「インターロイキン-1受容体付属サブユニット様タンパク質1」の版間の差分

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富山大学医学部分子神経科学講座 吉田知之
富山大学医学部分子神経科学講座 吉田知之


{{box|text= インターロイキン1受容体アクセサリータンパク質様1 (interleukin 1 receptor associated protein like-1; IL1RAPL1)はインターロイキン1受容体ファミリーに属する1型膜貫通タンパク質である。神経系に広く発現し、主に興奮性シナプス後部に局在する。シナプス前部の受容体チロシン脱リン酸化酵素PTPRDと結合することによって興奮性シナプスを誘導するシナプスオーガナイザーである。ヒトIL1RAPL1遺伝子はX染色短腕に存在し、X連鎖型非症候性知的障害(MRX)10, 21, 34家系の原因遺伝子として知られている。}}
{{box|text= インターロイキン-1受容体付属サブユニット様タンパク質1 (interleukin 1 receptor associated protein like-1; IL1RAPL1)はインターロイキン1受容体ファミリーに属する1型膜貫通タンパク質である。神経系に広く発現し、主に興奮性シナプス後部に局在する。シナプス前部の受容体チロシン脱リン酸化酵素PTPRDと結合することによって興奮性シナプスを誘導するシナプスオーガナイザーである。ヒトIL1RAPL1遺伝子はX染色短腕に存在し、X連鎖型非症候性知的障害(MRX)10, 21, 34家系の原因遺伝子として知られている。}}


== インターロイキン1受容体アクセサリータンパク質様1とは ==
== インターロイキン-1受容体付属サブユニット様タンパク質1とは ==
 IL1RAPL1遺伝子はX染色体p22.1–21.3領域の欠損に起因するX連鎖型非症候性知的障害(MRX)家系34の原因遺伝子としてポジショナルクローニングから、1999年にJ. Cherryらのグループによって同定された<ref name=Carrie1999><pubmed>10471494</pubmed></ref>[1]。インターロイキン-1受容体付属サブユニット (Interleukin-1 receptor accessory protein; IL-1RAP)とおよそ50%のアミノ酸配列相同性があったことから、インターロイキン-1受容体付属サブユニット様タンパク質 (Interleukin-1 receptor accessory protein-like, IL1RAPL)と名付けられた。直後の2000年には系統的にIL-1受容体ファミリー遺伝子の探索と機能解析を進めていたJ.E. Simsらのグループがヒトゲノム配列データベースの相同性検索から、新たに2つのインターロイキン-1受容体ファミリーメンバーを発見し、TIGIRR (three immunoglobulin domain-containing IL-1 receptor-related)-1およびTIGIRR-2として報告した<ref name=Born2000><pubmed>10882729</pubmed></ref>[2]。TIGIRR-2とIL1RAPLは同一タンパク質であり、以後、IL1RAPL/TIGIRR-2はIL1RAPL1として、TIGIRR-1はIL1RAPL2として統一表記されるようになった。
 インターロイキン-1受容体付属サブユニット様タンパク質1 (interleukin 1 receptor associated protein like-1; IL1RAPL1)遺伝子は[[X染色体]]p22.1–21.3領域の欠損に起因する[[X連鎖型非症候性知的障害]](MRX)家系34の原因遺伝子として[[ポジショナルクローニング]]から、1999年に[[wf:Jamel_Chelly|J. Chelly]]らのグループによって同定された<ref name=Carrie1999><pubmed>10471494</pubmed></ref>[1]。[[インターロイキン-1受容体付属サブユニット]] ([[interleukin-1 receptor accessory protein]]; [[IL-1RAP]])とおよそ50%のアミノ酸配列相同性があったことから、インターロイキン-1受容体付属サブユニット様タンパク質 (interleukin-1 receptor accessory protein-like, IL1RAPL)と名付けられた。
 
 直後の2000年には系統的にIL-1受容体ファミリー遺伝子の探索と機能解析を進めていたJ.E. Simsらのグループがヒト[[ゲノム]]配列データベースの相同性検索から、新たに2つの[[インターロイキン-1受容体]]ファミリーメンバーを発見し、[[three immunoglobulin domain-containing IL-1 receptor-related-1]] ([[TIGIRR-1]])および[[TIGIRR-2]]として報告した<ref name=Born2000><pubmed>10882729</pubmed></ref>[2]。TIGIRR-2とIL1RAPLは同一タンパク質であり、以後、IL1RAPL/TIGIRR-2はIL1RAPL1として、TIGIRR-1は[[IL1RAPL2]]として統一表記されるようになった。


