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== 歴史 == | == 歴史 == | ||
紀元前2世紀、[[wikipedia:JA:カッパドキア|カッパドキア]]の[[wikipedia:Aretaeus of Cappadocia|Aretaeus]]が躁とうつが同じ患者に現れることを記載したことが躁うつ病概念の起源とされている<ref name=ref1>'''Frederick K. Goodwin, Kay Redfield Jamison'''<br>Manic-Depressive Illness: Bipolar Disorders and Recurrent Depression | 紀元前2世紀、[[wikipedia:JA:カッパドキア|カッパドキア]]の[[wikipedia:Aretaeus of Cappadocia|Aretaeus]]が躁とうつが同じ患者に現れることを記載したことが躁うつ病概念の起源とされている<ref name=ref1>'''Frederick K. Goodwin, Kay Redfield Jamison'''<br>Manic-Depressive Illness: Bipolar Disorders and Recurrent Depression<br>2007, Oxford University Press</ref>。精神疾患に関する認識が停滞した中世の後、19世紀に、[[wikipedia:Jean-Pierre Falret|Farlet]](循環精神病)と[[wikipedia:Jules Baillarger|Baillarger]](重複精神病)により、再発見された。また、同時期に[[[wikipedia:Karl Ludwig Kahlbaum|Kahlbaum]]も、気分循環症を記載した。 | ||
19世紀末に、[[wikipedia:Emil Kraepelin|Kraepelin]]が精神病を、慢性に経過して人格に欠陥を残す[[早発性痴呆]](現在の[[統合失調症]])と、周期性に経過して人格の欠陥を残さない[[躁うつ病]]に分けた。この際、躁うつ病に重症な[[単極性うつ病]]も含まれていたため、躁うつ病に単極性うつ病を含むとする考えもあった。しかし、その後、[[wikipedia:Jules Angst|Angst]]が、躁状態を伴う患者の方が、うつ状態だけの患者よりも再発頻度が高いことから、双極性と単極性を明確に分離した。現在では、「躁うつ病」といえば、通常、単極性のうつ病は含まず、双極性障害を示すようになっている<ref name=ref2>'''加藤忠史'''<br> | 19世紀末に、[[wikipedia:Emil Kraepelin|Kraepelin]]が精神病を、慢性に経過して人格に欠陥を残す[[早発性痴呆]](現在の[[統合失調症]])と、周期性に経過して人格の欠陥を残さない[[躁うつ病]]に分けた。この際、躁うつ病に重症な[[単極性うつ病]]も含まれていたため、躁うつ病に単極性うつ病を含むとする考えもあった。しかし、その後、[[wikipedia:Jules Angst|Angst]]が、躁状態を伴う患者の方が、うつ状態だけの患者よりも再発頻度が高いことから、双極性と単極性を明確に分離した。現在では、「躁うつ病」といえば、通常、単極性のうつ病は含まず、双極性障害を示すようになっている<ref name=ref2>'''加藤忠史'''<br>双極性障害 第2版―病態の理解から治療戦略まで<br>2011年、医学書院</ref>。 | ||
[[wikipedia:Dunner|Dunner]]らは、双極性障害患者のうち、入院したのがうつ状態のみの群では自殺が多いなどの臨床特徴が見られることから、これを[[双極Ⅱ型]]として区別した。また、双極Ⅱ型障害患者の家族には双極Ⅱ型の患者が多く見られることから、双極Ⅱ型障害は遺伝的に双極Ⅰ型障害とは異なったカテゴリーであると考えられた。また、[[wikipedia:Hagop S. Akiskal|Akiskal]]は、うつ病患者の中に、軽微な双極性の特徴を有する者がいることに着目し、[[双極性スペクトラム]]の考えを提唱し、双極Ⅱ型障害をこの中に位置づけた。 | [[wikipedia:Dunner|Dunner]]らは、双極性障害患者のうち、入院したのがうつ状態のみの群では自殺が多いなどの臨床特徴が見られることから、これを[[双極Ⅱ型]]として区別した。また、双極Ⅱ型障害患者の家族には双極Ⅱ型の患者が多く見られることから、双極Ⅱ型障害は遺伝的に双極Ⅰ型障害とは異なったカテゴリーであると考えられた。また、[[wikipedia:Hagop S. Akiskal|Akiskal]]は、うつ病患者の中に、軽微な双極性の特徴を有する者がいることに着目し、[[双極性スペクトラム]]の考えを提唱し、双極Ⅱ型障害をこの中に位置づけた。 | ||
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=== 疾患の診断=== | === 疾患の診断=== | ||
次に、エピソードの組み合わせにより、疾患を診断する<ref name=ref3>'''高橋三郎他'''<br>DSM-Ⅳ.精神疾患の診断・統計マニュアル | 次に、エピソードの組み合わせにより、疾患を診断する<ref name=ref3>'''高橋三郎他'''<br>DSM-Ⅳ.精神疾患の診断・統計マニュアル<br>医学書院、19963</ref>。 | ||
1回でも躁病エピソードまたは混合性エピソードがあれば、双極I型障害と診断される。すなわち、単一躁病エピソードも、双極Ⅰ型障害に含まれる。 | 1回でも躁病エピソードまたは混合性エピソードがあれば、双極I型障害と診断される。すなわち、単一躁病エピソードも、双極Ⅰ型障害に含まれる。 | ||
