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英語名:Down syndrome 独:Down-Syndrom 仏:Syndrome de Down | 英語名:Down syndrome 独:Down-Syndrom 仏:Syndrome de Down | ||
同義語:21トリソミー、ダウン症候群、蒙古症(今日は用いられない) | |||
== ダウン症とは == | |||
ダウン症は、知的障害の最も頻度の高い原因として知られており、およそ700人に一人の割合で生まれてくる<ref><pubmed> 6455611</pubmed></ref>。1866年に英国の眼科医[[wikipedia:John Langdon Down|ジョン・ラングドン・ハイドン・ダウン]](John Langdon Haydon Down) が論文でその存在を発表し、1965年にWHOによって「Down syndrome(ダウン症候群)」を正式な名称とすることが決定された。 | |||
==診断== | |||
精神遅滞と[[新生児筋緊張低下]]は患者のほとんどで認められる。 | |||
その他、特有の顔貌(目尻が上がっていてまぶたの肉が厚い、鼻が低い、頬がまるい、あごが未発達など)、[[wikipedia:ja:先天性心疾患|先天性心疾患]]、[[wikipedia:ja:消化器|消化器]]疾患、[[wikipedia:ja:免疫系|免疫系]]・[[wikipedia:ja:内分泌系|内分泌系]]の不全、[[wikipedia:ja:白血病|白血病]]、[[アルツハイマー病]]など、多くの症状を様々な頻度で伴う。例えば[[Hirschsprung病]]([[腸内神経叢]]が欠損し重篤な便秘を起こす)も多発することが知られており、一般集団における発症率が約5000人に1人であるのに対して、ダウン症では20−30人に1人の割合で発症する。 | |||
== | ==病態== | ||
=== 染色体異常 === | === 染色体異常 === | ||
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ダウン症患者では、[[21番染色体]]が1本余分で計3本(トリソミー)になっており (1959年、フランス人のジェローム・レジューンJérôme Lejeuneによる発見)、このことが発症の原因とされる。染色体の[[不分離]]や[[転座]]によっておこる。染色体の不分離によって起こるケースは全体の95%を占め、母親の出産年齢が高いほど発生頻度が増加する。2011年のGENCODEプロジェクト<ref>http://www.gencodegenes.org/</ref>の報告によると、21番染色体上には696個の遺伝子(タンパク質をコードするものは235個)が存在するとされるが、これらの遺伝子の発現量の過剰がダウン症の発症に関わると考えられる。ダウン症児の脳では、解剖学的所見として、[[大脳]]、[[小脳半球]]、[[腹側脳橋]]、[[乳頭体]]、[[海馬体]]の低形成、および[[海馬傍回]]の膨大などが、又、組織学的所見として[[神経細胞]]([[顆粒細胞]])密度の低下、[[神経細胞分化]]、[[軸策]][[有髄化]]、[[樹状突起]]形成などの異常などが報告され、これらの異常が精神遅滞の基礎をなしていると予想されている。 | ダウン症患者では、[[21番染色体]]が1本余分で計3本(トリソミー)になっており (1959年、フランス人のジェローム・レジューンJérôme Lejeuneによる発見)、このことが発症の原因とされる。染色体の[[不分離]]や[[転座]]によっておこる。染色体の不分離によって起こるケースは全体の95%を占め、母親の出産年齢が高いほど発生頻度が増加する。2011年のGENCODEプロジェクト<ref>http://www.gencodegenes.org/</ref>の報告によると、21番染色体上には696個の遺伝子(タンパク質をコードするものは235個)が存在するとされるが、これらの遺伝子の発現量の過剰がダウン症の発症に関わると考えられる。ダウン症児の脳では、解剖学的所見として、[[大脳]]、[[小脳半球]]、[[腹側脳橋]]、[[乳頭体]]、[[海馬体]]の低形成、および[[海馬傍回]]の膨大などが、又、組織学的所見として[[神経細胞]]([[顆粒細胞]])密度の低下、[[神経細胞分化]]、[[軸策]][[有髄化]]、[[樹状突起]]形成などの異常などが報告され、これらの異常が精神遅滞の基礎をなしていると予想されている。 | ||
=== | === 染色体上の責任領域 === | ||
実際にどの遺伝子がどの症状の発症にどのように関わるのかを調べることが重要な課題である。ダウン症はそのほとんどが第21染色体がトリソミー(3コピー)になることにより引き起こされるが、ごくわずかの症例で第21染色体の一部のみがトリソミーになっているものが見られる。これらの症例の症状とトリソミーになっている領域を比較することにより、それぞれの症状に責任のある遺伝子の場所をある程度推定することが出来るとして複数の研究が報告されている。Niebuhrら<ref><pubmed> 4276065</pubmed></ref>は[[APP]]から[[テロメア]]を部分トリソミーでもつ患者がダウン症の主な症状を有することから、この領域が重要であるとした。更に、[[セントロメア]]から[[SOD]]までをトリソミーで有する患者では精神遅滞の程度が軽いとする報告がある<ref><pubmed> 2149936</pubmed></ref>。