「アカシジア」の版間の差分

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== 概念が誕生するまでの報告の歴史 ==
== 概念が誕生するまでの報告の歴史 ==
 じっと座っていられないことに苦痛を感じる状態についての医学分野での記載は、1685年に[[wj:トーマス・ウィリス|Willis]]に始まり、1880年にBeardはその原因が[[神経衰弱]]にあると報告している。その後、1902年に [[w:Ladislav Haškovec|Haškovec]] <ref name=Haskovec1902>'''Haskovec, L. (1902).'''<br>Akathisie. Arch Bohemes Med Clin 17: 704-708.</ref>1) がギリシャ語由来の「すわっていることができない」という意味の“Akathisie”という用語を用いて、[[ヒステリー]]または神経衰弱の症状としてこの病態を記載したことで、この病態に対して「アカシジア」という用語が定着するようになった。1904年には[[w:Fulgence Raymond|Raymond]]と[[wj:ピエール・ジャネ|Janet]]がこの症状を精神衰弱に関連づけた精神症状の病態像として報告している<ref>'''Raymond F, Janet P (1902).'''<br>Le syndrome psychasthénique de l’akathisie. ''Nouv Iconogr Salpêtrière'' 15: 241-246 [https://bsd.neuroinf.jp/w/images/7/73/Inada_Akathisia_Raymond_and_Janet_1902.pdf [PDF<nowiki>]</nowiki>]</ref>。Bing & Sicard (1923)は脳炎後にパーキンソニズムを呈した患者に、精神症状として「アカシジア」がみられた患者を報告している<ref name=Lohr2015><pubmed>26683525</pubmed></ref>36)。その後、独語圏や仏語圏からもこの病態が[[脳炎]]後遺症嗜眠性脳炎の経過中にも発現することが報告され、1940年にWilsonは、この病態が脳炎後遺症や[[パーキンソン病]]の患者にもみられることに注意を喚起した<ref name=八木1991>'''八木剛平, 稲田俊也, 神庭重信 (1991).'''<br>アカシジアの診断と治療-とくに精神症状との関連について-. 精神科治療学 6: 13-26</ref>2)。一方、Ekbom(1945)は当初はアカシジアという用語は使っていないものの下肢限局性に内的不穏感を伴う症例を集積して、ムズムズ脚症候群として報告した<ref name=Ekbom1960><pubmed>13726241</pubmed></ref><ref name=Ekbom1945>'''Ekbom, K.A. (1945).'''<br>Restless legs. Acta Med Scand 158 Suppl: 1-123.</ref>11,18)。
 じっと座っていられないことに苦痛を感じる状態についての医学分野での記載は、1685年に[[wj:トーマス・ウィリス|Willis]]に始まり、1880年にBeardはその原因が[[神経衰弱]]にあると報告している。その後、1902年に [[w:Ladislav Haškovec|Haškovec]] <ref name=Haskovec1902>'''Haskovec, L. (1902).'''<br>Akathisie. Arch Bohemes Med Clin 17: 704-708.</ref>1) がギリシャ語由来の「すわっていることができない」という意味の“Akathisie”という用語を用いて、[[ヒステリー]]または神経衰弱の症状としてこの病態を記載したことで、この病態に対して「アカシジア」という用語が定着するようになった。1904年には[[w:Fulgence Raymond|Raymond]]と[[wj:ピエール・ジャネ|Janet]]がこの症状を精神衰弱に関連づけた精神症状の病態像として報告している<ref>'''Raymond F, Janet P (1902).'''<br>Le syndrome psychasthénique de l’akathisie. ''Nouv Iconogr Salpêtrière'' 15: 241-246 [https://bsd.neuroinf.jp/w/images/7/73/Inada_Akathisia_Raymond_and_Janet_1902.pdf [PDF<nowiki>]</nowiki>]</ref>。Bing & Sicard (1923)は脳炎後にパーキンソニズムを呈した患者に、精神症状として「アカシジア」がみられた患者を報告している<ref name=Lohr2015><pubmed>26683525</pubmed></ref>36)。その後、独語圏や仏語圏からもこの病態が[[脳炎]]後遺症嗜眠性脳炎の経過中にも発現することが報告され、1940年にWilsonは、この病態が脳炎後遺症や[[パーキンソン病]]の患者にもみられることに注意を喚起した<ref name=八木1991>'''八木剛平, 稲田俊也, 神庭重信 (1991).'''<br>アカシジアの診断と治療-とくに精神症状との関連について-. 精神科治療学 6: 13-26</ref>2)。一方、Ekbom(1945)は当初はアカシジアという用語は使っていないものの下肢限局性に内的不穏感を伴う症例を集積して、ムズムズ脚症候群として報告した<ref name=Ekbom1960><pubmed>13726241</pubmed></ref><ref name=Ekbom1945>'''Ekbom, K.A. (1945).'''<br>Restless legs. Acta Med Scand 158 Suppl: 1-123.</ref>11,18)。


