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== 細胞内分布 == | == 細胞内分布 == | ||
合成後、神経末端内の小胞体に貯蔵され、神経の[[脱分極]]に伴い[[カルシウム]]依存性[[エキソサイトーシス]]を介して放出される<ref name=Meng2007><pubmed>17666428</pubmed></ref>。放出されたCGRPは受容体と結合し、シグナル伝達を活性化する。一方で、余剰のCGRPは膜結合[[ペプチダーゼ]]である[[中性エンドペプチダーゼ]]([[ネプリライシン]])により分解され、作用を失う<ref name=Katayama1991><pubmed>1717955</pubmed></ref>。また、[[エンドセリン変換酵素]] | 合成後、神経末端内の小胞体に貯蔵され、神経の[[脱分極]]に伴い[[カルシウム]]依存性[[エキソサイトーシス]]を介して放出される<ref name=Meng2007><pubmed>17666428</pubmed></ref>。放出されたCGRPは受容体と結合し、シグナル伝達を活性化する。一方で、余剰のCGRPは膜結合[[ペプチダーゼ]]である[[中性エンドペプチダーゼ]]([[ネプリライシン]])により分解され、作用を失う<ref name=Katayama1991><pubmed>1717955</pubmed></ref>。また、[[エンドセリン変換酵素]]によっても分解される。 | ||
[[ファイル:Hashikawa CGRP Fig2.png|サムネイル|'''図2. CGRPによる細胞内情報伝達'''<br>文献<ref name=Hay2018b><pubmed>29059473</pubmed></ref><ref name=Liu2020><pubmed>32151282</pubmed></ref><ref name=Eftekhari2016><pubmed>26105175</pubmed></ref>より改変]] | [[ファイル:Hashikawa CGRP Fig2.png|サムネイル|'''図2. CGRPによる細胞内情報伝達'''<br>文献<ref name=Hay2018b><pubmed>29059473</pubmed></ref><ref name=Liu2020><pubmed>32151282</pubmed></ref><ref name=Eftekhari2016><pubmed>26105175</pubmed></ref>より改変]] | ||
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脊髄後角および三叉神経脊髄路核において、CGRPはグルタミン酸の放出を引き起こし、中枢感作を起こす<ref name=Marviz2007><pubmed>17614212</pubmed></ref>。さらに、炎症性物質であるサブスタンスPが[[AMPA型グルタミン酸受容体|AMPA型]]および[[NMDA型グルタミン酸受容体]]の両方に対する作用を増強する<ref name=Seybold2009><pubmed>19655115</pubmed></ref>。これにより、CGRPは[[機械的アロディニア]]を引き起こす。また、[[小胞グルタミン酸トランスポーター]]を介したグルタミン酸伝達は、CGRPによる持続性炎症に関連する[[熱痛覚過敏]]の発生に不可欠であり、[[痛み]]や[[痒み]]の促進に関与する<ref name=Rogoz2014><pubmed>24275230</pubmed></ref>。 | 脊髄後角および三叉神経脊髄路核において、CGRPはグルタミン酸の放出を引き起こし、中枢感作を起こす<ref name=Marviz2007><pubmed>17614212</pubmed></ref>。さらに、炎症性物質であるサブスタンスPが[[AMPA型グルタミン酸受容体|AMPA型]]および[[NMDA型グルタミン酸受容体]]の両方に対する作用を増強する<ref name=Seybold2009><pubmed>19655115</pubmed></ref>。これにより、CGRPは[[機械的アロディニア]]を引き起こす。また、[[小胞グルタミン酸トランスポーター]]を介したグルタミン酸伝達は、CGRPによる持続性炎症に関連する[[熱痛覚過敏]]の発生に不可欠であり、[[痛み]]や[[痒み]]の促進に関与する<ref name=Rogoz2014><pubmed>24275230</pubmed></ref>。 | ||
一方、視覚の高次処理領域である[[視床後部]]([[視床枕]] ([[pulvinar]])と呼ばれる視床の後方核群)に着目したヒト画像研究では、[[網膜]]から[[外側膝状体]]を介さずにこの領域へ至る神経投射の存在が示唆されており<ref name=Maleki2012><pubmed>21337474</pubmed></ref>、視覚刺激が痛覚処理に影響を与える可能性がある。実際、[[マウス]]の視床後部にCGRPを注入すると、光過敏が誘発され、片頭痛患者の光過敏症に類似した反応が引き起こされることが明らかとなっている<ref name=Sowers2020 />。 | |||
