「Na+/K+-ATPアーゼ」の版間の差分

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{{box|text= Na+,K+-ATPaseは、ナトリウムポンプとして知られ、一分子のATP加水分解と共役して、3つのNa+を細胞外に、2つのK+を細胞内に輸送する能動輸送体である。この働きによって神経細胞でのNa+/K+濃度勾配や膜電位が形成されることから、神経活動にとって不可欠の分子である。また、その異常は疾病と密接にかかわる。}}
同義語:Na<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPアーゼ、ナトリウムポンプ
 
{{box|text= Na<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPaseは、一分子のATP加水分解と共役して、3つのNa<sup>+</sup>を細胞外に、2つのK<sup>+</sup>を細胞内に輸送する能動輸送体である。この働きによって神経細胞でのNa<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>濃度勾配や膜電位が形成されることから、神経活動にとって不可欠の分子である。また、その異常は疾病と密接にかかわる。}}
 
== イントロダクション ==
== イントロダクション ==
 ほとんどの細胞では、低いCa2+濃度、低いNa+濃度、高いK+濃度そして中性pH が維持されている。多くのエネルギーが、細胞膜を隔てたNa+とK+の能動勾配として蓄えられ、これは様々な輸送基質(糖、神経伝達物質、アミノ酸、代謝産物)や他のイオンの二次輸送の駆動力として用いられる。また、Na+とK+の濃度勾配は細胞外シグナルや膜電位に応答して、選択的カチオンチャネルが開くことによる迅速なシグナル伝達にも利用される。このような細胞膜を隔てたNa+/K+の濃度勾配はNa+,K+-ATPaseによって形成される。
 ほとんどの細胞では、低いCa<sup>2+</sup>濃度、低いNa<sup>+</sup>濃度、高いK<sup>+</sup>濃度そして中性pH が維持されている。多くのエネルギーが、細胞膜を隔てたNa<sup>+</sup>とK<sup>+</sup>の能動勾配として蓄えられ、これは様々な輸送基質(糖、神経伝達物質、アミノ酸、代謝産物)や他のイオンの二次輸送の駆動力として用いられる。また、Na<sup>+</sup>とK<sup>+</sup>の濃度勾配は細胞外シグナルや膜電位に応答して、選択的カチオンチャネルが開くことによる迅速なシグナル伝達にも利用される。このような細胞膜を隔てたNa<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>の濃度勾配はNa<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPaseによって形成される。


== Na+,K+-ATPase ==
== Na<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPase ==
'''阿部一啓 北海道大学大学院理学研究院'''
'''阿部一啓 北海道大学大学院理学研究院'''


=== 要約 ===
=== 要約 ===
Na+,K+-ATPaseは、ナトリウムポンプとして知られ、一分子のATP加水分解と共役して、3つのNa+を細胞外に、2つのK+を細胞内に輸送する能動輸送体である。この働きによって神経細胞でのNa+/K+濃度勾配や膜電位が形成されることから、神経活動にとって不可欠の分子である。また、その異常は疾病と密接にかかわる。
Na<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPaseは、ナトリウムポンプとして知られ、一分子のATP加水分解と共役して、3つのNa<sup>+</sup>を細胞外に、2つのK<sup>+</sup>を細胞内に輸送する能動輸送体である。この働きによって神経細胞でのNa<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>濃度勾配や膜電位が形成されることから、神経活動にとって不可欠の分子である。また、その異常は疾病と密接にかかわる。


