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== '''誘導 ''' == | == '''誘導 ''' == | ||
神経堤の成立には、表皮外胚葉、神経上皮、そしてその境界領域(神経堤の予定部位)における種々の誘導シグナルと、それによって引き起こされる遺伝子カスケードが必要とされる<ref name="ref19"><pubmed> 15363405 </pubmed></ref>。<br>表皮外胚葉の運命決定は高濃度のBMPの発現によってなされ<ref name="ref20"><pubmed> 7553857 </pubmed></ref>、Keratinといった表皮特異的な遺伝子を発現するようになる。神経上皮ではBMPの発現が抑制されるとともに中胚葉からの誘導シグナルを受け、Zic、Sox2、Neuro-D、proneural bHLH転写因子、N-CAM、N-tubulinなどを発現するようになる。表皮外胚葉と神経上皮の境界領域では、Wnt<ref name="ref21"><pubmed> 12161657 </pubmed></ref>、中濃度のBMP(脊椎動物)、沿軸中胚葉より分泌されるFGF<ref name="ref22"><pubmed> 9281332 </pubmed></ref>などの誘導シグナルによりPax3/7、Msx1/2、Zicなどの遺伝子が発現し、神経堤特異的な遺伝子群(Snail、Slug、FoxD3、AP-2)の発現を誘導する<ref name="ref19" />。また、境界領域の細胞と神経上皮細胞間のNotchシグナルを介した細胞間相互作用も神経堤の誘導に重要とされる<ref name="ref23"><pubmed> 11861470 </pubmed></ref>。 | 神経堤の成立には、表皮外胚葉、神経上皮、そしてその境界領域(神経堤の予定部位)における種々の誘導シグナルと、それによって引き起こされる遺伝子カスケードが必要とされる<ref name="ref19"><pubmed> 15363405 </pubmed></ref>。<br>表皮外胚葉の運命決定は高濃度のBMPの発現によってなされ<ref name="ref20"><pubmed> 7553857 </pubmed></ref>、Keratinといった表皮特異的な遺伝子を発現するようになる。神経上皮ではBMPの発現が抑制されるとともに中胚葉からの誘導シグナルを受け、Zic、Sox2、Neuro-D、proneural bHLH転写因子、N-CAM、N-tubulinなどを発現するようになる。表皮外胚葉と神経上皮の境界領域では、Wnt<ref name="ref21"><pubmed> 12161657 </pubmed></ref>、中濃度のBMP(脊椎動物)、沿軸中胚葉より分泌されるFGF<ref name="ref22"><pubmed> 9281332 </pubmed></ref>などの誘導シグナルによりPax3/7、Msx1/2、Zicなどの遺伝子が発現し、神経堤特異的な遺伝子群(Snail、Slug、FoxD3、AP-2)の発現を誘導する<ref name="ref19" />。また、境界領域の細胞と神経上皮細胞間のNotchシグナルを介した細胞間相互作用も神経堤の誘導に重要とされる<ref name="ref23"><pubmed> 11861470 </pubmed></ref> 。 | ||
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== '''脱上皮化 ''' == | == '''脱上皮化 ''' == | ||
誘導された神経堤細胞は転写因子であるSlugなどを発現し<ref name="ref24"><pubmed> 11861470 </pubmed></ref>7513443、EMTを行い脱上皮化する。脱上皮化の過程において、細胞骨格の制御を行うRho GTPaseと細胞間接着分子であるCadherinの発現が変化することにより、細胞形態や細胞接着に変化が生じる<ref name="ref23"><pubmed> 11861470 </pubmed></ref>25。特にcadherin-6Bの発現が失われることがEMTに重要とされる<ref name="ref23"><pubmed> 11861470 </pubmed></ref>26。他にも基底膜を破壊する酵素などの発現が重要な役割を果たす。 | |||
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== '''移動能力 ''' == | == '''移動能力 ''' == | ||
