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 リソソーム(リソゾーム、ライソソーム、ライソゾーム、lysosome)は真核生物の細胞小器官の一つである。リソソームの内腔はpH5前後に酸性化されており、種々の加水分解酵素を含む。リソソームは細胞内外成分の分解機能を担い、分解基質はエンドサイトーシス、オートファジーなどの経路によってリソソームに輸送される。リソソームの機能異常はリソソーム病を引き起こす。植物や酵母などでは液胞(vacuole)がリソソームに相当する細胞小器官であると考えられている。
 リソソーム(リソゾーム、ライソソーム、ライソゾーム、lysosome)は真核生物の細胞小器官の一つである。リソソームの内腔はpH5前後に酸性化されており、種々の加水分解酵素を含む。リソソームは細胞内外成分の分解機能を担い、分解基質はエンドサイトーシス、オートファジーなどの経路によってリソソームに輸送される。リソソームの機能異常はリソソーム病を引き起こす。植物や酵母などでは液胞(vacuole)がリソソームに相当する細胞小器官であると考えられている。


 リソソームは1955年にド・デューブ(Christian de Duve)によって細胞分画法・生化学的手法を用いて発見された<ref><pubmed> 13249955 </pubmed></ref>。ド・デューブはラット肝臓へのインスリンの作用を解析する過程で、肝細胞内の加水分解酵素を含む顆粒が膜に包まれていることを偶然発見し、それらの顆粒をギリシア語の”lyso”(分解する)+”soma”(小体)を語源としてlysosomeと名付けた。さらに電子顕微鏡を用いてリソソームが実際に細胞小器官であることを1956年に報告した<ref><pubmed> 13357540 </pubmed></ref>。ド・デューブは「細胞の構造と機能に関する諸発見」によってクロード(Albert Claude)、パラーデ(George E. Palade)と共に1974年にノーベル医学生理学賞を受賞した。
 リソソームは1955年にド・デューブ(Christian de Duve)によって細胞分画法・生化学的手法を用いて発見された<ref name="ref1"><pubmed> 13249955 </pubmed></ref>。ド・デューブはラット肝臓へのインスリンの作用を解析する過程で、肝細胞内の加水分解酵素を含む顆粒が膜に包まれていることを偶然発見し、それらの顆粒をギリシア語の”lyso”(分解する)+”soma”(小体)を語源としてlysosomeと名付けた。さらに電子顕微鏡を用いてリソソームが実際に細胞小器官であることを1956年に報告した<ref name="ref2"><pubmed> 13357540 </pubmed></ref>。ド・デューブは「細胞の構造と機能に関する諸発見」によってクロード(Albert Claude)、パラーデ(George E. Palade)と共に1974年にノーベル医学生理学賞を受賞した。
[[Image:FigLysosome.jpg|thumb|500px|'''図 リソソームへの経路と機能'''<br>リソソームは細胞内外成分の分解機能を担い、エンドサイトーシス経路(ピノサイト―シス、ファゴサイトーシス)やオートファジー経路(マクロ、シャペロン介在性、ミクロ)を経由して運ばれてきた基質を分解する。細胞外成分、EGF・EGF受容体、病原体などはエンドサイトーシス経路でリソソームへ輸送される。サイトゾル成分や細胞内小器官などはオートファジー経路でリソソームへ輸送される。リソソーム膜上にはV-ATPaseが存在し、内腔を酸性化する。リソソーム内には各種加水分解酵素が存在し、基質をアミノ酸、脂質、糖などにまで分解する。リソソームはエキソサイト―シスされることもある。リソソーム構成タンパク質の多くは、トランスゴルジ網から生合成経路を通り、後期エンドソームに運ばれた後、リソソームに到達する。膜タンパク質の一部は、構成性分泌経路で細胞膜に出た後、エンドサイトーシス経路でリソソームに運ばれる。]]
[[Image:FigLysosome.jpg|thumb|500px|'''図 リソソームへの経路と機能'''<br>リソソームは細胞内外成分の分解機能を担い、エンドサイトーシス経路(ピノサイト―シス、ファゴサイトーシス)やオートファジー経路(マクロ、シャペロン介在性、ミクロ)を経由して運ばれてきた基質を分解する。細胞外成分、EGF・EGF受容体、病原体などはエンドサイトーシス経路でリソソームへ輸送される。サイトゾル成分や細胞内小器官などはオートファジー経路でリソソームへ輸送される。リソソーム膜上にはV-ATPaseが存在し、内腔を酸性化する。リソソーム内には各種加水分解酵素が存在し、基質をアミノ酸、脂質、糖などにまで分解する。リソソームはエキソサイト―シスされることもある。リソソーム構成タンパク質の多くは、トランスゴルジ網から生合成経路を通り、後期エンドソームに運ばれた後、リソソームに到達する。膜タンパク質の一部は、構成性分泌経路で細胞膜に出た後、エンドサイトーシス経路でリソソームに運ばれる。]]


