「小胞モノアミントランスポーター」の版間の差分

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英:Vesicular Monoamine Transporter、英略語:VMAT  
英:Vesicular Monoamine Transporter、英略語:VMAT  


 小胞モノアミントランスポーター(Vesicular monoamine transporter、以下VMAT)は、4種類ある小胞神経伝達物質輸送体タンパク質(トランスポーター)のうちの1つであり、神経終末にあるシナプス小胞や、副腎のクロム親和性細胞の有芯小胞に存在する。細胞膜モノアミントランスポーターにより細胞質に取り込まれたモノアミン神経伝達物質を、電気化学的勾配を利用して小胞内に輸送、貯蔵する。依存性薬物(覚醒剤)の分子標的であることから、特に薬物依存のメカニズムを研究する上で注目される。
 小胞モノアミントランスポーター(Vesicular monoamine transporter、以下VMAT)は、4種類ある小胞神経伝達物質輸送体タンパク質(トランスポーター)のうちの1つであり、モノアミン神経終末にあるシナプス小胞や、副腎のクロム親和性細胞の有芯小胞に存在する。合成されたモノアミン神経伝達物質を、放出に備えて小胞内に輸送、貯蔵する。VMATは依存性薬物(精神刺激薬)の分子標的であり、薬物依存のメカニズムの中でも特に神経細胞毒性を研究する上で注目される。




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 モノアミンの合成と小胞への輸送は従来、それぞれ独立した過程と考えられていたが、輸送の効率化のため、これらは一連の過程として行われるとする説がある。例えば、シナプス小胞膜上のVMAT2は、ドーパミン合成酵素であるチロシンヒドロキシラーゼや芳香族アミノ酸脱炭酸酵素、シャペロンタンパク質であるHsc70と複合体を形成しており、合成されたドーパミンを素早く効率的に小胞内に取り込んでいる、というモデルが提示されている<ref><pubmed>21797260</pubmed></ref>。
 モノアミンの合成と小胞への輸送は従来、それぞれ独立した過程と考えられていたが、輸送の効率化のため、これらは一連の過程として行われるとする説がある。例えば、シナプス小胞膜上のVMAT2は、ドーパミン合成酵素であるチロシンヒドロキシラーゼや芳香族アミノ酸脱炭酸酵素、シャペロンタンパク質であるHsc70と複合体を形成しており、合成されたドーパミンを素早く効率的に小胞内に取り込んでいる、というモデルが提示されている<ref><pubmed>21797260</pubmed></ref>。


 こうしたメカニズムは神経保護作用の点で重要であり、合成されたモノアミンの細胞質への拡散を最小限に抑え、モノアミンの酸化やそれに伴う神経毒性発現を抑制すると考えられる。細胞質にモノアミンが過剰に存在すると、それらは酸化されキノンやジヒドロキシ化合物に変化する。これら酸化物が産生する活性酸素種が原因となり、神経変性が誘導される。こうした神経毒性発現は、覚醒剤の一種であるメタンフェタミンにおいても見られ、VMAT2ヘテロ欠損マウスではメタンフェタミンによる神経毒性の増強が示されている。また、VMAT2は、MPTPなどの外因性神経毒性物質を小胞内に閉じ込めることにより、活性酸素種による神経変性に対して抑制作用をもつことも分かっている<ref name=ref1 />。
 こうしたメカニズムは神経保護作用の点で重要であり、合成されたモノアミンの細胞質への拡散を最小限に抑え、モノアミンの酸化やそれに伴う神経毒性発現を抑制すると考えられる。細胞質にモノアミンが過剰に存在すると、それらは酸化されキノンやジヒドロキシ化合物に変化する。これら酸化物が産生する活性酸素種が原因となり、神経変性が誘導される。こうした神経毒性発現は、精神刺激薬であるメタンフェタミンにおいても見られ、VMAT2ヘテロ欠損マウスではメタンフェタミンによる神経毒性の増強が示されている。また、VMAT2は、MPTPなどの外因性神経毒性物質を小胞内に閉じ込めることにより、活性酸素種による神経変性に対して抑制作用をもつことも分かっている<ref name=ref1 />。




