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イオン選択性は孔が一番狭くなっているselective filterと呼ばれる部分で行われている。Navチャネルはグアニジウムなどの[[wikipedia:ja:イオン半径|イオン半径]]の大きいイオンに対してもある程度の透過性を持つことから、Navチャネルのselective filterの幅はナトリウムイオンよりも大きく、ナトリウムイオン1分子に対し、1分子の水を配位した状態で、孔を選択的に透過するという考えが提唱されてきた<ref>'''Bertil Hille''' <br>Ion Channels of Excitable Membrane third edition<br>Sinauer Associates,Inc.(Massachusetts,USA)</ref>。実際、NachBacの立体構造を見てみると、selective filterの一番狭くなっている部分の幅は、ちょうどナトリウムイオンに水分子が1つ配位したときのサイズに近いことが明らかになった。 | イオン選択性は孔が一番狭くなっているselective filterと呼ばれる部分で行われている。Navチャネルはグアニジウムなどの[[wikipedia:ja:イオン半径|イオン半径]]の大きいイオンに対してもある程度の透過性を持つことから、Navチャネルのselective filterの幅はナトリウムイオンよりも大きく、ナトリウムイオン1分子に対し、1分子の水を配位した状態で、孔を選択的に透過するという考えが提唱されてきた<ref>'''Bertil Hille''' <br>Ion Channels of Excitable Membrane third edition<br>Sinauer Associates,Inc.(Massachusetts,USA)</ref>。実際、NachBacの立体構造を見てみると、selective filterの一番狭くなっている部分の幅は、ちょうどナトリウムイオンに水分子が1つ配位したときのサイズに近いことが明らかになった。 | ||
== イオン選択性 == | == イオン選択性 == | ||
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イオン選択性に関わるselective filterは5番目のヘリックス(S5)と6番目のヘリックス(S6)の間に存在する。1価の正電荷を持つイオンの透過性はイオン半径に比例している。イオン半径の小さいプロトンに対して、非常に強い透過性を持ち、Li<sup>+</sup>≈Na<sup>+</sup>>K<sup>+</sup>>Rb<sup>+</sup>>Cs<sup>+</sup>の順に透過性が高い。またグアニジウムはK<sup>+</sup>より透過しやすい。図3に真核生物のNavチャネルのselective filterのアミノ酸配列を示した。電位依存性カルシウムチャネルでは4つのリピート、すべてがマイナス電荷を持ったグルタミン酸になっている部分が、Navチャネルでは各リピートで異なり、中には電荷を持たない アミノ酸も含まれている。ナトリウムチャネルのリピートIII, IVのリジン、アラニンのいずれかをグルタミン酸に変異させると、ナトリウムイオンだけでなく、カリウムイオン、アンモニウムイオン、さらにカルシウムイオンに対しても透過性が現れる。特に、両方ともグルタミン酸に置き換えると、ナトリウムイオンよりカルシウムイオンに対して選択的になってしまう<ref><pubmed> 1313551 </pubmed></ref>。そのためアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アラニンが形成する環状の配置が、ナトリウムイオンの選択性に重要であると考えられている。 | イオン選択性に関わるselective filterは5番目のヘリックス(S5)と6番目のヘリックス(S6)の間に存在する。1価の正電荷を持つイオンの透過性はイオン半径に比例している。イオン半径の小さいプロトンに対して、非常に強い透過性を持ち、Li<sup>+</sup>≈Na<sup>+</sup>>K<sup>+</sup>>Rb<sup>+</sup>>Cs<sup>+</sup>の順に透過性が高い。またグアニジウムはK<sup>+</sup>より透過しやすい。図3に真核生物のNavチャネルのselective filterのアミノ酸配列を示した。電位依存性カルシウムチャネルでは4つのリピート、すべてがマイナス電荷を持ったグルタミン酸になっている部分が、Navチャネルでは各リピートで異なり、中には電荷を持たない アミノ酸も含まれている。ナトリウムチャネルのリピートIII, IVのリジン、アラニンのいずれかをグルタミン酸に変異させると、ナトリウムイオンだけでなく、カリウムイオン、アンモニウムイオン、さらにカルシウムイオンに対しても透過性が現れる。特に、両方ともグルタミン酸に置き換えると、ナトリウムイオンよりカルシウムイオンに対して選択的になってしまう<ref><pubmed> 1313551 </pubmed></ref>。そのためアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アラニンが形成する環状の配置が、ナトリウムイオンの選択性に重要であると考えられている。 | ||
== 膜電位依存的な活性化および不活性化 == | == 膜電位依存的な活性化および不活性化 == | ||
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通常、Navチャネルは不活性化が速いため、一過的にしか内向き電流は流れないが、[[小脳]]の[[プルキンエ細胞]]をはじめ多くの神経細胞では、長時間にわたり不活性化せずに開き続ける持続的な内向き電流が存在する(持続性ナトリウム電流)。また、これに加えて小脳のプルキンエ細胞などでは、不活性化状態ののち再開口が起こりやすく(resurgent電流)、これによりスパイクの後に脱分極が引き起こされることが知られている。 | 通常、Navチャネルは不活性化が速いため、一過的にしか内向き電流は流れないが、[[小脳]]の[[プルキンエ細胞]]をはじめ多くの神経細胞では、長時間にわたり不活性化せずに開き続ける持続的な内向き電流が存在する(持続性ナトリウム電流)。また、これに加えて小脳のプルキンエ細胞などでは、不活性化状態ののち再開口が起こりやすく(resurgent電流)、これによりスパイクの後に脱分極が引き起こされることが知られている。 | ||