==種類と構造==
==種類と構造==


 リソソームは6~10 nmの一重の生体膜に囲まれた直径0.1~1.2 μmの細胞小器官である。リソソームは極めて動的な存在であることから、様々な名称で分類されてきた。一次リソソーム(primary lysosome)は分解基質を含まないリソソームを指し、内部均一な高電子密度顆粒である。エンドソーム、ファゴソーム、オートファゴソームと融合し分解基質を含んだ一次リソソームは二次リソソーム(secondary lysosome)と呼ばれる。二次リソソームの大きさや形態は多様性に富んでおり、内部に基質由来の小粒子、層板構造を認めることが多い。二次リソソームはさらに基質の輸送経路に従ってファゴリソソーム(phagolysosome)、オートリソソーム(autolysosome)などとも呼ばれるが、両者は相互排他的ではないため明確に区別できない。またリソソームの生合成過程で出現する未成熟なリソソームはリソソーム前駆体(protolysosome)と呼ばれ、トランスゴルジ網から一次リソソームが新規合成される際や、二次リソソームからのリサイクルによって一次リソソームが再合成される際などに認められる<ref><pubmed> 20526321 </pubmed></ref>。未分解基質を多量に蓄積したリソソームは残余小体(residual body)と呼ばれ、老齢個体の肝細胞、心筋細胞、神経細胞などで認める。残余小体は「消耗性色素」「リポフスチン顆粒」とも呼ばれ、しばしば自家蛍光を発する。
 リソソームは6~10 nmの一重の生体膜に囲まれた直径0.1~1.2 μmの細胞小器官である。リソソームは極めて動的な存在であることから、様々な名称で分類されてきた。一次リソソーム(primary lysosome)は分解基質を含まないリソソームを指し、内部均一な高電子密度顆粒である。エンドソーム、ファゴソーム、オートファゴソームと融合し分解基質を含んだ一次リソソームは二次リソソーム(secondary lysosome)と呼ばれる。二次リソソームの大きさや形態は多様性に富んでおり、内部に基質由来の小粒子、層板構造を認めることが多い。二次リソソームはさらに基質の輸送経路に従ってファゴリソソーム(phagolysosome)、オートリソソーム(autolysosome)などとも呼ばれるが、両者は相互排他的ではないため明確に区別できない。またリソソームの生合成過程で出現する未成熟なリソソームはリソソーム前駆体(protolysosome)と呼ばれ、トランスゴルジ網から一次リソソームが新規合成される際や、二次リソソームからのリサイクルによって一次リソソームが再合成される際などに認められる<ref name="ref3"><pubmed> 20526321 </pubmed></ref>。未分解基質を多量に蓄積したリソソームは残余小体(residual body)と呼ばれ、老齢個体の肝細胞、心筋細胞、神経細胞などで認める。残余小体は「消耗性色素」「リポフスチン顆粒」とも呼ばれ、しばしば自家蛍光を発する。


==構成タンパク質==
==構成タンパク質==
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===膜タンパク質===
===膜タンパク質===


