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細 (→種類と作用、細胞における機能) |
細 (→生合成と代謝) |
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酵素活性は1970年代より、マウス肝臓の膜画分に検出されていたが<ref name=Ullman1974><pubmed>4817756</pubmed></ref><ref name=Voelker1982><pubmed>7093220</pubmed></ref>、2004年に二つのグループからスフィンゴミエリン合成酵素遺伝子のクローニングが報告された<ref name=Huitema2004><pubmed>14685263</pubmed></ref><ref name=Yamaoka2004><pubmed>14976195</pubmed></ref>。HuitemaらはLipid phosphate phosphatase (LPP)の特徴的モチーフなど、配列情報を基にin silicoスクリーニングを用い<ref name=Huitema2004><pubmed>14685263</pubmed></ref>、Yamaokaらはスフィンゴミエリン 合成欠損マウスリンパ細胞を用いた発現クローニングの手法により<ref name=Yamaoka2004><pubmed>14976195</pubmed></ref>、スフィンゴミエリン合成酵素遺伝子を同定した。ヒトでは、sphingomyelin synthase 1 (SMS1) 、2 (SMS2)の二つの酵素がSGMS1とSGMS2の二つの遺伝子にコードされている。これらSGMS1、SGMS2は哺乳動物間で非常に高く保存されている(ヒト対マウス: >90%)他、スフィンゴミエリンを持つ生物、線虫C. eleganceなどでも遺伝子とその産物の酵素活性が確認されている<ref name=Huitema2004><pubmed>14685263</pubmed></ref>。両者の転写産物は、ヒト脳、心臓、腎臓、肝臓、筋肉、および胃で検出されており、さまざまな臓器に広く発現していることが明らかになっている<ref name=Huitema2004><pubmed>14685263</pubmed></ref>。SMS1はトランスゴルジ膜に局在し、新規スフィンゴミエリン合成に関わっているのに対し、SMS2はゴルジ体膜にも局在するが、主に細胞膜に局在し、細胞膜のスフィンゴ脂質の異化により生じたセラミドを基質としていると考えられている<ref name=Huitema2004><pubmed>14685263</pubmed></ref><ref name=Sokoya2022><pubmed>36102623</pubmed></ref>。SMS1、SMS2は6回膜貫通タンパク質であり、その触媒中心はSMS1ではゴルジ体内腔側を、SMS2では細胞外側を向いていると考えられている。上記、SMS1、SMS2の他に、配列類似性を基にSMSr (sphingomyelin synthase-related protein)もまた同定された<ref name=Huitema2004><pubmed>14685263</pubmed></ref>。試験管内のアッセイでは、SMSrはSM合成活性は示さず、哺乳類ではごく微量存在するスフィンゴ脂質、セラミドホスホエタノールアミン(CPE)合成活性を示す<ref name=Hu2024><pubmed>38388831</pubmed></ref><ref name=Huitema2004><pubmed>14685263</pubmed></ref>。SMSrは小胞体に局在し、CPEを合成することで小胞体のセラミドレベルを調節すると考えられている<ref name=Vacaru2009><pubmed>19506037</pubmed></ref>。スフィンゴミエリン生合成に伴う、セラミド消費とジアシルグリセロール産生は、単に生合成のみならず、二つの生理活性脂質を介したシグナル伝達により細胞増殖に関与するという仮説“スフィンゴミエリンサイクル”が立てられている<ref name=Hannun1994><pubmed>8106344</pubmed></ref><ref name=Pagano1988><pubmed>3255201</pubmed></ref>。 | 酵素活性は1970年代より、マウス肝臓の膜画分に検出されていたが<ref name=Ullman1974><pubmed>4817756</pubmed></ref><ref name=Voelker1982><pubmed>7093220</pubmed></ref>、2004年に二つのグループからスフィンゴミエリン合成酵素遺伝子のクローニングが報告された<ref name=Huitema2004><pubmed>14685263</pubmed></ref><ref name=Yamaoka2004><pubmed>14976195</pubmed></ref>。HuitemaらはLipid phosphate phosphatase (LPP)の特徴的モチーフなど、配列情報を基にin silicoスクリーニングを用い<ref name=Huitema2004><pubmed>14685263</pubmed></ref>、Yamaokaらはスフィンゴミエリン 合成欠損マウスリンパ細胞を用いた発現クローニングの手法により<ref name=Yamaoka2004><pubmed>14976195</pubmed></ref>、スフィンゴミエリン合成酵素遺伝子を同定した。