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=== 第2世代抗精神病薬の薬理学的特徴 === | === 第2世代抗精神病薬の薬理学的特徴 === | ||
ほとんどの第2世代抗精神病薬は、有効治療用量内では錐体外路症状や高プロラクチン血症の発現頻度が少ない。この第2世代抗精神病薬のメリットは、薬理学的に第1世代抗精神病薬とはいくつか異なった作用機序に由来する。ただし、D<sub>2</sub> | ほとんどの第2世代抗精神病薬は、有効治療用量内では錐体外路症状や高プロラクチン血症の発現頻度が少ない。この第2世代抗精神病薬のメリットは、薬理学的に第1世代抗精神病薬とはいくつか異なった作用機序に由来する。ただし、D<sub>2</sub>受容体阻害作用を除いて、すべての第2世代抗精神病薬に共通する薬理学的作用機序はいまだ明らかでない。 Meltzerら<ref><pubmed> 2571717 </pubmed></ref>は1989年に、第2世代抗精神病薬の「非定型性 (atypicality)」すなわち錐体外路症状を惹起しない用量範囲内で抗精神病効果を示すという特性に対して最も重要なのは、D<sub>2</sub>受容体遮断作用に比べて5-HT<sub>2A</sub>受容体遮断作用が相対的に強いことであると主張し、「セロトニン-ドーパミン仮説」を提唱した。[[縫線核]]を起始核とする[[セロトニン神経]]は、[[中脳黒質]]から線条体に投射するドーパミン神経に対して抑制的に作用しており、ドーパミン神経上の5-HT<sub>2A</sub>受容体を遮断することで、ドーパミン神経の抑制が解除(脱抑制)されてドーパミンの放出を促進し、抗精神病薬によるD<sub>2</sub>受容体遮断を一部緩和して錐体外路症状を軽減すると考えられている。 | ||
またD<sub>2</sub>受容体遮断作用に5-HT<sub>2A</sub>受容体遮断作用が加わると、前頭前野や[[海馬]]でドーパミンの放出が亢進して、陰性症状や認知機能障害に対して効果を発揮すると推定されている。 | またD<sub>2</sub>受容体遮断作用に5-HT<sub>2A</sub>受容体遮断作用が加わると、前頭前野や[[海馬]]でドーパミンの放出が亢進して、陰性症状や認知機能障害に対して効果を発揮すると推定されている。 | ||
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KapurとSeemanら <ref><pubmed> 11229973 </pubmed></ref>は、抗精神病薬がいかに速くD<sub>2</sub>受容体に結合するかよりも、D<sub>2</sub>受容体からいかに速く解離するか(k<sub>off</sub>で示す)が、第2世代抗精神病薬の“非定型性”に重要であるとする「急速解離 (fast dissociation)仮説」を提唱した。すなわちすべての抗精神病薬は、D<sub>2</sub>受容体からの解離の速度にかかわらず、その占拠率に応じて持続性の ドーパミン伝達を抑制する。しかし、D<sub>2</sub>受容体から素早く解離できる薬剤は、ストレスなどによるドーパミンの一過性の過剰放出に反応して速やかに置換することで、ドーパミン伝達をより生理的に近い状態に保持できると考えた。Loose bindingは、内因性のドーパミンよりD<sub>2</sub>受容体に対する親和性が弱いクロザピン、クエチアピン、オランザピンで錐体外路症状が少ない理由の一つとなり、fast dissociationはクロザピン、クエチアピン、ペロスピロンによる錐体外路症状や高プロラクチン血症の発現頻度が少ない機序を説明可能である。しかしリスペリドンは、内因性のドーパミンより強く結合し、1日1回投与でも24時間以上D<sub>2</sub>受容体の阻害が持続する抗精神病薬であり、彼らの理論に当てはまらない。同様に、第2世代抗精神病薬のブロナンセリンやオランザピンは遅いk<sub>off</sub>を示す。したがって「セロトニン-ドーパミン仮説」や「急速解離仮説」は、多くの第2世代抗精神病薬の作用機序を説明できるのは事実であるが、すべての第2世代抗精神病薬に共通した機序ではない点に留意する必要がある <ref name="ref2"><pubmed> 15289815 </pubmed></ref>。 | KapurとSeemanら <ref><pubmed> 11229973 </pubmed></ref>は、抗精神病薬がいかに速くD<sub>2</sub>受容体に結合するかよりも、D<sub>2</sub>受容体からいかに速く解離するか(k<sub>off</sub>で示す)が、第2世代抗精神病薬の“非定型性”に重要であるとする「急速解離 (fast dissociation)仮説」を提唱した。すなわちすべての抗精神病薬は、D<sub>2</sub>受容体からの解離の速度にかかわらず、その占拠率に応じて持続性の ドーパミン伝達を抑制する。しかし、D<sub>2</sub>受容体から素早く解離できる薬剤は、ストレスなどによるドーパミンの一過性の過剰放出に反応して速やかに置換することで、ドーパミン伝達をより生理的に近い状態に保持できると考えた。Loose bindingは、内因性のドーパミンよりD<sub>2</sub>受容体に対する親和性が弱いクロザピン、クエチアピン、オランザピンで錐体外路症状が少ない理由の一つとなり、fast dissociationはクロザピン、クエチアピン、ペロスピロンによる錐体外路症状や高プロラクチン血症の発現頻度が少ない機序を説明可能である。しかしリスペリドンは、内因性のドーパミンより強く結合し、1日1回投与でも24時間以上D<sub>2</sub>受容体の阻害が持続する抗精神病薬であり、彼らの理論に当てはまらない。同様に、第2世代抗精神病薬のブロナンセリンやオランザピンは遅いk<sub>off</sub>を示す。したがって「セロトニン-ドーパミン仮説」や「急速解離仮説」は、多くの第2世代抗精神病薬の作用機序を説明できるのは事実であるが、すべての第2世代抗精神病薬に共通した機序ではない点に留意する必要がある <ref name="ref2"><pubmed> 15289815 </pubmed></ref>。 | ||
第2世代抗精神病薬の中には5-HT<sub>2C</sub>、[[セロトニン#5-HT6受容体|5-HT<sub>6</sub>]]、[[セロトニン#5-HT7受容体|5-HT<sub>7</sub>]]受容体遮断作用や[[セロトニン#5-HT1受容体|5-HT<sub>1A</sub>]]受容体部分作動作用を有する薬剤がある。5-HT<sub>1A</sub>受容体は、縫線核ではシナプス前の[[細胞体]]に自己受容体として存在し、5-HT ニューロンの発火率を抑制する。また辺縁系や大脳皮質ではシナプス後に存在し、発火率を抑制している。クロザピン、ペロスピロン、クエチアピンおよびジプラシドンは、5-HT<sub>1A</sub>受容体部分作動作用を有しており、D<sub>2</sub>と5-HT<sub>2A</sub>受容体間の相互作用と5-HT<sub>1A</sub>受容体の機能的活性化を介して、前頭葉皮質のドーパミン遊離を促進することで、陰性症状や認知機能障害、不安・抑うつ症状に対する効果が期待できる可能性がある。 | |||
=== ドーパミン部分作動薬の作用機序 === | === ドーパミン部分作動薬の作用機序 === |