「場所細胞」の版間の差分

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場所受容野の再配置を観測すると、CA1野,CA3野,歯状回でその再配置度合いが変化することが報告された<ref name="leutgeb" />。この点から、Marrが提言したパターン分離、完成能力 <ref><pubmed>4399412</pubmed></ref>に関して場所細胞の再配置を利用した研究が行われている。歯状回は、最もパターン分離能力が高く、外部環境の微妙な変化によっても場所受容野の再構築が起こる。これに対して、CA1野は、外部環境の変化に線形に対応して場所受容野の再構築が起こり、パターン完成能力が高いといえる。CA3野に関しては、CA1野と歯状回の中間的な反応をする。歯状回に関しては、パターン分離能力よりもパターン完成能力が高いという報告もあったが、Tonegawaらの研究によると、歯状回では新生した顆粒細胞と古い顆粒細胞でパターン分離・完成能力が異なる<ref><pubmed>22365813</pubmed></ref>。このため、電極の留置位置により新生細胞あるいは古い細胞だけを記録する可能性があることから、相反する報告があるものと考えられる。  
場所受容野の再配置を観測すると、CA1野,CA3野,歯状回でその再配置度合いが変化することが報告された<ref name="leutgeb" />。この点から、Marrが提言したパターン分離、完成能力 <ref><pubmed>4399412</pubmed></ref>に関して場所細胞の再配置を利用した研究が行われている。歯状回は、最もパターン分離能力が高く、外部環境の微妙な変化によっても場所受容野の再構築が起こる。これに対して、CA1野は、外部環境の変化に線形に対応して場所受容野の再構築が起こり、パターン完成能力が高いといえる。CA3野に関しては、CA1野と歯状回の中間的な反応をする。歯状回に関しては、パターン分離能力よりもパターン完成能力が高いという報告もあったが、Tonegawaらの研究によると、歯状回では新生した顆粒細胞と古い顆粒細胞でパターン分離・完成能力が異なる<ref><pubmed>22365813</pubmed></ref>。このため、電極の留置位置により新生細胞あるいは古い細胞だけを記録する可能性があることから、相反する報告があるものと考えられる。  


 
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== 場所細胞と加齢  ==
== 場所細胞と加齢  ==
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老齢ラット海馬CA1野の場所細胞は、若齢ラットよりも小さな場所受容野を示す。しかしCA3野では、より大きな場所受容野を示し、発火頻度も高い。 高齢ラットでは、場所受容野の非対称拡張の度合いが減少する。老齢ラットの場所細胞は、すでに体験した親しんだ環境であっても、毎回異なる場所受容野を示す<ref><pubmed>9230435</pubmed></ref>。  
老齢ラット海馬CA1野の場所細胞は、若齢ラットよりも小さな場所受容野を示す。しかしCA3野では、より大きな場所受容野を示し、発火頻度も高い。 高齢ラットでは、場所受容野の非対称拡張の度合いが減少する。老齢ラットの場所細胞は、すでに体験した親しんだ環境であっても、毎回異なる場所受容野を示す<ref><pubmed>9230435</pubmed></ref>。  


 
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== 場所細胞と内側嗅内皮質の格子細胞  ==
== 場所細胞と内側嗅内皮質の格子細胞  ==
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場所細胞の場所情報は、海馬で生成されているのか?Moserらは、海馬の一シナプス上流にあり、海馬への情報入出力を担う内側嗅内皮質(Medial entorhinal cortex)に、単なる場所ではなく、その場所受容野が格子状になる格子細胞(Grid cell)を発見した<ref><pubmed>15333832</pubmed></ref>。格子細胞の場所受容野は、海馬と同様に再配置(Realignment)が起こることが報告されている。嗅内皮質II,III層は海馬へ投射し、海馬はV,VI層へその出力を投射している。しかし、格子細胞は割合などが異なるがいずれの層でも見つかっている。また、海馬を損傷させると、格子細胞の場所受容野が不安定になることから、格子細胞は場所細胞の場所情報の単純な情報源ではなく、海馬と嗅内皮質の相互作用によってそれぞれの場所情報が安定的に形成されると考えられる。  
場所細胞の場所情報は、海馬で生成されているのか?Moserらは、海馬の一シナプス上流にあり、海馬への情報入出力を担う内側嗅内皮質(Medial entorhinal cortex)に、単なる場所ではなく、その場所受容野が格子状になる格子細胞(Grid cell)を発見した<ref><pubmed>15333832</pubmed></ref>。格子細胞の場所受容野は、海馬と同様に再配置(Realignment)が起こることが報告されている。嗅内皮質II,III層は海馬へ投射し、海馬はV,VI層へその出力を投射している。しかし、格子細胞は割合などが異なるがいずれの層でも見つかっている。また、海馬を損傷させると、格子細胞の場所受容野が不安定になることから、格子細胞は場所細胞の場所情報の単純な情報源ではなく、海馬と嗅内皮質の相互作用によってそれぞれの場所情報が安定的に形成されると考えられる。  


