「リソソーム」の版間の差分

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| '''原因遺伝子'''
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| rowspan="38" | '''加水分解酵素活性の障害'''  
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|'''ムコ多糖の分解障害([[wikipedia:JA:ムコ多糖症|ムコ多糖症]]、[[wikipedia:Mucopolysaccharidosis|Mucopolysaccharidoses]])'''
|'''ムコ多糖の分解障害([[wikipedia:JA:ムコ多糖症|ムコ多糖症]]、[[wikipedia:Mucopolysaccharidosis|Mucopolysaccharidoses]])'''
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|糖原病Ⅱ型([[wikipedia:JA:ポンぺ病|ポンペ病]][[wikipedia:Glycogen storage disease type II|Glycogen storage disease type II]]、[[wikipedia:Pompe's disease|Pompe disease]])
|[[wikipedia:JA:ポンぺ病|ポンペ病]](糖原病Ⅱ型、[[wikipedia:Pompe's disease|Pompe disease]]、[[wikipedia:Glycogen storage disease type II|Glycogen storage disease type II]])
|[[wikipedia:Acid alpha-glucosidase|α-Glucosidase]]
|[[wikipedia:Acid alpha-glucosidase|α-Glucosidase]]
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===メラノソーム===
===メラノソーム===


 [[wikipedia:JA:メラノソーム|メラノソーム]](Melanosome)は[[wikipedia:JA:メラニン細胞|メラノサイト]]、虹彩色素上皮細胞、網膜色素上皮細胞に存在する。内腔はpH5前後に酸性化されており、加水分解酵素やLAMP-1/2などを有する<ref name="ref14" />。メラノソームにはメラニン色素が蓄積されており、エキソサイト―シスによって細胞外に放出される。放出された色素は皮膚では角化細胞に取り込まれる。
 [[wikipedia:JA:メラノソーム|メラノソーム]][[wikipedia:JA:メラニン細胞|メラノサイト]]、[[wikipedia:JA:虹彩|虹彩]]色素上皮細胞、[[wikipedia:JA:網膜|網膜]]色素上皮細胞に存在する。内腔はpH5前後に酸性化されており、加水分解酵素やLAMP-1/2などを有する<ref name="ref14" />。メラノソームには[[wikipedia:JA:メラニン|メラニン]]色素が蓄積されており、[[エキソサイト―シス]]によって細胞外に放出される。放出された色素は皮膚ではケラチノサイトに取り込まれる。


===溶菌性顆粒===
===溶菌性顆粒===
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===血小板密顆粒===
===血小板密顆粒===


 血小板密顆粒(Platelet-dense granule、delta granule)は血小板、巨核球に存在する。内腔はpH6前後に酸性化されており、LAMP-2などを有する。血小板密顆粒はカルシウム、セロトニン、ADP、ATP、ピロリン酸などを含んでおり、それらの分泌は血液凝固反応に重要である。
 血小板密顆粒(Platelet-dense granule、delta granule)は[[wikipedia:JA:血小板|血小板]]、[[wikipedia:JA:巨核球|巨核球]]に存在する。内腔はpH6前後に酸性化されており、LAMP-2などを有する。血小板密顆粒は[[wikipedia:JA:カルシウム|カルシウム]]、[[wikipedia:JA:セロトニン|セロトニン]]、[[wikipedia:JA:アデノシン二リン酸|ADP]]、[[wikipedia:JA:アデノシン三リン酸|ATP]]、[[wikipedia:JA:二リン酸|ピロリン酸]]などを含んでおり、それらの分泌は[[wikipedia:JA:血液凝固|血液凝固反応]]に重要である。


===MHCクラスIIコンパートメント===
===MHCクラスIIコンパートメント===


 MHCクラスIIコンパートメント(MHC class II compartment、class II vesicles)はプロフェッショナル抗原提示細胞(マクロファージ、樹状細胞、Bリンパ球など)に存在する。リソソームと類似するが、MHCクラスII分子などの抗原提示に関わるタンパク質を多量に含む点や、形態的に内部小胞を多数認める点などが異なる。主にエンドサイトーシスで輸送されてくる外来性抗原物質由来の抗原プロセッシング、抗原ペプチドの産生に重要である。
 MHCクラスIIコンパートメント(MHC class II compartment、class II vesicles)はプロフェッショナル[[wikipedia:JA:抗原提示細胞|抗原提示細胞]]([[wikipedia:JA:マクロファージ|マクロファージ]]、[[wikipedia:JA:樹状細胞|樹状細胞]]、[[wikipedia:JA:B細胞|Bリンパ球]]など)に存在する。リソソームと類似するが、[[wikipedia:JA:主要組織適合遺伝子複合体|MHCクラスII分子]]などの[[wikipedia:JA:抗原提示|抗原提示]]に関わるタンパク質を多量に含む点や、形態的に内部小胞を多数認める点などが異なる。主にエンドサイトーシスで輸送されてくる外来性抗原物質由来の抗原プロセッシング、抗原ペプチドの産生に重要である。


