76
回編集
細編集の要約なし |
細編集の要約なし |
||
11行目: | 11行目: | ||
==構造と機能== | ==構造と機能== | ||
上述したように、VMAT1とVMAT2は別々の遺伝子によりコードされているが、両者の配列相同性および構造は極めて類似している。細胞膜モノアミントランスポーターと同じく、12個の膜貫通ドメイン(TMD1~12)をもつ膜タンパク質で、アミノ末端(N末端)とカルボキシ末端(C末端)は細胞質側に位置する(図1)。1番目と2番目の膜貫通ドメイン(TMD1~2)の間には、小胞内に面するループ構造をもつ。膜貫通領域の予測法であるハイドロパシーモデルでは、このループ構造に数個のグリコシル化部位が存在すると予測されている<ref><pubmed>20135628</pubmed></ref>。 | 上述したように、VMAT1とVMAT2は別々の遺伝子によりコードされているが、両者の配列相同性および構造は極めて類似している。細胞膜モノアミントランスポーターと同じく、12個の膜貫通ドメイン(TMD1~12)をもつ膜タンパク質で、アミノ末端(N末端)とカルボキシ末端(C末端)は細胞質側に位置する(図1)。1番目と2番目の膜貫通ドメイン(TMD1~2)の間には、小胞内に面するループ構造をもつ。膜貫通領域の予測法であるハイドロパシーモデルでは、このループ構造に数個のグリコシル化部位が存在すると予測されている<ref><pubmed>20135628</pubmed></ref>。 | ||
[[Image:VMAT二次構造その2.jpg|thumb|250px|'''図1.VMATの二次構造'''<br>文献<ref><pubmed>12827358</pubmed></ref>から改変]] | [[Image:VMAT二次構造その2.jpg|thumb|250px|'''図1.VMATの二次構造'''<br>文献<ref><pubmed>12827358</pubmed></ref>から改変]] | ||
=== | ===モノアミン輸送の仕組み=== | ||
VMATは、小胞内外のH<sup>+</sup> | VMATは、小胞内外のH<sup>+</sup>の電気化学的勾配を駆動力としてモノアミンを小胞内に輸送し、開口放出に備えて貯蔵している。小胞内へのモノアミン貯蔵は、神経活動に依存した開口放出に備えるだけでなく、モノアミンの合成と分解を調節する上でも必要である。VMAT1とVMAT2の場合、1分子のモノアミンを取り込むために、2分子のH<sup>+</sup>が必要となる。H<sup>+</sup>は、V型ATPアーゼのATP加水分解によって産生され、小胞内に移動される。これにより膜内外でpHの勾配が生じるため、VMATはH<sup>+</sup>とモノアミンを対向輸送することで、小胞内にモノアミンを取り込んでいる(図2)<ref name=ref1><pubmed>19259829</pubmed></ref>。また、ClC-3やClC-7などのCl<sup>-</sup>チャネルにより流入したCl<sup>-</sup>イオンが小胞膜を脱分極し、膜内外における電荷のバランスを維持している。これは、正に帯電したモノアミンを取り込む際の反発力を抑制するため、膜電位を負ないし中性に維持する必要があるためと考えられる。 | ||
[[Image:モノアミン貯蔵の仕組み.jpg|thumb|250px|'''図2.VMATによる小胞内へのモノアミン取り込み機構'''<br>文献<ref name=ref1 />から改変]] | [[Image:モノアミン貯蔵の仕組み.jpg|thumb|250px|'''図2.VMATによる小胞内へのモノアミン取り込み機構'''<br>文献<ref name=ref1 />から改変]] | ||
===VMAT2の神経保護作用=== | |||
モノアミンの合成と小胞への輸送は従来、それぞれ独立した過程と考えられていたが、輸送の効率化のため、これらは一連の過程であるとする説がある。例えば、シナプス小胞膜上のVMAT2は、ドーパミン合成酵素であるチロシンヒドロキシラーゼや芳香族アミノ酸脱炭酸酵素、シャペロンタンパク質であるHsc70と複合体を形成しており、合成されたドーパミンを素早く効率的に小胞内に取り込んでいる、というモデルが提示されている<ref><pubmed>21797260</pubmed></ref>。これは神経保護作用の点で重要であり、合成されたモノアミンの細胞質への拡散を最小限に抑え、モノアミンの酸化やそれに伴う神経毒性発現を抑制すると考えられる。実際にVMAT2は、MPTPなどの外因性神経毒性物質を小胞内に閉じ込めることにより、酸化ストレスによる神経変性に対して抑制作用をもつことが示されている<ref name=ref1 />。 | |||
==依存性薬物とVMAT== | ==依存性薬物とVMAT== | ||
覚せい剤であるコカイン、メチルフェニデート、メタンフェタミンは、モノアミントランスポーターを標的分子としている。コカインやメチルフェニデートが細胞膜モノアミントランスポーターの阻害により薬理効果を生じる一方、メタンフェタミンはシナプス小胞膜上のVMAT2にも作用する(図3)<ref name=ref2><pubmed>17825265</pubmed></ref>。 | |||
[[Image:依存性薬物とVMAT.jpg|thumb|250px|'''図3.モノアミントランスポーターに対する依存性薬物の作用'''<br>文献<ref name=ref2 />から改変]] | [[Image:依存性薬物とVMAT.jpg|thumb|250px|'''図3.モノアミントランスポーターに対する依存性薬物の作用'''<br>文献<ref name=ref2 />から改変]] | ||
VMAT2ヘテロ欠損マウスでは、アンフェタミンによる条件付け場所嗜好性が低下、コカインやアンフェタミンによる移所運動量の亢進が著しいことから、一部の依存性薬物の報酬効果はVMAT2の発現に影響されることが示唆されている<ref><pubmed>19607959</pubmed></ref><ref><pubmed>21272013</pubmed></ref>。 | |||
ドーパミン神経において、メタンフェタミンは、直接VMAT2に作用してシナプス小胞内への取り込みを阻害するだけでなく、貯蔵されているドーパミンを細胞質へ放出させることにより、小胞内のドーパミン量を減少させる。この細胞質への放出は、メタンフェタミンがVMAT2による輸送ないし膜拡散により小胞内に蓄積され、膜内外でのpHの勾配が崩れることにより起こると考えられる<ref name=ref3><pubmed>17233532</pubmed></ref>。細胞質に放出されたドーパミンは酸化されてキノンに変化し、それが産生する活性酸素により神経変性が誘導されるため、メタンフェタミンは神経毒性を有している。事実、VMAT2ヘテロ欠損マウスでは、メタンフェタミンによる神経毒性が増強する。 | |||
上述の精神刺激薬以外に、VMATに作用する薬剤として、レセルピンとテトラベナジン、ロベリン等がある。いずれもVMAT阻害作用を有しており、レセルピンはVMATのモノアミン認識部位に結合し、モノアミンの小胞内への輸送を阻害する。一方で、テトラベナジンは、レセルピンの作用部位とは異なる部位に結合して阻害作用を発揮すると考えられている<ref name=ref3 />。 | |||
回編集