 リソソーム膜タンパク質は100種類以上存在し、多くは内腔側に向け高度に糖鎖修飾されている。それらの糖鎖修飾は、加水分解酵素の作用から逃れるために重要であると考えられている。主要なリソソーム膜タンパク質としては、LAMP-1、LAMP-2、LIMP-2などがあり、これらは全リソソーム膜タンパク質量の50%以上を占める<ref><pubmed> 19672277 </pubmed></ref>。LAMP-2はリソソーム病のダノン病の原因遺伝子として知られている。
 リソソーム膜タンパク質は100種類以上存在し、多くは内腔側に向け高度に糖鎖修飾されている。それらの糖鎖修飾は、加水分解酵素の作用から逃れるために重要であると考えられている。主要なリソソーム膜タンパク質としては、LAMP-1、LAMP-2、LIMP-2などがあり、これらは全リソソーム膜タンパク質量の50%以上を占める<ref name="ref4"><pubmed> 19672277 </pubmed></ref>。LAMP-2はリソソーム病のダノン病の原因遺伝子として知られている。


 リソソーム膜には液胞型プロトンポンプ(V型/液胞型ATPアーゼ、vacuolar proton-translocating ATPase、vacuolar type H+-ATPase、V-ATPase)や塩化物イオンチャネル(chloride channel)が存在し、リソソーム内腔にそれぞれ水素イオン、塩化物イオンを輸送することで、内腔を低いpHに維持している。V-ATPaseは多数のサブユニットから構成される超分子複合体であり、ATPを加水分解する親水性の触媒頭部(V1)と、水素イオンを輸送する膜内在性部分(V0)から構成される。ATPの加水分解反応と共役した回転触媒機構によって水素イオンをリソソーム内に輸送する。V-ATPaseは進化的、構造的にミトコンドリアに局在するF-ATPase(ATP合成酵素)に類似している。
 リソソーム膜には液胞型プロトンポンプ(V型/液胞型ATPアーゼ、vacuolar proton-translocating ATPase、vacuolar type H+-ATPase、V-ATPase)や塩化物イオンチャネル(chloride channel)が存在し、リソソーム内腔にそれぞれ水素イオン、塩化物イオンを輸送することで、内腔を低いpHに維持している。V-ATPaseは多数のサブユニットから構成される超分子複合体であり、ATPを加水分解する親水性の触媒頭部(V1)と、水素イオンを輸送する膜内在性部分(V0)から構成される。ATPの加水分解反応と共役した回転触媒機構によって水素イオンをリソソーム内に輸送する。V-ATPaseは進化的、構造的にミトコンドリアに局在するF-ATPase(ATP合成酵素)に類似している。


 リソソーム膜には最終分解産物(アミノ酸、ジペプチド、トリペプチド、糖、核酸、無機イオン、ビタミン、コレステロール、リン脂質など)を細胞質に送り出す様々なトランスポーターが存在しており、分解産物の再利用に重要である<ref><pubmed> 19146888 </pubmed></ref>。これらのトランスポーターの多くは水素イオンの濃度勾配を利用した二次性能動輸送によって基質を共輸送すると考えられている。例えば最初に同定されたリソソーム膜トランスポーターであるCystinosinは、アミノ酸のシスチンを水素イオンとともにリソソーム外へ共輸送するアミノ酸トランスポーターである。Cystinosinはリソソーム病のシスチノーシスの原因遺伝子として同定されている。
 リソソーム膜には最終分解産物(アミノ酸、ジペプチド、トリペプチド、糖、核酸、無機イオン、ビタミン、コレステロール、リン脂質など)を細胞質に送り出す様々なトランスポーターが存在しており、分解産物の再利用に重要である<ref name="ref5"><pubmed> 19146888 </pubmed></ref>。これらのトランスポーターの多くは水素イオンの濃度勾配を利用した二次性能動輸送によって基質を共輸送すると考えられている。例えば最初に同定されたリソソーム膜トランスポーターであるCystinosinは、アミノ酸のシスチンを水素イオンとともにリソソーム外へ共輸送するアミノ酸トランスポーターである。Cystinosinはリソソーム病のシスチノーシスの原因遺伝子として同定されている。


