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 動物細胞に存在する細胞内小器官の1つであり、主要な微小管形成中心(microtubule organizing center: MTOC)として機能する。細胞分裂の際に紡錘体極に存在し紡錘体の形成に関与する他、神経細胞を含む多くの細胞において細胞極性の形成・維持に関与すると考えられている。また、ある種の細胞においては基底小体(basal body)として一次繊毛(primary cilia)の基部に存在しその形成に重要な役割を担う。  
 動物細胞に存在する細胞内小器官の1つであり、主要な微小管形成中心(microtubule organizing center: MTOC)として機能する。細胞分裂の際に紡錘体極に存在し紡錘体の形成に関与する他、神経細胞を含む多くの細胞において細胞極性の形成・維持に関与すると考えられている。また、ある種の細胞においては基底小体(basal body)として一次線毛(primary cilia)の基部に存在しその形成に重要な役割を担う。  
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 中心体は染色体と同様に細胞周期の制御下で複製され、娘細胞に分配されることが知られている。まず、[[wj:G1期|G1期]]から[[wj:S期|S期]]にかけて各々の中心小体の側部に[[wj:Sas6|Sas6]]などの新たな中心小体の鋳型となる分子が集積する。S期から[[wj:G2期|G2期]]には鋳型を基に中心小体を構成する微小管が伸長し、二対の中心小体が形成される。[[wj:M期|M期]]に入ると元の中心小体を連結していたリンカーが解離し、新たに形成された2つの中心体は分離して紡錘体の両端にそれぞれ局在し、紡錘体の形成に関与する。それらの中心体は細胞分裂によって[[w:jp:娘細胞|娘細胞]]に一つずつ分配される。分配された一対の中心小体は次のG1期においてリンカータンパク質によって再び連結される<ref><pubmed>22321829</pubmed></ref>。
 中心体は染色体と同様に細胞周期の制御下で複製され、娘細胞に分配されることが知られている。まず、[[wj:G1期|G1期]]から[[wj:S期|S期]]にかけて各々の中心小体の側部に[[wj:Sas6|Sas6]]などの新たな中心小体の鋳型となる分子が集積する。S期から[[wj:G2期|G2期]]には鋳型を基に中心小体を構成する微小管が伸長し、二対の中心小体が形成される。[[wj:M期|M期]]に入ると元の中心小体を連結していたリンカーが解離し、新たに形成された2つの中心体は分離して紡錘体の両端にそれぞれ局在し、紡錘体の形成に関与する。それらの中心体は細胞分裂によって[[w:jp:娘細胞|娘細胞]]に一つずつ分配される。分配された一対の中心小体は次のG1期においてリンカータンパク質によって再び連結される<ref><pubmed>22321829</pubmed></ref>。


 中心体内に存在する2つの中心小体は同質ではなく、”より古い”方の中心小体('''母中心小体: mother centriole''')は'''distal appendage'''や'''subdistal appendage'''と呼ばれる構造を持つ。distal appendageは一次繊毛形成時に中心体を[[形質膜]]へと移動させるのに必要であると考えられている。subdistal appendageには[[w:Ninein|Ninein]]などのタンパク質が局在しており微小管を中心小体に繋ぎ留める機能を持つ。このような中心小体の非対称性は[[神経幹細胞]]の非対称分裂機構に寄与する可能性が示唆されている(下記参照)。  
 中心体内に存在する2つの中心小体は同質ではなく、”より古い”方の中心小体('''母中心小体: mother centriole''')は'''distal appendage'''や'''subdistal appendage'''と呼ばれる構造を持つ。distal appendageは一次線毛形成時に中心体を[[形質膜]]へと移動させるのに必要であると考えられている。subdistal appendageには[[w:Ninein|Ninein]]などのタンパク質が局在しており微小管を中心小体に繋ぎ留める機能を持つ。このような中心小体の非対称性は[[神経幹細胞]]の非対称分裂機構に寄与する可能性が示唆されている(下記参照)。  


