「味覚受容体」の版間の差分

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 味覚受容体は、一般的なGタンパク質共役型受容体と比較すると種間の配列の相違が大きく、その配列の相違が種間の味覚の違いをうんでいることが示されている。うま味受容体を例にとると、マウスでは、大部分のL型アミノ酸がうま味として認識されるのに対して、ヒトではL型グルタミン酸やL型アスパラギン酸しか強く認識されないのは、受容体の配列の違いによるものである。  
 味覚受容体は、一般的なGタンパク質共役型受容体と比較すると種間の配列の相違が大きく、その配列の相違が種間の味覚の違いをうんでいることが示されている。うま味受容体を例にとると、マウスでは、大部分のL型アミノ酸がうま味として認識されるのに対して、ヒトではL型グルタミン酸やL型アスパラギン酸しか強く認識されないのは、受容体の配列の違いによるものである。  


'''うま味/甘味受容体(T1Rファミリー)''' T1Rファミリーには、T1R1、T1R2、T2R3の3種類のサブユニットがあり、T1R1とT1R3がヘテロ2量体を形成している場合はグルタミン酸などのうま味物質の受容体として、T1R2とT1R3がヘテロ2量体を形成している際は糖やグリシン、甘味を持つタンパク質(モネリンやソーマチン)などの受容体として機能する。
====うま味/甘味受容体(T1Rファミリー)====


'''苦味受容体(T2Rファミリー)''' T2Rファミリーの受容体は、マウスに30種類ほどあるように、複数種が存在し、その大部分が同じ細胞に共発現して、ヘテロオリゴマーを形成して、苦味物質を検出する。<br>
 T1Rファミリーには、T1R1、T1R2、T2R3の3種類のサブユニットがあり、T1R1とT1R3がヘテロ2量体を形成している場合はグルタミン酸などのうま味物質の受容体として、T1R2とT1R3がヘテロ2量体を形成している際は糖やグリシン、甘味を持つタンパク質(モネリンやソーマチン)などの受容体として機能する。
 
====苦味受容体(T2Rファミリー)====
 
 T2Rファミリーの受容体は、マウスに30種類ほどあるように、複数種が存在し、その大部分が同じ細胞に共発現して、ヘテロオリゴマーを形成して、苦味物質を検出する。  


=== イオンチャネル型受容体  ===
=== イオンチャネル型受容体  ===
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 Gタンパク質共役型受容体が味物質と結合してGタンパク質を活性化するのと対照的に、イオンチャネル型受容体は、H<sup>+</sup>(酸味)やNa<sup>+</sup>(塩味)などのイオンのセンサーとして働き、最終的には自身がそうしたイオンのチャネルとして働いて、味細胞を脱分極させる。  
 Gタンパク質共役型受容体が味物質と結合してGタンパク質を活性化するのと対照的に、イオンチャネル型受容体は、H<sup>+</sup>(酸味)やNa<sup>+</sup>(塩味)などのイオンのセンサーとして働き、最終的には自身がそうしたイオンのチャネルとして働いて、味細胞を脱分極させる。  


'''酸味受容体''' Transient receptor potential channel(TRP)の1種であるPKD2L1を発現している味細胞が、酸を感知することが知られている。しかしながら、PKD2L1の膜局在に必要なPKD1L3の欠損マウスでも、酸味に対する応答が減少しないことから、PKD2L1が受容体として働いているわけではないようである。現在、Zn<sup>2</sup><sup>+</sup>感受性のH<sup>+</sup>チャンネルが、酸味受容体として働いていることが示されているが、どのチャネルかは未同定である。  
====酸味受容体====
 
 Transient receptor potential channel(TRP)の1種であるPKD2L1を発現している味細胞が、酸を感知することが知られている。しかしながら、PKD2L1の膜局在に必要なPKD1L3の欠損マウスでも、酸味に対する応答が減少しないことから、PKD2L1が受容体として働いているわけではないようである。現在、Zn<sup>2</sup><sup>+</sup>感受性のH<sup>+</sup>チャンネルが、酸味受容体として働いていることが示されているが、どのチャネルかは未同定である。  
 