===局在化機構===
===局在化機構===
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 リソソームの生合成機構については、4つのモデルが提唱されている<ref name="ref4" />。①成熟モデル:初期エンドソームが、後期エンドソーム、リソソームへと成熟する。②小胞輸送モデル:初期エンドソーム、後期エンドソーム、リソソームはそれぞれ独立しており、それらの間の輸送は小胞を介する。③Kiss-and-runモデル:後期エンドソームとリソソームが一時的な融合(kiss)と解離(run)を繰り返す過程で、内容物や膜成分を分配し、リソソームへと成熟する(成熟モデルの変形型)。④直接融合モデル:後期エンドソームとリソソームが直接融合しハイブリッドオルガネラを形成した後、両者が再形成される。
 リソソームの生合成機構については、4つのモデルが提唱されている<ref name="ref4" />。①成熟モデル:初期エンドソームが、後期エンドソーム、リソソームへと成熟する。②小胞輸送モデル:初期エンドソーム、後期エンドソーム、リソソームはそれぞれ独立しており、それらの間の輸送は小胞を介する。③Kiss-and-runモデル:後期エンドソームとリソソームが一時的な融合(kiss)と解離(run)を繰り返す過程で、内容物や膜成分を分配し、リソソームへと成熟する(成熟モデルの変形型)。④直接融合モデル:後期エンドソームとリソソームが直接融合しハイブリッドオルガネラを形成した後、両者が再形成される。


 これらのモデルのうちいずれが正しいかについてはまだ決着がついていないが、共焦点顕微鏡を用いた生細胞タイムラプス観察の結果では、Kiss-and-runおよび直接融合が主な生合成機構であるとの報告がある<ref><pubmed> 15723798 </pubmed></ref>。また長時間の飢餓条件下では、マクロオートファジーによって形成されたオートリソソームからもリサイクルによってリソソームが再合成される<ref name="ref3" />。この場合の再合成はmTORC1複合体の再活性化に依存しており、オートリソソームから伸長したチューブ様構造体から小胞(リソソーム前駆体)が出芽し、それらがリソソームに成熟する。
 これらのモデルのうちいずれが正しいかについてはまだ決着がついていないが、共焦点顕微鏡を用いた生細胞タイムラプス観察の結果では、Kiss-and-runおよび直接融合が主な生合成機構であるとの報告がある<ref name="ref6"><pubmed> 15723798 </pubmed></ref>。また長時間の飢餓条件下では、マクロオートファジーによって形成されたオートリソソームからもリサイクルによってリソソームが再合成される<ref name="ref3" />。この場合の再合成はmTORC1複合体の再活性化に依存しており、オートリソソームから伸長したチューブ様構造体から小胞(リソソーム前駆体)が出芽し、それらがリソソームに成熟する。


 リソソーム生合成のマスター遺伝子としては、転写因子TFEBが同定されている<ref><pubmed> 19556463 </pubmed></ref>。リソソーム構成タンパク質の多くはプロモーター領域に共通の配列モチーフを持っており、それらの配列にTFEBが結合して遺伝子発現を誘導することで、リソソーム生合成が促進される。TFEBは通常はリソソーム膜上に局在しているが、飢餓やリソソームストレス条件下では核に移行し、遺伝子発現を誘導すると考えられている。
 リソソーム生合成のマスター遺伝子としては、転写因子TFEBが同定されている<ref name="ref7"><pubmed> 19556463 </pubmed></ref>。リソソーム構成タンパク質の多くはプロモーター領域に共通の配列モチーフを持っており、それらの配列にTFEBが結合して遺伝子発現を誘導することで、リソソーム生合成が促進される。TFEBは通常はリソソーム膜上に局在しているが、飢餓やリソソームストレス条件下では核に移行し、遺伝子発現を誘導すると考えられている。


