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=== クロイツフェルト-ヤコブ病 === | === クロイツフェルト-ヤコブ病 === | ||
[[プリオン]]タンパク質(PrP)のミスフォールディングによって引き起こされる致死性の[[海綿状脳症]]である。治療法は現在開発されておらず、対症療法が主体である。生前の確定診断法はないが、[[脳脊髄液]]由来の14-3-3タンパク質が[[クロイツフェルト-ヤコブ病]]の信頼できるマーカーになりうることが報告されている<ref name=Hsich1996><pubmed>8782499</pubmed></ref>[54]。14-3-3タンパク質の脳脊髄液への漏出は、クロイツフェルト-ヤコブ病による脳神経細胞の広範な破壊に依存している可能性が指摘されている<ref name=Muayqil2012><pubmed>22993290</pubmed></ref>。[55] | |||
[54]。14-3- | |||
=== アルツハイマー病 === | === アルツハイマー病 === | ||
数百万人が罹患しており、徐々に悪化する神経変性疾患である。[[アルツハイマー病]]は、[[アミロイド斑]]と[[神経原線維変化]]という2つの病理学的特徴があげられる。神経原線維変化は、異常にリン酸化されたタウタンパク質の凝集によって主に構成されており、14-3-3は、リン酸化されたタウに結合し<ref name=Hashiguchi2000><pubmed>10840038</pubmed></ref>[56]その機能や安定性を制御することで、神経原線維変化へのタウの凝集を調節していると推定されている<ref name=Shimada2013><pubmed>24364034</pubmed></ref><ref name=Abdi2024><pubmed>38375509</pubmed></ref>[57][58]。また、14-3-3は、アルツハイマー病の[[アミロイド斑]]の主成分である[[アミロイドβ]]のクリアランスに関係することも報告されている<ref name=Abdi2024 />[58]。さらに、14-3-3はアルツハイマー病患者の脳や脳脊髄液中で発現レベルが異常化していることも判明しており、その異常がアルツハイマー病の病態マーカーになる可能性も示唆されている。 | |||
=== パーキンソン病 === | === パーキンソン病 === | ||
[[黒質]]の[[ドーパミン]]神経細胞の障害によって発症する[[神経変性疾患]]である。パーキンソン病患者の脳では、[[レビー小体]]と呼ばれる線維状タンパク質を含む不溶性の凝集体が観察され、14-3-3はレビー小体に存在することが証明されている<ref name=Kawamoto2002><pubmed>11895039</pubmed></ref>[59]。さらに14-3-3は、パーキンソン病の発症と進行に関係する3大主要因子であるLRRK2、[[α-シヌクレイン]]、[[パーキン]]らのすべてと相互作用し、その活性を制御したり細胞内局在を変化させたり、あるいは安定化するなどの役割が報告されている<ref name=Giusto2021><pubmed>34548498</pubmed></ref>[60]。14-3-3のアミノ酸配列にはα-シヌクレインと相同的な領域がある<ref name=Ostrerova1999><pubmed>10407019</pubmed></ref>[61]。 | |||
=== 筋萎縮性側索硬化症 === | === 筋萎縮性側索硬化症 === | ||
筋力低下と筋萎縮を特徴とする致死的な運動ニューロン疾患である。筋萎縮性側索硬化症の神経病理学的特徴として、[[ニューロフィラメント]](NF)や[[TDP-43]]、[[SOD]]などを含む[[レビー小体様ヒアリン封入体]](LBHI)の存在があげられる。患者でも動物モデルでも、14-3-3はLBHIに存在することが証明されている<ref name=Kawamoto2004><pubmed>15378322</pubmed></ref>[62]。14-3-3は、NF軽鎖にリン酸化依存的に結合して安定化させることで、ニューロフィラメント軽鎖を介する[[凝集体]]形成を抑制すると推定されている<ref name=Miao2013><pubmed>23230147</pubmed></ref>[63]。また、14-3-3θのmRNA発現レベルが患者の脊髄で上昇していることも明らかにされている<ref name=Malaspina2000><pubmed>11080204</pubmed></ref> [64]。 | |||
=== ポリグルタミン病 === | === ポリグルタミン病 === | ||