神経堤細胞の胚内での移動は厳密に制御されており、fibronectinやlamininなどの細胞外基質と、神経堤細胞が発現するintegrinの相互作用が必要とされる<ref name="ref23"><pubmed> 11861470 </pubmed></ref>27。神経堤細胞が移動する経路は、神経細胞やグリア細胞に分化する細胞が通過する「腹側経路」と、メラニン細胞が通過する「背側経路」の二つに大別される。fibronectinやlamininといった細胞外基質は神経堤細胞の移動経路全般に発現しており、経路の選択には神経堤細胞と移動経路の組織に発現する誘引因子・反発因子の相互作用が重要である。代表的なものとして、腹側経路の選択に関わる反発性のEph/Ephrinシグナル<ref name="ref28"><pubmed> 12117812 </pubmed></ref>およびRobo/Slitシグナル<ref name="ref29"><pubmed> 15950606 </pubmed></ref>、背側経路の選択に関わる誘引性のEph/Ephrinシグナル<ref name="ref28" />、EDNRB2/ET3シグナル<ref name="ref30"><pubmed> 15892714 </pubmed></ref>などがある。 | |||
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== '''多分化能 ''' == | == '''多分化能 ''' == | ||
移動を開始する前の神経堤細胞には、神経細胞やシュワン細胞、メラニン細胞など複数の細胞種に分化できる多能性を有した細胞が存在すると報告されている<ref name="ref31"><pubmed> 2457813 </pubmed></ref>。しかしながら、神経堤細胞の全てが多能性を有している訳ではなく、遊走前から分化の方向が決定されている細胞も存在する。初期に神経堤を離脱した細胞の多くは、神経細胞には分化するがメラニン細胞には分化せず、逆に後期に神経堤を離脱した細胞はメラニン細胞には分化するが神経細胞には分化できない<ref name="ref32"><pubmed> 9334283 </pubmed></ref>。これらの神経堤細胞の分化方向は、Sox9やSox10によって活性化されるMitf・c-Kit(メラニン細胞)やP0(シュワン細胞)などによって運命づけられる<ref name="ref19" />。一方、神経堤細胞の最終的な分化は移動後の環境にも大きく依存するとされる。例えば、脊髄神経節の形成には脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)が、シュワン細胞への分化にはグリア増殖因子であるNeuregulinが、平滑筋の形成にはTGF-βの存在が重要である。 | |||
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== '''神経堤症(neurocristopathy) ''' == | == '''神経堤症(neurocristopathy) ''' == | ||
神経堤からは多様な細胞が分化するため、その特定の細胞系譜に発生・分化・遊走の異常が生じると様々な疾患が誘導される。ヒトにおいて、神経堤に由来するとされる組織の先天奇形や腫瘍などは神経堤症と総称される。代表的な疾患としては、腸管末端部における神経節細胞の先天的欠損に起因するHirschsprung病(先天性巨大結腸症)、副腎髄質のクロム親和性細胞の腫瘍である褐色細胞腫、カフェオレ斑や神経線維腫を主徴とする全身性母斑症である神経線維腫症Ⅰ型(von Recklinghausen病)、感音難聴、白髪、虹彩異色症をきたすWaardenburg症候群、第3第4咽頭嚢の発生異常により心奇形・顔面異常・胸腺の低形成・口蓋裂・低カルシウム血症などをきたす22q11. | 神経堤からは多様な細胞が分化するため、その特定の細胞系譜に発生・分化・遊走の異常が生じると様々な疾患が誘導される。ヒトにおいて、神経堤に由来するとされる組織の先天奇形や腫瘍などは神経堤症と総称される。代表的な疾患としては、腸管末端部における神経節細胞の先天的欠損に起因するHirschsprung病(先天性巨大結腸症)、副腎髄質のクロム親和性細胞の腫瘍である褐色細胞腫、カフェオレ斑や神経線維腫を主徴とする全身性母斑症である神経線維腫症Ⅰ型(von Recklinghausen病)、感音難聴、白髪、虹彩異色症をきたすWaardenburg症候群、第3第4咽頭嚢の発生異常により心奇形・顔面異常・胸腺の低形成・口蓋裂・低カルシウム血症などをきたす22q11.2欠失症候群などがある。近年、CHARGE症候群(虹彩欠損、心疾患、後鼻孔閉鎖、成長障害と精神発達障害、性器の低形成、耳介の変形と難聴を特徴とする)の原因遺伝子であるCHD7遺伝子が、ヒトならびにアフリカツメガエルの神経堤形成に必須であることが明らかになりCHARGE症候群が神経堤症であると実証された<ref name="ref33"><pubmed> 20130577 </pubmed></ref>。<br> | ||
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