「14-3-3タンパク質」の版間の差分

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[[ファイル:Ichimura 14-3-3 Fig3.png|サムネイル|'''図3. タンパク質レベルにおける14-3-3の働き'''<br>14-3-3はタンパク質キナーゼによってリン酸化された標的と相互作用することで、 (1)標的酵素の活性を調節する、(2)標的タンパク質の細胞内輸送を制御する、(3)標的分子を安定化させる、など多彩な役割をもつことが知られている。]]
[[ファイル:Ichimura 14-3-3 Fig3.png|サムネイル|'''図3. タンパク質レベルにおける14-3-3の働き'''<br>14-3-3はタンパク質キナーゼによってリン酸化された標的と相互作用することで、 (1)標的酵素の活性を調節する、(2)標的タンパク質の細胞内輸送を制御する、(3)標的分子を安定化させる、など多彩な役割をもつことが知られている。]]
=== タンパク質レベルにおける役割 ===
=== タンパク質レベルにおける役割 ===
 14-3-3が標的とするタンパク質は現在300種を超えており、その中には細胞内[[シグナル伝達]]経路を構成する一連の酵素・タンパク質が共通して含まれている<ref name=Kakiuchi2007><pubmed>17559233</pubmed></ref>[29]。こうした14-3-3の標的には、[[タンパク質リン酸化酵素]]、[[ユビキチンリガーゼ]]、代謝酵素、[[転写因子]]、[[細胞骨格]]成分、[[イオンチャンネル]]などがあげられる。14-3-3の結合は、標的リン酸化タンパク質のコンフォメーションや分子間相互作用に影響を与えることで<ref name=Tzivion2002><pubmed>11709560</pubmed></ref><ref name=Yaffe1997><pubmed>9428519</pubmed></ref><ref name=Obsil2001><pubmed>11336675</pubmed></ref><ref name=Yaffe2002><pubmed>11911880</pubmed></ref><ref name=Park2019><pubmed>31581174</pubmed></ref>[24][26][30][31][32]、結果として(1)標的酵素の活性を調節する、(2)標的タンパク質の細胞内輸送(局在)を制御する、(3)標的分子を安定化させる、など多彩な役割をもつことが知られている('''図3''')。14-3-3の相互作用にはアイソフォーム特異性があることが報告されている<ref name=Shinkai1996><pubmed>8721374</pubmed></ref>[8]。
 14-3-3が標的とするタンパク質は現在300種を超えており、その中には細胞内[[シグナル伝達]]経路を構成する一連の酵素・タンパク質が共通して含まれている<ref name=Kakiuchi2007><pubmed>17559233</pubmed></ref>[29]。こうした14-3-3の標的には、[[タンパク質リン酸化酵素]]、[[ユビキチンリガーゼ]]、代謝酵素、[[転写因子]]、[[細胞骨格]]成分、[[イオンチャネル]]などがあげられる。14-3-3の結合は、標的リン酸化タンパク質のコンフォメーションや分子間相互作用に影響を与えることで<ref name=Tzivion2002><pubmed>11709560</pubmed></ref><ref name=Yaffe1997><pubmed>9428519</pubmed></ref><ref name=Obsil2001><pubmed>11336675</pubmed></ref><ref name=Yaffe2002><pubmed>11911880</pubmed></ref><ref name=Park2019><pubmed>31581174</pubmed></ref>[24][26][30][31][32]、結果として(1)標的酵素の活性を調節する、(2)標的タンパク質の細胞内輸送(局在)を制御する、(3)標的分子を安定化させる、など多彩な役割をもつことが知られている('''図3''')。14-3-3の相互作用にはアイソフォーム特異性があることが報告されている<ref name=Shinkai1996><pubmed>8721374</pubmed></ref>[8]。


