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=== 組織分布 === | === 組織分布 === | ||
MeCP2 mRNAは特に[[海馬]]、[[大脳皮質]]、[[小脳]]において高く発現しており、他の脳領域では中程度発現している。MeCP2タンパク質は成体脳の全領域に発現がみられるが[[前脳]]ニューロンにおいて特に高い発現が認められる<ref name=Jung2003><pubmed>12605461</pubmed></ref> (Jung BP et al., J Neurobiol 55(1), 86-96, 2003)。MeCP2は[[グリア細胞]]や末梢組織では発現していないと考えられていたが、近年の研究により[[アストロサイト]]や[[ミクログリア]]などのグリア細胞にも低いながら発現が認められ、神経機能や疾患病態への寄与が報告されている<ref name=Albizzati2024><pubmed>38469559</pubmed></ref><ref name=Cao2024><pubmed>38289948</pubmed></ref> (Albizzati E et al., iScience 27(3), 109296, 2024; Cao Z et al., PNAS 121(6), e2320383121, 2024) | MeCP2 mRNAは特に[[海馬]]、[[大脳皮質]]、[[小脳]]において高く発現しており、他の脳領域では中程度発現している。MeCP2タンパク質は成体脳の全領域に発現がみられるが[[前脳]]ニューロンにおいて特に高い発現が認められる<ref name=Jung2003><pubmed>12605461</pubmed></ref> (Jung BP et al., J Neurobiol 55(1), 86-96, 2003)。MeCP2は[[グリア細胞]]や末梢組織では発現していないと考えられていたが、近年の研究により[[アストロサイト]]や[[ミクログリア]]などのグリア細胞にも低いながら発現が認められ、神経機能や疾患病態への寄与が報告されている<ref name=Albizzati2024><pubmed>38469559</pubmed></ref><ref name=Cao2024><pubmed>38289948</pubmed></ref> (Albizzati E et al., iScience 27(3), 109296, 2024; Cao Z et al., PNAS 121(6), e2320383121, 2024)。神経系以外の組織においても広範囲にMeCP2の発現は認められる<ref name=Vashi2021><pubmed>34230964</pubmed></ref> (Vashi N et al., Hum Mol Genet 30(22), 2161-2176, 2021)。 | ||
== 機能 == | == 機能 == | ||
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=== MeCP2標的因子 === | === MeCP2標的因子 === | ||
レット症候群やMECP2重複症候群をはじめとするMECP2の機能異常に起因する神経疾患の病態解明や治療法開発を考慮する上でMeCP2の下流標的因子を同定することは重要である。MeCP2機能欠損による標的遺伝子発現異常を調べるために、MeCP2 ノックアウト(KO)マウスの脳組織を用いた転写プロファイリングが行われたが、予想外に大きな発現変化は検出されず病態に関連するような異常発現遺伝子の同定には至らなかった<ref name=Tudor2002><pubmed>12432090</pubmed></ref> (Tudor M et al., PNAS 99(24), 15536-15541, 2002)。 | |||
MeCP2の転写抑制標的として、[[脳由来神経栄養因子]] ([[brain-derived neurotrophic factor]], [[BDNF]]) <ref name=Chen2003><pubmed>14593183</pubmed></ref> (Chen WG et al., Science 302, 885-889, 2003)やFXYD domain containing ion transport regulator (FXYD1) <ref name=Deng2007><pubmed>17309881</pubmed></ref> (Deng V et al., Hum Mol Genet 16, 640-650, 2007)、[[インスリン様成長因子結合タンパク質3]] ([[insulin like growth factor binding protein]], [[IGFBP3]]) <ref name=Itoh2007><pubmed>17278996</pubmed></ref> (Itoh M et al., J Neuropathol Exp Neurol 66, 117-123, 2007)遺伝子などが同定されている。BDNFはMeCP2の下流標的遺伝子であることが複数の研究により報告されているが、MeCP2ノックアウトマウスにおいて発現量の減少がみられること<ref name=Chang2006><pubmed>16446138</pubmed></ref> (Chang Q et al., Neuron 49, 341-348, 2006)から転写活性化の標的になっていることや間接的に影響を受けている可能性があり、MeCP2によってどのように発現が調節されているのか、病態にどのような寄与をしているのかは依然として不明瞭である。 | MeCP2の転写抑制標的として、[[脳由来神経栄養因子]] ([[brain-derived neurotrophic factor]], [[BDNF]]) <ref name=Chen2003><pubmed>14593183</pubmed></ref> (Chen WG et al., Science 302, 885-889, 2003)やFXYD domain containing ion transport regulator (FXYD1) <ref name=Deng2007><pubmed>17309881</pubmed></ref> (Deng V et al., Hum Mol Genet 16, 640-650, 2007)、[[インスリン様成長因子結合タンパク質3]] ([[insulin like growth factor binding protein]], [[IGFBP3]]) <ref name=Itoh2007><pubmed>17278996</pubmed></ref> (Itoh M et al., J Neuropathol Exp Neurol 66, 117-123, 2007)遺伝子などが同定されている。BDNFはMeCP2の下流標的遺伝子であることが複数の研究により報告されているが、MeCP2ノックアウトマウスにおいて発現量の減少がみられること<ref name=Chang2006><pubmed>16446138</pubmed></ref> (Chang Q et al., Neuron 49, 341-348, 2006)から転写活性化の標的になっていることや間接的に影響を受けている可能性があり、MeCP2によってどのように発現が調節されているのか、病態にどのような寄与をしているのかは依然として不明瞭である。 | ||
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=== レット症候群 === | === レット症候群 === | ||
主に女児にみられる進行性の重篤な神経発達症である。X連鎖優性遺伝病で10,000〜15, | 主に女児にみられる進行性の重篤な神経発達症である。X連鎖優性遺伝病で10,000〜15,000人に一人の頻度で発症する。男性はX染色体を1本しか持たないため、変異を持つと致死的となるケースがほとんどであり、まれにみられるのは主要な機能ドメイン外における変異や体細胞モザイク変異の場合などである。生後6〜18ヶ月程度までは正常に発達するが、その後それまでに獲得された言語能力や運動機能の退行がみられる。患者は自閉傾向や[[てんかん]]、手もみ動作に代表される[[常同行動]]や[[精神遅滞]]、[[小頭症]]などの種々の神経学的症状を示す。神経系以外の症状としては、全身の成長遅延や骨形成不全などの特徴がみられる<ref name=Rett1966>'''Rett A., (1966)'''<br>Wien Med Wochenschr 116(37), 723-726,</ref><ref name=Hagberg1983><pubmed>6638958</pubmed></ref> (Rett A Wien Med Wochenschr 116, 723-726, 1966; Hagberg B et al., Ann Neurol 14, 471-479, 1983)。 | ||
95%以上の古典的レット症候群症例にMECP2遺伝子の変異が認められる。変異のタイプは[[ミスセンス]]や[[ナンセンス]]、[[フレームシフト]]型など、300以上のヌクレオチド置換が報告されているが、特にT158M、R306C、R168X、R255X、R270Xの8つの変異が〜70%を占めることが示されている<ref name=Christodoulou2003><pubmed>12673788</pubmed></ref><ref name=Chahrour2007><pubmed>17988628</pubmed></ref> (Christodoulou J et al., Hum Mutat 21, 466-472, 2003; Chahrour M & Zoghbi HY Neuron, 56, 422-437, 2007)。 | 95%以上の古典的レット症候群症例にMECP2遺伝子の変異が認められる。変異のタイプは[[ミスセンス]]や[[ナンセンス]]、[[フレームシフト]]型など、300以上のヌクレオチド置換が報告されているが、特にT158M、R306C、R168X、R255X、R270Xの8つの変異が〜70%を占めることが示されている<ref name=Christodoulou2003><pubmed>12673788</pubmed></ref><ref name=Chahrour2007><pubmed>17988628</pubmed></ref> (Christodoulou J et al., Hum Mutat 21, 466-472, 2003; Chahrour M & Zoghbi HY Neuron, 56, 422-437, 2007)。 | ||
