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[[Image:Sheliga.jpg|thumb|right|300px|図5. 注意と眼球運動の神経機構が密接に関係することを示した実験<br />SheligaとRizzolattiら(1994)が用いた課題では、被験者はあらかじめ、上の4つのボックスのいずれかに現れた手がかり刺激に従って、注意を向けている。そこに赤丸が出ると、真ん中の固視点から下のボックスに向かってできるだけ早く眼を動かすように指示されている。注意の向きによって眼球運動の軌跡が偏位する。]]<br> ある場所に注意を向けることはその場所への眼球運動を準備することに等しいとする仮説がある(注意の前運動理論;premotor theory of attention)。注意と眼球運動が神経機構の一部を共有している証拠として、眼球運動の軌跡が注意の方向によって変化することが、ヒトの行動実験やサルを用いた電気刺激実験などで知られている(<ref><pubmed>8056071</pubmed></ref>、図5)。しかし、ある瞬間にはひとつの場所にしか眼を向けられないことを考えると、この仮説には問題があるようにも思われる。ヒトは、左右それぞれの視野で2つずつ、計4つの物体に同時に注意を向けることができるとの報告もあり<ref><pubmed>16102067</pubmed></ref>、このような時に眼球運動系がどのようにして注意を制御しているのか、今後さらなる研究が必要である。<br> 前頭眼野、補足眼野、LIP野(頭頂間溝外側部)、上丘などの眼球運動関連領野が実際に空間的注意に関与することは、ヒトやサルを用いた実験で繰り返し示されてきた。fMRIを用いて、画面上の刺激に次々に眼球運動を行っている最中と、眼を動かさないで同様の刺激に注意を向けている場合で活動が上昇する脳部位を詳細に比較した研究によると、これらの課題で活動した部位は、前頭眼野とLIP野近傍では8割以上、補足眼野でも約6割が重複していた<ref><pubmed>9808463</pubmed></ref>。また、前述の視覚探索課題中でも、眼球運動関連領野内の視覚応答性をもつニューロンの多くが、その受容野に注意を向けた際に活動の大きさを変化させた。 | [[Image:Sheliga.jpg|thumb|right|300px|図5. 注意と眼球運動の神経機構が密接に関係することを示した実験<br />SheligaとRizzolattiら(1994)が用いた課題では、被験者はあらかじめ、上の4つのボックスのいずれかに現れた手がかり刺激に従って、注意を向けている。そこに赤丸が出ると、真ん中の固視点から下のボックスに向かってできるだけ早く眼を動かすように指示されている。注意の向きによって眼球運動の軌跡が偏位する。]]<br> ある場所に注意を向けることはその場所への眼球運動を準備することに等しいとする仮説がある(注意の前運動理論;premotor theory of attention)。注意と眼球運動が神経機構の一部を共有している証拠として、眼球運動の軌跡が注意の方向によって変化することが、ヒトの行動実験やサルを用いた電気刺激実験などで知られている(<ref><pubmed>8056071</pubmed></ref>、図5)。しかし、ある瞬間にはひとつの場所にしか眼を向けられないことを考えると、この仮説には問題があるようにも思われる。ヒトは、左右それぞれの視野で2つずつ、計4つの物体に同時に注意を向けることができるとの報告もあり<ref><pubmed>16102067</pubmed></ref>、このような時に眼球運動系がどのようにして注意を制御しているのか、今後さらなる研究が必要である。<br> 前頭眼野、補足眼野、LIP野(頭頂間溝外側部)、上丘などの眼球運動関連領野が実際に空間的注意に関与することは、ヒトやサルを用いた実験で繰り返し示されてきた。fMRIを用いて、画面上の刺激に次々に眼球運動を行っている最中と、眼を動かさないで同様の刺激に注意を向けている場合で活動が上昇する脳部位を詳細に比較した研究によると、これらの課題で活動した部位は、前頭眼野とLIP野近傍では8割以上、補足眼野でも約6割が重複していた<ref><pubmed>9808463</pubmed></ref>。また、前述の視覚探索課題中でも、眼球運動関連領野内の視覚応答性をもつニューロンの多くが、その受容野に注意を向けた際に活動の大きさを変化させた。 | ||
[[Image:Moore.jpg|thumb|right| | [[Image:Moore.jpg|thumb|right|350px|図6. 前頭眼野の神経活動と空間的注意の因果性を示した実験<br />サルの前頭眼野を電気刺激すると一定の方向と振幅のサッカードが誘発される(上図)。課題では、サッカードの行き先("movement field")に視標を提示し、サルにその輝度変化を検出させる。この時、眼球運動が誘発されないような微弱な電気刺激を与えると、視標の検出閾値が低下した。視標を別の場所に出した場合には閾値の変化は生じなかった。]]<br> 神経活動と空間的注意の相関だけでは、それらの因果関係は分からない。最近、これに答える実験がなされた(図6、<ref><pubmed>11158629</pubmed></ref>)。Mooreらは周辺視野に呈示された視覚刺激の輝度変化を検出すると手元のレバーを離すようにサルを訓練した。ターゲットとなる視覚刺激から注意をそらすために視野全体に多数の点滅する妨害刺激を提示しておき、注意の度合いをサルが検出可能なターゲットの輝度変化として定量化した。前頭眼野に電極を刺入し、電気刺激を与えてその場所にあるニューロンが符号化しているサッカードの行き先(movement field)を前もって調べておき、そこにターゲットを配置した。輝度を変化させる直前に、眼球運動が起こらない程度の弱い電気刺激を与えたところ、サルが検出することのできる輝度変化の閾値が有意に低下した。このことから、前頭眼野の信号は、注意を一定の場所に向ける要因となっていることが示唆された。同様の現象は、別の研究者たちによって上丘の電気刺激でも生じることが確認されている<ref><pubmed>15601760</pubmed></ref>。<br> 私たち昼行性の霊長類では、視覚によって物の位置を特定することが多いが、フクロウのような夜行性の動物では、聴覚によって音源の位置を正確に特定できる。そのような聴覚処理においても、眼球運動領野によって空間的注意が制御されていることが示されている。Knudsenらは、音源の位置に対する正確なマップがある視蓋(上丘)から音刺激に対するニューロン活動を記録し、霊長類の前頭眼野に相当する外套部に電気刺激を与えた<ref><pubmed>16421572 </pubmed></ref>。記録しているニューロンと刺激部位が担当する空間位置が一致しているときは、音刺激に対する感覚応答が上昇して音源に対する空間選択性が高くなり、逆に一致していない場合には、音刺激に対する応答が低下して空間選択性が低くなった。 | ||
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