「オートファジー」の版間の差分

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[[Image:Autophagy Fig2.jpg|thumb|350px|'''図2. オートファジーの分子機構'''<br>栄養条件下において, オートファジーはmTORC1による負の制御を受けている。飢餓条件下では、このmTORC1による抑制が解除されることにより、ULK複合体が活性化して、小胞体膜上に局在化する。その次に、クラスIII PI3キナーゼ(phosphatidylinositol 3-kinase)複合体が小胞体膜上へ局在化し、PI (3) P (phosphatidylinositol 3-phosphate) を産生することで、下流で機能するPI (3) P結合タンパク質のオートファゴソーム形成起点への局在化を促す。その後、Atg12–Atg5-Atg16L1、LC3–PEが隔離膜上に局在化して隔離膜の伸長が促進され、最終的にオートファゴソームが形成される。p62(sequestosome 1 (SQSTM1))などの選択的基質はLC3 結合ドメイン(LIR motif)とユビキチン結合(UBA)ドメインを有するため、ユビキチン化された凝集体やミトコンドリアなどと結合し、オートファゴソームによる分解を促すユビキチン受容体として機能する。]]
[[Image:Autophagy Fig2.jpg|thumb|350px|'''図2. オートファジーの分子機構'''<br>栄養条件下において, オートファジーはmTORC1による負の制御を受けている。飢餓条件下では、このmTORC1による抑制が解除されることにより、ULK複合体が活性化して、小胞体膜上に局在化する。その次に、クラスIII PI3キナーゼ(phosphatidylinositol 3-kinase)複合体が小胞体膜上へ局在化し、PI (3) P (phosphatidylinositol 3-phosphate) を産生することで、下流で機能するPI (3) P結合タンパク質のオートファゴソーム形成起点への局在化を促す。その後、Atg12–Atg5-Atg16L1、LC3–PEが隔離膜上に局在化して隔離膜の伸長が促進され、最終的にオートファゴソームが形成される。p62(sequestosome 1 (SQSTM1))などの選択的基質はLC3 結合ドメイン(LIR motif)とユビキチン結合(UBA)ドメインを有するため、ユビキチン化された凝集体やミトコンドリアなどと結合し、オートファゴソームによる分解を促すユビキチン受容体として機能する。]]


== オートファジーの分子機構<ref name="ref2" /><ref><pubmed> 14536056 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19491929 </pubmed></ref> ==
==分子機構<ref name="ref2" /><ref><pubmed> 14536056 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19491929 </pubmed></ref> ==


 これまでに、[[wikipedia:JA:酵母|酵母]]遺伝学を用いた解析から、35の[[wikipedia:JA:オートファジー関連分子|オートファジー関連分子]](Atg分子)が同定されている。これらのうち、Atg1-10, 12-14, 16-18, 29, 31がオートファゴソームの形成に必須であり、[[wikipedia:JA:哺乳類|哺乳類]]では、そのほとんどの相同分子が保存されている。Atg分子は機能的な役割から、[[wikipedia:JA:Atg1|Atg1]]/[[wikipedia:JA:ULK|ULK]]複合体、クラスIII [[PI3キナーゼ]](phosphatidylinositol 3-kinase)複合体、[[wikipedia:JA:Atg9|Atg9]]、[[wikipedia:JA:Atg2|Atg2]]-18複合体、[[wikipedia:JA:Atg12|Atg12]]-[[wikipedia:JA:Atg5|Atg5]]結合体, [[wikipedia:JA:Atg8|Atg8]]/[[wikipedia:JA:LC3-PE|LC3-PE]]結合体に分けられる(図2)。  
 これまでに、[[wikipedia:JA:酵母|酵母]]遺伝学を用いた解析から、35の[[wikipedia:JA:オートファジー関連分子|オートファジー関連分子]](Atg分子)が同定されている。これらのうち、Atg1-10, 12-14, 16-18, 29, 31がオートファゴソームの形成に必須であり、[[wikipedia:JA:哺乳類|哺乳類]]では、そのほとんどの相同分子が保存されている。Atg分子は機能的な役割から、[[wikipedia:JA:Atg1|Atg1]]/[[wikipedia:JA:ULK|ULK]]複合体、クラスIII [[PI3キナーゼ]](phosphatidylinositol 3-kinase)複合体、[[wikipedia:JA:Atg9|Atg9]]、[[wikipedia:JA:Atg2|Atg2]]-18複合体、[[wikipedia:JA:Atg12|Atg12]]-[[wikipedia:JA:Atg5|Atg5]]結合体, [[wikipedia:JA:Atg8|Atg8]]/[[wikipedia:JA:LC3-PE|LC3-PE]]結合体に分けられる(図2)。  