=== イントロダクション ===
=== イントロダクション ===
ほとんどの細胞では、低いCa2+濃度、低いNa+濃度、高いK+濃度そして中性pH が維持されている。多くのエネルギーが、細胞膜を隔てたNa+とK+の能動勾配として蓄えられ、これは様々な輸送基質(糖、神経伝達物質、アミノ酸、代謝産物)や他のイオンの二次輸送の駆動力として用いられる。また、Na+とK+の濃度勾配は細胞外シグナルや膜電位に応答して、選択的カチオンチャネルが開くことによる迅速なシグナル伝達にも利用される。このような細胞膜を隔てたNa+/K+の濃度勾配はNa+,K+-ATPaseによって形成される。
ほとんどの細胞では、低いCa<sup>2+</sup>濃度、低いNa<sup>+</sup>濃度、高いK<sup>+</sup>濃度そして中性pH が維持されている。多くのエネルギーが、細胞膜を隔てたNa<sup>+</sup>とK<sup>+</sup>の能動勾配として蓄えられ、これは様々な輸送基質(糖、神経伝達物質、アミノ酸、代謝産物)や他のイオンの二次輸送の駆動力として用いられる。また、Na<sup>+</sup>とK<sup>+</sup>の濃度勾配は細胞外シグナルや膜電位に応答して、選択的カチオンチャネルが開くことによる迅速なシグナル伝達にも利用される。このような細胞膜を隔てたNa<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>の濃度勾配はNa<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPaseによって形成される。


=== 要約 ===
=== 要約 ===
Na+,K+-ATPaseは、ナトリウムポンプとして知られ、一分子のATP加水分解と共役して、3つのNa+を細胞外に、2つのK+を細胞内に輸送する能動輸送体である。この働きによって神経細胞でのNa+/K+濃度勾配や膜電位が形成されることから、神経活動にとって不可欠の分子である。また、その異常は疾病と密接にかかわる。
Na<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPaseは、ナトリウムポンプとして知られ、一分子のATP加水分解と共役して、3つのNa<sup>+</sup>を細胞外に、2つのK<sup>+</sup>を細胞内に輸送する能動輸送体である。この働きによって神経細胞でのNa<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>濃度勾配や膜電位が形成されることから、神経活動にとって不可欠の分子である。また、その異常は疾病と密接にかかわる。


=== イントロダクション ===
=== イントロダクション ===
ほとんどの細胞では、低いCa<sup>2+</sup>濃度、低いNa<sup>+</sup>濃度、高いK<sup>+</sup>濃度そして中性pH が維持されている。多くのエネルギーが、細胞膜を隔てたNa<sup>+</sup>とK<sup>+</sup>の能動勾配として蓄えられ、これは様々な輸送基質(糖、神経伝達物質、アミノ酸、代謝産物)や他のイオンの二次輸送の駆動力として用いられる。また、Na<sup>+</sup>とK<sup>+</sup>の濃度勾配は細胞外シグナルや膜電位に応答して、選択的カチオンチャネルが開くことによる迅速なシグナル伝達にも利用される。このような細胞膜を隔てたNa<sup>+</sup>/K<sup>+</sup>の濃度勾配はNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPaseによって形成される。
ほとんどの細胞では、低いCa<sup>2+</sup>濃度、低いNa<sup>+</sup>濃度、高いK<sup>+</sup>濃度そして中性pH が維持されている。多くのエネルギーが、細胞膜を隔てたNa<sup>+</sup>とK<sup>+</sup>の能動勾配として蓄えられ、これは様々な輸送基質(糖、神経伝達物質、アミノ酸、代謝産物)や他のイオンの二次輸送の駆動力として用いられる。また、Na<sup>+</sup>とK<sup>+</sup>の濃度勾配は細胞外シグナルや膜電位に応答して、選択的カチオンチャネルが開くことによる迅速なシグナル伝達にも利用される。このような細胞膜を隔てたNa<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>の濃度勾配はNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPaseによって形成される。