===アズール顆粒===
===アズール顆粒===


 アズール顆粒(Azurophilic granule、primary granule)は好中球に存在し、加水分解酵素、LAMP-3などを有する。ミエロペルオキシダーゼやディフェンシンなどの殺菌性物質を含んでおり、ファゴソームと融合したり、細胞外へ放出されたりすることで、病原体を殺菌する。アズール顆粒に含まれるカテプシンGは細胞外基質の分解、サイトカインの活性化に関与する。
 アズール顆粒(Azurophilic granule、primary granule)は[[wikipedia:JA:好中球|好中球]]に存在し、加水分解酵素、LAMP-3などを有する。ミエロペルオキシダーゼやディフェンシンなどの殺菌性物質を含んでおり、ファゴソームと融合したり、細胞外へ放出されたりすることで、病原体を殺菌する。アズール顆粒に含まれるカテプシンGは細胞外基質の分解、[[wikipedia:JA:サイトカイン|サイトカイン]]の活性化に関与する。


===好塩基球顆粒===
===好塩基球顆粒===


 好塩基球顆粒(Basophil granule)は好塩基球に存在し、加水分解酵素、LAMP-1/2などを有する。好塩基球顆粒にはヒスタミン、セロトニンなどが存在し、それらはIgEの細胞膜への結合に伴って細胞外へ分泌され、免疫応答を惹起する。
 好塩基球顆粒(Basophil granule)は[[wikipedia:JA:好塩基球|好塩基球]]に存在し、加水分解酵素、LAMP-1/2などを有する。好塩基球顆粒には[[wikipedia:JA:ヒスタミン|ヒスタミン]]、[[wikipedia:JA:セロトニン|セロトニン]]などが存在し、それらは[[wikipedia:JA:免疫グロブリンE|免疫グロブリンE]]の細胞膜への結合に伴って細胞外へ分泌され、[[wikipedia:JA:免疫|免疫]]応答を惹起する。


===ラメラ体===
===ラメラ体===


 ラメラ体(層板小体、Lamellar body)はⅡ型肺胞上皮細胞に存在する。ラメラ体は大きさが1-2 umあり、分泌顆粒では最大のものの一つである。内腔はpH5.5前後に酸性化されており、加水分解酵素やLAMP-1などを有する。ラメラ体はサーファクタントを含んでおり、それらの肺胞腔への分泌は肺胞の表面張力減少、肺胞拡張に必要である。ラメラ体に含まれるカテプシンなどの加水分解酵素はサーファクタント前駆体のプロセッシングに関与する。
 ラメラ体(層板小体、Lamellar body)は[[wikipedia:JA:II型肺胞上皮細胞|Ⅱ型肺胞上皮細胞]]に存在する。ラメラ体は大きさが1-2 umあり、分泌顆粒では最大のものの一つである。内腔はpH5.5前後に酸性化されており、加水分解酵素やLAMP-1などを有する。ラメラ体は[[wikipedia:JA:界面活性剤|サーファクタント]]を含んでおり、それらの[[wikipedia:JA:肺胞|肺胞]]腔への分泌は肺胞の表面張力減少、肺胞拡張に必要である。ラメラ体に含まれるカテプシンHなどの加水分解酵素はサーファクタント前駆体のプロセッシングに関与する。


===刷子縁===
===刷子縁===


 刷子縁(Ruffled border)は骨融解の場である吸収窩に面する破骨細胞側の細胞膜を指す。刷子縁にはプロトンポンプや塩化物イオンチャネルが局在している。また骨融解に必要な酵素群(カテプシンKや酸性フォスファターゼなど)は、破骨細胞内のリソソームが刷子縁にエキソサイト―シスされることで吸収窩に供給されている。したがって、刷子縁および吸収窩はリソソームと類似した性質を持っていると考えられている。破骨細胞に高発現するカテプシンKは濃化異骨症([[wikipedia:Pycnodysostosis|Pycnodysostosis]])の原因遺伝子として同定されている。
 刷子縁(Ruffled border)は[[wikipedia:JA:破骨細胞|破骨細胞]]の骨吸収に特化した細胞膜の一部を指す。破骨細胞は明帯(sealing zone)を介して骨表面に接し、刷子縁と骨表面とで囲まれた骨吸収窩(resorptive pit)を形成する。刷子縁には液胞型プロトンポンプや塩化物イオンチャネルが局在している。また骨吸収に必要な酵素群(カテプシンKや酸性フォスファターゼなど)は、破骨細胞内のリソソームが刷子縁にエキソサイト―シスされることで吸収窩に供給されている。したがって、刷子縁および吸収窩はリソソームと類似した性質を持っていると考えられている。破骨細胞に高発現するカテプシンKは濃化異骨症([[wikipedia:Pycnodysostosis|Pycnodysostosis]])の原因遺伝子として同定されている。


