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英語名:xenopus laevis | |||
アフリカ原産のカエル(両生類)。古くは妊婦の尿中に含まれるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)に応答し排卵することから妊娠検査に用いられていたが、卵が比較的大きく(直径約1.2 mm)胚操作が容易であることから生物学、医学研究におけるモデル生物として世界に拡散し長い間重用されてきた。飼育は20℃前後で行われ比較的容易であるが、世代交代時間が1-2年と長く遺伝学には不向きとされている。近縁種のネッタイツメガエルXenopus tropicalisはアフリカツメガエルの染色体が偽4倍体であるのに対して2倍体であること、最近ゲノム解読が終了したことなどからネッタイツメガエルも近年遺伝学を可能にする両生類モデル生物として拡大しつつある。 | |||
神経科学においては、アフリカツメガエル卵母細胞はタンパク質翻訳系として用いられてきた。とくに1980年代になってSP6プロモーターを用いて特定のcDNAからmRNAを合成することが可能になったこともあり、未受精卵および胚内へのmRNAの顕微注入により発現させた機能タンパク質の生物活性評価に用いられている。とく卵母細胞での膜タンパク質の翻訳とパッチクランプ法などの電気生理実験を組み合わせてアセチルコリン受容体を含む多くの重要な受容体、チャネル分子の同定がなされている。同様の手法を用いて、mRNAプールからの発現クローニングも可能である。 | |||
一方、アフリカツメガエルは初期発生における細胞分化、形態形成の研究においても発展に大きく寄与しており、神経科学への貢献も無視できない。1920年代にHans Spemannは両生類であるサンショウウオ初期原腸胚のオーガナイザー領域(原口背唇部)を腹側に移植すると、頭部など中枢神経系が重複した2次胚ができることを発見し神経誘導因子の存在を予見した。この神経誘導因子の同定にアフリカツメガエル胚を用いた実験は重要な役割を果たした。mRNAの顕微注入による機能評価が可能であることから、1990年代には移植実験の代わりにmRNAを腹側の割球にだけ注入するという実験が行われ、骨形成タンパク質(bone moephogenetic protein, BMP)シグナルを遮断するドミナントネガティブ受容体やオーガナイザー領域で発現するBMP活性阻害因子(ノギン、コーディン、フォリスタチン)がオーガナイザー同様に2次軸形成能をもつことが明らかにされ、神経誘導活性をもつオーガナイザー因子の存在が分子同定によって明らかになった。胞胚期の動物極側細胞集団(アニマルキャップ)は誘導因子の非存在下では表皮分化するが、解離して培養すると神経に分化することも知られていた。現在、アニマルキャップに存在するBMPが神経分化を抑制しており、その除去または活性阻害により神経分化が進むと解釈されている。このようにアフリカツメガエルは簡便な神経分化の評価系として有効である。 | |||
他のモデル生物に比べ遺伝学研究が遅れているが、遺伝子導入(トランスジェニック)は精子核移植を用いたREMI法(restriction enzyme-mediated integration)などにより多数の系統が作出されている。神経系への直接の影響を観察する神経科学においては遺伝子導入に電気窄孔(electroporation)法が用いられ、神経発生期での特定遺伝子の過剰発現による脳の形態異常や遺伝子発現変化などの解析で効果を挙げている。また、微小電極を用いて単一ニューロンあるいはグリア細胞へ遺伝子導入する方法も確立されている。遺伝子ばかりでなくタンパク質や蛍光デキストランなど標識化合物など電荷をもった分子を導入できことから高分解能での解析が可能となっている。 | |||
機能阻害実験に関しては現時点で遺伝子破壊が不可能であり、アンチセンスモルフォリノオリゴヌクレオチド(MO)がいわゆるノックダウン実験に用いられる。4倍体であるため遺伝子によってはノックダウン効率を高めるために、倍化によって生じた相同な遺伝子(ホメオログ)に対する2種類のMOを用いる必要があるが、MOによるノックダウン実験は一般的な方法となっている。とくに神経科学においては、16もしくは32細胞期の背側および動物極側割球に選択的にmRNAを注入することにより初期発生への影響を排除して中枢神経系への影響を観察できることはアフリカツメガエルの有利性のひとつである。 | |||
また、アフリカツメガエルは母胎外で発生するため、中枢神経系の初期形態形成を実体顕微鏡下で直接観察できるという大きな利点がある。過剰発現による機能亢進、機能阻害を用いて、とくに神経管形成のしくみを細胞レベルで明らかにするために非常に適したモデル生物であり、神経管閉鎖不全などの病因・病態解明に寄与している。 | |||
(執筆者:上野直人 担当編集者:大隅典子) |