「嗅覚受容体」の版間の差分

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=== 発現部位 ===
=== 発現部位 ===
 嗅覚受容体は、嗅上皮に存在する嗅神経細胞に発現する。嗅上皮は、ヒトの場合、鼻腔天井部の5 cm<sup>2</sup>程度の領域に存在し、嗅粘液層に覆われている。嗅神経細胞は嗅粘液層にむかって10本程度の線毛を伸ばしており、この上に発現する嗅覚受容体が嗅粘液層に溶け込んだ匂い物質を受容する。嗅覚受容体の発現様式には、1つの嗅神経細胞には1種類の受容体しか発現しない、「1神経細胞1受容体ルール」が存在する。同じ嗅覚受容体を発現する嗅神経細胞は嗅上皮上ではそれぞれ特定の領域に分布するが<ref name=RuizTejadaSegura2022><pubmed></pubmed></ref>、投射部位である脳の嗅球と呼ばれる領域では同じ部位に収束する。
 嗅覚受容体は、嗅上皮に存在する嗅神経細胞に発現する。嗅上皮は、ヒトの場合、鼻腔天井部の5 cm<sup>2</sup>程度の領域に存在し、嗅粘液層に覆われている。嗅神経細胞は嗅粘液層にむかって10本程度の線毛を伸ばしており、この上に発現する嗅覚受容体が嗅粘液層に溶け込んだ匂い物質を受容する。嗅覚受容体の発現様式には、1つの嗅神経細胞には1種類の受容体しか発現しない、「1神経細胞1受容体ルール」が存在する。同じ嗅覚受容体を発現する嗅神経細胞は嗅上皮上ではそれぞれ特定の領域に分布するが<ref name=RuizTejadaSegura2022><pubmed>35320714</pubmed></ref>、投射部位である脳の嗅球と呼ばれる領域では同じ部位に収束する。


 1991年嗅覚受容体遺伝子ファミリー発見当時、嗅覚受容体は嗅上皮に限定して発現すると考えられていたが、次第に多くの嗅覚受容体が[[精巣]]、[[腎臓]]、[[肺]]、[[筋]]、[[腸]]、といった他の様々な組織でも発現することが明らかになった。ヒトの場合、約400種類の嗅覚受容体のうち、約100種類が非嗅覚組織でも発現している<ref name=Flegel2013><pubmed>23405139</pubmed></ref>。非嗅覚組織で発現する嗅覚受容体は、[[精子]]の[[走化性]]<ref name=Fukuda2004><pubmed>15522887</pubmed></ref><ref name=Spehr2006><pubmed>16481428</pubmed></ref>、筋再生<ref name=Griffin2009><pubmed>19922870</pubmed></ref>、[[炎症]]反応<ref name=Orecchioni2022><pubmed>35025664</pubmed></ref>、[[エネルギー代謝調節]]<ref name=Cheng2022><pubmed>35108512</pubmed></ref><ref name=Li2019><pubmed>31230984</pubmed></ref><ref name=Wu2017><pubmed>28990936</pubmed></ref>といった様々な現象に関わることが示唆されており、創薬の標的としても着目され始めている<ref name=Lee2019><pubmed> 30504792 </pubmed></ref>。
 1991年嗅覚受容体遺伝子ファミリー発見当時、嗅覚受容体は嗅上皮に限定して発現すると考えられていたが、次第に多くの嗅覚受容体が[[精巣]]、[[腎臓]]、[[肺]]、[[筋]]、[[腸]]、といった他の様々な組織でも発現することが明らかになった。ヒトの場合、約400種類の嗅覚受容体のうち、約100種類が非嗅覚組織でも発現している<ref name=Flegel2013><pubmed>23405139</pubmed></ref>。非嗅覚組織で発現する嗅覚受容体は、[[精子]]の[[走化性]]<ref name=Fukuda2004><pubmed>15522887</pubmed></ref><ref name=Spehr2006><pubmed>16481428</pubmed></ref>、筋再生<ref name=Griffin2009><pubmed>19922870</pubmed></ref>、[[炎症]]反応<ref name=Orecchioni2022><pubmed>35025664</pubmed></ref>、[[エネルギー代謝調節]]<ref name=Cheng2022><pubmed>35108512</pubmed></ref><ref name=Li2019><pubmed>31230984</pubmed></ref><ref name=Wu2017><pubmed>28990936</pubmed></ref>といった様々な現象に関わることが示唆されており、創薬の標的としても着目され始めている<ref name=Lee2019><pubmed> 30504792 </pubmed></ref>。
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 嗅覚受容体とリガンドである匂い分子との対応関係は、一部の例外を除いては、「多対多」の関係にある。すなわち、一つの受容体は、複数の匂い分子に応答し、一つの匂い分子は複数の受容体応答を生み出すため、異なる匂いは、応答受容体の組み合わせパターンの違いによって識別される。この仕組みは“[[combinatorial coding]]”と呼ばれ<ref name=Malnic1999><pubmed>10089886</pubmed></ref>、受容体数をはるかに超える膨大な種類の匂いの嗅ぎ分けを可能にする。
 嗅覚受容体とリガンドである匂い分子との対応関係は、一部の例外を除いては、「多対多」の関係にある。すなわち、一つの受容体は、複数の匂い分子に応答し、一つの匂い分子は複数の受容体応答を生み出すため、異なる匂いは、応答受容体の組み合わせパターンの違いによって識別される。この仕組みは“[[combinatorial coding]]”と呼ばれ<ref name=Malnic1999><pubmed>10089886</pubmed></ref>、受容体数をはるかに超える膨大な種類の匂いの嗅ぎ分けを可能にする。