さらに、島皮質<ref name=Liu2020 />や[[前帯状皮質]]<ref name=Li2019><pubmed>30717631</pubmed></ref>においてCGRPが増加すると、グルタミン酸作動性シグナル伝達が増強され、痛みの不快感が増強されることが示されている。このように、CGRPは急性の痛みに加え、慢性的疼痛の形成にも関与する。 | さらに、島皮質<ref name=Liu2020 />や[[前帯状皮質]]<ref name=Li2019><pubmed>30717631</pubmed></ref>においてCGRPが増加すると、グルタミン酸作動性シグナル伝達が増強され、痛みの不快感が増強されることが示されている。このように、CGRPは急性の痛みに加え、慢性的疼痛の形成にも関与する。 | ||
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=== 細胞保護 === | === 細胞保護 === | ||
CGRPは、その強力な血管拡張作用を有することから推察されるように、心血管系において保護的な役割を果たす。例えば、血管肥大を抑制し<ref name=Argunhan2021><pubmed>33641368</pubmed></ref>、[[酸化ストレス]]から守る働きを示す<ref name=Smillie2014><pubmed>24516108</pubmed></ref>。[[肺]]においては、[[肺動脈]]の血管拡張を引き起こし、[[低酸素症]]による障害からの保護作用を持つ<ref name=Tjen-A-Looi1992><pubmed>1357980</pubmed></ref>。一方で、小児の呼吸器疾患モデルマウスでは、肺においてCGRPが過剰発現し、低酸素症を引き起こすことが報告されており、CGRP受容体[[拮抗薬]]の投与によってその症状が抑制されることが示されている<ref name=Xu2022><pubmed>35303432</pubmed></ref>。 | CGRPは、その強力な血管拡張作用を有することから推察されるように、心血管系において保護的な役割を果たす。例えば、血管肥大を抑制し<ref name=Argunhan2021><pubmed>33641368</pubmed></ref>、[[酸化ストレス]]から守る働きを示す<ref name=Smillie2014><pubmed>24516108</pubmed></ref>。[[肺]]においては、[[肺動脈]]の血管拡張を引き起こし、[[低酸素症]]による障害からの保護作用を持つ<ref name=Tjen-A-Looi1992><pubmed>1357980</pubmed></ref>。さらに、CGRPはエンドセリン変換酵素によって分解されるが、その結果CGRPの抗炎症・抗線維化作用が失われ、炎症から線維化への進行が促進されることが示唆されている<ref name=Hartopo2013><pubmed>23306833</pubmed></ref>。一方で、小児の呼吸器疾患モデルマウスでは、肺においてCGRPが過剰発現し、低酸素症を引き起こすことが報告されており、CGRP受容体[[拮抗薬]]の投与によってその症状が抑制されることが示されている<ref name=Xu2022><pubmed>35303432</pubmed></ref>。 | ||
[[免疫]]系においてCGRPは炎症促進作用と抗炎症作用の両方を持つことが明らかになっている<ref name=Assas2014><pubmed>24592205</pubmed></ref><ref name=Shepherd2005><pubmed>16162264</pubmed></ref>。CGRPは[[肥満細胞]]に作用し、[[炎症性サイトカイン]]や[[ヒスタミン]]の放出を促進する<ref name=Piotrowski1986><pubmed>2417614</pubmed></ref>。また、[[T細胞]]にも影響を与え、[[インターロイキン4]]の産生を増加させる一方で、[[インターフェロンγ]]と[[インターロイキン2]]の産生を減少させる<ref name=Assas2014 />50。 | [[免疫]]系においてCGRPは炎症促進作用と抗炎症作用の両方を持つことが明らかになっている<ref name=Assas2014><pubmed>24592205</pubmed></ref><ref name=Shepherd2005><pubmed>16162264</pubmed></ref>。CGRPは[[肥満細胞]]に作用し、[[炎症性サイトカイン]]や[[ヒスタミン]]の放出を促進する<ref name=Piotrowski1986><pubmed>2417614</pubmed></ref>。また、[[T細胞]]にも影響を与え、[[インターロイキン4]]の産生を増加させる一方で、[[インターフェロンγ]]と[[インターロイキン2]]の産生を減少させる<ref name=Assas2014 />50。 | ||