== 構造 ==
== 構造 ==
 ヒトIL1RAPL1タンパク質はN末端のシグナルペプチドを含めて696アミノ酸より構成される1型膜貫通タンパク質である(図1)。細胞外領域に3つのイムノグロブリン様 (Ig)ドメインを持ち、細胞内領域にToll/Interleukin-1受容体 (TIR)ドメインを1つ持つ。このドメイン配置はIL-1受容体ファミリーの共通構造である。細胞内領域のTIRドメインよりもC末端側にはおよそ150アミノ酸より構成されるC末端領域を持つ。この領域はパラログであるIL1RAPL2とIL-1RAPの神経細胞特異的スプライスバリアント(IL-1RAPb)には存在するが、他のIL-1受容体ファミリータンパク質には存在しない(図1)<ref name=Smith2009><pubmed>19481478</pubmed></ref>[3]。細胞外領域のIgドメイン内には多数のN型糖鎖付加部位が存在し、糖鎖の付加を受けている<ref name=Carrie1999><pubmed>10471494</pubmed></ref><ref name=Yamagata2015><pubmed>25908590</pubmed></ref>[1][4]。C末端には1型 PDZ ドメイン結合モチーフが存在する(機能については後述)<ref name=Pavlowsky2010><pubmed>20096586</pubmed></ref>[5]。また、細胞外領域の1番目と2番目のIgドメイン、あるいは1から3番目のIgドメインをコードする分泌型と考えられるスプライスバリアント転写物も報告されている<ref name=Carrie1999><pubmed>10471494</pubmed></ref>[1]。
 ヒトIL1RAPL1タンパク質はN末端のシグナルペプチドを含めて696アミノ酸より構成される1型[[膜貫通タンパク質]]である('''図1''')。細胞外領域に3つの[[イムノグロブリン様ドメイン|イムノグロブリン様 (Ig)ドメイン]]を持ち、細胞内領域に[[Toll/Interleukin-1受容体ドメイン|Toll/Interleukin-1受容体 (TIR)ドメイン]]を1つ持つ。このドメイン配置はIL-1受容体ファミリーの共通構造である。細胞内領域のTIRドメインよりもC末端側にはおよそ150アミノ酸より構成されるC末端領域を持つ。この領域は[[パラログ]]であるIL1RAPL2とIL-1RAPの[[神経細胞]]特異的スプライスバリアント([[IL-1RAPb]])には存在するが、他のIL-1受容体ファミリータンパク質には存在しない('''図1''')<ref name=Smith2009><pubmed>19481478</pubmed></ref>[3]。細胞外領域のIgドメイン内には多数の[[N型糖鎖]]付加部位が存在し、[[糖鎖修飾]]を受けている<ref name=Carrie1999><pubmed>10471494</pubmed></ref><ref name=Yamagata2015><pubmed>25908590</pubmed></ref>[1][4]。C末端には1型[[PDZドメイン]]結合モチーフが存在する(機能については後述)<ref name=Pavlowsky2010><pubmed>20096586</pubmed></ref>[5]。また、細胞外領域の1番目と2番目のIgドメイン、あるいは1から3番目のIgドメインをコードする分泌型と考えられるスプライスバリアント転写物も報告されている<ref name=Carrie1999><pubmed>10471494</pubmed></ref>[1]。
   
   
== サブファミリー ==
== サブファミリー ==
 3つのIgドメインと1つの細胞内TIRドメインの共通ドメイン構成をもつ9つのIL-1受容体ファミリーメンバーの一員である(図1, 2)<ref name=Rivers-Auty2018><pubmed>29559685</pubmed></ref>[6]。アミノ酸配列はIL-RAPとの間で約50%、パラログのIL1RAPL2との間で62%保存されている。その他のメンバーとの相同性は15~25%程度である。ヒトゲノム中で、IL1RAPL1、IL1RAPL2、IL-1RAP遺伝子(IL1RAP)を除くすべてのIL-1受容体ファミリーメンバー遺伝子は2番染色体の長腕(2q12)にタンデムに並んで存在する。一方、IL1RAPL1及びIL1RAPL2はそれぞれX染色体の短腕(Xp22.1-21.3)と長腕(Xq22)に、IL1RAPは3番染色体長腕(3q28)に存在する。後述するように、他のIL-1受容体ファミリーメンバーとは異なり、IL1RAPL1、IL1RAPL2、IL-1RAPはシナプスオーガナイザーとして機能することからもこれら3つの遺伝子が他とは別個の進化をたどったことが窺える。
 3つのIgドメインと1つの細胞内TIRドメインの共通ドメイン構成をもつ9つのIL-1受容体ファミリーメンバーの一員である('''図1, 2''')<ref name=Rivers-Auty2018><pubmed>29559685</pubmed></ref>[6]。アミノ酸配列はIL-RAPとの間で約50%、パラログのIL1RAPL2との間で62%保存されている。その他のメンバーとの相同性は15-25%程度である。ヒトゲノム中で、IL1RAPL1、IL1RAPL2、IL-1RAP遺伝子(IL1RAP)を除くすべてのIL-1受容体ファミリーメンバー遺伝子は2番染色体の長腕(2q12)にタンデムに並んで存在する。一方、IL1RAPL1及びIL1RAPL2はそれぞれX染色体の短腕(Xp22.1-21.3)と長腕(Xq22)に、IL1RAPは3番染色体長腕(3q28)に存在する。後述するように、他のIL-1受容体ファミリーメンバーとは異なり、IL1RAPL1、IL1RAPL2、IL-1RAPは[[シナプスオーガナイザー]]として機能することからもこれら3つの遺伝子が他とは別個の進化をたどったことが窺える。


