「標的認識」の版間の差分

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—Drosophilaにおけるターゲティングー  Drosophilaの眼は8つの神経細胞(R1-R8)からなる単位の集合体として存在し、これらは高次視覚野であるlamina、medulla、に線維を送るが、R1-R6、R7、R8の軸索はそれぞれシナプスを形成するターゲットが異なる(Rubinら、Zipurskyら)(図4)。この分子メカニズムとしては、 カドヘリン、プロトカドヘリンやレセプター型のチロシンフォスファターゼ等が関与している事が示されている。また、標的野におけるグリア細胞の存在や標的に達するまでのアクソン—アクソン相互作用がこういった標的認識に重要である事も示されている<ref><pubmed>20399726</pubmed></ref>。  [[Image:辞典04.jpg|thumb|center|図4 Drosophilaの眼における軸索の投射]]  
—Drosophilaにおけるターゲティングー  Drosophilaの眼は8つの神経細胞(R1-R8)からなる単位の集合体として存在し、これらは高次視覚野であるlamina、medulla、に線維を送るが、R1-R6、R7、R8の軸索はそれぞれシナプスを形成するターゲットが異なる(Rubinら、Zipurskyら)(図4)。この分子メカニズムとしては、 カドヘリン、プロトカドヘリンやレセプター型のチロシンフォスファターゼ等が関与している事が示されている。また、標的野におけるグリア細胞の存在や標的に達するまでのアクソン—アクソン相互作用がこういった標的認識に重要である事も示されている<ref><pubmed>20399726</pubmed></ref>。  [[Image:辞典04.jpg|thumb|center|図4 Drosophilaの眼における軸索の投射]]  


 図4の説明 ショウジョウバエの眼では8つの細胞からなる神経細胞のユニットが整然と配置されていて、これによって視覚が担われている。その8つの細胞にはR1−8とそれぞれ名前がつけられているが、R1−6はlaminaで中継ニューロンにシナプスを形成するのに対し、R7、R8はmedullaに軸索を投射し、そこでシナプスを形成する。R1−6の中継ニューロンは(L: lamina neuron)やはりmedullaに投射するが、そのシナプスを形成する層がR7,R8のシナプスが形成される層とは異なる。TM, TMY: tangential medulla neurons, DM: distal medulla intrinsic neurons, これらは中継ニューロンでそれぞれ異なる視覚情報を中枢へ伝える。
 図4の説明 ショウジョウバエの眼では8つの細胞からなる神経細胞のユニットが整然と配置されていて、これによって視覚が担われている。その8つの細胞にはR1−8とそれぞれ名前がつけられているが、R1−6はlaminaで中継ニューロンにシナプスを形成するのに対し、R7、R8はmedullaに軸索を投射し、そこでシナプスを形成する。R1−6の中継ニューロンは(L: lamina neuron)やはりmedullaに投射するが、そのシナプスを形成する層がR7,R8のシナプスが形成される層とは異なる。TM, TMY: tangential medulla neurons, DM: distal medulla intrinsic neurons, これらは中継ニューロンでそれぞれ異なる視覚情報を中枢へ伝える。  


 Drosophilaの体節の筋群はステレオティピックな配置をしており、それへの神経支配は神経管に存在する運動神経細胞からの線維が行う。この筋群への運動神経のターゲティングの系は特異的なターゲッティングのメカニズムを探る系として研究されてきた(図5)<ref><pubmed>8833454</pubmed></ref>。この過程には様々なアクソンガイダンスに関わる分子や神経細胞接着因子等が関与している。また、最後のところのNeuroMuscular Junctionの形成についても分子レベルで研究が行われており、上記の分子の他、BMPなども関与している。[[Image:辞典05.jpg|thumb|center|図5 Drosophilaの体節筋への神経細胞の投射]]  
 Drosophilaの体節の筋群はステレオティピックな配置をしており、それへの神経支配は神経管に存在する運動神経細胞からの線維が行う。この筋群への運動神経のターゲティングの系は特異的なターゲッティングのメカニズムを探る系として研究されてきた(図5)<ref><pubmed>8833454</pubmed></ref>。この過程には様々なアクソンガイダンスに関わる分子や神経細胞接着因子等が関与している。また、最後のところのNeuroMuscular Junctionの形成についても分子レベルで研究が行われており、上記の分子の他、BMPなども関与している。[[Image:辞典05.jpg|thumb|center|図5 Drosophilaの体節筋への神経細胞の投射]]  