=== 細胞と個体レベルにおける役割 ===
=== 細胞と個体レベルにおける役割 ===
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=== 脳神経系での機能 ===
=== 脳神経系での機能 ===
 脳神経系において、14-3-3は上記したチロシン水酸化酵素やトリプトファン水酸化酵素、[[セロトニン-N-アセチル転移酵素|セロトニン-''N''-アセチル転移酵素]](NAT)<ref name=Obsil2001 /> [30]と相互作用し酵素活性を制御することで細胞内モノアミンレベルの調節に関わっている。また[[カルシウム|Ca<sup>2+</sup>]]シグナルに応じて[[神経伝達物質]]の放出([[エキソサイトーシス]])を促進する役割が確認されている<ref name=Morgan1992><pubmed>1538762</pubmed></ref>[45]。シナプスにおける働きとしてよりよく理解されているのは、さまざまなイオンチャンネルのモジュレーターとしての役割である。代表的な標的チャンネルとして、[[ニコチン性アセチルコリン受容体]](α4β2nAChR <ref name=Jeanclos2001><pubmed>11352901</pubmed></ref>[46])、[[電位依存性カルシウムチャンネル]]([[電位依存性カルシウムチャネル#Cav2_(N,_P/Q,_R型)|Ca<sub>V</sub>2.2]] <ref name=Li2006><pubmed>16982421</pubmed></ref>[47])、[[カリウムチャンネル]]([[KCNK3]]
 脳神経系において、14-3-3は上記したチロシン水酸化酵素やトリプトファン水酸化酵素、[[セロトニン-N-アセチル転移酵素|セロトニン-''N''-アセチル転移酵素]](NAT)<ref name=Obsil2001 /> [30]と相互作用し酵素活性を制御することで細胞内モノアミンレベルの調節に関わっている。また[[カルシウム|Ca<sup>2+</sup>]]シグナルに応じて[[神経伝達物質]]の放出([[エキソサイトーシス]])を促進する役割が確認されている<ref name=Morgan1992><pubmed>1538762</pubmed></ref>[45]。シナプスにおける働きとしてよりよく理解されているのは、さまざまなイオンチャネルのモジュレーターとしての役割である。代表的な標的チャネルとして、[[ニコチン性アセチルコリン受容体]](α4β2nAChR <ref name=Jeanclos2001><pubmed>11352901</pubmed></ref>[46])、[[電位依存性カルシウムチャネル]]([[電位依存性カルシウムチャネル#Cav2_(N,_P/Q,_R型)|Ca<sub>V</sub>2.2]] <ref name=Li2006><pubmed>16982421</pubmed></ref>[47])、[[カリウムチャネル]]([[KCNK3]]
<ref name=O'Kelly2002><pubmed>12437930</pubmed></ref>[48])、[[塩素イオンチャンネル|塩素チャンネル]](CFTR
<ref name=O'Kelly2002><pubmed>12437930</pubmed></ref>[48])、[[塩素イオンチャネル|塩素チャネル]](CFTR
<ref name=Liang2012><pubmed>22278744</pubmed></ref>[49])、[[NMDA受容体]] ([[NR2C]]サブユニット<ref name=Chen2009><pubmed>19477150</pubmed></ref>[50])などが上げられる。14-3-3のリン酸化依存性相互作用は、チャンネル活性を調節し、あるいは細胞内輸送や構造安定性に影響を与えることによって、効率的なシナプス伝達の維持・制御に寄与していることが報告されている。
<ref name=Liang2012><pubmed>22278744</pubmed></ref>[49])、[[NMDA受容体]] ([[NR2C]]サブユニット<ref name=Chen2009><pubmed>19477150</pubmed></ref>[50])などが上げられる。14-3-3のリン酸化依存性相互作用は、チャネル活性を調節し、あるいは細胞内輸送や構造安定性に影響を与えることによって、効率的なシナプス伝達の維持・制御に寄与していることが報告されている。


 [[マウス]][[海馬]]において阻害ペプチドであるdifopein(dimeric fourteen-three-three peptide inhibitor)を用い14-3-3を阻害すると、[[CA3]]-[[CA1]]シナプスにおける[[連想学習]]と[[記憶行動]]を障害され、[[長期増強]]([[LTP]])を抑制されることが明らかになっている<ref name=Qiao2014><pubmed>24695700</pubmed></ref>[51]。またdifopeinは14-3-3と[[LRRK2]]キナーゼの相互作用を妨害し、マウス海馬の[[初代培養]]ニューロンの[[神経突起]]伸長を短縮化させることも知られている<ref name=Lavalley2016><pubmed>26546614</pubmed></ref>[52]。14-3-3は[[δカテニン]]、[[NUDEL]]、[[LIMドメイン含有キナーゼ]] ([[LIMK]])や[[コフィリン]]などに相互作用することで、神経細胞の移動、神経分化、形態形成、[[構造可塑性]]を制御することが報告されている<ref name=Cornell2017><pubmed>29075177</pubmed></ref>[53]。これらの標的に加えて、14-3-3は、次項に列挙したものを含む多種多様なタンパク質と結合することによって、脳神経系で機能していると考えられる。
 [[マウス]][[海馬]]において阻害ペプチドであるdifopein(dimeric fourteen-three-three peptide inhibitor)を用い14-3-3を阻害すると、[[CA3]]-[[CA1]]シナプスにおける[[連想学習]]と[[記憶行動]]を障害され、[[長期増強]]([[LTP]])を抑制されることが明らかになっている<ref name=Qiao2014><pubmed>24695700</pubmed></ref>[51]。またdifopeinは14-3-3と[[LRRK2]]キナーゼの相互作用を妨害し、マウス海馬の[[初代培養]]ニューロンの[[神経突起]]伸長を短縮化させることも知られている<ref name=Lavalley2016><pubmed>26546614</pubmed></ref>[52]。14-3-3は[[δカテニン]]、[[NUDEL]]、[[LIMドメイン含有キナーゼ]] ([[LIMK]])や[[コフィリン]]などに相互作用することで、神経細胞の移動、神経分化、形態形成、[[構造可塑性]]を制御することが報告されている<ref name=Cornell2017><pubmed>29075177</pubmed></ref>[53]。これらの標的に加えて、14-3-3は、次項に列挙したものを含む多種多様なタンパク質と結合することによって、脳神経系で機能していると考えられる。

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