[モサプリド]]等の非ドパミン系制吐剤への切り替えを検討する。


=== 薬原性アカシジアに対する治療薬 ===
=== 薬原性アカシジアに対する治療薬 ===
抗精神病薬の調整だけでアカシジアの症状がうまく軽減できない場合には、有効性が確立されている治療薬を対症療法的に投与する<ref name=Poyurovsky2015></ref><ref name=山本2014></ref>19,20)。対症療法的に行われる治療薬としては、β遮断薬(プロプラノロール、カルテオロール)、中枢性抗コリン薬(ビペリデン、トリヘキシフェニジル)、ベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパム、クロナゼパム)、セロトニン5-HT2A受容体遮断薬(ミアンセリン、シプロヘプタジン、ミルタザピン、トラゾドン)、クロニジン等の薬剤が推奨されている<ref name=稲田2013></ref><ref name=稲田2014></ref><ref name=山本2014>'''山本暢朋, 稲田俊也 (2014).'''<br>錐体外路系副作用の治療. 染矢俊幸 (編) 臨床精神薬理学テキストブック第3版. 星和書店, 東京, pp252-260. </ref>4,13,20)。抗ヒスタミン作用を有する抗パーキンソン薬で、薬剤性パーキンソニズムの治療に広く用いられるプロメタジンは、アカシジアへの治療適応はなく、ムズムズ脚症候群に対しては症状を増悪させることがある<ref name=稲田2017></ref>15)。
 抗精神病薬の調整だけでアカシジアの症状がうまく軽減できない場合には、有効性が確立されている治療薬を対症療法的に投与する<ref name=Poyurovsky2015></ref><ref name=山本2014></ref>19,20)。対症療法的に行われる治療薬としては、β遮断薬(プロプラノロール、[[カルテオロール]])、中枢性抗コリン薬([[ビペリデン]]、[[トリヘキシフェニジル]])、ベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパム、クロナゼパム)、セロトニン5-HT2A受容体遮断薬([[ミアンセリン]]、[[シプロヘプタジン]]、[[ミルタザピン]]、[[トラゾドン]])、[[クロニジン]]等の薬剤が推奨されている<ref name=稲田2013></ref><ref name=稲田2014></ref><ref name=山本2014>'''山本暢朋, 稲田俊也 (2014).'''<br>錐体外路系副作用の治療. 染矢俊幸 (編) 臨床精神薬理学テキストブック第3版. 星和書店, 東京, pp252-260. </ref>4,13,20)。抗[[ヒスタミン]]作用を有する抗パーキンソン薬で、薬剤性パーキンソニズムの治療に広く用いられる[[プロメタジン]]は、アカシジアへの治療適応はなく、ムズムズ脚症候群に対しては症状を増悪させることがある<ref name=稲田2017></ref>15)。