 図5の説明 ショウジョウバエの体節筋はステレオティピックな形態を示す筋肉のセットからなる。それぞれの筋に投射する神経細胞(RP1, 2, 3, 4, 5a, 6/7b, 8a, aCC)は神経管内に存在しそこから軸索を伸長するが、軸索は途中特異的な神経束を形成し(赤丸)、また途中の様々な特定の部位で束から分かれてそれぞれの特異的な標的である筋肉に投射する。それぞれの特定の部位で様々な分子メカニズムが関与している事が明らかにされつつある。
 図5の説明 ショウジョウバエの体節筋はステレオティピックな形態を示す筋肉のセットからなる。それぞれの筋に投射する神経細胞(RP1, 2, 3, 4, 5a, 6/7b, 8a, aCC)は神経管内に存在しそこから軸索を伸長するが、軸索は途中特異的な神経束を形成し(赤丸)、また途中の様々な特定の部位で束から分かれてそれぞれの特異的な標的である筋肉に投射する。それぞれの特定の部位で様々な分子メカニズムが関与している事が明らかにされつつある。  


 またDrosophilaのolfactory systemであるMushroom bodyヘのターゲッティングについても研究が進められている。これにはマウスで明らかにされている様なトポグラフィックなマッピングのメカニズムも関与しているようである<ref><pubmed>20554703</pubmed></ref>。  
 またDrosophilaのolfactory systemであるMushroom bodyヘのターゲッティングについても研究が進められている。これにはマウスで明らかにされている様なトポグラフィックなマッピングのメカニズムも関与しているようである<ref><pubmed>20554703</pubmed></ref>。  
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—小脳でのターゲティングー  小脳の回路については昔から精力的に研究が行われてきた。小脳に入ってくる2つの主な入力は延髄の下オリーブ核からの登上線維と橋の橋核からの苔状線維であるが、この2つは前者がプルキニエ細胞、後者が顆粒細胞とそれぞれターゲットが異なる。これらの線維が小脳皮質の発達に伴ってどうやって小脳皮質まできて、どういう発達過程を示すかについては詳細な記載がされているが(例えばConstantino SoteloやCarol Masonら)、これらのターゲッティングが分子レベルでどうなっているかについてはまだ明らかになっていない(一つの登上線維が一つのプルキンエ細胞とシナプスを作るようになるリファイメントの過程については日本の狩野らの仕事により分子メカニズムが明らかにされてきている)。Constantine Soteloは登上線維のプルキニエ細胞ヘのターゲティングに関わる分子に非常に興味を持っていて、彼は小脳のプルキニエ細胞は矢状断面でグループを作り、それに下オリーブ核からの登上線維がトポグラフィックにターゲティングすることに注目、小脳で矢状断面に沿ったストライプ状に発現する細胞接着因子を探した。そのうちの一つが細胞接着因子のSC1/DM-GRASP/BEN/ALCAMである。しかしながら、この分子が登上線維とプルキニエ細胞のマッチングに関与しているかどうかの検証はなされていない(図8)<ref><pubmed>8627367</pubmed></ref>。[[Image:辞典08.jpg|thumb|center|図8 小脳への下オリーブ核からの投射]]  
—小脳でのターゲティングー  小脳の回路については昔から精力的に研究が行われてきた。小脳に入ってくる2つの主な入力は延髄の下オリーブ核からの登上線維と橋の橋核からの苔状線維であるが、この2つは前者がプルキニエ細胞、後者が顆粒細胞とそれぞれターゲットが異なる。これらの線維が小脳皮質の発達に伴ってどうやって小脳皮質まできて、どういう発達過程を示すかについては詳細な記載がされているが(例えばConstantino SoteloやCarol Masonら)、これらのターゲッティングが分子レベルでどうなっているかについてはまだ明らかになっていない(一つの登上線維が一つのプルキンエ細胞とシナプスを作るようになるリファイメントの過程については日本の狩野らの仕事により分子メカニズムが明らかにされてきている)。Constantine Soteloは登上線維のプルキニエ細胞ヘのターゲティングに関わる分子に非常に興味を持っていて、彼は小脳のプルキニエ細胞は矢状断面でグループを作り、それに下オリーブ核からの登上線維がトポグラフィックにターゲティングすることに注目、小脳で矢状断面に沿ったストライプ状に発現する細胞接着因子を探した。そのうちの一つが細胞接着因子のSC1/DM-GRASP/BEN/ALCAMである。しかしながら、この分子が登上線維とプルキニエ細胞のマッチングに関与しているかどうかの検証はなされていない(図8)<ref><pubmed>8627367</pubmed></ref>。[[Image:辞典08.jpg|thumb|center|図8 小脳への下オリーブ核からの投射]]  