 嗅覚受容体が多様な構造の匂い物質を広く認識するのに対し、微量アミン関連受容体は、揮発性アミン化合物をリガンドとして認識する。揮発性アミン化合物は、尿中や腐った食物に存在しており、げっ歯類では、微量アミン関連受容体は異性、天敵、食物の質の区別の検知に関わるとされている<ref name=Dewan2021><pubmed>33237477</pubmed></ref>。微量アミン関連受容体も嗅覚受容体と同様、Gα<sub>olf</sub>と共役し、cAMP産生を通じて嗅神経細胞の活動を起こすとされている<ref name=Liberles2015><pubmed></pubmed></ref>。
 嗅覚受容体が多様な構造の匂い物質を広く認識するのに対し、微量アミン関連受容体は、揮発性アミン化合物をリガンドとして認識する。揮発性アミン化合物は、尿中や腐った食物に存在しており、げっ歯類では、微量アミン関連受容体は異性、天敵、食物の質の区別の検知に関わるとされている<ref name=Dewan2021><pubmed>33237477</pubmed></ref>。微量アミン関連受容体も嗅覚受容体と同様、Gα<sub>olf</sub>と共役し、cAMP産生を通じて嗅神経細胞の活動を起こすとされている<ref name=Liberles2015></ref>。