Na<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPaseの発見は神経科学の発展の歴史と密接にかかわっている。1950年代には、イカの巨大軸索を材料として、のちにNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPase を発見することになるJens Christian SkouやRobert Postを含む多くの研究者がマサチューセッツ州のWoods Holeで研究していた。当時、Na<sup>+</sup>が神経軸索の発火に必須であることが知られていた。Skouは出身地デンマークに戻った後、カニの爪の組織から神経細胞を単離、そのホモジェネートから分画した膜画分にNa<sup>+</sup>とK<sup>+</sup>に依存したATP加水分解活性を同定し、これが神経細胞からNa<sup>+</sup>を積極的に押し出す酵素に必須であると予測される多くの特徴を示していると結論づけた{Skou 1957|PMid13412736}[1]。同じ年、Postはヒトの赤血球に能動輸送されるK<sup>+</sup>イオン2個に対して、3個のNa<sup>+</sup>が排出されることを報告した{Post 1957|PMid13445725}[2]。その後にPostはSkouがカニの神経で観察したようなATP加水分解活性が赤血球膜にも存在し、最も決定的な証拠として、両方の酵素が強心配糖体ouabainによって阻害されることを示した{Post 1960|PMid14434402}[3]。
Na<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPaseの発見は神経科学の発展の歴史と密接にかかわっている。1950年代には、イカの巨大軸索を材料として、のちにNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPase を発見することになるJens Christian SkouやRobert Postを含む多くの研究者がマサチューセッツ州のWoods Holeで研究していた。当時、Na<sup>+</sup>が神経軸索の発火に必須であることが知られていた。Skouは出身地デンマークに戻った後、カニの爪の組織から神経細胞を単離、そのホモジェネートから分画した膜画分にNa<sup>+</sup>とK<sup>+</sup>に依存したATP加水分解活性を同定し、これが神経細胞からNa<sup>+</sup>を積極的に押し出す酵素に必須であると予測される多くの特徴を示していると結論づけた{Skou 1957|PMid13412736}[1]。同じ年、Postはヒトの赤血球に能動輸送されるK<sup>+</sup>イオン2個に対して、3個のNa<sup>+</sup>が排出されることを報告した{Post 1957|PMid13445725}[2]。その後にPostはSkouがカニの神経で観察したようなATP加水分解活性が赤血球膜にも存在し、最も決定的な証拠として、両方の酵素が強心配糖体ouabainによって阻害されることを示した{Post 1960|PMid14434402}[3]。


このような一連の研究によって同定されたNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPaseは、細胞におけるNa<sup>+</sup>/K<sup>+</sup>輸送系の一部であることが確認され、その発見に対してSkouは1997年にノーベル化学賞を授与された{Skou 1998|PMid9877230}[4]。Na<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPaseは、ATP加水分解の際にその末端リン酸(Phosphate)が活性中心に転移した自己リン酸化中間体を形成する{Post 1973|PMid4270326}[5]。この特徴的ATP加水分解機構が、のちにP-type ATPaseと呼ばれる能動輸送体ファミリーの由来である{Axelsen 1998|PMid9419228}[6]{Palmgren 2023|PMid37838176}[7]。
このような一連の研究によって同定されたNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPaseは、細胞におけるNa<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>輸送系の一部であることが確認され、その発見に対してSkouは1997年にノーベル化学賞を授与された{Skou 1998|PMid9877230}[4]。Na<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPaseは、ATP加水分解の際にその末端リン酸(Phosphate)が活性中心に転移した自己リン酸化中間体を形成する{Post 1973|PMid4270326}[5]。この特徴的ATP加水分解機構が、のちにP-type ATPaseと呼ばれる能動輸送体ファミリーの由来である{Axelsen 1998|PMid9419228}[6]{Palmgren 2023|PMid37838176}[7]。