==分解基質の輸送経路==
==分解基質の輸送経路==
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 リソソームは細胞内の分解装置としてだけでなく、他にも様々な機能を有している。リソソームのエキソサイト―シスは、損傷した細胞膜の修復、細胞外マトリクスの分解、骨融解などに関与する。またリソソーム膜の透過性亢進と細胞死との関連も報告されている。
 リソソームは細胞内の分解装置としてだけでなく、他にも様々な機能を有している。リソソームのエキソサイト―シスは、損傷した細胞膜の修復、細胞外マトリクスの分解、骨融解などに関与する。またリソソーム膜の透過性亢進と細胞死との関連も報告されている。


 リソソームは細胞内の栄養状態(アミノ酸など)を感知する場としても重要である。mTORC1複合体は細胞内のアミノ酸濃度を感知して、細胞成長・代謝・タンパク質合成などの様々な細胞機能を制御する重要なシグナル因子であるが、その活性化はリソソーム膜上で起こる<ref><pubmed> 20381137 </pubmed></ref>。mTORC1複合体は低栄養条件下では不活性型として細胞質に存在するが、細胞内のアミノ酸濃度が上昇すると、リソソーム膜上の活性型Rag複合体(GTP型RagA/B、GDP型RagC/D)と結合することでリソソームへ移行し、活性化される。Rag複合体はRagulatorと呼ばれるリソソーム膜タンパク質を含む複合体(p14、MP1、p18)を介してリソソーム膜上に恒常的に局在している<ref><pubmed> 20381137 </pubmed></ref>。
 リソソームは細胞内の栄養状態(アミノ酸など)を感知する場としても重要である。mTORC1複合体は細胞内のアミノ酸濃度を感知して、細胞成長・代謝・タンパク質合成などの様々な細胞機能を制御する重要なシグナル因子であるが、その活性化はリソソーム膜上で起こる<ref name="ref8"><pubmed> 20381137 </pubmed></ref>。mTORC1複合体は低栄養条件下では不活性型として細胞質に存在するが、細胞内のアミノ酸濃度が上昇すると、リソソーム膜上の活性型Rag複合体(GTP型RagA/B、GDP型RagC/D)と結合することでリソソームへ移行し、活性化される。Rag複合体はRagulatorと呼ばれるリソソーム膜タンパク質を含む複合体(p14、MP1、p18)を介してリソソーム膜上に恒常的に局在している<ref name="ref8">。


 さらに細胞内のアミノ酸濃度を感知するセンサータンパク質の多くもリソソーム膜上に局在する。最近、ロイシルtRNA合成酵素が細胞内のロイシン濃度を感知してリソソームに移行し、Rag複合体を活性化することが報告された<ref><pubmed> 22424946 </pubmed></ref>。ロイシルtRNA合成酵素は、細胞内ロイシン濃度が上昇するとRag複合体と結合し、細胞質からリソソーム膜上へ移行する。さらにRagDのGAPとして機能することでRag複合体を活性型に変換し、mTORC1複合体をリソソームへ移行させると考えられている。ロイシルtRNA合成酵素は酵母でも保存されており、液胞膜上でのロイシン依存的なTOR活性化に必要である。一方、リソソーム内腔のアミノ酸がV-APTaseの構造変化を介してRag複合体やmTOR複合体の活性を制御するという報告もあり<ref><pubmed> 22053050 </pubmed></ref>、リソソーム自体が積極的に細胞機能を制御している可能性も示唆されている。
 さらに細胞内のアミノ酸濃度を感知するセンサータンパク質の多くもリソソーム膜上に局在する。最近、ロイシルtRNA合成酵素が細胞内のロイシン濃度を感知してリソソームに移行し、Rag複合体を活性化することが報告された<ref name="ref9"><pubmed> 22424946 </pubmed></ref>。ロイシルtRNA合成酵素は、細胞内ロイシン濃度が上昇するとRag複合体と結合し、細胞質からリソソーム膜上へ移行する。さらにRagDのGAPとして機能することでRag複合体を活性型に変換し、mTORC1複合体をリソソームへ移行させると考えられている。ロイシルtRNA合成酵素は酵母でも保存されており、液胞膜上でのロイシン依存的なTOR活性化に必要である。一方、リソソーム内腔のアミノ酸がV-APTaseの構造変化を介してRag複合体やmTOR複合体の活性を制御するという報告もあり<ref name="ref10"><pubmed> 22053050 </pubmed></ref>、リソソーム自体が積極的に細胞機能を制御している可能性も示唆されている。