==リソソーム阻害剤==
==リソソーム阻害剤==
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===リソソーム親和性アミン===
===リソソーム親和性アミン===


 ド・デューブはリソソームに選択的に取り込まれ薬効を発揮する薬剤のコンセプトを1974年に考案し、その性質をlysosomotropism、その性質を持つ薬剤をlysosomotropic agentと名付けた<ref name="ref15"><pubmed> 4606365 </pubmed></ref>。これらの薬剤の多くはリソソーム(酸性コンパートメント)内に到達するとプロトン化され電荷を帯びるため、膜透過性が低下し、リソソーム内に蓄積する。リソソーム内の薬剤濃度は細胞外の約100-1000倍に達するため、しばしば浸透圧膨張によってリソソームの空胞化を引き起こす。塩化アンモニウム(ammonium chloride、NH4Cl)、クロロキン(chloroquine)、メチルアミン(methylamine、CH3NH2)などの弱塩基アミンは、リソソームのpHを上昇させ、リソソーム機能を抑制する。
 [[wikipedia:JA:クリスチャン・ド・デューブ|ド・デューブ]]はリソソームに選択的に取り込まれ薬効を発揮する薬剤のコンセプトを1974年に考案し、その性質を[[wikipedia:lysosomotropism|lysosomotropism]]、その性質を持つ薬剤をlysosomotropic agentと名付けた<ref name="ref15"><pubmed> 4606365 </pubmed></ref>。これらの薬剤の多くはリソソーム(酸性コンパートメント)内に到達するとプロトン化され電荷を帯びるため、膜透過性が低下し、リソソーム内に蓄積する。リソソーム内の薬剤濃度は細胞外の約100-1000倍に達するため、しばしば浸透圧膨張によってリソソームの空胞化(vacuolation)を引き起こす。[[wikipedia:JA:塩化アンモニウム|塩化アンモニウム]](ammonium chloride、NH4Cl)、[[wikipedia:JA:クロロキン|クロロキン]](chloroquine)、[[wikipedia:JA:メチルアミン|メチルアミン]](methylamine、CH3NH2)などの弱塩基[[wikipedia:JA:アミン|アミン]]は、リソソームのpHを上昇させ、リソソーム機能を抑制する。


===液胞型プロトンポンプ阻害剤===
===液胞型プロトンポンプ阻害剤===


 バフィロマイシンA<sub>1</sub>(Bafilomycin A1)、コンカナマイシンA(Concanamycin A)は液胞型プロトンポンプを特異的に阻害する。いずれもマクロライド系抗生物質で構造が類似しているが、後者のほうがより強力で特異性が高いとされている。
 バフィロマイシンA<sub>1</sub>([[wikipedia:Bafilomycin|Bafilomycin A1]])、コンカナマイシンA(Concanamycin A)は液胞型プロトンポンプを特異的に阻害する。いずれも[[wikipedia:JA:マクロライド系抗生物質|マクロライド系抗生物質]]で構造が類似しているが、後者のほうがより強力で特異性が高いとされている。


===プロテアーゼ阻害剤===
===プロテアーゼ阻害剤===


 システインプロテアーゼ阻害剤としてはE64d(不可逆的阻害)、Pepstatin A(可逆的阻害)などがある。システインおよびセリン・スレオニンプロテアーゼ阻害剤としてはLeupeptin(可逆的阻害)などがある。
 [[wikipedia:JA:システインプロテアーゼ|システインプロテアーゼ]]阻害剤としては[[wikipedia:E-64|E64d]](不可逆的阻害)、[[wikipedia:Pepstatin|Pepstatin A]](可逆的阻害)などがある。システイン・セリン・スレオニンプロテアーゼ阻害剤としては[[wikipedia:Leupeptin|Leupeptin]](可逆的阻害)などがある。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
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(執筆者:森下英晃、水島昇  担当編集者:)
(執筆者:森下英晃、水島昇  担当編集者:大隅典子)
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