=== オートファジーの誘導 ===
===誘導 ===


 オートファジーは、主に栄養飢餓により誘導される。細胞内の栄養シグナルはmammalian target of rapamycin([[mTOR]])を介した[[リン酸化]]シグナルにより厳密に制御されており、豊栄養条件下では[[wikipedia:JA:インスリン|インスリン]]やアミノ酸によりmTORが活性化され、タンパク合成や細胞成長が促進されている。一方で、mTORによりオートファジー活性は低い状態に抑制されている。栄養飢餓時には、このmTORシグナルが減弱することによりオートファジーが活性化される。mTOR阻害剤である[[wikipedia:JA:ラパマイシン|ラパマイシン]]は、オートファジーを誘導する薬剤としてよく用いられる。
 オートファジーは、主に栄養飢餓により誘導される。細胞内の栄養シグナルはmammalian target of rapamycin([[mTOR]])を介した[[リン酸化]]シグナルにより厳密に制御されており、豊栄養条件下では[[wikipedia:JA:インスリン|インスリン]]やアミノ酸によりmTORが活性化され、タンパク合成や細胞成長が促進されている。一方で、mTORによりオートファジー活性は低い状態に抑制されている。栄養飢餓時には、このmTORシグナルが減弱することによりオートファジーが活性化される。mTOR阻害剤である[[wikipedia:JA:ラパマイシン|ラパマイシン]]は、オートファジーを誘導する薬剤としてよく用いられる。
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 LC3-PE は、隔離膜の伸長および閉じる過程に必須の役割を果たしており、隔離膜だけでなく、オートファゴソーム膜にも局在する。そのため、オートファゴソームマーカーとして頻用されている。オートファジーが誘導される条件下では細胞質中におけるLC3を含む小構造体の増加が観察される。しかし、オートファゴソームの蓄積はリソソームの阻害によっても引き起こされるため、オートファジー誘導とリソソーム阻害のどちらに起因するのかを区別する必要がある。
 LC3-PE は、隔離膜の伸長および閉じる過程に必須の役割を果たしており、隔離膜だけでなく、オートファゴソーム膜にも局在する。そのため、オートファゴソームマーカーとして頻用されている。オートファジーが誘導される条件下では細胞質中におけるLC3を含む小構造体の増加が観察される。しかし、オートファゴソームの蓄積はリソソームの阻害によっても引き起こされるため、オートファジー誘導とリソソーム阻害のどちらに起因するのかを区別する必要がある。


=== 選択的基質認識<ref name="ref3" />===  
=== 選択的基質認識===  


 一部のタンパク質は、オートファゴソームにより選択的に認識される。選択的基質のうち、p62(sequestosome 1 (SQSTM1))は最も解析が進んでいるものの一つである。p62はLC3 結合ドメイン(LIR motif)とユビキチン結合(UBA)ドメインを有するため、ユビキチン化された凝集体やミトコンドリアなどと結合し、オートファゴソームによる分解を促すユビキチン受容体としての役割が明らかになりつつある。p62はオートファジー阻害により、細胞内に蓄積することから、オートファジー活性の指標としても用いられる。p62と同様にアダプター分子としての役割を果たしているものとして、[[wikipedia:JA:NBR1|NBR1]]、[[wikipedia:JA:NDP52|NDP52]]、[[wikipedia:optineurin|optineurin]]なども報告されている。
 一部のタンパク質は、オートファゴソームにより選択的に認識される<ref name="ref3" />。選択的基質のうち、p62(sequestosome 1 (SQSTM1))は最も解析が進んでいるものの一つである。p62はLC3 結合ドメイン(LIR motif)とユビキチン結合(UBA)ドメインを有するため、ユビキチン化された凝集体やミトコンドリアなどと結合し、オートファゴソームによる分解を促すユビキチン受容体としての役割が明らかになりつつある。p62はオートファジー阻害により、細胞内に蓄積することから、オートファジー活性の指標としても用いられる。p62と同様にアダプター分子としての役割を果たしているものとして、[[wikipedia:JA:NBR1|NBR1]]、[[wikipedia:JA:NDP52|NDP52]]、[[wikipedia:optineurin|optineurin]]なども報告されている。


=== タンパク質の分解とオートファジーの収束===  
=== タンパク質の分解とオートファジーの収束===  

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