==== β遮断薬 ====
==== β遮断薬 ====
 プロプラノロールは脂溶性が高いβ遮断薬であり、Limaらの系統的レビュー<ref name=Lima2004><pubmed>15495022</pubmed></ref>49)ではアカシジアに対するβ遮断薬の有用性については結論を出すにはエビデンスが不十分であったが、米国<ref name=American2021></ref>25)、カナダ<ref name=Canadian2005>'''Canadian Psychiatric Association Working Group (2015)'''<br>Extrapyramidal side effects In: Clinical practice guidelines for the treatment of schizophrenia. Can J Psychiatry 50 (Suppl 1); pp26S,</ref>29)、英国<ref name=Taylor2015>'''Taylor D, Paton C, Kapur S (2015).'''<br>The Maudsley prescribing guidelines l2th Edition Wiley-Blackwell, Oxford, pp88-89</ref><ref name=Taylor2021>'''Taylor D, Barnes TRE, Young AH (2021).'''<br> Akathisia In: The Maudsley prescribing guidelines. l2th Edition Wiley-Blackwell, Oxford, pp114-116,  
 プロプラノロールは脂溶性が高いβ遮断薬であり、Limaらの系統的レビュー<ref name=Lima2004><pubmed>15495022</pubmed></ref>49)ではアカシジアに対するβ遮断薬の有用性については結論を出すにはエビデンスが不十分であったが、米国<ref name=American2021></ref>25)、カナダ<ref name=Canadian2005>'''Canadian Psychiatric Association Working Group (2015)'''<br>Extrapyramidal side effects In: Clinical practice guidelines for the treatment of schizophrenia. Can J Psychiatry 50 (Suppl 1); pp26S,</ref>29)、英国<ref name=Taylor2015>'''Taylor D, Paton C, Kapur S (2015).'''<br>The Maudsley prescribing guidelines l2th Edition Wiley-Blackwell, Oxford, pp88-89</ref><ref name=Taylor2021>'''Taylor D, Barnes TRE, Young AH (2021).'''<br> Akathisia In: The Maudsley prescribing guidelines. l2th Edition Wiley-Blackwell, Oxford, pp114-116, [https://doi.org/10.1002/9781119870203 [DOI<nowiki>]</nowiki>]</ref>44, 46)等の主要な治療ガイドラインでは、アカシジアに対する対症療法として薬物療法を行う際には第1選択薬として取り上げられている。初期の臨床試験では[[炭酸リチウム]]誘発性振戦に対する有効性も認められたが、薬原性パーキンソニズムや遅発性ジスキネジアには効果がないこと<ref name=Lipinski1984><pubmed>6142657</pubmed></ref>22)から、アカシジアに対する選択的な治療薬と位置づけられている。アカシジアと他の錐体外路系副作用が併発している患者では、抗コリン性パーキンソン薬を先行して使用することを推奨する<ref name=Comaty1987>'''Comaty JE (1987).'''<br>Propranolol treatment of neuroleptic-induced akathisia. Psychiatric Annals 17: 150-155. [https://doi.org/10.3928/0048-5713-19870301-06 [DOI<nowiki>]</nowiki>]</ref>23)見解もある。
[https://doi.org/10.1002/9781119870203 [DOI<nowiki>]</nowiki>]</ref>44, 46)等の主要な治療ガイドラインでは、アカシジアに対する対症療法として薬物療法を行う際には第1選択薬として取り上げられている。初期の臨床試験では炭酸リチウム誘発性振戦に対する有効性も認められたが、薬原性パーキンソニズムや遅発性ジスキネジアには効果がないこと<ref name=Lipinski1984><pubmed>6142657</pubmed></ref>22)から、アカシジアに対する選択的な治療薬と位置づけられている。アカシジアと他の錐体外路系副作用が併発している患者では、抗コリン性パーキンソン薬を先行して使用することを推奨する<ref name=Comaty1987>'''Comaty JE (1987).'''<br>Propranolol treatment of neuroleptic-induced akathisia. Psychiatric Annals 17: 150-155. [https://doi.org/10.3928/0048-5713-19870301-06 [DOI<nowiki>]</nowiki>]</ref>23)見解もある。


==== ベンゾジアゼピン系薬剤 ====
==== ベンゾジアゼピン系薬剤 ====
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==== 抗コリン薬 ====
==== 抗コリン薬 ====
 抗コリン性抗パーキンソン薬は、海外ではベンズトロピンが使われているが、わが国ではビペリデンやトリヘキシフェニジルが広く使用されている。抗コリン薬の薬原性錐体外路症状に対する有効率は、パーキンソン症状に対しては80~90%あるのに対して、アカシジアに対しては50%程度と低いこと<ref name=稲田2014></ref><ref name=稲田2019></ref>13,16)、抗精神病薬誘発性アカシジアに対して、プラセボと比較して抗コリン薬の有用性を支持できる信頼できるエビデンスが存在しないこと<ref name=Rathbone2006><pubmed>17054182</pubmed></ref>42)から、米国(2021)<ref name=American2022></ref>425)およびカナダ(2005) <ref name=Canadian2005></ref>29)のガイドラインでは抗コリン薬の使用を推奨していない。モーズレイ処方ガイドラインでは、第12版から推奨順位を2つ下げて、掲載している。アカシジアに対する有効性のエビデンスは限られているものの、「他の錐体外路症状が併発する例では効くかもしれない。」としている。  
 抗コリン性抗パーキンソン薬は、海外では[[ベンズトロピン]]が使われているが、わが国ではビペリデンや[[トリヘキシフェニジル]]が広く使用されている。抗コリン薬の薬原性錐体外路症状に対する有効率は、パーキンソン症状に対しては80~90%あるのに対して、アカシジアに対しては50%程度と低いこと<ref name=稲田2014></ref><ref name=稲田2019></ref>13,16)、抗精神病薬誘発性アカシジアに対して、プラセボと比較して抗コリン薬の有用性を支持できる信頼できるエビデンスが存在しないこと<ref name=Rathbone2006><pubmed>17054182</pubmed></ref>42)から、米国(2021)<ref name=American2022></ref>425)およびカナダ(2005) <ref name=Canadian2005></ref>29)のガイドラインでは抗コリン薬の使用を推奨していない。モーズレイ処方ガイドラインでは、第12版から推奨順位を2つ下げて、掲載している。アカシジアに対する有効性のエビデンスは限られているものの、「他の錐体外路症状が併発する例では効くかもしれない。」としている。  