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MECP2の個体における機能と疾患病態を理解するために様々なモデルマウスが作製されてきた。最初に、Birdらと[[wj:ルドルフ・イエーニッシュ|Jaenish]]らそれぞれの独立したグループにより、エクソン3あるいはエクソン3と4を全身で欠失したMeCP2ノックアウト(MeCP2<sup>-/y</sup>)マウスが作製された(<ref name=Chen2001><pubmed>11242118</pubmed></ref><ref name=Guy2001><pubmed>11242117</pubmed></ref>Chen RZ et al., Nat Genet 27(3), 327-331, 2001; Guy J et al., Nat Genet 27(3), 322-326, 2001)。これらのレット症候群モデルマウスはレット症候群患者の症状を模倣した表現型を示す。3-6週齢までは一見正常な発達がみられるが、それ以降には低活動性や振戦、歩行失調、イレギュラーな呼吸などの中枢性症状を示すようになり8-10週齢までにほとんどの個体が死亡する。脳は、患者の脳と同様に全体的な脳体積が小さく、個々のニューロンの[[細胞体]]も小さい。また、海馬を含めた脳の種々の領域においてニューロンが密に配置されるという組織学的な特徴を示す。一方で、脳全体の顕著な構造的異常は確認されない。MeCP2ヘテロ(MeCP2<sup>+/-</sup>)雌マウスは患者と同様に全組織中においてX染色体のランダムな不活性化により正常MeCP2を発現する細胞とMeCP2を欠失した細胞が混在しておりレット症候群様の行動異常を示すが、全ての細胞でMeCP2を欠失しているMeCP2<sup>-/y</sup>雄よりも遅い時期に表現型が観察されるようになる。さらに[[ネスチン]]-Creドライバーを用いて作製された中枢神経系特異的MeCP2欠損マウスは全身性のMeCP2<sup>-/y</sup>マウスと類似した表現型がみられることから、脳・神経系におけるMeCP2の欠損はレット症候群の病態を引き起こすのに十分であることが証明されている。加えて、[[Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII|Ca<sup>2+</sup>/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII]] ([[Ca2+-calmodulin-dependent protein kinase II|Ca<sup>2+</sup>-calmodulin-dependent protein kinase II]], [[CaMKII]])-[[Cre]]ドライバーを用いて作製された最終分裂後のニューロンに特異的なMeCP2欠損マウスにおいても時期は遅延するものの類似の表現型がみられることから成熟ニューロン機能におけるMeCP2の重要性が確認されている(<ref name=Chen2001><pubmed>11242118</pubmed></ref>Chen RZ et al., Nat Genet 27(3), 327-331, 2001; <ref name=Gemelli2006><pubmed>16199017</pubmed></ref>Gemelli T et al., Bio Psychiatry 59(5), 468-476, 2006)。特筆すべきことに、MeCP2欠失マウスにおいて神経系細胞およびニューロンにMeCP2を再発現させると、上述のMeCP2欠失マウスの表現型が改善されることが示されている(<ref name=Guy2001><pubmed>11242117</pubmed></ref><ref name=Giacometti2007><pubmed>17267601</pubmed></ref>Guy J et al., Science 315(5815), 1143-1147, 2007; Giacometti E et al., PNAS 104(6), 1931-1936, 2007)。これらの結果は進行性の重篤な神経疾患を治療することが可能であることを示唆する臨床的にも重要な知見である。 | MECP2の個体における機能と疾患病態を理解するために様々なモデルマウスが作製されてきた。最初に、Birdらと[[wj:ルドルフ・イエーニッシュ|Jaenish]]らそれぞれの独立したグループにより、エクソン3あるいはエクソン3と4を全身で欠失したMeCP2ノックアウト(MeCP2<sup>-/y</sup>)マウスが作製された(<ref name=Chen2001><pubmed>11242118</pubmed></ref><ref name=Guy2001><pubmed>11242117</pubmed></ref>Chen RZ et al., Nat Genet 27(3), 327-331, 2001; Guy J et al., Nat Genet 27(3), 322-326, 2001)。これらのレット症候群モデルマウスはレット症候群患者の症状を模倣した表現型を示す。3-6週齢までは一見正常な発達がみられるが、それ以降には低活動性や振戦、歩行失調、イレギュラーな呼吸などの中枢性症状を示すようになり8-10週齢までにほとんどの個体が死亡する。脳は、患者の脳と同様に全体的な脳体積が小さく、個々のニューロンの[[細胞体]]も小さい。また、海馬を含めた脳の種々の領域においてニューロンが密に配置されるという組織学的な特徴を示す。一方で、脳全体の顕著な構造的異常は確認されない。MeCP2ヘテロ(MeCP2<sup>+/-</sup>)雌マウスは患者と同様に全組織中においてX染色体のランダムな不活性化により正常MeCP2を発現する細胞とMeCP2を欠失した細胞が混在しておりレット症候群様の行動異常を示すが、全ての細胞でMeCP2を欠失しているMeCP2<sup>-/y</sup>雄よりも遅い時期に表現型が観察されるようになる。さらに[[ネスチン]]-Creドライバーを用いて作製された中枢神経系特異的MeCP2欠損マウスは全身性のMeCP2<sup>-/y</sup>マウスと類似した表現型がみられることから、脳・神経系におけるMeCP2の欠損はレット症候群の病態を引き起こすのに十分であることが証明されている。