[[脊髄小脳失調症]]1型([[SCA1]])は、[[アタキシン-1]]における[[ポリグルタミン]](ポリQ)鎖の異状伸長によって引き起こされる致死性の神経変性疾患である。SCA1における病態の顕著な部位は小脳プルキンエ細胞であり、そこでは異状アタキシン-1が核に入り込み、封入体を形成する。14-3-3は、リン酸化されたアタキシン-1に結合し<ref name=Chen2003><pubmed>12757707</pubmed></ref>[65]、[[脱リン酸化]]を防ぐとともに核への移行を阻害する役割が報告されている<ref name=Lai2011><pubmed>21835928</pubmed></ref>[66]。14-3-3εの部分欠損がSCA1の小脳表現型を改善するという所見は、14-3-3がSCA1の病因に寄与していることを示唆している<ref name=Jafar-Nejad2011><pubmed>21245341</pubmed></ref>[67]。 | |||
=== ハンチントン病 === | === ハンチントン病 === | ||
[[ハンチントン病]]とは[[常染色体顕性遺伝]]の進行性神経変性疾患であり、[[ハンチンチン]]タンパク質におけるポリQ鎖の伸長によって引き起こされる。14-3-3は、この異常ハンチンチンの封入体形成を促進することで、ミスフォールディングしたハンチンチンを除去する役割が示唆されている<ref name=Kaneko2006><pubmed>16516399</pubmed></ref>[68]。[[siRNA]]による14-3-3ζの減少は異状ハンチンチンの封入体形成を阻害したことから<ref name=Omi2008><pubmed>18078716</pubmed></ref>[69]、14-3-3が封入体形成に関与することも示唆されている。 | |||
=== ミラー・ディーカー症候群 === | === ミラー・ディーカー症候群 === | ||
[[ミラー・ディーカー症候群]]とは[[lissencephaly]]([[滑脳症]])のより重篤な型であり、ヒトとマウスに脳の異常を伴うまれな[[神経細胞移動]]障害を引き起こす。14-3-3ε遺伝子YWHAEが存在する[[染色体]]領域17p13-3はミラー・ディーカー症候群患者で常に欠損していることが明らかになっている<ref name=Toyo-oka2003><pubmed>12796778</pubmed></ref>[70]。14-3-3εは、[[CDK5]]でリン酸化されたNUDELに結合し、NUDELのリン酸化状態を保護することで、神経細胞の移動を制御していることが報告されている<ref name=Toyo-oka2003 /> [70]。NUDELは、[[LIS1]]結合タンパク質として知られており、この複合体は細胞質[[ダイニン]]重鎖機能を制御する、神経細胞の移動に必須な因子である<ref name=Taya2007><pubmed>17202468</pubmed></ref>[71]。このことは、14-3-3εが神経細胞移動に必須の役割を担っていることを示唆している。実際、14-3-3ε欠損マウスは、海馬の欠損、皮質の菲薄化、移動距離の減少、神経細胞死の増加などの脳構造の異状を示す。しかし14-3-3εの単独欠失では、発症しないことが報告されている<ref name=Denomme-Pichon2023><pubmed>36999555</pubmed></ref>[72]。 | |||
=== 統合失調症 === | === 統合失調症 === | ||
[[統合失調症]]とは[[陽性症状]]、[[陰性症状]]、[[認知症状]]の組み合わせによって特徴付けられる[[精神神経疾患]]であり、高い遺伝性があることが示されている。遺伝子解析により、14-3-3η遺伝子YWHAHが存在する染色体領域22q12-13との関連が示唆されている。実際、14-3-3η遺伝子の[[一塩基多型]](SNP)との有意な関連は、様々なヒトサンプルを用いた多くの研究で証明されている<ref name=Toyooka1999><pubmed>10206237</pubmed></ref><ref name=Bell2000><pubmed>11121172</pubmed></ref>[73][74]。患者の脳サンプルにおいて、14-3-3ηを含む多くの14-3-3アイソフォームのmRNA発現レベルが変化していることが明らかになっている。また、14-3-3εヘテロ接合体ノックアウトマウスは、海馬や皮質の構造変化や[[ワーキングメモリー]]障害などの表現型を表すことから、初めての動物モデルとして提唱されている<ref name=Ikeda2008><pubmed>18658164</pubmed></ref>[75]。 |