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<font size="+1">[https://researchmap.jp/AgetaHiroshi 上田 洋司]、[https://researchmap.jp/12043695 土田 邦博]</font><br> | |||
''藤田医科大学 医科学研究センター 難病治療学部門''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2025年3月25日 原稿完成日:2022年3月26日<br> | |||
担当編集委員:[https://researchmap.jp/yamagatm 山形 方人](ハーバード大学・脳科学センター)<br> | |||
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英: follistatin | 英: follistatin | ||
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[[ファイル:Tsuchida Follistatin Fig1.png|サムネイル|'''図1. フォリスタチンとFSTL3(FLRG)''']] | [[ファイル:Tsuchida Follistatin Fig1.png|サムネイル|'''図1. フォリスタチンとFSTL3(FLRG)''']] | ||
[[ファイル:2b0u.pdb|サムネイル|'''図2. アクチビンとフォリスタチンの結合'''<br>内部のアクチビンをフォリスタチンが包み込む構造を取る。[https://www.rcsb.org/structure/2B0U PDB 2B0U]。]] | |||
[[ファイル:Tsuchida Follistatin Fig3.png|サムネイル|'''図3A. アクチビンと受容体の結合の模式図<br>B. フォリスタチンによるアクチビンのシグナル伝達の阻害の模式図'''<br>中央がアクチビン(赤) | [[ファイル:Tsuchida Follistatin Fig3.png|サムネイル|'''図3A. アクチビンと受容体の結合の模式図<br>B. フォリスタチンによるアクチビンのシグナル伝達の阻害の模式図'''<br>中央がアクチビン(赤) | ||
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フォリスタチン遺伝子はヒトを含めて種間でよく保存されており、6個のエクソンで構成されている。分子内にシステインに富んだ3個のフォリスタチンドメイン (FSD)を持つ糖付加ポリペプチドをコードする。6番目のエクソンのスプライシングの違いにより、FS315とFS288の2つのバリアントが産生される。さらに分解産物であるFS303も生体内に確認されている('''図1''')。FS288は細胞との結合性が高く、アクチビン結合能と阻害活性がFS315より強い <ref name=Shimasaki1988><pubmed>3380788</pubmed></ref><ref name=Hashimoto1997><pubmed>9153241</pubmed></ref>。 | フォリスタチン遺伝子はヒトを含めて種間でよく保存されており、6個のエクソンで構成されている。分子内にシステインに富んだ3個のフォリスタチンドメイン (FSD)を持つ糖付加ポリペプチドをコードする。6番目のエクソンのスプライシングの違いにより、FS315とFS288の2つのバリアントが産生される。さらに分解産物であるFS303も生体内に確認されている('''図1''')。FS288は細胞との結合性が高く、アクチビン結合能と阻害活性がFS315より強い <ref name=Shimasaki1988><pubmed>3380788</pubmed></ref><ref name=Hashimoto1997><pubmed>9153241</pubmed></ref>。 | ||
フォリスタチンは、アクチビンと結合していないフリーの状態では、カルボキシル末端の酸性領域とFSD1の塩基性領域/ヘパリン結合領域とが相互作用しFS288よりもコンパクトな高次構造を取ると考えられている <ref name=Lerch2007><pubmed>17409095</pubmed></ref>。アクチビンと結合すると、その相互作用はなくなり、FS315と類似したオープンな高次構造をとる(図2、3)。 | フォリスタチンは、アクチビンと結合していないフリーの状態では、カルボキシル末端の酸性領域とFSD1の塩基性領域/ヘパリン結合領域とが相互作用しFS288よりもコンパクトな高次構造を取ると考えられている <ref name=Lerch2007><pubmed>17409095</pubmed></ref>。アクチビンと結合すると、その相互作用はなくなり、FS315と類似したオープンな高次構造をとる('''図2、3''')。 | ||
フォリスタチンには、N末端領域(FSN)と3つのFSドメイン(FSD1, FSD2, FSD3)が存在する。各FSドメインは10個のシステインを含んでおり、Kazal型のプロテアーゼインヒビターと構造上の類似性が見られるが、その活性は検出されない。アクチビンとの結合と阻害活性には全体の分子構造が重要であるが、1、2番目のFSドメイン(FSD1, FSD2)が特に重要である。 | フォリスタチンには、N末端領域(FSN)と3つのFSドメイン(FSD1, FSD2, FSD3)が存在する。各FSドメインは10個のシステインを含んでおり、Kazal型のプロテアーゼインヒビターと構造上の類似性が見られるが、その活性は検出されない。アクチビンとの結合と阻害活性には全体の分子構造が重要であるが、1、2番目のFSドメイン(FSD1, FSD2)が特に重要である。 | ||
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| FSTL3 (FLRG)とマイオスタチンの複合体 || 3SEK || <ref name=Cash2012><pubmed>22052913</pubmed></ref> | | FSTL3 (FLRG)とマイオスタチンの複合体 || 3SEK || <ref name=Cash2012><pubmed>22052913</pubmed></ref> | ||
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== 発現 == | == 発現 == | ||
フォリスタチンのmRNAとタンパク質は、マウス、ラット、ヒトの多くの組織で発現が見られるが、卵巣、下垂体、腎臓での発現が高い。脳組織、神経系での内在性の発現は少ない。FSTN3(FLRG)のmRNAとタンパク質は、胎盤、骨髄、精巣、腎臓,骨格筋、肺での発現が高い。フォリスタチンは、アクチビン以外にGDF11を阻害する。GDF11は、嗅上皮 における神経新生に関与している。アンタゴニストであるフォリスタチンを欠損させたマウスは、神経新生の劇的な減少を示す <ref name=Wu2003><pubmed>12546816</pubmed></ref>。 | |||
[[ファイル:Tsuchida Follistatin Fig4.png|サムネイル|'''図4. アクチビンのシグナル伝達の概要''']] | [[ファイル:Tsuchida Follistatin Fig4.png|サムネイル|'''図4. アクチビンのシグナル伝達の概要''']] | ||
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== 疾患との関わり == | == 疾患との関わり == | ||
フォリスタチンが持つマイオスタチンおよびアクチビン阻害活性を利用して、筋ジストロフィーなどの神経筋疾患への治療応用が期待されている。ウイルスベクターを用いた方法や安定性を増すために免疫グロブリンとの融合タンパク質や一部のドメイン構造のみを利用した手法が試みられている <ref name=Kota2009><pubmed>20368179</pubmed></ref><ref name=Rodino-Klapac2009><pubmed>19208403</pubmed></ref>。脊髄性筋萎縮症 (SMA, spinal muscular atrophy)やサルコペニアに対してマイオスタチン/アクチビン阻害療法が有効である可能性があり <ref name=Crawford2024><pubmed>38330285</pubmed></ref><ref name=Servais2024><pubmed>39408601</pubmed></ref><ref name=Bromer2025><pubmed>39887865</pubmed></ref>、今後の研究の展開に期待したい。 | |||
== 関連語 == | == 関連語 == | ||
* [[長期増強]] | * [[長期増強]] | ||
*[[アクチビン]] | |||
*[[マイオスタチン]] | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||