=== 構造 ===
=== 構造 ===
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このような形式論によれば、ポンプとチャネルを区別するのは、2つ目のゲートが開く際の1つ目のゲートが閉じるタイミングであるということに気が付く。しかしながら、拡散によるdownhillなイオンの流れは、ポンプのuphillな輸送に比べて桁違いに速いので、例えばイオンポンプの1サイクルにかかる時間の0.001%程度の短い時間であっても両方のゲートが開いた状態が存在すると、イオンポンプによる能動輸送の努力は水泡と帰す。このような2つのゲート間の連携の断絶は、細胞にとって破滅的な影響を及ぼすので、イオンポンプは内向きと外向きの2つのゲートが両方とも閉じた状態、輸送基質を「閉塞」するステップを安全装置として備えている(図3){Gadsby 2009|PMid19339978}[35]。
このような形式論によれば、ポンプとチャネルを区別するのは、2つ目のゲートが開く際の1つ目のゲートが閉じるタイミングであるということに気が付く。しかしながら、拡散によるdownhillなイオンの流れは、ポンプのuphillな輸送に比べて桁違いに速いので、例えばイオンポンプの1サイクルにかかる時間の0.001%程度の短い時間であっても両方のゲートが開いた状態が存在すると、イオンポンプによる能動輸送の努力は水泡と帰す。このような2つのゲート間の連携の断絶は、細胞にとって破滅的な影響を及ぼすので、イオンポンプは内向きと外向きの2つのゲートが両方とも閉じた状態、輸送基質を「閉塞」するステップを安全装置として備えている(図3){Gadsby 2009|PMid19339978}[35]。


多くの反応速度論的解析によって、Na+,K+-ATPaseのカチオン輸送機構は生化学的によく理解されている。最初にWayne Albersによって提案され{Albers 1967|PMid18257736}[36]、後にPostによって修正された{Post 1969|PMid3015421}[37]、Na+,K+-ATPaseの輸送反応モデルはPost-Albers機構と呼ばれ(図4)、Na+,K+-ATPaseだけでなく多くのP-type ATPaseに対しほぼ共通して適応される。
多くの反応速度論的解析によって、Na<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPaseのカチオン輸送機構は生化学的によく理解されている。最初にWayne Albersによって提案され{Albers 1967|PMid18257736}[36]、後にPostによって修正された{Post 1969|PMid3015421}[37]、Na<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPaseの輸送反応モデルはPost-Albers機構と呼ばれ(図4)、Na<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPaseだけでなく多くのP-type ATPaseに対しほぼ共通して適応される。


これらの能動輸送酵素(Enzyme)は内向きでNa+に高い親和性を示すE1状態と、外向きでK+に対して高親和性のE2状態(これらに加えてそれぞれがリン酸化されたE1P、E2P状態)をサイクルすることによって、2種類のカチオンを交互に輸送する。細胞内に向けてゲートを開いたE1に対して細胞内からNa+が結合することで[3Na+・E1]、ATPの加水分解が誘発され、ATPの末端のリン酸がPドメインに普遍的に保存されたDKTGT配列中のアスパラギン酸残基に転移したリン酸化中間体E1Pを形成する[(3Na+)E1P]。このときNa+はカチオン結合サイトに閉塞され、細胞内からも細胞外からもアクセスできない状態になる。E1Pが自発的にE2Pへと変換される過程で、細胞外へのゲートが開き、カチオン結合サイトのNa+に対する親和性が低下することで3つのNa+が細胞外へと排出される。Na+排出後のE2Pの空になったカチオン結合サイトは、K+に対して高い親和性を示す状態になっており、ここに細胞外から2つのK+が結合することで、細胞外のゲートが閉じ、これが細胞内ドメインに伝わることで脱リン酸化が誘発され、K+を閉塞したE2へと移行する[(2K+)E2]。E2は自発的にE1へと変換され、この過程でK+が細胞内に遊離し、再びNa+が結合することでサイクルが繰り返される。
これらの能動輸送酵素(Enzyme)は内向きでNa<sup>+</sup>に高い親和性を示すE1状態と、外向きでK<sup>+</sup>に対して高親和性のE2状態(これらに加えてそれぞれがリン酸化されたE1P、E2P状態)をサイクルすることによって、2種類のカチオンを交互に輸送する。細胞内に向けてゲートを開いたE1に対して細胞内からNa<sup>+</sup>が結合することで[3Na<sup>+</sup>・E1]、ATPの加水分解が誘発され、ATPの末端のリン酸がPドメインに普遍的に保存されたDKTGT配列中のアスパラギン酸残基に転移したリン酸化中間体E1Pを形成する[(3Na<sup>+</sup>)E1P]。このときNa<sup>+</sup>はカチオン結合サイトに閉塞され、細胞内からも細胞外からもアクセスできない状態になる。E1Pが自発的にE2Pへと変換される過程で、細胞外へのゲートが開き、カチオン結合サイトのNa<sup>+</sup>に対する親和性が低下することで3つのNa<sup>+</sup>が細胞外へと排出される。Na<sup>+</sup>排出後のE2Pの空になったカチオン結合サイトは、K<sup>+</sup>に対して高い親和性を示す状態になっており、ここに細胞外から2つのK<sup>+</sup>が結合することで、細胞外のゲートが閉じ、これが細胞内ドメインに伝わることで脱リン酸化が誘発され、K<sup>+</sup>を閉塞したE2へと移行する[(2K<sup>+</sup>)E2]。E2は自発的にE1へと変換され、この過程でK<sup>+</sup>が細胞内に遊離し、再びNa<sup>+</sup>が結合することでサイクルが繰り返される。