==リソソーム病==
==リソソーム病==


 リソソーム病(ライソゾーム病、リソゾーム病、リソソーム蓄積症、lysosomal disease、lysosomal storage disease)は、リソソーム酵素の欠損や輸送障害によって発症する遺伝性疾患である。1963年にden Hersによってリソソーム病の概念が確立された<ref><pubmed> 14280390 </pubmed></ref>。リソソーム酵素が欠損すると、リソソーム内に未分解の基質(脂質やムコ多糖など)が大量に蓄積する。現在までに約60種類のリソソーム病が知られており、多くは劣性遺伝形式である。罹病率は出生5000-8000人あたり1人である。我が国では「ライソゾーム病」という名称で国の特定疾患(難病)に指定されている。リソソーム病の症状は欠損酵素の種類によって異なるが、肝脾腫、骨変形、中枢神経障害(精神運動発達遅滞、痙攣など)、眼障害、腎障害、心不全などの様々な症状を呈する。治療法として一部の疾患で酵素補充療法、造血幹細胞移植などが行われている。
 リソソーム病(ライソゾーム病、リソゾーム病、リソソーム蓄積症、lysosomal disease、lysosomal storage disease)は、リソソーム酵素の欠損や輸送障害によって発症する遺伝性疾患である。1963年にden Hersによってリソソーム病の概念が確立された<ref name="ref11"><pubmed> 14280390 </pubmed></ref>。リソソーム酵素が欠損すると、リソソーム内に未分解の基質(脂質やムコ多糖など)が大量に蓄積する。現在までに約60種類のリソソーム病が知られており、多くは劣性遺伝形式である。罹病率は出生5000-8000人あたり1人である。我が国では「ライソゾーム病」という名称で国の特定疾患(難病)に指定されている。リソソーム病の症状は欠損酵素の種類によって異なるが、肝脾腫、骨変形、中枢神経障害(精神運動発達遅滞、痙攣など)、眼障害、腎障害、心不全などの様々な症状を呈する。治療法として一部の疾患で酵素補充療法、造血幹細胞移植などが行われている。


 リソソーム病は欠損酵素の種類、蓄積物質の種類、リソソームタンパク質の種類など様々なカテゴリーで分類されている。リソソームタンパク質の種類に基づいた分類<ref><pubmed> 15126978 </pubmed></ref>を表に示す。
 リソソーム病は欠損酵素の種類、蓄積物質の種類、リソソームタンパク質の種類など様々なカテゴリーで分類されている。リソソームタンパク質の種類に基づいた分類<ref name="ref12"><pubmed> 15126978 </pubmed></ref>を表に示す。


{| border="1" cellspacing="1" cellpadding="1"
{| border="1" cellspacing="1" cellpadding="1"
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==リソソーム関連オルガネラ==
==リソソーム関連オルガネラ==