 図8の説明 延髄の下オリーブ核(右側)にはSC1/DM-GRASP/BEN/ALCAM陽性のところ(黒色)と陰性のところがある。これらの領域の神経細胞は陽性のプルキニエ細胞の存在する小脳皮質(左側、黒色)に投射する。SC1/DM-GRASP/BEN/ALCAM陽性の領域は小脳皮質においてストライプ状に配列している。
 図8の説明 延髄の下オリーブ核(右側)にはSC1/DM-GRASP/BEN/ALCAM陽性のところ(黒色)と陰性のところがある。これらSC1/DM-GRASP/BEN/ALCAM陽性の領域の神経細胞はSC1/DM-GRASP/BEN/ALCAM陽性のプルキニエ細胞の存在する小脳皮質領域(左側、黒色)に投射する。SC1/DM-GRASP/BEN/ALCAM陽性の領域は小脳皮質においては矢状断面に沿ったストライプ状に配列している。


—脊髄内外における運動神経を中心としたターゲッティング(Tom Jessellら)ー  Tom Jessellは長年にわたり脊髄の系を使って神経発生の研究を続けてきている。脊髄の中で運動神経細胞はある特定の筋に支配神経を送るがその神経細胞はその支配筋からの感覚のフィードバックを受ける。その細胞特異的なループ系路の形成に関わる分子メカニズムが明らかにされつつある。また、脊髄の中での介在ニューロンを介した運動神経細胞への局所サーキットの形成にも特異的なターゲット認識が必要であるがこれについても分子メカニズムが明らかにされつつある<ref><pubmed>19804761</pubmed></ref><ref><pubmed>22036571</pubmed></ref>。  また、運動神経細胞は四肢の筋肉を支配するが、脊髄の運動神経細胞カラム内の神経細胞の位置によって、支配する四肢の筋肉の位置が決定されるというトポグラフィックマップが存在する。この四肢の筋肉のターゲット認識は様々なガイダンス分子が関与することが知られ、SemaphorinやEph-Ephrinが関与することが明らかにされている(図9)<ref><pubmed>19109910</pubmed></ref>。[[Image:辞典09.jpg|thumb|center|図9 脊髄の運動神経細胞の四肢筋への投射]]  
—脊髄内外における運動神経を中心としたターゲッティング(Tom Jessellら)ー  Tom Jessellは長年にわたり脊髄の系を使って神経発生の研究を続けてきている。脊髄の中で運動神経細胞はある特定の筋に支配神経を送るがその神経細胞はその支配筋からの感覚のフィードバックを受ける。その細胞特異的なループ系路の形成に関わる分子メカニズムが明らかにされつつある。また、脊髄の中での介在ニューロンを介した運動神経細胞への局所サーキットの形成にも特異的なターゲット認識が必要であるがこれについても分子メカニズムが明らかにされつつある<ref><pubmed>19804761</pubmed></ref><ref><pubmed>22036571</pubmed></ref>。  また、運動神経細胞は四肢の筋肉を支配するが、脊髄の運動神経細胞カラム内の神経細胞の位置によって、支配する四肢の筋肉の位置が決定されるというトポグラフィックマップが存在する。この四肢の筋肉のターゲット認識は様々なガイダンス分子が関与することが知られ、SemaphorinやEph-Ephrinが関与することが明らかにされている(図9)<ref><pubmed>19109910</pubmed></ref>。[[Image:辞典09.jpg|thumb|center|図9 脊髄の運動神経細胞の四肢筋への投射]]  


 図9の説明 脊髄内の運動神経カラムはその支配する四肢筋の位置により、外側群(緑色)と内側群(黄色)に分かれる。運動神経細胞の軸索は神経束を形成し脊髄から出るが四肢へ入るところで四肢の内側にある筋群(medial LMC)と外側にある筋群(lateral LMC)に投射するものでその投射方向が分かれる。この過程には図に示されているような様々な分子メカニズムが関与していることが明らかにされてきている。eAs: ephrinAs, Npn2: neuropilin2
 図9の説明 脊髄内の運動神経カラムはその支配する四肢筋の位置により、外側群(緑色)と内側群(黄色)に分かれる。運動神経細胞の軸索は神経束を形成し脊髄から出るが四肢へ入るところで四肢の内側にある筋群(medial LMC)と外側にある筋群(lateral LMC)に投射するものでその投射方向が分かれる。この過程には図に示されているような様々な分子メカニズムが関与していることが明らかにされてきている。eAs: ephrinAs, Npn2: neuropilin2  


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