「テタヌス毒素」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
1行目: 1行目:
英:tetanus toxin、英語略: TeNT、独:Wundstarrkrampf、仏:
英:tetanus toxin、英語略: TeNT、独:Wundstarrkrampf


同義語: tetanus neurotoxin、tetanospasmin  
同義語: tetanus neurotoxin、tetanospasmin  


 テタヌス毒素とは、土壌中に棲息するグラム陽性型の嫌気性細菌であるクロストリジウム属の''Clostridium tetani''により産出される世界最強のタンパク質毒素の1つである。 同属にはボツリヌス毒素があり、これらは分子量約15 kDaの1本のポリペプチド鎖として合成された後、トリプシン様のタンパク質分解酵素による限定分解を受け、分子量約5 kDaの軽鎖と10 kDaの重鎖の2本のポリペプチド鎖となり、これらは1つのジスルフィド結合により連結している。重鎖が、神経細胞の膜にあるガングリオシドに結合し、テタヌス毒素分子の細胞内への侵入を起こす。そして最終的に、重金属依存的なタンパク質分解活性をもつ軽鎖が、神経伝達物質の開口放出を担うSNAREタンパク質のVAMPを分解することにより神経伝達物質であるグリシンやγ-aminobutyric acid(GABA)の放出抑制を抑制し、テタヌスと呼ばれる痙攣性麻痺を引き起こす仕組みとなっている。
 テタヌス毒素とは、土壌中に棲息するグラム陽性型の嫌気性細菌であるクロストリジウム属の''Clostridium tetani''により産出される世界最強のタンパク質毒素の1つである。 同属にはボツリヌス毒素があり、これらは分子量約5 kDaの軽鎖と10 kDaの重鎖の2本のポリペプチド鎖から構成され、1つのジスルフィド結合により連結している。重鎖が、神経細胞の膜にあるガングリオシドに結合し、テタヌス毒素分子の細胞内への侵入を起こす。そして最終的に、重金属依存的なタンパク質分解活性をもつ軽鎖が、神経伝達物質の開口放出を担うSNAREタンパク質のVAMPを分解することにより神経伝達物質の放出抑制を抑制し、テタヌスと呼ばれる痙攣性麻痺を引き起こす仕組みとなっている。


==  テタヌス毒素とは   ==
==  テタヌス毒素とは   ==


 Tetanus(テタヌス)という用語は、それによって起きる強直(麻痺)を”tetanus”として定義したヒポクラテスにより、最初に医学用語に記された。そのテタヌス(破傷風)の原因であるテタヌス毒素 とは、嫌気性細菌である''Clostridium tetani ''により分子量15 kDaの不活性型の単純タンパク質として産出され、菌体外に放出される際に限定分解を受け、N端側の分子量約5 kDaの軽鎖(L)と、C端側の分子量約10 kDaの重鎖(H)の二本鎖がジスルフィド結合によって架橋された4次構造を形成した活性型となる。テタヌス毒素のLD<sub>50</sub>は、マウスの抹消神経へ投与した場合、1 kgあたり0.4 ngから1 ngの間である。テタヌス(破傷風)の発症は、''Clostridium tetani ''の胞子が、傷口から体内に侵入することにより感染が起こる。最初の感染から発症まで数日から4週間と異なるがこれは、(1) 胞子の出芽、(2) 毒素の産出と放出、(3) 脊髄内の標的細胞への毒素の結合と輸送、に必要な時間に相当する。その結果、中枢神経系のシナプス終末から放出される神経伝達物質の阻害を行い、痙性対麻痺を引き起こす。破傷風は通常、開口障害、嚥下障害そして項部硬直などの症状により始まる。麻痺は時間経過に伴い、胴体、腹部そして脚の筋肉へと下部へと広がっていく。破傷風はしばしば致命的となり、全身倦怠、呼吸器系や心不全の後、死に到る。致死率は近年の医学の進歩により減少しているが、高齢者の患者の場合では依然として高い。破傷風のワクチン化(ホルムアルデヒドで処理した毒素)により、破傷風は先進国からはほとんど消失したが、ワクチン化が進んでいない国々では依然として年間数十万人もの人々が亡くなっている。  
 Tetanus(テタヌス)という用語は、それによって起きる強直(麻痺)を”tetanus”として定義したヒポクラテスにより、最初に医学用語に記された<ref>'''Ornella Rossetto and Cesare Montecucco'''<br>Handbook of Experimental Pharmacology 184,129-170<br>''Springer'':2008</ref>。そのテタヌス(破傷風)の原因であるテタヌス毒素 とは、嫌気性細菌である''Clostridium tetani ''により分子量15 kDaの不活性型の単純タンパク質として産出され、菌体外に放出される際に限定分解を受け、N端側の分子量約5 kDaの軽鎖(L)と、C端側の分子量約10 kDaの重鎖(H)の二本鎖がジスルフィド結合によって架橋された4次構造を形成した活性型となる。テタヌス毒素のLD<sub>50</sub>は、マウスの抹消神経へ投与した場合、1 kgあたり0.4 ngから1 ngの間である。テタヌス(破傷風)の発症は、''Clostridium tetani ''の胞子が、傷口から体内に侵入することにより感染が起こる。最初の感染から発症まで数日から4週間と異なるがこれは、(1) 胞子の出芽、(2) 毒素の産出と放出、(3) 脊髄内の標的細胞への毒素の結合と輸送、に必要な時間に相当する。その結果、中枢神経系のシナプス終末から放出される神経伝達物質の阻害を行い、痙性対麻痺を引き起こす。破傷風は通常、開口障害、嚥下障害そして項部硬直などの症状により始まる。麻痺は時間経過に伴い、胴体、腹部そして脚の筋肉へと下部へと広がっていく。破傷風はしばしば致命的となり、全身倦怠、呼吸器系や心不全の後、死に到る。致死率は近年の医学の進歩により減少しているが、高齢者の患者の場合では依然として高い。破傷風のワクチン化(ホルムアルデヒドで処理した毒素)により、破傷風は先進国からはほとんど消失したが、ワクチン化が進んでいない国々では依然として年間数十万人もの人々が亡くなっている。  


== &nbsp;テタヌス毒素の構造&nbsp;  ==
== &nbsp;テタヌス毒素の構造&nbsp;  ==
29行目: 29行目:
== &nbsp;参考文献  ==
== &nbsp;参考文献  ==


&lt;references /&gt;
&lt;references /&gt;  


1.
1.
32

回編集

案内メニュー