 一般に間期の細胞では、中心体は細胞体の中心部に位置し周縁部に向かって微小管を放射状に伸ばしている(ただし、中心体で重合した微小管は必ずしも常に中心体に繋ぎ止められているわけではなく、細胞によっては速やかに微小管から放出される場合もある)。また、中心体の近傍には[[ゴルジ体]]が局在しており、微小管に沿った輸送システムにより膜小胞を細胞周縁部に供給している。極性化した細胞では中心体の位置が中心からずれることにより、不均等な微小管の配置や局所的な膜成分およびタンパク質の供給を促すと考えられている。
 一般に間期の細胞では、中心体は細胞体の中心部に位置し周縁部に向かって微小管を放射状に伸ばしている(ただし、中心体で重合した微小管は必ずしも常に中心体に繋ぎ止められているわけではなく、細胞によっては速やかに微小管から放出される場合もある)。また、中心体の近傍には[[ゴルジ体]]が局在しており、微小管に沿った輸送システムにより膜小胞を細胞周縁部に供給している。極性化した細胞では中心体の位置が中心からずれることにより、不均等な微小管の配置や局所的な膜成分およびタンパク質の供給を促すと考えられている。
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 神経細胞は移動に際して[[先導突起]]と呼ばれる神経突起を進行方向に伸展し、[[wj:細胞核|細胞核]]およびその他の細胞内小器官を先導突起内へと移入させる。これまでに、中心体が移動中の神経細胞において細胞核の前方(先導突起側)に局在し(図4)細胞核に先行して先導突起内に移動すること、移動時の細胞核が微小管網の籠状構造に覆われていることが報告されており<ref><pubmed>15173193</pubmed></ref><ref><pubmed>15475953</pubmed></ref>、このことから中心体は自身から伸長する微小管によって先導突起と細胞核を連結し細胞核を先導突起内へ牽引するというモデルが提唱されている。しかし、移動中の神経細胞内では細胞核周辺の微小管が必ずしも中心体に収束しておらず(図5)細胞核と中心体は独立に移動するという、上記の核牽引モデルと矛盾する報告もある<ref><pubmed>17913873</pubmed></ref>。中心体は細胞の極性形成および維持に関与することから、細胞核を牽引するのではなく移動方向を決定することで間接的に細胞核移動に関与しているのかもしれない。また、細胞核移動を駆動する力は微小管モータータンパク質[[ダイニン]]が担うと考えられているが、ダイニンによる動力発生の詳細な作用機序は明らかではない。加えて[[アクチン]]モーターである[[ミオシン]]が細胞核移動に作用するという報告もある<ref><pubmed>15958735</pubmed></ref><ref><pubmed>16174753</pubmed></ref>。中心体自身の移動もダイニンとミオシンの連動により制御されると考えられているがその詳細は不明である<ref><pubmed>17618279</pubmed></ref><ref><pubmed>19607793</pubmed></ref>。
 神経細胞は移動に際して[[先導突起]]と呼ばれる神経突起を進行方向に伸展し、[[wj:細胞核|細胞核]]およびその他の細胞内小器官を先導突起内へと移入させる。これまでに、中心体が移動中の神経細胞において細胞核の前方(先導突起側)に局在し(図4)細胞核に先行して先導突起内に移動すること、移動時の細胞核が微小管網の籠状構造に覆われていることが報告されており<ref><pubmed>15173193</pubmed></ref><ref><pubmed>15475953</pubmed></ref>、このことから中心体は自身から伸長する微小管によって先導突起と細胞核を連結し細胞核を先導突起内へ牽引するというモデルが提唱されている。しかし、移動中の神経細胞内では細胞核周辺の微小管が必ずしも中心体に収束しておらず(図5)細胞核と中心体は独立に移動するという、上記の核牽引モデルと矛盾する報告もある<ref><pubmed>17913873</pubmed></ref>。中心体は細胞の極性形成および維持に関与することから、細胞核を牽引するのではなく移動方向を決定することで間接的に細胞核移動に関与しているのかもしれない。また、細胞核移動を駆動する力は微小管モータータンパク質[[ダイニン]]が担うと考えられているが、ダイニンによる動力発生の詳細な作用機序は明らかではない。加えて[[アクチン]]モーターである[[ミオシン]]が細胞核移動に作用するという報告もある<ref><pubmed>15958735</pubmed></ref><ref><pubmed>16174753</pubmed></ref>。中心体自身の移動もダイニンとミオシンの連動により制御されると考えられているがその詳細は不明である<ref><pubmed>17618279</pubmed></ref><ref><pubmed>19607793</pubmed></ref>。