ヒトでは、sphingomyelin synthase 1 (SMS1) 、2 (SMS2)の二つの酵素がSGMS1とSGMS2の二つの遺伝子にコードされている。これらSGMS1、SGMS2は哺乳動物間で非常に高く保存されている(ヒト対マウス: >90%)他、スフィンゴミエリンを持つ生物、線虫C. eleganceなどでも遺伝子とその産物の酵素活性が確認されている<ref name=Huitema2004><pubmed>14685263</pubmed></ref>。両者の転写産物は、ヒト脳、心臓、腎臓、肝臓、筋肉、および胃で検出されており、さまざまな臓器に広く発現していることが明らかになっている<ref name=Huitema2004><pubmed>14685263</pubmed></ref>。SMS1はトランスゴルジ膜に局在し、新規スフィンゴミエリン合成に関わっているのに対し、SMS2はゴルジ体膜にも局在するが、主に細胞膜に局在し、細胞膜のスフィンゴ脂質の異化により生じたセラミドを基質としていると考えられている<ref name=Huitema2004><pubmed>14685263</pubmed></ref><ref name=Sokoya2022><pubmed>36102623</pubmed></ref>。SMS1、SMS2は6回膜貫通タンパク質であり、その触媒中心はSMS1ではゴルジ体内腔側を、SMS2では細胞外側を向いていると考えられている。上記、SMS1、SMS2の他に、配列類似性を基にSMSr (sphingomyelin synthase-related protein)もまた同定された<ref name=Huitema2004><pubmed>14685263</pubmed></ref>。試験管内のアッセイでは、SMSrはSM合成活性は示さず、哺乳類ではごく微量存在するスフィンゴ脂質、セラミドホスホエタノールアミン(CPE)合成活性を示す<ref name=Hu2024><pubmed>38388831</pubmed></ref><ref name=Huitema2004><pubmed>14685263</pubmed></ref>。SMSrは小胞体に局在し、CPEを合成することで小胞体のセラミドレベルを調節すると考えられている<ref name=Vacaru2009><pubmed>19506037</pubmed></ref>。スフィンゴミエリン生合成に伴う、セラミド消費とジアシルグリセロール産生は、単に生合成のみならず、二つの生理活性脂質を介したシグナル伝達により細胞増殖に関与するという仮説“スフィンゴミエリンサイクル”が立てられている<ref name=Hannun1994><pubmed>8106344</pubmed></ref><ref name=Pagano1988><pubmed>3255201</pubmed></ref>。 | ||
スフィンゴミエリンの分解に関しては、5つの異なるスフィンゴミエリナーゼ(SMPD1-4, SMPDL3A)が、細胞膜、小胞体、ゴルジ体、核、リソソーム、ミトコンドリア、細胞外スペースに局在することが知られている<ref name=Hannun2018><pubmed>29165427</pubmed></ref>。これらの酵素は至適pHが異なっており、それぞれの細胞内機能部位におけるpHを反映していると考えられる。中性スフィンゴミエリナーゼ(nSMase2:SMPD3)は、酸性リン脂質によってアロステリックに活性化され、二カ所のパルミトイル化により細胞膜内層に局在する<ref name=Airola2017><pubmed>28652336</pubmed></ref>。酸性スフィンゴミエリナーゼ(aSMase:SMPD1)は、分泌経路を通り、リソソームへ局在し、酵素活性に必要なZnと結合する。TNFやIL-1などのサイトカイン刺激により細胞外へ分泌される<ref name= | スフィンゴミエリンの分解に関しては、5つの異なるスフィンゴミエリナーゼ(SMPD1-4, SMPDL3A)が、細胞膜、小胞体、ゴルジ体、核、リソソーム、ミトコンドリア、細胞外スペースに局在することが知られている<ref name=Hannun2018><pubmed>29165427</pubmed></ref>。これらの酵素は至適pHが異なっており、それぞれの細胞内機能部位におけるpHを反映していると考えられる。中性スフィンゴミエリナーゼ(nSMase2:SMPD3)は、酸性リン脂質によってアロステリックに活性化され、二カ所のパルミトイル化により細胞膜内層に局在する<ref name=Airola2017><pubmed>28652336</pubmed></ref>。酸性スフィンゴミエリナーゼ(aSMase:SMPD1)は、分泌経路を通り、リソソームへ局在し、酵素活性に必要なZnと結合する。TNFやIL-1などのサイトカイン刺激により細胞外へ分泌される<ref name=Jenkins2011a><pubmed>21098024</pubmed></ref>が、分泌された分子が至適pH、Zn不在の環境下、酵素活性を発揮するかは不明である。 | ||
図2. スフィンゴミエリン生合成経路 | 図2. スフィンゴミエリン生合成経路 | ||