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双極性障害の原因は完全には解明されていない。 | 双極性障害の原因は完全には解明されていない。 | ||
遺伝学的研究では、[[wikipedia:JA:一卵性双生児|一卵性双生児]]における一致率が[[wikipedia:JA:二卵性双生児|二卵性双生児]]よりも高いことから、遺伝要因が関与すると考えられている。ゲノムワイド関連研究では、[[CACNA1C]]、[[ODZ4]]などとの弱い関連が示唆されている<ref name=ref4><pubmed>21926972</pubmed></ref>。また、まれな遺伝性疾患で気分障害を伴うものとして、[[ウォルフラム病]]、[[ダリエ病]]、[[慢性進行性外眼筋麻痺]]などがあり、これらも疾患解明の手がかりになる可能性があるとして研究されている。 | |||
脳画像研究では、[[脳室]]拡大、[[MRI]]([[T2強調画像]])における白質高信号領域の増加、[[前部帯状回]]および[[島皮質]]の[[灰白質]]体積減少<ref name=ref5><pubmed>21835091</pubmed></ref>が報告されている。機能的脳画像法では、さまざまな課題が用いられ、双極性障害が躁状態、うつ状態、寛解期とさまざまな臨床状態を呈することも相まって、膨大な知見が報告されているが、大まかに要約すると、[[前頭葉背外側部]]等の認知処理に関わる脳部位の認知課題に対する反応性については低下を示す研究が多く、[[扁桃体]]等の情動に関わる脳部位の表情課題等の情動課題に対する反応性は亢進を示す報告が多い<ref name=ref2>'''加藤忠史'''<br>双極性障害 第2版―病態の理解から治療戦略まで 2011年、医学書院</ref>。 | |||
死後脳研究では、[[モノアミン系]]、[[細胞内情報伝達系]]などの所見が多く報告されているが、薬物の影響を除外することが困難である。遺伝子発現解析の結果では、[[ミトコンドリア]]関連遺伝子の発現低下を示す報告もあるが、投薬の影響や生前の状態の影響も否定できない。また、[[GABA]]ニューロンマーカー遺伝子群の低下が報告され、[[海馬]]GABAニューロンを[[wikipedia:JA:免疫組織学|免疫組織学]]的に計測した研究で、[[介在ニューロン]]数の低下が報告されている<ref name=ref6><pubmed>21135314</pubmed></ref>。 | |||
血液細胞の研究では、細胞内カルシウム濃度の上昇が一致した所見である。 | 血液細胞の研究では、細胞内カルシウム濃度の上昇が一致した所見である。 | ||
薬理学研究では、抗うつ薬・抗精神病薬の作用機序からモノアミン( | 薬理学研究では、抗うつ薬・抗精神病薬の作用機序からモノアミン([[セロトニン]]、[[ノルアドレナリン]]、[[ドーパミン]])系が、[[リチウム]]の作用機序などから[[wikipedia:JA:イオン|イオン]]輸送、[[イノシトール]]系、カルシウムシグナリング、[[GSK-3β]]の関与が示唆されている。 | ||
その他、種々の病態生理学的な研究から、[[生物リズム]]、ミトコンドリア機能障害<ref name=ref7><pubmed> 22510887</pubmed></ref>などの関与が示唆されている。 | |||
== 治療 == | == 治療 == | ||
治療の柱は、薬物療法と心理社会的治療である<ref name=ref8>'''加藤忠史、他'''<br> | 治療の柱は、薬物療法と心理社会的治療である<ref name=ref8>'''加藤忠史、他'''<br>日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅰ.双極性障害<br> 2012</ref>。 | ||
薬物療法としては、急性期の治療(躁状態、うつ状態)および、維持療法がある。 | 薬物療法としては、急性期の治療(躁状態、うつ状態)および、維持療法がある。 | ||
躁状態の急性期には、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンなどの気分安定薬と、抗精神病薬が有効である。 | 躁状態の急性期には、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンなどの気分安定薬と、抗精神病薬が有効である。 | ||
うつ状態の急性期には、気分安定薬であるリチウムおよび[[ラモトリギン]]、非定型精神病薬である[[オランザピン]]および[[クエチアピン]]などが用いられる。抗うつ薬のうち、三環系抗うつ薬は、躁転や急速交代型を惹起するため、用いるべきではないとされている。[[セロトニン選択的取り込み阻害薬]]の使用については、議論があり、特に双極Ⅱ型障害においては、必要に応じて、気分安定薬との併用で用いても良いとの考えも根強い。 | |||
維持療法においては、躁状態、うつ状態の予防効果に加え、自殺予防効果も示されているリチウムが第一選択薬とされるが、そのほか、うつ状態と躁状態の両方に対する再発予防効果を持つ薬剤として、ラモトリギン、オランザピンがある。また、[[アリピプラゾール]]についても、やや弱いエビデンスながら、躁状態の再発予防効果が示されている。 | |||
心理社会的治療としては、心理教育が基本であり、個人で、夫婦で、あるいは集団で行われる。一般的な疾患の理解と受容、ライフチャートを書くなどして本人の疾患の経過とその増悪因子、改善に有効であった因子を理解すること、薬剤の知識の獲得とアドヒアランスの向上、初期徴候の把握などが主なテーマとなる。 | 心理社会的治療としては、心理教育が基本であり、個人で、夫婦で、あるいは集団で行われる。一般的な疾患の理解と受容、ライフチャートを書くなどして本人の疾患の経過とその増悪因子、改善に有効であった因子を理解すること、薬剤の知識の獲得とアドヒアランスの向上、初期徴候の把握などが主なテーマとなる。 |