加えて、[[Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII|Ca<sup>2+</sup>/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII]] ([[Ca2+-calmodulin-dependent protein kinase II|Ca<sup>2+</sup>-calmodulin-dependent protein kinase II]], [[CaMKII]])-[[Cre]]ドライバーを用いて作製された最終分裂後のニューロンに特異的なMeCP2欠損マウスにおいても時期は遅延するものの類似の表現型がみられることから成熟ニューロン機能におけるMeCP2の重要性が確認されている(<ref name=Chen2001><pubmed>11242118</pubmed></ref>Chen RZ et al., Nat Genet 27(3), 327-331, 2001; <ref name=Gemelli2006><pubmed>16199017</pubmed></ref>Gemelli T et al., Bio Psychiatry 59(5), 468-476, 2006)。特筆すべきことに、MeCP2欠失マウスにおいて神経系細胞およびニューロンにMeCP2を再発現させると、上述のMeCP2欠失マウスの表現型が改善されることが示されている(<ref name=Guy2001><pubmed>11242117</pubmed></ref><ref name=Giacometti2007><pubmed>17267601</pubmed></ref>Guy J et al., Science 315(5815), 1143-1147, 2007; Giacometti E et al., PNAS 104(6), 1931-1936, 2007)。これらの結果は進行性の重篤な神経疾患を治療することが可能であることを示唆する臨床的にも重要な知見である。 | ||
患者の神経生理学的研究から、レット症候群患者において異常に増大した体性感覚誘発電位(Brain Dev 1991;13(1):36-9. doi: 10.1016/s0387-7604(12)80295-6)や脳波におけるてんかん性異常<ref name=Moser2007><pubmed>17275660</pubmed></ref> (Moser SJ, Weber P, & Lutschg J Pediatr Neurol 36, 95-100, 2007)が報告されている。MeCP2-/yモデルマウスでは時折発作性脳波が観察されるが、主に過興奮性発火がみられることが示されている<ref name=Chao2010><pubmed>21068835</pubmed></ref>(Chao HT et al., Nature 468(7321), 263-269,2010)。また、抑制性ニューロンにおいてMeCP2を欠損するマウスは同様に主に過興奮性発火を示すが、発作性脳波は検出されないことが報告されている<ref name=Chao2010><pubmed>21068835</pubmed></ref>(Chao HT et al., Nature 468(7321), 263-269,2010)。MeCP2<sup>-/y</sup>マウスやMeCP2<sup>308/y</sup>マウス(308番目のアミノ酸からC末端が欠失した短縮型変異体)の皮質スライスでは、[[長期増強]]([[long-term potentiation]], [[LTP]])の減少がみられること(<ref name=Asaka2006><pubmed>16087343</pubmed></ref>Asaka Y et al., Neurobiol Dis 21, 217-227, 2006)、MeCP2<sup>-/y</sup>マウスの皮質においては興奮性シナプス伝達の減少と抑制性シナプス伝達の上昇が示されている(<ref name=Dani2005><pubmed>16116096</pubmed></ref>Dani VS et al., PNAS 102, 12560-12565, 2005)。また、MeCP2-/yマウス由来の培養海馬ニューロンは自発的な興奮性シナプス伝達の頻度の減少と興奮性シナプス密度の減少を示すことが報告されている(<ref name=Nelson2006><pubmed>16581518</pubmed></ref><ref name=Chao2007><pubmed>17920015</pubmed></ref>Nelson ED et al., Curr Biol 16, 710-716, 2006; Chao HT et al., Neuron 56(1), 58-65, 2007)。これらの報告から、MeCP2は局所の興奮性シナプス伝達と抑制性シナプス伝達のバランスを調節することによってマクロな興奮性/抑制性神経ネットワークの制御に重要な役割を果たしていることが示唆される。 | |||
様々な脳領域や細胞種特異的にMecp2を欠損させたコンディショナルノックアウトマウスが作製され、種々の脳部位および神経サブタイプ機能におけるMeCP2の機能が個体レベルで明らかにされてきている。[[扁桃体]]特異的コンディショナルノックアウトマウスは、不安様行動の増加と恐怖学習の低下がみられる(<ref name=Adachi2009><pubmed>19339616</pubmed></ref>Adachi M et al., J Neurosci 29(13), 4218-4227, 2009)。[[視床下部]]特異的コンディショナルノックアウトマウスは、不安様行動の増加や、[[攻撃性]]の上昇、[[食欲]]過剰、[[肥満]]を示す(<ref name=Fyffe2008><pubmed>18817733</pubmed></ref>Fyffe SL et al., 59(6), 947-958,2008)。