=== 繊毛の形成 ===
=== 線毛の形成 ===


 神経幹細胞を含む多くの細胞は'''一次繊毛'''と呼ばれる微小管束によって膜が突出したアンテナ状構造を持つ。一次繊毛は一般的に非運動性で[[w:jp:ソニック・ヘッジホッグ|hedgehog]]シグナルや[[PDGF]]シグナルなどの細胞外シグナルや機械刺激に対するセンサーとして働く。[[w:jp:細胞周期|間期]]の細胞において母中心小体は基底小体として機能し、一次繊毛の基部に停留して一次繊毛を構成する微小管束の伸長を制御する。繊毛の形成不全は脳の発生過程や機能において様々な障害を引き起こすことが知られている<ref><pubmed>21435552</pubmed></ref>。[[小脳]][[顆粒細胞]]や海馬[[歯状回]]顆粒細胞の前駆細胞は[[Sonic Hedgehog]]シグナル依存的な[[細胞増殖]]を行うことが知られており、一次繊毛の形成不全を示す[[IFT88]]や[[Kif3a]]欠損マウスにおいてはこれらの細胞数が減少する。
 神経幹細胞を含む多くの細胞は'''一次線毛'''と呼ばれる微小管束によって膜が突出したアンテナ状構造を持つ。一次線毛は一般的に非運動性で[[w:jp:ソニック・ヘッジホッグ|hedgehog]]シグナルや[[PDGF]]シグナルなどの細胞外シグナルや機械刺激に対するセンサーとして働く。[[w:jp:細胞周期|間期]]の細胞において母中心小体は基底小体として機能し、一次線毛の基部に停留して一次線毛を構成する微小管束の伸長を制御する。線毛の形成不全は脳の発生過程や機能において様々な障害を引き起こすことが知られている<ref><pubmed>21435552</pubmed></ref>。[[小脳]][[顆粒細胞]]や海馬[[歯状回]]顆粒細胞の前駆細胞は[[Sonic Hedgehog]]シグナル依存的な[[細胞増殖]]を行うことが知られており、一次線毛の形成不全を示す[[IFT88]]や[[Kif3a]]欠損マウスにおいてはこれらの細胞数が減少する。


 [[脈絡叢]](choroid plexus)上皮細胞の一次繊毛は[[脳脊髄液]]量の調節に関与していると考えられており、繊毛形成の異常は脳脊髄液量の増大と'''[[水頭症]]'''を引き起こす。
 [[脈絡叢]](choroid plexus)上皮細胞の一次線毛は[[脳脊髄液]]量の調節に関与していると考えられており、線毛形成の異常は脳脊髄液量の増大と'''[[水頭症]]'''を引き起こす。


