「小胞モノアミントランスポーター」の版間の差分

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===VMAT2の神経保護作用===
===VMAT2の神経保護作用===
 モノアミンの合成と小胞への輸送は従来、それぞれ独立した過程と考えられていたが、輸送の効率化のため、これらは一連の過程であるとする説がある。例えば、シナプス小胞膜上のVMAT2は、ドーパミン合成酵素であるチロシンヒドロキシラーゼや芳香族アミノ酸脱炭酸酵素、シャペロンタンパク質であるHsc70と複合体を形成しており、合成されたドーパミンを素早く効率的に小胞内に取り込んでいる、というモデルが提示されている<ref><pubmed>21797260</pubmed></ref>。これは神経保護作用の点で重要であり、合成されたモノアミンの細胞質への拡散を最小限に抑え、モノアミンの酸化やそれに伴う神経毒性発現を抑制すると考えられる。実際にVMAT2は、MPTPなどの外因性神経毒性物質を小胞内に閉じ込めることにより、酸化ストレスによる神経変性に対して抑制作用をもつことが示されている<ref name=ref1 />。
 モノアミンの合成と小胞への輸送は従来、それぞれ独立した過程と考えられていたが、輸送の効率化のため、これらは一連の過程として行われるとする説がある。例えば、シナプス小胞膜上のVMAT2は、ドーパミン合成酵素であるチロシンヒドロキシラーゼや芳香族アミノ酸脱炭酸酵素、シャペロンタンパク質であるHsc70と複合体を形成しており、合成されたドーパミンを素早く効率的に小胞内に取り込んでいる、というモデルが提示されている<ref><pubmed>21797260</pubmed></ref>。これは神経保護作用の点で重要であり、合成されたモノアミンの細胞質への拡散を最小限に抑え、モノアミンの酸化やそれに伴う神経毒性発現を抑制すると考えられる。実際にVMAT2は、MPTPなどの外因性神経毒性物質を小胞内に閉じ込めることにより、酸化ストレスによる神経変性に対して抑制作用をもつことが示されている<ref name=ref1 />。




==依存性薬物とVMAT==
==依存性薬物とVMAT==
 覚せい剤であるコカイン、メチルフェニデート、メタンフェタミンは、モノアミントランスポーターを標的分子としている。コカインやメチルフェニデートが細胞膜モノアミントランスポーターの阻害により薬理効果を生じる一方、メタンフェタミンはシナプス小胞膜上のVMAT2にも作用する(図3)<ref name=ref2><pubmed>17825265</pubmed></ref>。
 覚せい剤であるコカイン、メチルフェニデート、メタンフェタミンやアンフェタミンは、モノアミントランスポーターを標的分子としている。コカインやメチルフェニデートが細胞膜モノアミントランスポーターの阻害により薬理効果を生じる一方、メタンフェタミンやアンフェタミンはシナプス小胞膜上のVMAT2にも作用する(図3)<ref name=ref2><pubmed>17825265</pubmed></ref>。[[Image:依存性薬物とVMAT.jpg|thumb|250px|'''図3.モノアミントランスポーターに対する依存性薬物の作用'''<br>文献<ref name=ref2 />から改変]]VMAT2ヘテロ欠損マウスでは、アンフェタミンによる条件付け場所嗜好性の低下、コカインやアンフェタミンによる移所運動量の亢進が著しいことから、一部の依存性薬物の報酬効果はVMAT2の発現に影響されることが示唆されている<ref><pubmed>19607959</pubmed></ref><ref><pubmed>21272013</pubmed></ref>。
[[Image:依存性薬物とVMAT.jpg|thumb|250px|'''図3.モノアミントランスポーターに対する依存性薬物の作用'''<br>文献<ref name=ref2 />から改変]]
VMAT2ヘテロ欠損マウスでは、アンフェタミンによる条件付け場所嗜好性が低下、コカインやアンフェタミンによる移所運動量の亢進が著しいことから、一部の依存性薬物の報酬効果はVMAT2の発現に影響されることが示唆されている<ref><pubmed>19607959</pubmed></ref><ref><pubmed>21272013</pubmed></ref>。


 ドーパミン神経において、メタンフェタミンは、直接VMAT2に作用してシナプス小胞内への取り込みを阻害するだけでなく、貯蔵されているドーパミンを細胞質へ放出させることにより、小胞内のドーパミン量を減少させる。この細胞質への放出は、メタンフェタミンがVMAT2による輸送ないし膜拡散により小胞内に蓄積され、膜内外でのpHの勾配が崩れることにより起こると考えられる<ref name=ref3><pubmed>17233532</pubmed></ref>。細胞質に放出されたドーパミンは酸化されてキノンに変化し、それが産生する活性酸素により神経変性が誘導されるため、メタンフェタミンは神経毒性を有している。事実、VMAT2ヘテロ欠損マウスでは、メタンフェタミンによる神経毒性が増強する。
 ドーパミン神経において、メタンフェタミンは、直接VMAT2に作用してシナプス小胞内への取り込みを阻害するだけでなく、貯蔵されているドーパミンを細胞質へ放出させることにより、小胞内のドーパミン量を減少させる。この細胞質への放出は、メタンフェタミンがVMAT2による輸送ないし膜拡散により小胞内に蓄積され、膜内外でのpHの勾配が崩れることにより起こると考えられる<ref name=ref3><pubmed>17233532</pubmed></ref>。メタンフェタミンの作用により細胞質に放出されたドーパミンは酸化されてキノンに変化し、それが産生する活性酸素が原因となり神経終末で神経変性が誘導される。VMAT2ヘテロ欠損マウスではメタンフェタミンによる神経毒性が増強されることから、依存性薬物による神経毒性に対してもVMAT2は抑制作用をもつ。


 上述の精神刺激薬以外に、VMATに作用する薬剤として、レセルピンとテトラベナジン、ロベリン等がある。いずれもVMAT阻害作用を有しており、レセルピンはVMATのモノアミン認識部位に結合し、モノアミンの小胞内への輸送を阻害する。一方で、テトラベナジンは、レセルピンの作用部位とは異なる部位に結合して阻害作用を発揮すると考えられている<ref name=ref3 />。
 上述の精神刺激薬以外に、VMATに作用する薬剤として、レセルピンとテトラベナジン、ロベリン等がある。いずれもVMAT阻害作用を有しており、レセルピンはVMATのモノアミン認識部位に結合し、モノアミンの小胞内への輸送を阻害する。一方で、テトラベナジンは、レセルピンの作用部位とは異なる部位に結合して阻害作用を発揮すると考えられている<ref name=ref3 />。
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