 リソソーム関連オルガネラ(Lysosome-related organelle)は、リソソームの性質の一部を保持しながらも、細胞特異的に特殊な機能を担うようになったオルガネラである<ref><pubmed> 10877819 </pubmed></ref>。リソソーム関連オルガネラの機能は主に生理活性物質の貯蓄、活性化、分泌である。制御性分泌を担うリソソーム関連オルガネラは分泌型リソソーム(secretory lysosome)とも呼ばれる。チェディアック・東症候群(Chédiak-Higashi syndrome)やヘルマンスキー・パドラック症候群(Hermansky-Pudlak syndrome)などの疾患では、リソソームだけでなくリソソーム関連オルガネラの一部も機能障害を来たすことが報告されている<ref><pubmed> 10877819 </pubmed></ref>。以下、代表的なリソソーム関連オルガネラの例を挙げる。
 リソソーム関連オルガネラ(Lysosome-related organelle)は、リソソームの性質の一部を保持しながらも、細胞特異的に特殊な機能を担うようになったオルガネラである<ref name="ref13"><pubmed> 10877819 </pubmed></ref>。リソソーム関連オルガネラの機能は主に生理活性物質の貯蓄、活性化、分泌である。制御性分泌を担うリソソーム関連オルガネラは分泌型リソソーム(secretory lysosome)とも呼ばれる。チェディアック・東症候群(Chédiak-Higashi syndrome)やヘルマンスキー・パドラック症候群(Hermansky-Pudlak syndrome)などの疾患では、リソソームだけでなくリソソーム関連オルガネラの一部も機能障害を来たすことが報告されている<ref name="ref13">。以下、代表的なリソソーム関連オルガネラの例を挙げる。


===メラノソーム===
===メラノソーム===


 メラノソーム(Melanosome)はメラノサイト、虹彩色素上皮細胞、網膜色素上皮細胞に存在する。内腔はpH5前後に酸性化されており、加水分解酵素やLAMP-1/2などを有する<ref><pubmed> 10877819 </pubmed></ref>。メラノソームにはメラニン色素が蓄積されており、エキソサイト―シスによって細胞外に放出される。放出された色素は皮膚では角化細胞に取り込まれる。
 メラノソーム(Melanosome)はメラノサイト、虹彩色素上皮細胞、網膜色素上皮細胞に存在する。内腔はpH5前後に酸性化されており、加水分解酵素やLAMP-1/2などを有する<ref name="ref13">。メラノソームにはメラニン色素が蓄積されており、エキソサイト―シスによって細胞外に放出される。放出された色素は皮膚では角化細胞に取り込まれる。


===溶菌性顆粒===
===溶菌性顆粒===
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===リソソーム親和性アミン===
===リソソーム親和性アミン===


 ド・デューブはリソソームに選択的に取り込まれ薬効を発揮する薬剤のコンセプトを1974年に考案し、その性質をlysosomotropism、その性質を持つ薬剤をlysosomotropic agentと名付けた<ref><pubmed> 4606365 </pubmed></ref>。これらの薬剤の多くはリソソーム(酸性コンパートメント)内に到達するとプロトン化され電荷を帯びるため、膜透過性が低下し、リソソーム内に蓄積する。リソソーム内の薬剤濃度は細胞外の約100-1000倍に達するため、しばしば浸透圧膨張によってリソソームの空胞化を引き起こす。塩化アンモニウム(ammonium chloride、NH4Cl)、クロロキン(chloroquine)、メチルアミン(methylamine、CH3NH2)などの弱塩基アミンは、リソソームのpHを上昇させ、リソソーム機能を抑制する。
 ド・デューブはリソソームに選択的に取り込まれ薬効を発揮する薬剤のコンセプトを1974年に考案し、その性質をlysosomotropism、その性質を持つ薬剤をlysosomotropic agentと名付けた<ref name="ref14"><pubmed> 4606365 </pubmed></ref>。これらの薬剤の多くはリソソーム(酸性コンパートメント)内に到達するとプロトン化され電荷を帯びるため、膜透過性が低下し、リソソーム内に蓄積する。リソソーム内の薬剤濃度は細胞外の約100-1000倍に達するため、しばしば浸透圧膨張によってリソソームの空胞化を引き起こす。塩化アンモニウム(ammonium chloride、NH4Cl)、クロロキン(chloroquine)、メチルアミン(methylamine、CH3NH2)などの弱塩基アミンは、リソソームのpHを上昇させ、リソソーム機能を抑制する。


===液胞型プロトンポンプ阻害剤===
===液胞型プロトンポンプ阻害剤===
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