一連の反応は、P-type ATPaseとして初めて結晶構造が報告されたCa2+-ATPase{Toyoshima 2000|PMid10864315}[13]や、Na+,K+-ATPase{Morth 2007|PMid18075585}[11]{Kanai 2013|PMid24089211}[12]、近縁のH+,K+-ATPase{Abe 2018|PMid24468074}[38]をはじめとして、多くのP-type ATPaseの構造機能解析によって分子レベルで良く理解されている。
一連の反応は、P-type ATPaseとして初めて結晶構造が報告されたCa<sup>2+</sup>-ATPase{Toyoshima 2000|PMid10864315}[13]や、Na<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPase{Morth 2007|PMid18075585}[11]{Kanai 2013|PMid24089211}[12]、近縁のH+,K<sup>+</sup>-ATPase{Abe 2018|PMid24468074}[38]をはじめとして、多くのP-type ATPaseの構造機能解析によって分子レベルで良く理解されている。


=== 疾患との関わり === おそらくα1が初期胚発生において必須であるため、それほど多くの疾病関連変異は報告されていない。シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth(CMT2))軸索性感覚運動ニューロパチーでは、7つの推定病原性変異が発見されたが、これらは比較的活性に影響が少ない置換であると考えられている{Lassuthova 2018|PMid28634454}[39]。副腎のアルドステロン産生腺由来の腫瘍細胞の一部では、α1の体細胞変異がアルドステロンの過剰産生を引き起こし、これが高血圧に繋がる。これらの変異体の内で機能解析が行われたものは、ATPase活性の低下、細胞脱分極、またわずかな内向き漏洩電流を示した{Kopec 2014|PMid28634454}[40]。最近カロリンスカのグループから報告された治療困難な悪性小児てんかんの患者から見つかったα1の変異(W931R)は、Na+,K+-ATPaseを非特異的なカチオンチャネルへと転換することが卵母細胞での測定によって示唆されている{Ygberg 2021|PMid28634454}[41]。W931はNa+結合サイトの1つ(site III)を間接的に補強しており{Young 2022|PMid28634454}[42]、ここの異常によってチャネルの経路が出来たと考察される。
=== 疾患との関わり === おそらくα1が初期胚発生において必須であるため、それほど多くの疾病関連変異は報告されていない。シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth(CMT2))軸索性感覚運動ニューロパチーでは、7つの推定病原性変異が発見されたが、これらは比較的活性に影響が少ない置換であると考えられている{Lassuthova 2018|PMid28634454}[39]。副腎のアルドステロン産生腺由来の腫瘍細胞の一部では、α1の体細胞変異がアルドステロンの過剰産生を引き起こし、これが高血圧に繋がる。これらの変異体の内で機能解析が行われたものは、ATPase活性の低下、細胞脱分極、またわずかな内向き漏洩電流を示した{Kopec 2014|PMid28634454}[40]。最近カロリンスカのグループから報告された治療困難な悪性小児てんかんの患者から見つかったα1の変異(W931R)は、Na<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPaseを非特異的なカチオンチャネルへと転換することが卵母細胞での測定によって示唆されている{Ygberg 2021|PMid28634454}[41]。W931はNa<sup>+</sup>結合サイトの1つ(site III)を間接的に補強しており{Young 2022|PMid28634454}[42]、ここの異常によってチャネルの経路が出来たと考察される。


