「メチル化CpG結合タンパク質2」の版間の差分

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=== MeCP2標的因子 ===
=== MeCP2標的因子 ===
 レット症候群やMECP2重複症候群をはじめとするMECP2の機能異常に起因する神経疾患の病態解明や治療法開発を考慮する上でMeCP2の下流標的因子を同定することは重要である。長らくMeCP2がメチル化DNA結合依存的な転写抑制因子として考えられていたことから、レット症候群の疾患病態はMeCP2により本来抑制されるべき標的遺伝子の異常な発現亢進が原因と考えられてきた。MeCP2機能欠損による標的遺伝子発現異常を調べるために、MeCP2KOマウスの脳組織を用いた転写プロファイリングが行われたが、予想外に大きな発現変化は検出されず病態に関連するような異常発現遺伝子の同定には至らなかった<ref name=Tudor2002><pubmed>12432090</pubmed></ref> (Tudor M et al., PNAS 99(24), 15536-15541, 2002)。
 長らくMeCP2がメチル化DNA結合依存的な転写抑制因子として考えられていたことから、レット症候群の疾患病態はMeCP2により本来抑制されるべき標的遺伝子の異常な発現亢進が原因と考えられてきた。MeCP2機能欠損による標的遺伝子発現異常を調べるために、MeCP2KOマウスの脳組織を用いた転写プロファイリングが行われたが、予想外に大きな発現変化は検出されず病態に関連するような異常発現遺伝子の同定には至らなかった<ref name=Tudor2002><pubmed>12432090</pubmed></ref> (Tudor M et al., PNAS 99(24), 15536-15541, 2002)。
これまでにMeCP2の転写抑制標的として、brain-derived neurotrophic factor (BDNF) <ref name=Chen2003><pubmed>14593183</pubmed></ref> (Chen WG et al., Science 302, 885-889, 2003)やFXYD domain containing ion transport regulator (FXYD1) <ref name=Deng2007><pubmed>17309881</pubmed></ref> (Deng V et al., Hum Mol Genet 16, 640-650, 2007)、insulin like growth factor binding protein (IGFBP3) <ref name=Itoh2007><pubmed>17278996</pubmed></ref> (Itoh M et al., J Neuropathol Exp Neurol 66, 117-123, 2007)遺伝子などが同定されている。BDNFはMeCP2の下流標的遺伝子であることが複数の研究により報告されているが、MeCP2KOマウスにおいて発現量の減少がみられること<ref name=Chang2006><pubmed>16446138</pubmed></ref> (Chang Q et al., Neuron 49, 341-348, 2006)から転写活性化の標的になっていることや間接的に影響を受けている可能性があり、MeCP2によってどのように発現が調節されているのか、病態にどのような寄与をしているのかは依然として不明瞭である。CREBを介したMeCP2の転写活性化因子としての標的は、somatostatin (Sst)やG protein regulated inducer of neurite outgrowth 1 (Gprin1)などが報告されている<ref name=Chahrour2008><pubmed>18511691</pubmed></ref> (Chahrour M et al., Science 320, 1224-1229, 2008)。MeCP2のスプライシング調節因子としての標的はglutamate ionotropic receptor NMDA type subnit (NR1)などが挙げられる<ref name=Young2005><pubmed>16251272</pubmed></ref> (Young JI et al., PNAS 102, 17551-17558, 2005)。miRNAプロセシング調節因子の標的は、MeCP2-Drosha複合体の標的としてmiR-199aが同定されており、miR-199aを欠損したマウスはMecp2欠損マウスにみられる体重減少や短寿命などの表現型を模倣することが報告されている<ref name=Tsujimura2015><pubmed>26344767</pubmed></ref> (Tsujimura et al., Cell Rep 2015)。さらに、このmiR-199aは下流のBMPシグナル因子Smad-1の発現抑制を介してMeCP2の神経幹細胞分化制御作用を媒介し、miR-199aの発現やBMPシグナル阻害剤処理はレット症候群患者iPS細胞由来神経幹細胞の分化やオルガノイド発達の異常を改善することが示されている<ref name=Nakashima2021><pubmed>34010654</pubmed></ref> (Nakashima H et al., Cell Rep 2021)。
 
 MeCP2の転写抑制標的として、brain-derived neurotrophic factor (BDNF) <ref name=Chen2003><pubmed>14593183</pubmed></ref> (Chen WG et al., Science 302, 885-889, 2003)やFXYD domain containing ion transport regulator (FXYD1) <ref name=Deng2007><pubmed>17309881</pubmed></ref> (Deng V et al., Hum Mol Genet 16, 640-650, 2007)、insulin like growth factor binding protein (IGFBP3) <ref name=Itoh2007><pubmed>17278996</pubmed></ref> (Itoh M et al., J Neuropathol Exp Neurol 66, 117-123, 2007)遺伝子などが同定されている。BDNFはMeCP2の下流標的遺伝子であることが複数の研究により報告されているが、MeCP2KOマウスにおいて発現量の減少がみられること<ref name=Chang2006><pubmed>16446138</pubmed></ref> (Chang Q et al., Neuron 49, 341-348, 2006)から転写活性化の標的になっていることや間接的に影響を受けている可能性があり、MeCP2によってどのように発現が調節されているのか、病態にどのような寄与をしているのかは依然として不明瞭である。
 
 CREBを介したMeCP2の転写活性化因子としての標的は、ソマトスタチンやG protein regulated inducer of neurite outgrowth 1 (Gprin1)などが報告されている<ref name=Chahrour2008><pubmed>18511691</pubmed></ref> (Chahrour M et al., Science 320, 1224-1229, 2008)。MeCP2のスプライシング調節因子としての標的はNMDA型グルタミン酸受容体NR1サブユニットなどが挙げられる<ref name=Young2005><pubmed>16251272</pubmed></ref> (Young JI et al., PNAS 102, 17551-17558, 2005)
 
 miRNAプロセシング調節因子の標的は、MeCP2-Drosha複合体の標的としてmiR-199aが同定されており、miR-199aを欠損したマウスはMecp2欠損マウスにみられる体重減少や短寿命などの表現型を模倣する<ref name=Tsujimura2015><pubmed>26344767</pubmed></ref> (Tsujimura et al., Cell Rep 2015)。さらに、このmiR-199aは下流のBMPシグナル因子Smad-1の発現抑制を介してMeCP2の神経幹細胞分化制御作用を媒介し、miR-199aの発現やBMPシグナル阻害剤処理はレット症候群患者iPS細胞由来神経幹細胞の分化やオルガノイド発達の異常を改善する<ref name=Nakashima2021><pubmed>34010654</pubmed></ref> (Nakashima H et al., Cell Rep 2021)。


== 疾患との関わり ==
== 疾患との関わり ==