== 発現 ==
== 発現 ==
 マウスIl1rapl1 mRNAは胎生10.5日の胎児から成体までの脳に広く発現することが示されている<ref name=Carrie1999><pubmed>10471494</pubmed></ref>[1]. 主に神経細胞に発現するが、グリア細胞にも発現が確認されている。成体の脳内では広範な領域に発現するが、特に嗅球、嗅内皮質、歯状回を含む海馬、頭頂皮質、乳頭体、乳頭体上核に特に高い発現が確認されている。大脳皮質内では2/3層の、海馬歯状回では顆粒層の錐体細胞に高い発現が確認されている。神経細胞内では興奮性シナプス後部(スパイン)に局在する<ref name=Pavlowsky2010><pubmed>20096586</pubmed></ref><ref name=Yoshida2011><pubmed>21940441</pubmed></ref>[5][7]。
 [[マウス]]Il1rapl1 [[mRNA]]は胎生10.5日の胎児から成体までの脳に広く発現することが示されている<ref name=Carrie1999><pubmed>10471494</pubmed></ref>[1]. 主に神経細胞に発現するが、[[グリア細胞]]にも発現が確認されている。成体の脳内では広範な領域に発現するが、特に[[嗅球]]、[[嗅内皮質]]、[[歯状回]]を含む[[海馬]]、[[頭頂皮質]]、[[乳頭体]]、[[乳頭体上核]]に特に高い発現が確認されている。[[大脳皮質]]内では2/3層の、海馬歯状回では[[顆粒層]]の[[顆粒細胞]]に高い発現が確認されている。神経細胞内では[[興奮性シナプス]]後部([[スパイン]])に局在する<ref name=Pavlowsky2010><pubmed>20096586</pubmed></ref><ref name=Yoshida2011><pubmed>21940441</pubmed></ref>[5][7]。


== 機能 ==
== 機能 ==
=== 分子機能 ===
=== 分子機能 ===
==== IL-1ファミリーサイトカインの受容体として ====
==== IL-1ファミリーサイトカインの受容体として ====
 IL-1ファミリーサイトカイン(リガンド)がリガンド結合受容体サブユニットに結合するとリガンド結合受容体サブユニットの構造が変化し、この構造変化が付属サブユニット(シグナル伝達サブユニット)をリクルートする。このリガンドに依存した受容体の会合に伴う細胞内領域TIRドメインの2量体化がNFκBの活性化などの細胞内シグナルを惹起する<ref name=Fields2019><pubmed>31281320</pubmed></ref> [8]。当初、IL1RAPL1はリガンド結合受容体サブユニットとしても、付属サブユニットとしても機能しないことが報告された<ref name=Born2000><pubmed>10882729</pubmed></ref> [2]。一方、神経細胞にIL-1βを添加した際に惹起されるJNKの活性化にIL1RAPL1が必要であるとの報告もあり[9]、古典的なIL-1シグナルに関与するか否かは長年にわたり謎であったが、炎症抑制性のIL-1ファミリーサイトカインの1つであるIL-38がマクロファージやγδ型T細胞のIL1RAPL1を介して炎症応答を抑制することが報告された<ref name=Mora2016><pubmed>26892022</pubmed></ref><ref name=Han2019><pubmed>30995480</pubmed></ref> [10][11]。
 IL-1ファミリーサイトカイン(リガンド)がリガンド結合受容体サブユニットに結合するとリガンド結合受容体サブユニットの構造が変化し、この構造変化が付属サブユニット(シグナル伝達サブユニット)をリクルートする。このリガンドに依存した受容体の会合に伴う細胞内領域TIRドメインの2量体化が[[NFκB]]の活性化などの細胞内シグナルを惹起する<ref name=Fields2019><pubmed>31281320</pubmed></ref> [8]。当初、IL1RAPL1はリガンド結合受容体サブユニットとしても、付属サブユニットとしても機能しないことが報告された<ref name=Born2000><pubmed>10882729</pubmed></ref> [2]。一方、神経細胞に[[IL-1β]]を添加した際に惹起される[[JNK]]の活性化にIL1RAPL1が必要であるとの報告もあり[9]、古典的なIL-1シグナルに関与するか否かは長年にわたり謎であったが、炎症抑制性のIL-1ファミリーサイトカインの1つである[[IL-38]]が[[マクロファージ]]や[[γδ型T細胞]]のIL1RAPL1を介して炎症応答を抑制することが報告された<ref name=Mora2016><pubmed>26892022</pubmed></ref><ref name=Han2019><pubmed>30995480</pubmed></ref> [10][11]。


==== シナプスオーガナイザーとしての分子機能 ====
==== シナプスオーガナイザーとしての分子機能 ====