神経細胞でのNa+/K+濃度勾配の形成を司るという性質から、アイソフォームの変異が神経疾患の患者から見つかっている。家族性片頭痛Familial Hemiplegic Migraine(FHM)を引き起こす変異として、Ca2+チャネル(FHM1)とNa+チャネル(FHM3)の他に、80以上のα2へのloss-of-function変異(FHM2)が報告されている{Bottger 2012|PMid22067897}[43]。また、α3への機能欠損変異が、急性発症ジストニア・パーキンソニズム(Rapid-onset Dystonia Parkinsonism, RDP){deCarvalhoAguiar 2004|PMid15260953}[44]や、小児交代性片麻痺(Alternating Hemiplegia of Childhood, AHC){Heinzen 2012|PMid22842232}[45]、CAPOS症候群(小脳失調、反射消失、凹足、視神経萎縮、感音性難聴)(cerebellar ataxia, areflexia, pes cavus, optic atrophy and sensorineural hearing loss){Demos 2014|PMid24468074}[46]を引き起こすことが示された。これらの症状は、個体の遺伝的背景もその発症に重要であるとされる。現在80近い疾患関連変異が報告されているが、RDPは変異が広範囲に及ぶのに対し、CAPOS症候群ではカチオン結合に直接関わるE818Kが共通であり、AHCの大部分は同様にカチオン結合に重要なD801NとE815Kの2つの変異によって占められている{Clausen 2017|PMid28634454}[23]。
神経細胞でのNa<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>濃度勾配の形成を司るという性質から、アイソフォームの変異が神経疾患の患者から見つかっている。家族性片頭痛Familial Hemiplegic Migraine(FHM)を引き起こす変異として、Ca<sup>2+</sup>チャネル(FHM1)とNa<sup>+</sup>チャネル(FHM3)の他に、80以上のα2へのloss-of-function変異(FHM2)が報告されている{Bottger 2012|PMid22067897}[43]。また、α3への機能欠損変異が、急性発症ジストニア・パーキンソニズム(Rapid-onset Dystonia Parkinsonism, RDP){deCarvalhoAguiar 2004|PMid15260953}[44]や、小児交代性片麻痺(Alternating Hemiplegia of Childhood, AHC){Heinzen 2012|PMid22842232}[45]、CAPOS症候群(小脳失調、反射消失、凹足、視神経萎縮、感音性難聴)(cerebellar ataxia, areflexia, pes cavus, optic atrophy and sensorineural hearing loss){Demos 2014|PMid24468074}[46]を引き起こすことが示された。これらの症状は、個体の遺伝的背景もその発症に重要であるとされる。現在80近い疾患関連変異が報告されているが、RDPは変異が広範囲に及ぶのに対し、CAPOS症候群ではカチオン結合に直接関わるE818Kが共通であり、AHCの大部分は同様にカチオン結合に重要なD801NとE815Kの2つの変異によって占められている{Clausen 2017|PMid28634454}[23]。
== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* 活動電位
* 活動電位