「自己意識」の版間の差分

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自己意識を調べる有力な方法としてこれまで多く用いられてきたのが、Gallup(1970)によって考案されたマークテストである<ref><pubmed>4982211 </pubmed></ref>。動物が鏡に映った自分を自分と認識できるかどうか(鏡映認知)を調べることによって、自己意識を測ろうという目的を持って開発されたテストである。対象動物を麻酔で眠らせている間に、自分では見えない場所(例:おでこ)に色のついたマークをつける。その後、麻酔から醒めて鏡に向かった対象動物がどのような行動を取るのかを観察する。このとき直接見えない自分のおでこを触るという行動がみられたならば、鏡に映っているのが自分であると認識できているとみなされる。マークを触るということは、「自己イメージ」のようなものを持っていて、それとは異なることに気づいていることを意味するので、自己意識の存在を示唆すると考えられる。チンパンジーやオランウータンなどの大型類人猿はこのマークテストを通過するが、サルは通過しないことが知られている。近年はゾウやイルカなどもマークテストを通過することが報告されている。ヒトの赤ちゃんの場合、生後1歳半から2歳頃になるとマークテストを通過する。これは「当惑する」「嫉妬する」などの自己を意識した行動が表れる時期とも合致するため、ヒトは2歳前後に自己意識を獲得すると推測されている<ref><pubmed> 2702864 </pubmed></ref>。これは公的自己意識に相当するものと考えられるが、私的自己意識が発達するのはもう少し後の時期と考えられている。
自己意識を調べる有力な方法としてこれまで多く用いられてきたのが、Gallup(1970)によって考案されたマークテストである<ref><pubmed>4982211 </pubmed></ref>。動物が鏡に映った自分を自分と認識できるかどうか(鏡映認知)を調べることによって、自己意識を測ろうという目的を持って開発されたテストである。対象動物を麻酔で眠らせている間に、自分では見えない場所(例:おでこ)に色のついたマークをつける。その後、麻酔から醒めて鏡に向かった対象動物がどのような行動を取るのかを観察する。このとき直接見えない自分のおでこを触るという行動がみられたならば、鏡に映っているのが自分であると認識できているとみなされる。マークを触るということは、「自己イメージ」のようなものを持っていて、それとは異なることに気づいていることを意味するので、自己意識の存在を示唆すると考えられる。チンパンジーやオランウータンなどの大型類人猿はこのマークテストを通過するが、サルは通過しないことが知られている。近年はゾウやイルカなどもマークテストを通過することが報告されている。ヒトの赤ちゃんの場合、生後1歳半から2歳頃になるとマークテストを通過する。これは「当惑する」「嫉妬する」などの自己を意識した行動が表れる時期とも合致するため、ヒトは2歳前後に自己意識を獲得すると推測されている<ref><pubmed> 2702864 </pubmed></ref>。これは公的自己意識に相当するものと考えられるが、私的自己意識が発達するのはもう少し後の時期と考えられている。


=='''自己意識に関わる神経基盤'''==
=='''自己意識の脳内基盤'''==
2000年頃から機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて自己意識に関わる神経基盤が調べられている。他者の顔に比べて自分の顔を見ているときには、右側前頭頭頂ネットワークが強く活動することが繰り返し報告されている<ref><pubmed>10962615 </pubmed></ref>一方で、自己顔認知への左半球優位性を示す結果も少なからずある<ref><pubmed>12195428</pubmed></ref>。これら自己顔に対する脳活動を示す脳領域は、自己の外面に対する意識が関係していると言える。一方、自己の内面に対する意識に関わる脳領域を調べるために、自己の身体状態、感情、特性などを評価する自己内省課題が用いられている。これらの課題を行っているときには、帯状回皮質(cingulate cortex)や楔前部(precuneus)を含む大脳皮質正中内側部構造(cortical midline structure)の活動が増大することが報告されている<ref><pubmed>15301749</pubmed></ref>。
===自己顔処理に関する脳内基盤===
脳機能イメージング技術の発達により、2000年頃から自己意識に関わる脳活動計測を行った研究が数多く報告されるようになった。例えば、Keenanら<ref><pubmed>10962615 </pubmed></ref>は、他者の顔写真に比べて自分の顔を見ているときには、右側前頭頭頂ネットワークが強く活動することを報告している。このように自己顔認知への右半球優位性を示す結果が多い一方で、左半優位性を示す結果も少なからずある<ref><pubmed>12195428</pubmed></ref>。これら自己顔に対する脳活動を示す脳領域は、自己の外面に対する自己意識が関係していると考えられる。
 
===自己内省に関する脳内基盤===
自己の内面に対する意識に関わる脳領域を調べるために、自己の身体状態、感情、特性などを評価する自己内省課題が用いられている。これらの課題を行っているときには、帯状回皮質(cingulate cortex)や楔前部(precuneus)を含む大脳皮質正中内側部構造(cortical midline structure)の活動が増大することが報告されている<ref><pubmed>15301749</pubmed></ref>。


<references/>
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同義語:自意識
同義語:自意識
重要な関連語:自己認知
重要な関連語:自己認知
(執筆者:守田知代、担当編集委員:定藤規弘)
(執筆者:守田知代、担当編集委員:定藤規弘)
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