====塩味受容体====


'''塩味受容体''' 低濃度の塩味(Na<sup>+</sup>イオン)に対するマウスの嗜好性は、アミロライドによって抑制されるので、上皮性アミロライド感受性Na<sup>+</sup>チャネル(ENaC)によって、塩味は受容されると考えられている。一方で、高濃度の塩味に対する嫌悪は、アミロライドによって抑制されないことから、高濃度の塩味に対する受容は別の機構によると考えられているが、受容体は同定されていない。<br>  
 低濃度の塩味(Na<sup>+</sup>イオン)に対するマウスの嗜好性は、アミロライドによって抑制されるので、上皮性アミロライド感受性Na<sup>+</sup>チャネル(ENaC)によって、塩味は受容されると考えられている。一方で、高濃度の塩味に対する嫌悪は、アミロライドによって抑制されないことから、高濃度の塩味に対する受容は別の機構によると考えられているが、受容体は同定されていない。<br>  


== 昆虫の味覚受容体  ==
== 昆虫の味覚受容体  ==
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 昆虫では、味覚受容体を発現する味細胞は、口吻、咽頭、跗節や交尾器などの感覚子(sensillum)に存在する。ショウジョウバエの口吻の1つの感覚子には、糖受容細胞、水受容細胞、塩受容細胞、苦味/高濃度塩受容細胞の4種類の味細胞、もしくは、糖/低塩受容細胞、苦味/高濃度塩受容細胞の2種類の味細胞が含まれている。現在までに、ショウジョウバエから68種類の7回膜貫通型受容体遺伝子が同定されていて、個々の受容細胞が発現する受容体やその一部のリガンドが明らかになってきている。また、7回膜貫通型受容体以外にも、上皮性Na<sup>+</sup>チャネル(ENaC)ファミリーのpickpocket28(PPK28)が、水受容細胞が低浸透圧を検知するために必須であることや、苦味受容体細胞がTrpA1遺伝子を発現することがワサビの味を感知するに必要であることが報告されている。  
 昆虫では、味覚受容体を発現する味細胞は、口吻、咽頭、跗節や交尾器などの感覚子(sensillum)に存在する。ショウジョウバエの口吻の1つの感覚子には、糖受容細胞、水受容細胞、塩受容細胞、苦味/高濃度塩受容細胞の4種類の味細胞、もしくは、糖/低塩受容細胞、苦味/高濃度塩受容細胞の2種類の味細胞が含まれている。現在までに、ショウジョウバエから68種類の7回膜貫通型受容体遺伝子が同定されていて、個々の受容細胞が発現する受容体やその一部のリガンドが明らかになってきている。また、7回膜貫通型受容体以外にも、上皮性Na<sup>+</sup>チャネル(ENaC)ファミリーのpickpocket28(PPK28)が、水受容細胞が低浸透圧を検知するために必須であることや、苦味受容体細胞がTrpA1遺伝子を発現することがワサビの味を感知するに必要であることが報告されている。  


 昆虫においても、甘味や苦味に対する受容体は、7回膜貫通型で、構造的にはGタンパク質共役型だと考えられている。実際、Gタンパク質を欠損させると、味覚応答が部分的に低下する。しかしながら、近年、リガンド結合型イオンチャネルの特性があることも示され、昆虫の甘味や苦味に対する受容機構は脊椎動物とは異なることが示唆されている。<br>
 昆虫においても、甘味や苦味に対する受容体は、7回膜貫通型で、構造的にはGタンパク質共役型だと考えられている。実際、Gタンパク質を欠損させると、味覚応答が部分的に低下する。しかしながら、近年、リガンド結合型イオンチャネルの特性があることも示され、昆虫の甘味や苦味に対する受容機構は脊椎動物とは異なることが示唆されている。


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==
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*[[Gタンパク質共役型受容体]]  
*[[Gタンパク質共役型受容体]]  
*[[イオンチャネル]]  
*[[イオンチャネル]]  
*[[Transient receptor potential channel]]<br>
*[[Transient receptor potential channel]]


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==
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化学受容の科学(化学同人) 東原和成編  
化学受容の科学(化学同人) 東原和成編  


Yarmolinsky DA, Zuker CS, Ryba NJ. (2009) Common sense about taste: from mammals to insects. Cell 139:234-244. Review.  
'''Yarmolinsky DA, Zuker CS, Ryba NJ.''' (2009) <br>Common sense about taste: from mammals to insects. <br>''Cell'' 139:234-244. Review.  


<br> (執筆者:田中暢明、担当編集委員:柚崎通介)
<br> (執筆者:田中暢明 担当編集委員:柚崎通介)

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