「語彙」の版間の差分

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 SeidenbergとMcClellandの[[並列分散処理]]モデル(parallel distributed processing model)<ref><pubmed> 2798649 </pubmed></ref>も、非単語や例外的発音の音読を説明することができる。このモデルの際立った特徴はそもそもメンタル・レキシコンの存在を仮定しないという点にある。これまで言及した他のモデルでは語彙項目を単一のユニットで表象していたが、並列分散処理モデルでは語の意味情報・音韻情報・書字情報が3つのユニット群に分散され、これら3つのユニット群は中間層を介して互いに異なるユニット群と結合している。この特徴的な三角形の構造から本モデルはトライアングル・モデルとも呼ばれる。このモデルは綴りと発音などの正しい組み合わせを学習することができるが、その場合も特定の文字や音を表象するような単一ユニットは存在せず、特定の入力に対してユニット群が特定の活性化パターンを示すようになるだけである。二重経路カスケード・モデルとトライアングル・モデルは共に音読過程をある程度うまく説明することができるが、どちらが実際の脳内機構とより合致しているかについては今なお議論が続いている。
 SeidenbergとMcClellandの[[並列分散処理]]モデル(parallel distributed processing model)<ref><pubmed> 2798649 </pubmed></ref>も、非単語や例外的発音の音読を説明することができる。このモデルの際立った特徴はそもそもメンタル・レキシコンの存在を仮定しないという点にある。これまで言及した他のモデルでは語彙項目を単一のユニットで表象していたが、並列分散処理モデルでは語の意味情報・音韻情報・書字情報が3つのユニット群に分散され、これら3つのユニット群は中間層を介して互いに異なるユニット群と結合している。この特徴的な三角形の構造から本モデルはトライアングル・モデルとも呼ばれる。このモデルは綴りと発音などの正しい組み合わせを学習することができるが、その場合も特定の文字や音を表象するような単一ユニットは存在せず、特定の入力に対してユニット群が特定の活性化パターンを示すようになるだけである。二重経路カスケード・モデルとトライアングル・モデルは共に音読過程をある程度うまく説明することができるが、どちらが実際の脳内機構とより合致しているかについては今なお議論が続いている。


 最後にLeveltの言語産出モデル<ref><pubmed> 11698690 </pubmed></ref>を紹介する。言語産出過程の具体的な例として、絵画中に描かれた対象が何であるかを呼称する課題を考えてみよう。まず提示された絵に対応する[[概念]]が産出すべきメッセージとして活性化される。続いて、このメッセージが対応するレンマ(lemma)を活性化する。レンマとは語彙項目の意味的・統語的な情報である。たとえば英語のHORSEに対応するレンマが活性化されると、それが可算名詞であること、単数形ないし複数形であること、といった情報が利用可能となる。ここまでが言語産出における語彙選択(lexical selection)の過程である。選択されたレンマは引き続いて形態的・音韻的に符号化される。たとえばHORSEの複数形は2つの形態素から構成されるものであるが、これらのそれぞれについて<horse> と<iz>のような音韻コード(phonological code)が検索される。音韻コードは音素の系列であり、[[wikipedia:ja:音節|音節]]([[wikipedia:syllable|syllable]])へ統合されたり[[wikipedia:ja:強勢|強勢]]([[wikipedia:stress_linguistics|stress]])パターンが付与されたりといった処理を受ける。これらの処理を音韻的符号化(phonological encoding)という。このプロセスの出力は抽象的な音韻表象であり、音韻語(phonological word)と呼ばれる。音韻語は音声的符号化(phonetic encoding)の過程を経て[[wikipedia:ja:調音|調音]]スコア(articulatory score)として出力される。最後にこの調音スコアの指示に基づいて調音器官が動かされ、実際に音声が発せられる。
 最後にLeveltの言語産出モデル<ref><pubmed> 11698690 </pubmed></ref>を紹介する。言語産出過程の具体的な例として、絵画中に描かれた対象が何であるかを呼称する課題を考えてみよう。まず提示された絵に対応する[[概念]]が産出すべきメッセージとして活性化される。続いて、このメッセージが対応するレンマ(lemma)を活性化する。レンマとは語彙項目の意味的・統語的な情報である。たとえば英語のHORSEに対応するレンマが活性化されると、それが可算名詞であること、単数形ないし複数形であること、といった情報が利用可能となる。ここまでが言語産出における語彙選択(lexical selection)の過程である。選択されたレンマは引き続いて形態的・音韻的に符号化される。たとえばHORSEの複数形は2つの形態素から構成されるものであるが、これらのそれぞれについて<horse> と<iz>のような音韻コード(phonological code)が検索される。音韻コードは音素の系列であり、[[wikipedia:ja:音節|音節]]([[wikipedia:syllable|syllable]])へ統合されたり[[wikipedia:ja:強勢|強勢]]([[wikipedia:stress_linguistics|stress]])パターンが付与されたりといった処理を受ける。これらの処理を音韻的符号化(phonological encoding)という。このプロセスの出力は抽象的な音韻表象であり、音韻語(phonological word)と呼ばれる。音韻語は音声的符号化(phonetic encoding)の過程を経て[[wikipedia:ja:調音|調音]]スコア(articulatory score)として出力される。最後にこの調音スコアの指示に基づいて調音器官(舌や唇など)が動かされ、実際に音声が発せられる。


=語彙の神経基盤=
=語彙の神経基盤=
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