「成長円錐」の版間の差分

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=== 軸索ガイダンス因子  ===
=== 軸索ガイダンス因子  ===


軸索ガイダンス因子は発生過程の組織内に領域特異的に存在することで成長円錐に空間情報を提供し、成長円錐を正しい標的細胞へと誘導する分子として定義される。生体内における軸索ガイダンス因子は多種多様であるが、大きく4つの作用様式に分類される。細胞外基質や細胞膜に発現し接触を介して近距離に作用する接触因子と、分泌性で濃度勾配によって長距離に作用する拡散性因子、そしてそのそれぞれに対して誘引因子と反発因子が存在する。生体内ではこれら4種類のガイダンス因子が協調的に働くことで軸索を正しい標的へ導くと考えられている。成長円錐には個々の軸索ガイダンス因子に対する特異的な受容体ファミリーが存在しており<ref><pubmed> 12471249</pubmed></ref>、受容体の形質膜への発現は軸索ガイダンス因子に対する成長円錐の感受性を規定する。また、成長円錐には同一の軸索ガイダンス因子に対する反応性を場所や時期に応じて切り替える機構が備わっている<ref><pubmed> 10395576</pubmed></ref>。 以下に代表的な軸索ガイダンスについて概説する。  
軸索ガイダンス因子は発生過程の組織内に領域特異的に存在することで成長円錐に空間情報を提供し、成長円錐を正しい標的細胞へと誘導する分子として定義される。生体内における軸索ガイダンス因子は多種多様であるが、大きく4つの作用様式に分類される。細胞外基質や細胞膜に発現し接触を介して近距離に作用する接触因子と、分泌性で濃度勾配によって長距離に作用する拡散性因子、そしてそのそれぞれに対して誘引因子と反発因子が存在する。生体内ではこれら4種類の軸索ガイダンス因子が協調的に働き軸索を正しい標的へ導くと考えられている。成長円錐には個々の軸索ガイダンス因子に対する特異的な受容体ファミリーが存在しており<ref><pubmed> 12471249</pubmed></ref>、受容体の形質膜への発現は軸索ガイダンス因子に対する成長円錐の感受性を規定する。また、成長円錐には同一の軸索ガイダンス因子に対する反応性を場所や時期に応じて切り替える機構が備わっている<ref><pubmed> 10395576</pubmed></ref>。 以下に代表的な軸索ガイダンスについて概説する。  


==== [[ネトリン]]  ====
==== [[ネトリン]]  ====
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==== [[Slit]]  ====
==== [[Slit]]  ====


Slitは脊椎動物の脊髄において底板に発現する分泌型の反発性軸索ガイダンス因子である。Slitの受容体である[[Robo]]の遺伝子に変異を持つショウジョウバエ([[''Roundabout'']])では、軸索の[[正中交差]]が過剰に起きる表現型を示す<ref><pubmed> 846113 </pubmed></ref>。''Roundabout''とは別に、正中交差が全く起きなくなる[[''Commissureless'']](''comm'')変異体も同定されているが、[[Comm]]はRoboの形質膜発現を抑制することで、交連軸索が一度だけ正中を交差する経路選択に中心的な役割を果たしていると考えられている <ref><pubmed> 8785048 </pubmed></ref>。  
Slitは脊椎動物の脊髄において底板に発現する分泌型の反発性軸索ガイダンス因子である。Slitの受容体である[[Robo]]の遺伝子に変異を持つショウジョウバエ([[''Roundabout'']])では、軸索の[[正中交差]]が過剰に起きる表現型を示す<ref><pubmed> 846113 </pubmed></ref>。''Roundabout''とは別に、正中交差が全く起きなくなる[[''Commissureless'']](''comm'')変異体も同定されており、[[Comm]]はRoboの形質膜発現を抑制することで、交連軸索が一度だけ正中を交差する経路選択に中心的な役割を果たしていると考えられている <ref><pubmed> 8785048 </pubmed></ref>。  


==== エフリン  ====
==== エフリン  ====


[[受容体チロシンキナーゼ]][[Eph]]のリガンドである[[エフリン]](Ephrin)は、GPIアンカーによる膜結合型の[[エフリンA]](エフリンA1-A5)と、細胞膜貫通型である[[エフリンB]](エフリンB1-B3)に分類される<ref><pubmed> 9530499 </pubmed></ref>。いずれも膜に結合した形で存在するため、エフリンは接触型のガイダンス因子として機能する。受容体であるEphファミリーは[[EphA]]と[[EphB]]に大別され、大まかにはエフリンAグループはEphAグループと、エフリンBグループはEphBグループと結合する。エフリンとEphは発生過程の様々な領域、特に網膜-視蓋投射系において、神経回路形成に重要な役割を担っている。  
[[受容体チロシンキナーゼ]][[Eph]]のリガンドである[[エフリン]](Ephrin)は、GPIアンカーによる膜結合型の[[エフリンA]](エフリンA1-A5)と、細胞膜貫通型である[[エフリンB]](エフリンB1-B3)に分類され<ref><pubmed> 9530499 </pubmed></ref>、いずれも接触型のガイダンス因子として機能する。受容体であるEphファミリーは[[EphA]]と[[EphB]]に大別され、大まかにはエフリンAグループはEphAグループと、エフリンBグループはEphBグループと結合する。エフリンとEphは発生過程の様々な領域、特に網膜-視蓋投射系において、神経回路形成に重要な役割を担っている。  


