「エレベーター運動」の版間の差分

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 発生ステージの進行に伴って,脳・脊髄の原基の壁にはニューロンが現れる.ニューロンは,壁の外側(ベイサル域)に配置される.このとき,神経前駆細胞は,依然「細長くアピカルベイサルを結ぶ形」を呈しているが,神経上皮時代に比して長さを増している(「放射状グリアradial glia」とも称される).この頃の神経前駆細胞も,神経上皮細胞と同様にエレベーター運動・INMを行なうのだが,核運動はニューロン域にくい込まない範囲に限られる(動画中の細胞「a」の核・細胞体の軌跡に注目).このエレベーター運動・INMの軌跡・範囲によって「脳室帯 ventricular zone(VZ)」と称される組織学的部位(Pax6,Hes1/5,Sox2などの転写因子やKi67やPCNAなどの細胞周期マーカーによって陽性の核が充満)が規定され,ニューロン分布域と区別できる.VZには神経前駆細胞のアピカル部分百マイクロメートル分ほどしか含まれないが,その場におけるエレベーター運動・INMは,神経上皮におけると同様である.したがって,VZも,この現象の起きる場所として有名である.
 発生ステージの進行に伴って,脳・脊髄の原基の壁にはニューロンが現れる.ニューロンは,壁の外側(ベイサル域)に配置される.このとき,神経前駆細胞は,依然「細長くアピカルベイサルを結ぶ形」を呈しているが,神経上皮時代に比して長さを増している(「放射状グリアradial glia」とも称される).この頃の神経前駆細胞も,神経上皮細胞と同様にエレベーター運動・INMを行なうのだが,核運動はニューロン域にくい込まない範囲に限られる.このエレベーター運動・INMの軌跡・範囲によって「脳室帯 ventricular zone(VZ)」と称される組織学的部位(Pax6,Hes1/5,Sox2などの転写因子やKi67やPCNAなどの細胞周期マーカーによって陽性の核が充満)が規定され,ニューロン分布域と区別できる.VZには神経前駆細胞のアピカル部分百マイクロメートル分ほどしか含まれないが,その場におけるエレベーター運動・INMは,神経上皮におけると同様である.したがって,VZも,この現象の起きる場所として有名である.


 VZ中のエレベーター運動・INMには,上述の「軌跡の限界」に加えて,もう一点,神経上皮時代とは異なる特徴がある. VZが存在する頃,すなわちニューロン産生が活発な頃,アピカル面で起きる分裂から生じる娘細胞の運命は,片方が未分化(アピカルプロジェニター apical progenitor),片方が分化(ニューロンまたはベイサルプロジェニター basal progenitor),という2方向的に決まる事が多い(「非対称細胞分裂」,「バイナリーな運命選択」と称される).このような場合,分化に向かうアピカル面生まれの娘細胞(動画中の細胞「b」)は,「一方通行・片道切符」的な核移動を示す.すなわち,G1期まではアピカル面に結合性を持ったままでベイサル方向へ核が動かされるが,その後アピカル面との結合が断たれ(脱上皮化のごとくに),アピカル向けの核移動局面は起こらない.
 VZ中のエレベーター運動・INMには,上述の「軌跡の限界」に加えて,もう一点,神経上皮時代とは異なる特徴がある. VZが存在する頃,すなわちニューロン産生が活発な頃,アピカル面で起きる分裂から生じる娘細胞の運命は,片方が未分化(アピカルプロジェニター apical progenitor),片方が分化(ニューロンまたはベイサルプロジェニター basal progenitor),という2方向的に決まる事が多い(「非対称細胞分裂」,「バイナリーな運命選択」と称される).このような場合,分化に向かうアピカル面生まれの娘細胞は,「一方通行・片道切符」的な核移動を示す.すなわち,G1期まではアピカル面に結合性を持ったままでベイサル方向へ核が動かされるが,その後アピカル面との結合が断たれ(脱上皮化のごとくに),アピカル向けの核移動局面は起こらない.




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5) Spear PC, Erickson CA: Interkinetic nuclear migration: a mysterious process in search of a function. Dev. Growth & Differ. 54, 306-316, 2012
5) Spear PC, Erickson CA: Interkinetic nuclear migration: a mysterious process in search of a function. Dev. Growth & Differ. 54, 306-316, 2012
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22524603
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22524603
(執筆者:宮田卓樹,担当編集委員:村上富士夫)
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