「グリコシルホスファチジルイノシトールアンカー」の版間の差分

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== 生合成 ==
== 生合成 ==
=== 新生GPIアンカー型タンパク質ができるまで ===
=== 新生GPIアンカー型タンパク質ができるまで ===
 GPIアンカー型タンパク質の生合成は小胞体膜上で前駆体タンパク質とGPIが別々に合成され、小胞体内腔側でGPIがタンパク質に翻訳後修飾の形で付加される<ref name=Kinoshita2020><pubmed>32156170</pubmed></ref><ref name=Kinoshita2024><pubmed>39129667</pubmed></ref> ('''図2''')。前駆体タンパク質はカルボキシ末端におおよそ30〜40残基からなるGPIアンカー付加シグナル配列を持ち、この配列が特定の部位で切断されることで、新たに露出したC末端にGPIアンカーが付加される。GPIは、EtN-Pを介してタンパク質のカルボキシ末端とアミド結合する。反応はトランスアミデーションであり、触媒部位にシステインを持つPIGKタンパク質を含む5つのタンパク質からなるGPIトランスアミダーゼ(GPI-TA)によって行われる。最近、GPI-TA複合体の構造がクライオ電顕で解かれ、酵素の構造と反応の詳細がかなり明らかになった<ref name=Xu2023><pubmed>37684232</pubmed></ref>。
 GPIアンカー型タンパク質の生合成は[[小胞体]]膜上で前駆体タンパク質とGPIが別々に合成され、小胞体内腔側でGPIがタンパク質に[[翻訳後修飾]]の形で付加される<ref name=Kinoshita2020><pubmed>32156170</pubmed></ref><ref name=Kinoshita2024><pubmed>39129667</pubmed></ref> ('''図2''')。前駆体タンパク質はカルボキシ末端におおよそ30〜40残基からなるGPIアンカー付加シグナル配列を持ち、この配列が特定の部位で切断されることで、新たに露出したC末端にGPIアンカーが付加される。GPIは、エタノールアミンリン酸を介してタンパク質のカルボキシ末端とアミド結合する。反応はトランスアミデーションであり、触媒部位にシステインを持つPIGKタンパク質を含む5つのタンパク質からなるGPIトランスアミダーゼ(GPI-TA)によって行われる。最近、GPIトランスアミダーゼ複合体の構造がクライオ電顕で解かれ、酵素の構造と反応の詳細がかなり明らかになった<ref name=Xu2023><pubmed>37684232</pubmed></ref>。


 GPI部分はPIに構成成分が順に結合していく10段階の連鎖反応によって合成される。最初の2段階は小胞体膜の細胞質側で行われ、イノシトールの6位にUDP-Nアセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)からGlcNAcが転移してGlcNAc-PIができ、それが脱アセチルされGlcN-PIになる。GlcN-PIは内腔側へフリップし、その後の反応はタンパク質への付加まで小胞体内腔側で行われる(図2)。まずイノシトールの2位に脂肪酸(主としてパルミチン酸)が付加されGlcN-(acyl)PIになり、その後3つのManと3つのEtN-Pが順に付加され、GPI-TAの基質となり得る完成型のGPI前駆体となる。脂肪酸、Man、EtN-Pは、それぞれアシル-CoA、ドリコール―リン酸―Man (Dol-P-Man)、ホスファチジルエタノールアミンから供与される。哺乳動物細胞の完成型GPI前駆体の構造は、EtN-P-Man3-(EtN-P-)Man2-(EtN-P-)Man1-GlcN-(acyl)PIであり、3つすべてのManにEtN-Pが付いている。
 GPI部分はPIに構成成分が順に結合していく10段階の連鎖反応によって合成される。最初の2段階は小胞体膜の細胞質側で行われ、イノシトールの6位にUDP-Nアセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)からGlcNAcが転移してGlcNAc-PIができ、それが脱アセチルされGlcN-PIになる。GlcN-PIは内腔側へフリップし、その後の反応はタンパク質への付加まで小胞体内腔側で行われる(図2)。まずイノシトールの2位に脂肪酸(主としてパルミチン酸)が付加されGlcN-(acyl)PIになり、その後3つのManと3つのトランスアミダーゼが順に付加され、GPI-TAの基質となり得る完成型のGPI前駆体となる。脂肪酸、マンノース、トランスアミダーゼは、それぞれアシル-CoA、ドリコール-リン酸-マンノース (Dol-P-Man)、ホスファチジルエタノールアミンから供与される。哺乳動物細胞の完成型GPI前駆体の構造は、EtN-P-Man3-(EtN-P-)Man2-(EtN-P-)Man1-GlcN-(acyl)PIであり、3つすべてのManにEtN-Pが付いている。


 GPIの生合成とタンパク質への付加にはPIGAなど24個の遺伝子が関わっており、それらはPIG (Phosphatidyl Inositol Glycan)遺伝子群と総称される<ref name=Miyata1993><pubmed>7680492</pubmed></ref><ref name=Takahashi1996><pubmed>8861954</pubmed></ref>('''図2'''上部)。
 GPIの生合成とタンパク質への付加にはPIGAなど24個の遺伝子が関わっており、それらはPIG (Phosphatidyl Inositol Glycan)遺伝子群と総称される<ref name=Miyata1993><pubmed>7680492</pubmed></ref><ref name=Takahashi1996><pubmed>8861954</pubmed></ref>('''図2'''上部)。