==== [[モルフォゲン]]  ====
==== [[モルフォゲン]]  ====
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成長円錐の運動性は細胞骨格、接着分子とそのリサイクリングにより規定されるが、成長円錐の前進速度に空間的な非対称性が生じれば、成長円錐は全体として旋回運動を呈することになる。実際に、軸索ガイダンス因子が制御する成長円錐の旋回運動にも[[Rhoファミリー]][[低分子量Gタンパク質]]、[[ADF/cofilin]]、[[Ena]]/[[Vasp]]、[[APC]]などの細胞骨格制御分子<ref><pubmed>19373241</pubmed></ref> 、[[FAK]]、[[Src]]チロシンキナーゼによる細胞接着の制御<ref><pubmed>21940449</pubmed></ref> が関与することが明らかにされている。  
成長円錐の運動性は細胞骨格、接着分子とそのリサイクリングにより規定されるが、成長円錐の前進速度に空間的な非対称性が生じれば、成長円錐は全体として旋回運動を呈することになる。実際に、軸索ガイダンス因子が制御する成長円錐の旋回運動にも[[Rhoファミリー]][[低分子量Gタンパク質]]、[[ADF/cofilin]]、[[Ena]]/[[Vasp]]、[[APC]]などの細胞骨格制御分子<ref><pubmed>19373241</pubmed></ref> 、[[FAK]]、[[Src]]チロシンキナーゼによる細胞接着の制御<ref><pubmed>21940449</pubmed></ref> が関与することが明らかにされている。  


上述したとおり、成長円錐は軸索ガイダンス因子に対する応答性(反応の有無、誘引-反発の方向)を場所や時期により変化させる。また、成長円錐は生体内で様々な軸索ガイダンス因子のシグナルを受容しており、成長円錐の旋回方向は多様な細胞内シグナル伝達経路の複雑なクロストークの結果決定されると考えられる。近年、成長円錐の旋回方向(誘引 or 反発)を決定する分子メカニズムの理解が急速に進んでおり、本項では、旋回方向を規定する因子について概説する。
上述したとおり、成長円錐は軸索ガイダンス因子に対する応答性(反応の有無、誘引-反発の方向)を場所や時期により変化させる。また、成長円錐は生体内で様々な軸索ガイダンス因子のシグナルを受容しており、成長円錐の旋回方向は多様な細胞内シグナル伝達経路の複雑なクロストークの結果決定されると考えられる。近年、成長円錐の旋回方向(誘引 or 反発)を決定する分子メカニズムの理解が急速に進んでおり、以下に旋回方向を規定する因子について概説する。


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Holtのグループは、細胞体から切り離した軸索の成長円錐のネトリン-1への誘引応答がタンパク質合成阻害剤により消失することを報告した<ref><pubmed> 11754834</pubmed></ref>。このことは成長円錐の旋回運動には成長円錐における局所タンパク質合成が必要であることを示している。その後、BDNF、Sema3A、Slit2など、他の軸索ガイダンス因子ついても成長円錐の旋回運動の誘導に局所タンパク質合成が必要であることが明らかにされている<ref><pubmed> 21530230</pubmed></ref>。  
Holtのグループは、細胞体から切り離した軸索の成長円錐のネトリン-1への誘引応答がタンパク質合成阻害剤により消失することを報告した<ref><pubmed> 11754834</pubmed></ref>。このことは成長円錐の旋回運動には成長円錐における局所タンパク質合成が必要であることを示している。その後、BDNF、Sema3A、Slit2など、他の軸索ガイダンス因子ついても成長円錐の旋回運動の誘導に局所タンパク質合成が必要であることが明らかにされている<ref><pubmed> 21530230</pubmed></ref>。  


軸索ガイダンス因子による局所翻訳の制御機構は不明な点も多いが、少しずつ知見が得られている。例えば、ネトリン-1による軸索誘引では、ネトリン-1非存在下では受容体であるDCCとリボソームが結合しタンパク質合成を抑制しているが、ネトリン-1がDCCに結合するとリボソームがDCCから解離し抑制が外れタンパク質合成が起きることが報告されている<ref><pubmed>20434207</pubmed></ref>。 また、旋回運動を誘導するカルシウムシグナルに応じて空間的に非対称な[[Β-アクチン]]mRNAの翻訳が誘発されることも報告されており<ref><pubmed>16980965</pubmed></ref>、カルシウムシグナルの下流でタンパク質の翻訳合成を制御する機構の存在も示唆されている。  
軸索ガイダンス因子による局所翻訳の制御機構は不明な点も多いが、少しずつ知見が得られている。例えば、ネトリン-1による軸索誘引では、ネトリン-1非存在下では受容体であるDCCとリボソームが結合しタンパク質合成を抑制しているが、ネトリン-1がDCCに結合するとリボソームがDCCから解離し抑制が外れタンパク質合成が起きることが報告されている<ref><pubmed>20434207</pubmed></ref>。 また、旋回運動を誘導するカルシウムシグナルに応じて空間的に非対称なβ[[Β-アクチン|-アクチン]]mRNAの翻訳が誘発されることも報告されており<ref><pubmed>16980965</pubmed></ref>、カルシウムシグナルの下流でタンパク質の翻訳合成を制御する機構の存在も示唆されている。  


また、最近になり、[[マイクロRNA]](miRNA)による局所タンパク質翻訳制御が成長円錐の旋回運動に関与することも報告されている<ref><pubmed>22051374 </pubmed></ref>。  
また、最近になり、[[マイクロRNA]](miRNA)による局所タンパク質翻訳制御が成長円錐の旋回運動に関与することも報告されている<ref><pubmed>22051374 </pubmed></ref>。  
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