「小胞輸送」の版間の差分

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サイズ変更なし 、 2012年5月13日 (日)
(ページの作成:「英語名:membrane traffic ==要約==  膜トラフィッキング(メンブレントラフィック:membrane traffic)とは、膜の分裂や融合によりオ...」)
 
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 メンブレントラフィックは様々なオルガネラを経由し、かつ多様なタンパク質が関与する複雑な過程だが、生体膜を透過する輸送形態と異なり輸送分子のコンフォメーション変化を必要とせず、膜の成分である膜タンパク質や脂質をも輸送することが可能で、しかも一度に他種類の分子を大量に運べるという利点を持つ。例えば、小胞体で合成された膜タンパク質が細胞膜へと輸送される過程を例に挙げると、新たに合成された膜タンパク質は小胞体膜へと挿入され、ゴルジ体を経てトランスゴルジ網(TGN, trans-Golgi network)へと輸送される。多くの膜タンパク質の場合、ここまでの過程で正しい高次構造へと折りたたまれ、糖鎖などの翻訳後修飾を受ける。トランスゴルジ網へと輸送された膜タンパク質は、その後、細胞膜、エンドソーム、リソソームあるいは分泌小胞などターゲットされるべき場所へと選別される。一方、細胞外から細胞膜を経てエンドサイトーシスされたタンパク質は初期エンドソームを経た後に、リサイクルされて再び細胞膜へと戻るか、もしくは後期エンドソーム/多胞体(MVB, multivesicular body)を経てリソソームへと運ばれ分解される<ref><pubmed>19696797</pubmed></ref><ref><pubmed>18502633</pubmed></ref>。このように細胞は個々の輸送経路に対して個別の輸送小胞を用意することにより、複雑な輸送経路網の発達を可能にしてきたと考えられる。
 メンブレントラフィックは様々なオルガネラを経由し、かつ多様なタンパク質が関与する複雑な過程だが、生体膜を透過する輸送形態と異なり輸送分子のコンフォメーション変化を必要とせず、膜の成分である膜タンパク質や脂質をも輸送することが可能で、しかも一度に他種類の分子を大量に運べるという利点を持つ。例えば、小胞体で合成された膜タンパク質が細胞膜へと輸送される過程を例に挙げると、新たに合成された膜タンパク質は小胞体膜へと挿入され、ゴルジ体を経てトランスゴルジ網(TGN, trans-Golgi network)へと輸送される。多くの膜タンパク質の場合、ここまでの過程で正しい高次構造へと折りたたまれ、糖鎖などの翻訳後修飾を受ける。トランスゴルジ網へと輸送された膜タンパク質は、その後、細胞膜、エンドソーム、リソソームあるいは分泌小胞などターゲットされるべき場所へと選別される。一方、細胞外から細胞膜を経てエンドサイトーシスされたタンパク質は初期エンドソームを経た後に、リサイクルされて再び細胞膜へと戻るか、もしくは後期エンドソーム/多胞体(MVB, multivesicular body)を経てリソソームへと運ばれ分解される<ref><pubmed>19696797</pubmed></ref><ref><pubmed>18502633</pubmed></ref>。このように細胞は個々の輸送経路に対して個別の輸送小胞を用意することにより、複雑な輸送経路網の発達を可能にしてきたと考えられる。


==神経細胞におけるメンブレントラフィックの役割==
== 神経細胞におけるメンブレントラフィックの役割 ==
 
 メンブレントラフィックは酵母からほ乳類まで全ての真核細胞に保存された基本的な仕組みで、タンパク質や脂質を必要に応じて選択し特定の場所に正しく送り届ける役割を担っている<ref><pubmed>8028665</pubmed></ref>。メンブレントラフィックには細胞が生きるためのhousekeeping的な役割を担うもの以外に、神経細胞のように高度に特殊化した細胞の機能を支えているものが数多く知られている。特に神経細胞におけるシナプス小胞の輸送の仕組みは非常に良く解析されており、シナプス小胞のエクソサイトーシスに関わるSNARE分子の発見<ref><pubmed>8402889</pubmed></ref><ref><pubmed>8221884</pubmed></ref>やショウジョウバエのshibire変異体の解析により明らかになったダイナミン分子によるシナプス小胞のエンドサイトーシス制御機構<ref><pubmed>8580706</pubmed></ref>などが良く知られている。これらの発見により普遍的なメンブレントラフィック制御の基本的概念が生まれたと言っても過言ではない。
 メンブレントラフィックは酵母からほ乳類まで全ての真核細胞に保存された基本的な仕組みで、タンパク質や脂質を必要に応じて選択し特定の場所に正しく送り届ける役割を担っている<ref><pubmed>8028665</pubmed></ref>。メンブレントラフィックには細胞が生きるためのhousekeeping的な役割を担うもの以外に、神経細胞のように高度に特殊化した細胞の機能を支えているものが数多く知られている。特に神経細胞におけるシナプス小胞の輸送の仕組みは非常に良く解析されており、シナプス小胞のエクソサイトーシスに関わるSNARE分子の発見<ref><pubmed>8402889</pubmed></ref><ref><pubmed>8221884</pubmed></ref>やショウジョウバエのshibire変異体の解析により明らかになったダイナミン分子によるシナプス小胞のエンドサイトーシス制御機構<ref><pubmed>8580706</pubmed></ref>などが良く知られている。これらの発見により普遍的なメンブレントラフィック制御の基本的概念が生まれたと言っても過言ではない。
 
 
 この他にも神経細胞においては、軸索あるいは樹状突起への極性輸送、神経突起が伸長・分岐する際の膜の供給、脳由来神経栄養因子(BDNF)などのペプチド性分泌因子の放出、記憶や学習に応じた神経伝達物質受容体の取り込みおよびリサイクリング、神経変性疾患の原因となるタンパク質凝集塊のリソソーム/オートファジー経路による分解(すなわち細胞内物質の品質管理)など様々な現象にメンブレントラフィックが関与している。ここではその一例として、神経突起の伸長における膜の供給および軸索/樹状突起への極性輸送におけるメンブレントラフィックの役割について概説する。
 この他にも神経細胞においては、軸索あるいは樹状突起への極性輸送、神経突起が伸長・分岐する際の膜の供給、脳由来神経栄養因子(BDNF)などのペプチド性分泌因子の放出、記憶や学習に応じた神経伝達物質受容体の取り込みおよびリサイクリング、神経変性疾患の原因となるタンパク質凝集塊のリソソーム/オートファジー経路による分解(すなわち細胞内物質の品質管理)など様々な現象にメンブレントラフィックが関与している。ここではその一例として、神経突起の伸長における膜の供給および軸索/樹状突起への極性輸送におけるメンブレントラフィックの役割について概説する。


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