== αサブユニットの多様性 == | == αサブユニットの多様性 == | ||
62行目: | 61行目: | ||
| ヒトの遺伝病<br> | | ヒトの遺伝病<br> | ||
|- | |- | ||
| Nav1.1 <br>(SCN1a) | | Nav1.1 <br>(SCN1a) <br> | ||
| 中枢神経(主に神経細胞の細胞体)、心筋<br> | | 中枢神経(主に神経細胞の細胞体)、心筋<br> | ||
| テトロドトキシン、サキシトキシン | | テトロドトキシン、サキシトキシン | ||
152行目: | 151行目: | ||
中枢神経系で発現しているNav1.1の変異は[[てんかん]]の原因になる。これまで、[[wikipedia:Generalized epilepsy with febrile seizures plus|全般てんかん熱性痙攣プラス(generalized epilepsy with febrile seizures plus, GEFS+)]]および[[wikipedia:SMEI|乳児重症ミオクロニーてんかん(severe myoclonic epilepsy of infant, SMEI)]]を引き起こすNav1.1の変異が多数例、報告されている。不活性化が不完全になり持続的にナトリウム電流が流れるような変異や、不活性化がより高い電位で起こるような変異が報告されている。またGEFS+を引き起こす変異はβ1サブユニットにも見だされ、この変異を持ったβサブユニットは、αサブユニットの機能の調整をすることができない<ref><pubmed> 12486163 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 9697698 </pubmed></ref>。 侵害受容に関わる[[wikipedia:sensory neuron|一次知覚ニューロン]]に発現しているNav1.7の変異は、[[wikipedia:ja:先天性無痛無汗症|先天性の無痛症(congenital insensitivity to pain, CIP)]]や[[wikipedia:erythromelalgia|先端紅痛症(erythromelalgia, IEM)]]、[[wikipedia:paroxysmal extreme pain disorder|発作性の神経痛(paroxysmal extreme pain disorder, PEPD)]]に関わっている。これまで知られているCIPを引き起こす変異はすべてNav1.7をコードする遺伝子の途中に[[wikipedia:ja:終止コドン|終止コドン]]が挿入され、チャネルとしての機能を喪失することが分かっている<ref name="refa"><pubmed> 20101409 </pubmed></ref>。またIEMでは遺伝子の変異により、低い電位でナトリウムチャネルが開口するため、[[閾値]]が低くなり活動電位が生じやすくなる17。PEPDの患者では速い不活性化に関わっているリピートIIIとIVの間に変異が見つかっている。この変異を持ったナトリウムチャネルは速い不活性化が起こる膜電位が高い電位にシフトする。そのため低い膜電位でも電気的に興奮しやすくなり、PEPDの症状が現れると考えられている<ref name="refa" />。 | 中枢神経系で発現しているNav1.1の変異は[[てんかん]]の原因になる。これまで、[[wikipedia:Generalized epilepsy with febrile seizures plus|全般てんかん熱性痙攣プラス(generalized epilepsy with febrile seizures plus, GEFS+)]]および[[wikipedia:SMEI|乳児重症ミオクロニーてんかん(severe myoclonic epilepsy of infant, SMEI)]]を引き起こすNav1.1の変異が多数例、報告されている。不活性化が不完全になり持続的にナトリウム電流が流れるような変異や、不活性化がより高い電位で起こるような変異が報告されている。またGEFS+を引き起こす変異はβ1サブユニットにも見だされ、この変異を持ったβサブユニットは、αサブユニットの機能の調整をすることができない<ref><pubmed> 12486163 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 9697698 </pubmed></ref>。 侵害受容に関わる[[wikipedia:sensory neuron|一次知覚ニューロン]]に発現しているNav1.7の変異は、[[wikipedia:ja:先天性無痛無汗症|先天性の無痛症(congenital insensitivity to pain, CIP)]]や[[wikipedia:erythromelalgia|先端紅痛症(erythromelalgia, IEM)]]、[[wikipedia:paroxysmal extreme pain disorder|発作性の神経痛(paroxysmal extreme pain disorder, PEPD)]]に関わっている。これまで知られているCIPを引き起こす変異はすべてNav1.7をコードする遺伝子の途中に[[wikipedia:ja:終止コドン|終止コドン]]が挿入され、チャネルとしての機能を喪失することが分かっている<ref name="refa"><pubmed> 20101409 </pubmed></ref>。またIEMでは遺伝子の変異により、低い電位でナトリウムチャネルが開口するため、[[閾値]]が低くなり活動電位が生じやすくなる17。PEPDの患者では速い不活性化に関わっているリピートIIIとIVの間に変異が見つかっている。この変異を持ったナトリウムチャネルは速い不活性化が起こる膜電位が高い電位にシフトする。そのため低い膜電位でも電気的に興奮しやすくなり、PEPDの症状が現れると考えられている<ref name="refa" />。 | ||
==関連項目== | |||
・[[活動電位]] | |||
・[[電位依存性イオンチャネル]] | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == |
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