==依存性薬物とVMAT==
==精神刺激薬とVMAT==
 覚醒剤であるコカイン、メチルフェニデート、メタンフェタミンやアンフェタミンは、モノアミントランスポーターを標的分子としている。[[Image:依存性薬物とVMAT.jpg|thumb|200px|'''図3.モノアミントランスポーターに対する依存性薬物の作用'''<br>文献<ref name=ref2 />から改変]]コカインやメチルフェニデートが細胞膜モノアミントランスポーターの阻害により薬理効果を生じる一方、メタンフェタミンやアンフェタミンはシナプス小胞膜上のVMAT2にも作用する(図3)<ref name=ref2><pubmed>17825265</pubmed></ref>。VMAT2ヘテロ欠損マウスでは、コカインではなく、アンフェタミン投与による行動感作の形成、条件付け場所嗜好性がほとんど見られないことから、アンフェタミンの報酬効果がVMAT2に依存することが示唆されている<ref><pubmed>21118356</pubmed></ref><ref><pubmed>19607959</pubmed></ref>。
 精神刺激薬であるコカイン、メチルフェニデート、メタンフェタミンやアンフェタミンは、モノアミントランスポーターを標的分子としている。[[Image:依存性薬物とVMAT.jpg|thumb|250px|'''図3.モノアミントランスポーターに対する精神刺激薬の作用'''<br>文献<ref name=ref2 />から改変]]コカインやメチルフェニデートが細胞膜モノアミントランスポーターの阻害により薬理効果を生じる一方、メタンフェタミンやアンフェタミンはシナプス小胞膜上のVMAT2にも作用する(図3)<ref name=ref2><pubmed>17825265</pubmed></ref>。VMAT2ヘテロ欠損マウスでは、コカインではなく、アンフェタミン投与による行動感作の形成、条件付け場所嗜好性がほとんど見られないことから、アンフェタミンの報酬効果がVMAT2に依存することが示唆されている<ref><pubmed>9275230</pubmed></ref><ref><pubmed>17377774</pubmed></ref><ref><pubmed>21118356</pubmed></ref>。


 ドーパミン神経終末において、アンフェタミンやメタンフェタミンは、VMAT2によるシナプス小胞内への取り込みを阻害するだけでなく、貯蔵されているドーパミンを細胞質へ放出させることにより、小胞内のドーパミン量を減少させるとともに、細胞質のドーパミン量を増加させる。また、これらの薬剤を投与すると、細胞質に局在するVMAT2を含むシナプス小胞が細胞質外に移動し、細胞質でのドーパミン取り込みが減少する<ref name=ref3><pubmed>14612158</pubmed></ref>。メタンフェタミンを投与したラット脳画分を用いた実験では、粗シナプトソーム画分、及び細胞質画分でVMAT2のタンパク質量が減少することが示されている<ref name=ref4><pubmed>16594636</pubmed></ref>。一方で、コカインやメチルフェニデートも、VMAT2を含むシナプス小胞の細胞内局在を変化させる。これらの薬剤を投与すると、シナプス膜近傍に局在するシナプス小胞が細胞質へと移動し、細胞質でのド-パミン取り込みを増加させるので、細胞質のドーパミン量は減少する<ref name=ref3 />。コカインを投与したラット脳画分を用いた実験では、VMAT2のタンパク質量がシナプス膜画分では減少し、細胞質画分では上昇することが示されている<ref name=ref4 />。コカインやメタンフェタミン投与による、VMAT2を含むシナプス小胞の局在変化については、ドーパミンD2受容体の関与が指摘されている。
 ドーパミン神経終末において、アンフェタミンやメタンフェタミンは、VMAT2によるシナプス小胞内への取り込みを阻害するだけでなく、貯蔵されているドーパミンを細胞質へ放出させることにより、小胞内のドーパミン量を減少させるとともに、細胞質のドーパミン量を増加させる。また、これらの薬剤を投与すると、細胞質に局在するVMAT2を含むシナプス小胞が細胞質外に移動し、細胞質でのドーパミン取り込みが減少する<ref name=ref3><pubmed>14612158</pubmed></ref>。メタンフェタミンを投与したラット脳画分を用いた実験では、粗シナプトソーム画分、及び細胞質画分でVMAT2のタンパク質量が減少することが示されている<ref name=ref4><pubmed>16594636</pubmed></ref>。一方で、コカインやメチルフェニデートも、VMAT2を含むシナプス小胞の細胞内局在を変化させる。これらの薬剤を投与すると、シナプス膜近傍に局在するシナプス小胞が細胞質へと移動し、細胞質でのド-パミン取り込みを増加させるので、細胞質のドーパミン量は減少する<ref name=ref3 />。コカインを投与したラット脳画分を用いた実験では、VMAT2のタンパク質量がシナプス膜画分では減少し、細胞質画分では上昇することが示されている<ref name=ref4 />。コカインやメタンフェタミン投与による、VMAT2を含むシナプス小胞の局在変化については、ドーパミンD2受容体の関与が指摘されている。
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