 
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== 場所細胞と頭方位細胞  ==
== 場所細胞と頭方位細胞  ==
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1984年にRanckは、ラットのpersubiculumにおいて頭が向いている方向に受容野を持つ錐体細胞を発見し、頭方位細胞(Head direction cell)と名づけた。場所細胞の場所受容野は、方向に依存することもあり、その方向情報は頭方位細胞由来と考えられている。現在では、頭方位細胞はanterior thalamus、retrosplenial cortex、 lateral mammillary nucleus、dorsal tegmental nucleus、striatum、entorhinal cortexにも存在することが明らかになっている。  
1984年にRanckは、ラットのpersubiculumにおいて頭が向いている方向に受容野を持つ錐体細胞を発見し、頭方位細胞(Head direction cell)と名づけた。場所細胞の場所受容野は、方向に依存することもあり、その方向情報は頭方位細胞由来と考えられている。現在では、頭方位細胞はanterior thalamus、retrosplenial cortex、 lateral mammillary nucleus、dorsal tegmental nucleus、striatum、entorhinal cortexにも存在することが明らかになっている。  


 
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== 場所細胞と時間細胞  ==
== 場所細胞と時間細胞  ==
109行目: 109行目:
Eichenbaumらは、場所細胞は場所だけではなく時間も表現していることを報告した<ref><pubmed>17988635</pubmed></ref>。訓練課題に遅延期間を設定すると、ある特定の場所で、ある特定の遅延時間が経過すると発火する場所細胞が存在する。海馬には場所には依存せずにある特定の遅延時間だけを表現している細胞も存在し、時間細胞(Time cell)と呼ばれている。  
Eichenbaumらは、場所細胞は場所だけではなく時間も表現していることを報告した<ref><pubmed>17988635</pubmed></ref>。訓練課題に遅延期間を設定すると、ある特定の場所で、ある特定の遅延時間が経過すると発火する場所細胞が存在する。海馬には場所には依存せずにある特定の遅延時間だけを表現している細胞も存在し、時間細胞(Time cell)と呼ばれている。  


 
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== 霊長類の景観細胞  ==
== 霊長類の景観細胞  ==
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Rollsらは、霊長類の海馬では場所ではなく、視点の先にある景観に反応する細胞が多く存在することを報告し、景観細胞(Spatial view cell)と名づけた。げっ歯類とは異なり、霊長類では視覚系と動眼制御系が発達しているため、実際に訪れなくともその場所についての情報を想起したり探索したりできる。この能力が実際に訪れている場所ではなく、現在見ている景観に反応する景観細胞を形成していると考えられる。  
Rollsらは、霊長類の海馬では場所ではなく、視点の先にある景観に反応する細胞が多く存在することを報告し、景観細胞(Spatial view cell)と名づけた。げっ歯類とは異なり、霊長類では視覚系と動眼制御系が発達しているため、実際に訪れなくともその場所についての情報を想起したり探索したりできる。この能力が実際に訪れている場所ではなく、現在見ている景観に反応する景観細胞を形成していると考えられる。  


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==参考文献==
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(執筆者:高橋晋、櫻井芳雄、担当編集委員:藤田一郎)
(執筆者:高橋晋、櫻井芳雄、担当編集委員:藤田一郎)
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