[[チロシン水酸化酵素]] ([[tyrosine hydroxylase]], [[TH]])発現[[ドーパミン]]および[[ノルアドレナリン]]ニューロン特異コンディショナルノックアウトマウスにおいては、ドーパミンおよびノルアドレナリン量の減少と運動機能障害がみられる(<ref name=Samaco2009><pubmed>20007372</pubmed></ref>Samaco RC et al., PNAS 106, 21966-21971, 2009)。[[PC12 ETS factor 1]] ([[PET1]])発現[[セロトニン]]ニューロン特異的にMecp2を欠損したマウスは、セロトニン量の減少と攻撃性の上昇を示す(<ref name=Samaco2009><pubmed>20007372</pubmed></ref>Samaco RC et al., PNAS 106, 21966-21971, 2009)。広範な抑制性ニューロンにおけるMecp2の欠損は、短命や呼吸障害、運動機能障害、反復行動、低活動、異常な社会性の上昇、感覚運動遮断の異常、学習障害などレット症候群様の多くの表現型を示す(<ref name=Chao2010><pubmed>21068835</pubmed></ref>Chao HT et al., Nature 468(7321), 263-9,2010)。 | 様々な脳領域や細胞種特異的にMecp2を欠損させたコンディショナルノックアウトマウスが作製され、種々の脳部位および神経サブタイプ機能におけるMeCP2の機能が個体レベルで明らかにされてきている。[[扁桃体]]特異的コンディショナルノックアウトマウスは、不安様行動の増加と恐怖学習の低下がみられる(<ref name=Adachi2009><pubmed>19339616</pubmed></ref>Adachi M et al., J Neurosci 29(13), 4218-4227, 2009)。[[視床下部]]特異的コンディショナルノックアウトマウスは、不安様行動の増加や、[[攻撃性]]の上昇、[[食欲]]過剰、[[肥満]]を示す(<ref name=Fyffe2008><pubmed>18817733</pubmed></ref>Fyffe SL et al., 59(6), 947-958,2008)。[[チロシン水酸化酵素]] ([[tyrosine hydroxylase]], [[TH]])発現[[ドーパミン]]および[[ノルアドレナリン]]ニューロン特異コンディショナルノックアウトマウスにおいては、ドーパミンおよびノルアドレナリン量の減少と運動機能障害がみられる(<ref name=Samaco2009><pubmed>20007372</pubmed></ref>Samaco RC et al., PNAS 106, 21966-21971, 2009)。[[PC12 ETS factor 1]] ([[PET1]])発現[[セロトニン]]ニューロン特異的にMecp2を欠損したマウスは、セロトニン量の減少と攻撃性の上昇を示す(<ref name=Samaco2009><pubmed>20007372</pubmed></ref>Samaco RC et al., PNAS 106, 21966-21971, 2009)。広範な抑制性ニューロンにおけるMecp2の欠損は、短命や呼吸障害、運動機能障害、反復行動、低活動、異常な社会性の上昇、感覚運動遮断の異常、学習障害などレット症候群様の多くの表現型を示す(<ref name=Chao2010><pubmed>21068835</pubmed></ref>Chao HT et al., Nature 468(7321), 263-9,2010)。 | ||
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ヒトMECP2遺伝子をゲノムに挿入しMeCP2を正常量より多く発現するMECP2重複症候群モデルマウスも作製されており、MECP2重複患者にみられるような異常脳波などの神経生理学的表現型の一部を模倣することが報告されている(<ref name=Collins2004><pubmed>15351775</pubmed></ref>Collins AL et al., Hum Mol Genet 13(21), 2679-89, 2004)。 | ヒトMECP2遺伝子をゲノムに挿入しMeCP2を正常量より多く発現するMECP2重複症候群モデルマウスも作製されており、MECP2重複患者にみられるような異常脳波などの神経生理学的表現型の一部を模倣することが報告されている(<ref name=Collins2004><pubmed>15351775</pubmed></ref>Collins AL et al., Hum Mol Genet 13(21), 2679-89, 2004)。 | ||
過剰なMeCP2の発現を抑制するようにデザインされた[[アンチセンスオリゴヌクレオチド]]([[ASO]])がMECP2重複モデルマウスの表現型を改善することが示され(<ref name=Shao2021><pubmed>33658357</pubmed></ref><ref name=Sztainberg2015><pubmed>26605526</pubmed></ref>Shao Y et al., Sci Transl Med 13(583), eaaz7785, 2021; Sztainberg Y et al., Nature 528(7580), 2015)、それらの結果を基に現在臨床第1/2相試験が実施されている(ClinicalTrial.gov identifier: NCT06430385)。 | |||
=== その他の疾患との関連 === | === その他の疾患との関連 === | ||