「Intercellular adhesion molecule-5」の版間の差分

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 [[ウイルス性脳脊髄炎]]や[[多発性硬化症]]などの神経疾患において[[脳脊髄液]]中のsICAM5レベルが増加することが報告されている<ref name=Lindsberg2002><pubmed>11839847</pubmed></ref><ref name=Yuan2017><pubmed>28580181</pubmed></ref><ref name=Birkner2019><pubmed>30915022</pubmed></ref>。sICAM-5は神経細胞間の接着や[[シナプス伝達]]調節を変化させ、脳内の神経伝達に影響を与える可能性がある<ref name=Lonskaya2013><pubmed>23844251</pubmed></ref>。一方でICAM-5は白血球や活性化ミクログリアに発現するインテグリンである、[[lymphocyte function-associated antigen 1]] [[LFA-1]], [[CD11a]]/[[CD18]])、細胞外マトリックス分子であるビトロネクチンと結合する<ref name=Mizuno1997><pubmed>8995416</pubmed></ref><ref name=Furutani2012><pubmed>23019340</pubmed></ref>。したがって脳炎症時におけるsICAM-5レベルの増加は神経伝達調節のみならず、神経細胞と免疫細胞の接着、白血球の遊走、貪食能力を抑制し、神経保護的な役割をすることが示唆されている<ref name=Tian2009><pubmed>19144568</pubmed></ref><ref name=Irwin2000><pubmed>11007554</pubmed></ref>。脳脊髄液および血漿中のsICAM-5レベルの変化は神経疾患・脳炎症の進行度によっても変動があるため慎重な検討が必要であるが、診断のバイオマーカー候補として期待される。
 [[ウイルス性脳脊髄炎]]や[[多発性硬化症]]などの神経疾患において[[脳脊髄液]]中のsICAM5レベルが増加することが報告されている<ref name=Lindsberg2002><pubmed>11839847</pubmed></ref><ref name=Yuan2017><pubmed>28580181</pubmed></ref><ref name=Birkner2019><pubmed>30915022</pubmed></ref>。sICAM-5は神経細胞間の接着や[[シナプス伝達]]調節を変化させ、脳内の神経伝達に影響を与える可能性がある<ref name=Lonskaya2013><pubmed>23844251</pubmed></ref>。一方でICAM-5は白血球や活性化ミクログリアに発現するインテグリンである、[[lymphocyte function-associated antigen 1]] [[LFA-1]], [[CD11a]]/[[CD18]])、細胞外マトリックス分子であるビトロネクチンと結合する<ref name=Mizuno1997><pubmed>8995416</pubmed></ref><ref name=Furutani2012><pubmed>23019340</pubmed></ref>。したがって脳炎症時におけるsICAM-5レベルの増加は神経伝達調節のみならず、神経細胞と免疫細胞の接着、白血球の遊走、貪食能力を抑制し、神経保護的な役割をすることが示唆されている<ref name=Tian2009><pubmed>19144568</pubmed></ref><ref name=Irwin2000><pubmed>11007554</pubmed></ref>。脳脊髄液および血漿中のsICAM-5レベルの変化は神経疾患・脳炎症の進行度によっても変動があるため慎重な検討が必要であるが、診断のバイオマーカー候補として期待される。


===脆弱性X症候群===
===脆弱X症候群===
 [[脆弱性X症候群]]は[[精神遅滞]]や[[自閉症]]様症状をきたす遺伝性の発達障害である。その解剖学的特徴として樹状突起スパインが細長く未熟な形態を示すことが知られている<ref name=Hinton1991><pubmed>1724112</pubmed></ref><ref name=Irwin2000><pubmed>11007554</pubmed></ref>。脆弱性X症候群はX染色体にある[[FMR1]]遺伝子の変異によって発症することが明らかにされているが、その遺伝子産物である[[fragile X mental retardation protein]] ([[FMRP]])はRNA結合タンパク質であり、機能分子の翻訳調節により神経発生やシナプス可塑性を制御している。近年、ICAM-5 [[mRNA]]はFMRPの標的分子の一つであることが報告された<ref name=Pei2020><pubmed>31882402</pubmed></ref>。脆弱性X症候群モデルマウスであるFMR1遺伝子欠損マウスの神経細胞ではICAM-5の発現亢進と、ICAM-5の膜局在を抑制する[[カドヘリン]]関連分子[[カルシンテニン]] ([[calsyntensin]])の発現低下が起きることが明らかとなった<ref name=Cheng2019><pubmed>31680833</pubmed></ref>。したがって脆弱性X症候群の病態である樹状突起スパインの形態異常や認知機能障害には、ICAM-5の発現レベルの変化および細胞膜における局在異常が関与している可能性が示唆される。
 [[脆弱X症候群]]は[[精神遅滞]]や[[自閉症]]様症状をきたす遺伝性の発達障害である。その解剖学的特徴として樹状突起スパインが細長く未熟な形態を示すことが知られている<ref name=Hinton1991><pubmed>1724112</pubmed></ref><ref name=Irwin2000><pubmed>11007554</pubmed></ref>。脆弱性X症候群はX染色体にある[[FMR1]]遺伝子の変異によって発症することが明らかにされているが、その遺伝子産物である[[fragile X mental retardation protein]] ([[FMRP]])はRNA結合タンパク質であり、機能分子の翻訳調節により神経発生やシナプス可塑性を制御している。近年、ICAM-5 [[mRNA]]はFMRPの標的分子の一つであることが報告された<ref name=Pei2020><pubmed>31882402</pubmed></ref>。脆弱性X症候群モデルマウスであるFMR1遺伝子欠損マウスの神経細胞ではICAM-5の発現亢進と、ICAM-5の膜局在を抑制する[[カドヘリン]]関連分子[[カルシンテニン]] ([[calsyntensin]])の発現低下が起きることが明らかとなった<ref name=Cheng2019><pubmed>31680833</pubmed></ref>。したがって脆弱性X症候群の病態である樹状突起スパインの形態異常や認知機能障害には、ICAM-5の発現レベルの変化および細胞膜における局在異常が関与している可能性が示唆される。


==参考文献==
==参考文献==