「Nk2ホメオボックスファミリー」の版間の差分

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 Nkx2-1転写因子は、[[TTF-1]]とも呼ばれ最初は甲状腺に特異的な遺伝子の発現を制御する因子として見つかった<ref name=Civitareale1989><pubmed>2583123</pubmed></ref>。Nkx2-1は遺伝子欠損マウスを用いた解析から[[前脳]]、視床下部、[[下垂体]]、甲状腺、および肺の発生に重要であることが知られている<ref name=Kimura1996><pubmed>8557195</pubmed></ref>。
 Nkx2-1転写因子は、[[TTF-1]]とも呼ばれ最初は甲状腺に特異的な遺伝子の発現を制御する因子として見つかった<ref name=Civitareale1989><pubmed>2583123</pubmed></ref>。Nkx2-1は遺伝子欠損マウスを用いた解析から[[前脳]]、視床下部、[[下垂体]]、甲状腺、および肺の発生に重要であることが知られている<ref name=Kimura1996><pubmed>8557195</pubmed></ref>。


 Nkz2-1は発生期の前脳腹側に一時的に形成される構造である[[内側基底核原基]] ([[medial ganglionic eminence]]; [[MGE]])の[[神経前駆細胞]]に強い発現が認められる。MGEの神経前駆細胞では、Nkx2-1は分化が決定づけられた細胞で下流の転写因子である[[Lhx6]]の発現を誘導することで、[[抑制性神経]]細胞へと分化誘導を行う<ref name=Du2008><pubmed>18339674</pubmed></ref>。分化した抑制性神経細胞は[[大脳皮質]]、線条体、および[[淡蒼球]]などへと移動し、神経回路網の形成に寄与する。大脳皮質へと移動する細胞では、Nkx2-1の発現は消失するが、線条体や淡蒼球へと寄与する細胞の一部ではNkx2-1の発現が継続して認められることが知られている。線条体では、Nkx2-1の発現が継続することで下流の[[Neuropilin2]]の発現を抑制し、その結果、線条体への細胞移動が可能になると考えられている<ref name=Nobrega-Pereira2008><pubmed>18786357</pubmed></ref>。
 Nkz2-1は発生期の前脳腹側に一時的に形成される構造である[[内側基底核原基]] ([[medial ganglionic eminence]]; [[MGE]])の[[神経前駆細胞]]に強い発現が認められる。MGEの神経前駆細胞は、GABA作動性抑制性神経細胞やコリン作動性神経細胞へと分化する。Nkx2-1は分化が決定づけられた細胞において、その下流の転写因子であるLhx6およびLhx8の発現を誘導する<ref name=Du2008><pubmed>18339674</pubmed></ref>。Lhx6は抑制性神経細胞への分化を、Lhx8はコリン作動性神経細胞への分化をそれぞれ制御する。ChIP-seqなどによる解析から、MGEに発現するNkx2-1は主に標的遺伝子の調節領域にある(G|C)CACT(C|T)AAというコンセンサス配列に結合することで下流因子の発現調節を行う。<ref name=Sandberg2016><pubmed>27657450</pubmed></ref>。分化した抑制性神経細胞は[[大脳皮質]]、線条体、および[[淡蒼球]]などへと移動し、神経回路網の形成に寄与する。大脳皮質へと移動する細胞では、Nkx2-1の発現は消失するが、線条体や淡蒼球へと寄与する細胞の一部ではNkx2-1の発現が継続して認められることが知られている。線条体では、Nkx2-1の発現が継続することで下流の[[Neuropilin2]]の発現を抑制し、その結果、線条体への細胞移動が可能になると考えられている<ref name=Nobrega-Pereira2008><pubmed>18786357</pubmed></ref>。


 一方で、MGE由来の神経前駆細胞はグリア細胞であるオリゴデンドロサイトや[[アストロサイト]]にも分化することが知られている。Nkx2-1-[[Cre]]マウスとレポーターマウスを用いた[[細胞系譜]]解析により、Nkx2-1陽性のMGE領域から分化した[[オリゴデンドロサイト前駆細胞]]では、Nkx2-1の発現が消失していることが明らかにされている。これらの細胞の一部は、背側の大脳皮質領域まで移動することが確認されているが、背側・腹側いずれの領域においても、成熟個体のオリゴデンドロサイトには寄与しないことが報告されている<ref name=Kessaris2006><pubmed>16388308</pubmed></ref>。また、Nkx2-1は[[脳梁]]のアストロサイトに発現し、その形成や増殖を制御することが報告されている<ref name=Minocha2015><pubmed>25904499</pubmed></ref>。
 一方で、MGE由来の神経前駆細胞はグリア細胞であるオリゴデンドロサイトや[[アストロサイト]]にも分化することが知られている。Nkx2-1-[[Cre]]マウスとレポーターマウスを用いた[[細胞系譜]]解析により、Nkx2-1陽性のMGE領域から分化した[[オリゴデンドロサイト前駆細胞]]では、Nkx2-1の発現が消失していることが明らかにされている。これらの細胞の一部は、背側の大脳皮質領域まで移動することが確認されているが、背側・腹側いずれの領域においても、成熟個体のオリゴデンドロサイトには寄与しないことが報告されている<ref name=Kessaris2006><pubmed>16388308</pubmed></ref>。また、Nkx2-1は[[脳梁]]のアストロサイトに発現し、その形成や増殖を制御することが報告されている<ref name=Minocha2015><pubmed>25904499</pubmed></ref>。


=== Nkx2-2 ===
=== Nkx2-2 ===
 Nkx2-2は発生期神経管の腹側で発現している。このNkx2-2由来の脊髄神経幹細胞は、[[介在ニューロン]]の1種である[[V3介在ニューロン]]へと分化する。また、発生期の脊髄ではNkx2-2陽性幹細胞のうち、[[Olig2]]転写因子を発現した細胞からオリゴデンドロサイト前駆細胞が分化すると考えられている<ref name=Briscoe1999><pubmed>10217145</pubmed></ref>。しかし、Nkx2-2を欠損した[[遺伝子改変マウス]]の解析からは、Nkx2-2はオリゴデンドロサイトへの初期分化には影響せず、むしろより後期の段階、すなわちオリゴデンドロサイトが分化してミエリンを形成する過程において、その分化を制御することがわかっている<ref name=Qi2001><pubmed>11526078</pubmed></ref>。
 Nkx2-2は膵臓や神経系の発生に重要な役割を果たすことがわかっている。in vitroの解析から、Nkx2-2が結合するコンセンサス配列はT(C|T)AAGT(G|A)(G|C)TTであることが報告されている<ref name=Watada2000><pubmed>10944215</pubmed></ref>。Nkx2-2は発生期神経管の腹側の脊髄神経幹細胞で発現し、それらの細胞は介在ニューロンの1種であるV3介在ニューロンへと分化する。また、[[Olig2]]転写因子を発現した細胞からオリゴデンドロサイト前駆細胞が分化すると考えられている<ref name=Briscoe1999><pubmed>10217145</pubmed></ref>。しかし、Nkx2-2を欠損した[[遺伝子改変マウス]]の解析からは、Nkx2-2はオリゴデンドロサイトへの初期分化には影響せず、むしろより後期の段階、すなわちオリゴデンドロサイトが分化してミエリンを形成する過程において、その分化を制御することがわかっている<ref name=Qi2001><pubmed>11526078</pubmed></ref>。


== 疾患との関わり ==
== 疾患との関わり ==