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<font size="+1">[https://researchmap.jp/HidetoshiTakahashi 高橋 秀俊]</font><br> | |||
''独立行政法人国立精神・神経医療研究センター''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年4月2日 原稿完成日:2012年4月26日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | |||
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英語名:prepulse inhibition 英語略名:PPI 独:Präpulsinhibition 仏:prepulse inhibition | 英語名:prepulse inhibition 英語略名:PPI 独:Präpulsinhibition 仏:prepulse inhibition | ||
同義語:プレパルス抑制 | |||
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驚愕刺激(パルス)の直前に微弱な刺激(プレパルス)が先行することにより驚愕反応が大幅に抑制される現象をプレパルス・インヒビションという。人と動物の両方で測定することができ、関連する脳部位や遺伝子多型など基礎的・臨床的研究が世界的に行われている。統合失調症患者および統合失調症の[[動物モデル]]の両方で低下が見られることから、統合失調症の[[エンドフェノタイプ]]として用いられることがある。 | |||
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[[ファイル: 脳科学事典PPI.jpg|thumb|300px|'''図.聴覚性驚愕刺激による瞬目反射のプレパルス・インヒビション'''<br />驚愕刺激(パルス)の直前に微弱な刺激(プレパルス)が先行することにより驚愕反応が大幅に抑制される現象をプレパルス・インヒビションという。]] | [[ファイル: 脳科学事典PPI.jpg|thumb|300px|'''図.聴覚性驚愕刺激による瞬目反射のプレパルス・インヒビション'''<br />驚愕刺激(パルス)の直前に微弱な刺激(プレパルス)が先行することにより驚愕反応が大幅に抑制される現象をプレパルス・インヒビションという。]] | ||
==プレパルス・インヒビションとは== | ==プレパルス・インヒビションとは== | ||
突然に強い[[感覚]]刺激を動物に与えることで生じる[[瞬目反射]]などの[[驚愕反応]]が、その強い刺激の直前(30-300msec程度、通常60-120msec)に比較的弱い刺激を先行させることで、抑制される現象をいう<ref name=ref1> | 突然に強い[[感覚]]刺激を動物に与えることで生じる[[瞬目反射]]などの[[驚愕反応]]が、その強い刺激の直前(30-300msec程度、通常60-120msec)に比較的弱い刺激を先行させることで、抑制される現象をいう<ref name=ref1><pubmed> 23429840</pubmed></ref><ref name=ref2><pubmed> 18568339 </pubmed></ref>。PPIは、先行する小さな刺激の情報を直後の強大な刺激から保護するための自動的、[[不随意]]的な抑制システムであるsensorimotor gatingの指標と考えられている。PPIは、単純な非言語性の刺激を用いるため年齢・人種に関係なく施行でき、[[エンドフェノタイプ]]と[[wikipedia:JA:遺伝子|遺伝子]]との関連解析に必要な多数のサンプルを集めやすいという利点がある。さらに、[[wikipedia:JA:ヒト|ヒト]]以外の動物にも認められ、類似のパラダイムを用いて評価が可能であり、1960年代にPPIが発見されて以後[[wikipedia:JA:マウス|マウス]]<ref name=ref3><pubmed> 19397931 </pubmed></ref>などの[[モデル動物]]やヒト<ref name=ref4><pubmed> 17197371</pubmed></ref>を対象に世界的に遺伝子や薬理学的研究など、神経生物学的研究が活発に行われている。PPIは[[視覚]]刺激、[[聴覚]]刺激、[[触覚]]刺激などあらゆる感覚刺激で認められるが、通常、実験などでは聴覚刺激が用いられることが多く、ヒトにおいては聴覚性の瞬目反射における[[wikipedia:JA:眼輪筋|眼輪筋]]の[[wikipedia:JA:筋電図|筋電図]]を用いて評価されることが多い<ref name=ref5><pubmed> 15720576 </pubmed></ref>。 | ||
==影響する因子== | ==影響する因子== | ||
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==遺伝子多型 == | ==遺伝子多型 == | ||
近年PPIと[[遺伝子多型]]との関連について多くの報告があり、これらには[[ | 近年PPIと[[遺伝子多型]]との関連について多くの報告があり、これらには[[カテコール-O-メチル基転移酵素]](COMT) Val158Met、ドーパミンD3受容体(DRD3) Ser9Gly、[[ニューレグリン]]1(NRG1) Arg38Gln、[[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|セロトニン<sub>2A</sub>受容体]](5-HT<sub>2A</sub>) A1438G/T102C、[[ニコチン性アセチルコリン受容体]](nAChR)のα3サブユニット(CHRNA3)、v-rel avian reticuloendotheliosis viral oncogene homolog A (RELA) geneなど、多くの遺伝子多型が含まれる。これらの報告は、PPIが複数の神経系に関連したpolygenetic traitであること、およびgenetic studyにおけるエンドフェノタイプの使用が有用であることを支持していると考えられる<ref name=ref1 />。 | ||
==統合失調症とPPI== | ==統合失調症とPPI== | ||
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PPIの障害は、[[強迫性障害]]や[[心的外傷後ストレス障害]] (posttraumatic stress disorder, PTSD)においても報告されている<ref name=ref3 />。[[自閉症スペクトラム障害]]の聴覚性驚愕反射のPPIは、児童期においては定型発達と有意な差を認めなかったが、成人期では定型発達に比べて減弱していると報告されている<ref name=ref1 />。聴覚性驚愕反射のPPIは8歳頃に成人と同程度まで成熟すると報告されており、児童期からみられる精神障害の場合、PPIの発達的変化についても検討する必要がある。 | PPIの障害は、[[強迫性障害]]や[[心的外傷後ストレス障害]] (posttraumatic stress disorder, PTSD)においても報告されている<ref name=ref3 />。[[自閉症スペクトラム障害]]の聴覚性驚愕反射のPPIは、児童期においては定型発達と有意な差を認めなかったが、成人期では定型発達に比べて減弱していると報告されている<ref name=ref1 />。聴覚性驚愕反射のPPIは8歳頃に成人と同程度まで成熟すると報告されており、児童期からみられる精神障害の場合、PPIの発達的変化についても検討する必要がある。 | ||
==関連項目== | |||
*[[統合失調症]] | |||
*[[中間表現型]] | |||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
<references/> | <references/> | ||