 薬原性アカシジアの記載はSigwaldら(1947)<ref>'''Sigwald, J. (1947).'''<br>Le traitement de la maladie de Parkinson et des manifestations extrapyramadalles par le diethylaminoethyl n-thiophyenylamine (2987RP) : Resulltants d'une anee d'application. ''Rev Neurol'' 79:683-687</ref>に始まり、1950年代前半に[[抗精神病薬]]が導入されると基礎薬理学的に中枢[[ドパミン]][[遮断作用]]を有する抗精神病薬の服用中にしばしばみられるようになり、薬原性[[錐体外路症状]]の一型として位置づけられるようになった<ref name=八木1991></ref>2)。
 薬原性アカシジアの記載はSigwaldら(1947)<ref>'''Sigwald, J. (1947).'''<br>Le traitement de la maladie de Parkinson et des manifestations extrapyramadalles par le diethylaminoethyl n-thiophyenylamine (2987RP) : Resulltants d'une anee d'application. ''Rev Neurol'' 79:683-687</ref>に始まり、1950年代前半に[[抗精神病薬]]が導入されると基礎薬理学的に中枢[[ドパミン]][[遮断作用]]を有する抗精神病薬の服用中にしばしばみられるようになり、薬原性[[錐体外路症状]]の一型として位置づけられるようになった<ref name=八木1991></ref>2)。


 このように、精神症状の病態像としての記述を語源としてアカシジアという用語が誕生し、その後の報告ではこの病態がさまざまな精神疾患・神経疾患でみられることが報告されてきたが、抗精神病薬の導入後は、薬剤性の錐体外路系副作用として頻繁にみられることから、この用語が広く用いられるようになった。ここでは抗精神病薬で発症する薬原性アカシジアについて述べる('''表1''')。
 このように、精神症状の病態像としての記述を語源としてアカシジアという用語が誕生し、その後の報告ではこの病態がさまざまな精神疾患・神経疾患でみられることが報告されてきたが、抗精神病薬の導入後は、薬剤性の錐体外路系副作用として頻繁にみられることから、この用語が広く用いられるようになった。ここでは抗精神病薬で発症する薬原性アカシジアについて述べる('''表1''')。


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* Willis (1685) 座ったままでいられない苦痛な状態を医学の領域で初めて記載。
* Willis (1685) 座ったままでいられない苦痛な状態を医学の領域で初めて記載。
*Beard (1880)上記報告を神経衰弱に位置づける。
*Beard (1880)上記報告を神経衰弱に位置づける。
*Haskovec (1901)ヒステリー,神経衰弱の症状としてアカシジアの用語を初めて使用。
*Haskovec (1901)ヒステリー,神経衰弱の症状としてアカシジアの用語を初めて使用。
*Raymond & Janet (1904)  アカシジア症状を精神衰弱と関連づける。
*Raymond & Janet (1904)  アカシジア症状を精神衰弱と関連づける。
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* Bing & Sicard (1923) 嗜眠性脳炎後にみられた症例を精神症状として報告。<br>Wilson (1940 ) 脳炎後遺症およびパーキンソン病の患者にみられることを報告。
* Bing & Sicard (1923) 嗜眠性脳炎後にみられた症例を精神症状として報告。<br>Wilson (1940 ) 脳炎後遺症およびパーキンソン病の患者にみられることを報告。
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| '''下肢限局性アカシジア:'''
| '''下肢限局性アカシジア:'''
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| Ekbom (1945)「ムズムズ脚症候群」として, 主に非薬原性の下肢不穏症候群の症例を集積。
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* Ekbom (1945)「ムズムズ脚症候群」として, 主に非薬原性の下肢不穏症候群の症例を集積。
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| '''薬原性アカシジア(狭義のアカシジア): 抗精神病薬による錐体外路症状の1型と位置づけられる。'''  
| '''薬原性アカシジア(狭義のアカシジア): 抗精神病薬による錐体外路症状の1型と位置づけられる。'''  
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| Steck (1954) 抗精神病薬の投与で頻発する「早発性(急性)アカシジア」を報告。
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Freyhan (1957) 早発性錐体外路症状の一型と位置づける。  
* Steck (1954) 抗精神病薬の投与で頻発する「早発性(急性)アカシジア」を報告。
Hodge (1959)  抗精神病薬惹起性の運動症状として記載。
* Freyhan (1957) 早発性錐体外路症状の一型と位置づける。  
Sigwald (1960) 抗精神病薬惹起性の感覚症状として記載。
* Hodge (1959)  抗精神病薬惹起性の運動症状として記載。
三浦(1964) 抗精神病薬惹起性の精神症状(焦燥症候群)として記載。Simpson (1965 ) 抗精神病薬中止後に発症する「離脱性アカシジア」の報告。<br>Munetz (1982) 自覚症状をかく下肢の落ち着きのない不随意運動を「仮性アカシジア」と報告。<br>Braude (1983) 足踏み・粗大振戦・ミオクローヌス・頻繁な体位変換・歩行症(タシキネジア)の報告。<br>Braude & Weiner (1983) 非可逆性の「遅発性アカシジア」の報告。<br>Barnes (1985)  急性型,仮性型,遅発型,離脱型に加え「慢性アカシジア」を分類に加える。<br>稲田ら (1988)  わが国で最初の「遅発性アカシジアの一症例」の報告。
* Sigwald (1960) 抗精神病薬惹起性の感覚症状として記載。
* 三浦 (1964) 抗精神病薬惹起性の精神症状(焦燥症候群)として記載。
* Simpson (1965) 抗精神病薬中止後に発症する「離脱性アカシジア」の報告。
* Munetz (1982) 自覚症状をかく下肢の落ち着きのない不随意運動を「仮性アカシジア」と報告。
* Braude (1983) 足踏み・粗大振戦・ミオクローヌス・頻繁な体位変換・歩行症(タシキネジア)の報告。
* Braude & Weiner (1983) 非可逆性の「遅発性アカシジア」の報告。
* Barnes (1985)  急性型,仮性型,遅発型,離脱型に加え「慢性アカシジア」を分類に加える。
* 稲田ら (1988)  わが国で最初の「遅発性アカシジアの一症例」の報告。
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