==== その他の薬剤 ====
==== その他の薬剤 ====
 その他の薬剤としては、ビタミンB6、アマンタジン、アポモルヒネ、クロニジン、ガバペンチン、プレガバリン等の薬剤で、薬原性アカシジアに対する臨床試験が行われている<ref name=Pringsheim2018><pubmed>29685069</pubmed></ref>47)。
 その他の薬剤としては、[[ビタミンB6]]、[[アマンタジン]]、[[アポモルヒネ]]、[[クロニジン]]、[[ガバペンチン]]、[[プレガバリン]]等の薬剤で、薬原性アカシジアに対する臨床試験が行われている<ref name=Pringsheim2018><pubmed>29685069</pubmed></ref>47)。


 A型インフルエンザウィルス感染症治療薬としても用いられるアマンタジンは、神経末端からのドパミン放出促進や再取り込み阻害によって錐体外路系副作用を軽減すると考えられている<ref name=松田1991>'''松田源一 (1991).'''<br>抗パーキンソン薬の使い方.浅井昌弘,八木剛平監修:精神分裂病治療のストラテジー:薬物療法と精神療法の接点を求めて.国際医書出版, 東京, pp189-193. </ref>24)。抗コリン作用のない錐体外路症状治療薬で、効果の発現までに1週間程度を要し<ref name=Ananth1975><pubmed>239908</pubmed></ref>26)、その後作用は4週間持続する<ref name=Nemeroff1999>'''Nemeroff CB, Schatzberg AF (1999).'''<br>Drugs for extrapyramidal side effects. In: Recognition and Treatment of Psychiatric Disorders. A Psychopharmacology Handbook for primary care, American Psychiatric Press, Washington DC, pp145-150. </ref>27)。理論的には精神病症状を悪化させる危険性もあり注意を要する。
 A型インフルエンザウィルス感染症治療薬としても用いられるアマンタジンは、神経末端からのドパミン放出促進や再取り込み阻害によって錐体外路系副作用を軽減すると考えられている<ref name=松田1991>'''松田源一 (1991).'''<br>抗パーキンソン薬の使い方.浅井昌弘,八木剛平監修:精神分裂病治療のストラテジー:薬物療法と精神療法の接点を求めて. 国際医書出版, 東京, pp189-193. </ref>24)。抗コリン作用のない錐体外路症状治療薬で、効果の発現までに1週間程度を要し<ref name=Ananth1975><pubmed>239908</pubmed></ref>26)、その後作用は4週間持続する<ref name=Nemeroff1999>'''Nemeroff CB, Schatzberg AF (1999).'''<br>Drugs for extrapyramidal side effects. In: Recognition and Treatment of Psychiatric Disorders. A Psychopharmacology Handbook for primary care, American Psychiatric Press, Washington DC, pp145-150. </ref>27)。理論的には精神病症状を悪化させる危険性もあり注意を要する。


== 関連項目 ==
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