「身体図式」の版間の差分

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身体図式 (英:Body schema, 類義語:Body image)  
= '''身体図式 (英:Body schema, 類義語:Body image)'''  =


要約 じぶんが今椅子に座っていること、また、右足を左足の上に組んでいることをひとは観察によることなく直接知っている。あるいは、暗闇であってもじぶんが蚊に刺されれば、即座にその身体箇所に手のひらを持っていくことができる。このような場面で働いている身体に関わる潜在的な知覚の枠組みのことを、身体図式という(Head and Holmes, 1911, 1912)。  
要約 じぶんが今椅子に座っていること、また、右足を左足の上に組んでいることをひとは観察によることなく直接知っている。あるいは、暗闇であってもじぶんが蚊に刺されれば、即座にその身体箇所に手のひらを持っていくことができる。このような場面で働いている身体に関わる潜在的な知覚の枠組みのことを、身体図式という(Head and Holmes, 1911, 1912)。  
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身体に関わる意識 意識下で作動する身体図式は、身体イメージとは区別される (body image)。身体イメージとは、「私は、身長170cmで、瘦せ型である。大きな耳を持っている。」というような顕在的な自己身体に関する知識を指す(Gallagher, Tanaka)。自己概念としての身体と区別して、潜在的な身体図式の存在を主張する根拠とされてきた現象が、幻影肢である。幻影肢とは、戦場での負傷や交通事故などによって、四肢を切断する手術を受けたひとが、既に存在しないはずの手足の末端に痛み(幻肢痛)やかゆみを感じる現象を指す。幻影肢は、特に手足の切断手術の場合は90%以上という高い頻度で出現するが、 四肢に限らず、顔面、乳房、耳、内蔵など身体のどの部分でも生じ、時間の経過とともにほぼ消失すると言われている。  
身体に関わる意識 意識下で作動する身体図式は、身体イメージとは区別される (body image)。身体イメージとは、「私は、身長170cmで、瘦せ型である。大きな耳を持っている。」というような顕在的な自己身体に関する知識を指す(Gallagher, Tanaka)。自己概念としての身体と区別して、潜在的な身体図式の存在を主張する根拠とされてきた現象が、幻影肢である。幻影肢とは、戦場での負傷や交通事故などによって、四肢を切断する手術を受けたひとが、既に存在しないはずの手足の末端に痛み(幻肢痛)やかゆみを感じる現象を指す。幻影肢は、特に手足の切断手術の場合は90%以上という高い頻度で出現するが、 四肢に限らず、顔面、乳房、耳、内蔵など身体のどの部分でも生じ、時間の経過とともにほぼ消失すると言われている。  


田中は現象学的な観点から幻影肢と身体図式の関係について、次のように述べている。 「(幻影肢)このような現象に即して忠実に考える限り、我々は以下のような条件を満たすものとして身体図式の存在を想定せざるを得ない。第一に、既に失われた部位の知覚が生じているのだから、欠損した部位からは相対的に独立した機能であること。第二に、通常の状態では意識されず、四肢が欠如したことによって初めて意識されるような潜在的な機能であるあること。第三に、時間の経過ともに消失するような可変的な性質を持つこと。第四に、四肢のすべと関連し、それを全体として統合する機能を持つこと。それゆえ、四肢のどれかが切断されても、全体としての身体図式は、従来のまま働き続けることができる。身体が単なる物でもなく、また純粋な意識でもないことを示しているのが幻影肢という現象であり、意識と身体の結び目として機能しているものこそ身体図式である。」
田中は現象学的な観点から幻影肢と身体図式の関係について、次のように述べている。 「(幻影肢)このような現象に即して忠実に考える限り、我々は以下のような条件を満たすものとして身体図式の存在を想定せざるを得ない。第一に、既に失われた部位の知覚が生じているのだから、欠損した部位からは相対的に独立した機能であること。第二に、通常の状態では意識されず、四肢が欠如したことによって初めて意識されるような潜在的な機能であるあること。第三に、時間の経過ともに消失するような可変的な性質を持つこと。第四に、四肢のすべと関連し、それを全体として統合する機能を持つこと。それゆえ、四肢のどれかが切断されても、全体としての身体図式は、従来のまま働き続けることができる。身体が単なる物でもなく、また純粋な意識でもないことを示しているのが幻影肢という現象であり、意識と身体の結び目として機能しているものこそ身体図式である。」  


<br> 身体図式の障害と神経心理学的症状 頭頂葉の損傷が身体の感覚や認識を障害することは神経心理学的研究によって明らかにされてきた。身体図式の障害について、Wolpertら(1998)は、左上頭頂小葉の損傷で、右上・下肢の身体位置感覚が閉眼によって失われるという症例を報告している。この症例は、身体図式が体性感覚と視覚情報の統合を必要とし、頭頂連合野が強く関わっていることを示した。 また右頭頂葉の損傷では、自分の左半分の空間を認識しない左半側空間無視の症状が観察される(XXXX, xxxx)。自己の左半身の身体の存在を意識しなくなるという意味で、 半側身体失認を伴う場合がある。患者はしばしば、顔の左半分の化粧をしなかったり、服を着ても左半分をきちんと着れなかったりする。この他にも頭頂葉の損傷は、身体図式と身体イメージを含めた広義の身体意識に関わる症状を引き起こすことが報告されている(例えば、病体失認、身体失認、身体部位失認)。  
<br> 身体図式の障害と神経心理学的症状 頭頂葉の損傷が身体の感覚や認識を障害することは神経心理学的研究によって明らかにされてきた。身体図式の障害について、Wolpertら(1998)は、左上頭頂小葉の損傷で、右上・下肢の身体位置感覚が閉眼によって失われるという症例を報告している。この症例は、身体図式が体性感覚と視覚情報の統合を必要とし、頭頂連合野が強く関わっていることを示した。 また右頭頂葉の損傷では、自分の左半分の空間を認識しない左半側空間無視の症状が観察される(XXXX, xxxx)。自己の左半身の身体の存在を意識しなくなるという意味で、 半側身体失認を伴う場合がある。患者はしばしば、顔の左半分の化粧をしなかったり、服を着ても左半分をきちんと着れなかったりする。この他にも頭頂葉の損傷は、身体図式と身体イメージを含めた広義の身体意識に関わる症状を引き起こすことが報告されている(例えば、病体失認、身体失認、身体部位失認)。  
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