 一部の細胞は一次繊毛から派生した'''二次繊毛(secondary cilia)'''を持つ。一次繊毛が1つの細胞に1本なのに対して二次繊毛は細胞種により複数(時には数百本)形成されることがある。複数の二次繊毛が形成される際、中心小体は細胞周期に依存しない機構により複製され、繊毛と同数の[[基底小体]]が形成される。二次繊毛を構成する微小管束はダイニン分子と結合し、その滑り運動により繊毛打を発生させる。脳室壁に存在する[[上衣細胞]]は複数の二次繊毛を脳室面に形成し、その運動により脳室内の脳脊髄液を循環させる。脳脊髄液の流れは細胞外分泌因子の濃度勾配形成にも関与しており、繊毛の機能不全はこのような濃度勾配依存的な神経細胞移動の異常を引き起こすことが報告されている。また、[[嗅覚受容体|嗅覚受容神経細胞]]は複数の非運動性繊毛を嗅上皮面に形成し、繊毛上に[[嗅覚受容体]]を局在させてにおい物質を感知する。このため繊毛の形成不全に起因する疾患では嗅覚障害が伴う場合がある。
 一部の細胞は一次線毛から派生した'''二次線毛(secondary cilia)'''を持つ。一次線毛が1つの細胞に1本なのに対して二次線毛は細胞種により複数(時には数百本)形成されることがある。複数の二次線毛が形成される際、中心小体は細胞周期に依存しない機構により複製され、線毛と同数の[[基底小体]]が形成される。二次線毛を構成する微小管束はダイニン分子と結合し、その滑り運動により線毛打を発生させる。脳室壁に存在する[[上衣細胞]]は複数の二次線毛を脳室面に形成し、その運動により脳室内の脳脊髄液を循環させる。脳脊髄液の流れは細胞外分泌因子の濃度勾配形成にも関与しており、線毛の機能不全はこのような濃度勾配依存的な神経細胞移動の異常を引き起こすことが報告されている。また、[[嗅覚受容体|嗅覚受容神経細胞]]は複数の非運動性線毛を嗅上皮面に形成し、線毛上に[[嗅覚受容体]]を局在させてにおい物質を感知する。このため線毛の形成不全に起因する疾患では嗅覚障害が伴う場合がある。


== 中心体関連遺伝子と神経疾患  ==
== 中心体関連遺伝子と神経疾患  ==


 これまで脳の形成不全を伴う神経疾患の原因遺伝子として多くの中心体関連分子が同定されている。小頭症に関してはその原因遺伝子として7つの[[中心体関連遺伝子]](''[[MCPH]]1~7'')が同定されている。小頭症では大脳皮質の神経細胞数が著しく減少していることから、細胞分裂または対称・非対称分裂の制御に異常があることが示唆される。ただし、中心体関連遺伝子の多くはDNA損傷応答にも関与しており、[[DNA損傷]]に伴う細胞死が関与している可能性もある。小頭症では皮質の層構造には異常が見られないことから神経細胞移動の関与は少ないと考えられる。一方、'''[[Ⅰ型滑脳症]]'''においては神経細胞移動の障害に起因する皮質の層構造異常が見られる。Ⅰ型滑脳症の原因遺伝子としてLis1、Doublecortinなどが同定されているがこれらの分子もまた中心体や微小管に局在することが報告されている。また、一次繊毛の形成および機能に関連する遺伝子の変異は[[Joubert症候群|'''Joubert症候群''']]や[[Bardet – Biedl症候群|'''Bardet – Biedl症候群''']]等の[[Ciliopathy|'''Ciliopathy''']]と呼ばれる疾患を引き起こすことが知られている<ref><pubmed>21386674</pubmed></ref>。
 これまで脳の形成不全を伴う神経疾患の原因遺伝子として多くの中心体関連分子が同定されている。小頭症に関してはその原因遺伝子として7つの[[中心体関連遺伝子]](''[[MCPH]]1~7'')が同定されている。小頭症では大脳皮質の神経細胞数が著しく減少していることから、細胞分裂または対称・非対称分裂の制御に異常があることが示唆される。ただし、中心体関連遺伝子の多くはDNA損傷応答にも関与しており、[[DNA損傷]]に伴う細胞死が関与している可能性もある。小頭症では皮質の層構造には異常が見られないことから神経細胞移動の関与は少ないと考えられる。一方、'''[[Ⅰ型滑脳症]]'''においては神経細胞移動の障害に起因する皮質の層構造異常が見られる。Ⅰ型滑脳症の原因遺伝子としてLis1、Doublecortinなどが同定されているがこれらの分子もまた中心体や微小管に局在することが報告されている。また、一次線毛の形成および機能に関連する遺伝子の変異は[[Joubert症候群|'''Joubert症候群''']]や[[Bardet – Biedl症候群|'''Bardet – Biedl症候群''']]等の[[Ciliopathy|'''Ciliopathy''']]と呼ばれる疾患を引き起こすことが知られている<ref><pubmed>21386674</pubmed></ref>。


==関連項目==
==関連項目==

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