 グアニル酸シクラーゼDは、糞尿中に存在するペプチドの他、呼気中に存在するCO<sub>2</sub>, CS<sub>2</sub>をリガンドとして認識する<ref name=Hu2007><pubmed>17702944</pubmed></ref><ref name=Munger2010><pubmed>20637621</pubmed></ref>。匂いリガンドとしてはたらくCO<sub>2</sub>, CS<sub>2</sub>は嗅神経細胞膜を通過し、細胞内で炭酸水素イオンに変換されるが、この炭酸水素イオンがGCDの細胞内触媒ドメインに作用し、cGMP 産生がおきる。cGMPはcGMP依存性イオンチャネルを開口させることにより、神経細胞の脱分極を引き起こす。
 グアニル酸シクラーゼDは、糞尿中に存在するペプチドの他、呼気中に存在するCO<sub>2</sub>, CS<sub>2</sub>をリガンドとして認識する<ref name=Hu2007><pubmed>17702944</pubmed></ref><ref name=Munger2010><pubmed>20637621</pubmed></ref>。匂いリガンドとしてはたらくCO<sub>2</sub>, CS<sub>2</sub>は嗅神経細胞膜を通過し、細胞内で炭酸水素イオンに変換されるが、この炭酸水素イオンがGCDの細胞内触媒ドメインに作用し、cGMP 産生がおきる。cGMPはcGMP依存性イオンチャネルを開口させることにより、神経細胞の脱分極を引き起こす。
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==== イオノトロピック型嗅覚受容体 ====
==== イオノトロピック型嗅覚受容体 ====
 [[イオンチャネル型グルタミン酸受容体]] (iGluR)と相同性が高く、3回膜貫通構造を持つ。イオノトロピック型受容体においてもリガンド選択性を有するIR-Xと、olfactory receptor co-receptor同様、リガンドに関わらず共通なIR-coY(ショウジョウバエでは、IR8a, IR25a, IR76b)が存在する。チャネルとしての機能ユニットは、2つのIR-Xと2つのIR-coYから構成されるヘテロ4量体と考えられている<ref name=Abuin2011><pubmed> 21220098 </pubmed></ref><ref name=Abuin2019><pubmed> 30995910 </pubmed></ref>。IR-coYはアミノ末端ドメイン(amino-terminal domain, ATD), リガンド結合ドメイン(ligand-binding domain, LBD)、イオンチャネルドメインから構成され、iGluRと高度な保存性を有する一方、IR-XはATDを持たず、iGluRとの相同性が低く、特にLBDの保存度が低い。イオノトロピック型受容体の立体構造は明らかになっていない。
 [[イオンチャネル型グルタミン酸受容体]] (iGluR)と相同性が高く、3回膜貫通構造を持つ。イオノトロピック型受容体においてもリガンド選択性を有するIR-Xと、olfactory receptor co-receptor同様、リガンドに関わらず共通なIR-coY(ショウジョウバエでは、IR8a, IR25a, IR76b)が存在する。チャネルとしての機能ユニットは、2つのIR-Xと2つのIR-coYから構成されるヘテロ4量体と考えられている<ref name=Abuin2011><pubmed>21220098</pubmed></ref><ref name=Abuin2019><pubmed> 30995910 </pubmed></ref>。IR-coYはアミノ末端ドメイン(amino-terminal domain, ATD), リガンド結合ドメイン(ligand-binding domain, LBD)、イオンチャネルドメインから構成され、iGluRと高度な保存性を有する一方、IR-XはATDを持たず、iGluRとの相同性が低く、特にLBDの保存度が低い。イオノトロピック型受容体の立体構造は明らかになっていない。


==== 味覚受容体 ====
==== 味覚受容体 ====
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=== 発現部位 ===
=== 発現部位 ===
 昆虫嗅覚受容体嗅覚受容体, イオノトロピック型嗅覚受容体は、嗅覚器である、[[触角]](antenna)、[[小顎髭]](maxillary palp)に発現する。嗅覚受容体として機能するGr21a, Gr63aも触角で発現する。これらの嗅覚器は[[感覚子]]とよばれる匂い物質を受容するための特殊な構造に覆われ、それぞれの感覚子には、1〜4の嗅神経細胞が格納されている。嗅覚受容体, IRはそれぞれ異なるタイプの感覚子に存在する嗅神経細胞樹状突起上に発現し、感覚子の穴から取り込まれた匂い物質を受容する。多くの場合、単一の嗅神経細胞は、リガンド選択性をもつ嗅覚受容体またはイオノトロピック型嗅覚受容体を1種類のみ発現するが、例外も報告されている<ref name=Herre2022><pubmed></pubmed></ref>。
 昆虫嗅覚受容体嗅覚受容体, イオノトロピック型嗅覚受容体は、嗅覚器である、[[触角]](antenna)、[[小顎髭]](maxillary palp)に発現する。嗅覚受容体として機能するGr21a, Gr63aも触角で発現する。これらの嗅覚器は[[感覚子]]とよばれる匂い物質を受容するための特殊な構造に覆われ、それぞれの感覚子には、1〜4の嗅神経細胞が格納されている。嗅覚受容体, IRはそれぞれ異なるタイプの感覚子に存在する嗅神経細胞樹状突起上に発現し、感覚子の穴から取り込まれた匂い物質を受容する。多くの場合、単一の嗅神経細胞は、リガンド選択性をもつ嗅覚受容体またはイオノトロピック型嗅覚受容体を1種類のみ発現するが、例外も報告されている<ref name=Herre2022><pubmed>35985288</pubmed></ref>。


=== 機能 ===
=== 機能 ===

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