Delabarら<ref><pubmed> 8055322</pubmed></ref>は複数の部分トリソミー患者を検討することによりD21S55を含む4Mbの領域が重要とし[[ダウン症責任領域]](DSCR)と名付けた。一方、Korenbergら<ref><pubmed> 8197171</pubmed></ref>は複数の領域が発症に関わるとし、DSCRのような単一の領域が主な症状すべてに責任を持つとする説を否定している。又、精神遅滞については軽重の差こそあれ重複のない異なる領域を部分トリソミーで有する複数の患者で見られることから、その発症にかかわる遺伝子が第21染色体上に複数あることは間違いない。 | 実際にどの遺伝子がどの症状の発症にどのように関わるのかを調べることが重要な課題である。ダウン症はそのほとんどが第21染色体がトリソミー(3コピー)になることにより引き起こされるが、ごくわずかの症例で第21染色体の一部のみがトリソミーになっているものが見られる。これらの症例の症状とトリソミーになっている領域を比較することにより、それぞれの症状に責任のある遺伝子の場所をある程度推定することが出来るとして複数の研究が報告されている。Niebuhrら<ref><pubmed> 4276065</pubmed></ref>は[[APP]]から[[テロメア]]を部分トリソミーでもつ患者がダウン症の主な症状を有することから、この領域が重要であるとした。更に、[[セントロメア]]から[[SOD]]までをトリソミーで有する患者では精神遅滞の程度が軽いとする報告がある<ref><pubmed> 2149936</pubmed></ref>。Delabarら<ref><pubmed> 8055322</pubmed></ref>は複数の部分トリソミー患者を検討することによりD21S55を含む4Mbの領域が重要とし[[ダウン症責任領域]](DSCR)と名付けた。一方、Korenbergら<ref><pubmed> 8197171</pubmed></ref>は複数の領域が発症に関わるとし、DSCRのような単一の領域が主な症状すべてに責任を持つとする説を否定している。又、精神遅滞については軽重の差こそあれ重複のない異なる領域を部分トリソミーで有する複数の患者で見られることから、その発症にかかわる遺伝子が第21染色体上に複数あることは間違いない。 | ||
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第21染色体上に存在する複数の遺伝子が精神遅滞の発症に関わる遺伝子の候補として報告されている。[[Sim2]]は[[helix-loop-helix]]構造を持ち、[[中枢神経]]系の初期発生に関わる[[転写制御因子]]であり、ベータ[[アクチン]][[プロモーター]]下で発現制御されたSIM2を持つ[[トランスジェニックマウス]]での[[記憶]]学習能力の異常<ref><pubmed> 10400987 </pubmed></ref>、Sim2を有する[[wikipedia:BAC|BAC]]クローンのトランスジェニックマウスでの[[不安行動]]、[[痛覚]]鈍麻、[[社会性行動]]減少 <ref><pubmed> 10915774</pubmed></ref>などが報告されている。[[DYRK1A]]は[[ショウジョウバエ|ハエ]]で同定され、細胞の[[wikipedia:ja:発生|発生]]・[[wikipedia:ja:分化|分化]]の制御に関わる遺伝子として知られる[[minibrain]]のヒトホモログであるが、DYRK1Aを含む[[wikipedia:YAC|YAC]]のトランスジェニックマウスで記憶学習能力の異常が報告されている<ref><pubmed> 9140392</pubmed></ref>。更にはDYRK1Aが[[wikipedia:DSCR1|DSCR1]]/RCAN1と共同して転写因子[[wikipedia:jNFATc|NFATc]]の機能を抑制し、これがダウン症症状の発現に寄与するとの報告もある<ref><pubmed> 16554754</pubmed></ref>。最近では転写因子[[Olig1]]/Olig2がある種の[[抑制性神経細胞]]の数を増やし、これが神経活動の過剰抑制につながり、ダウン症の知能障害につながるとの報告など<ref><pubmed> 20639873</pubmed></ref>がある。しかしながら、これらの遺伝子のダウン症発症に於ける実際の意義については確定的な事が言える状況では到底無く、それらを明らかにし、更には実際の治療に結びつけて行く為には今後更なる検証、研究が必要である。 | 第21染色体上に存在する複数の遺伝子が精神遅滞の発症に関わる遺伝子の候補として報告されている。[[Sim2]]は[[helix-loop-helix]]構造を持ち、[[中枢神経]]系の初期発生に関わる[[転写制御因子]]であり、ベータ[[アクチン]][[プロモーター]]下で発現制御されたSIM2を持つ[[トランスジェニックマウス]]での[[記憶]]学習能力の異常<ref><pubmed> 10400987 </pubmed></ref>、Sim2を有する[[wikipedia:BAC|BAC]]クローンのトランスジェニックマウスでの[[不安行動]]、[[痛覚]]鈍麻、[[社会性行動]]減少 <ref><pubmed> 10915774</pubmed></ref>などが報告されている。[[DYRK1A]]は[[ショウジョウバエ|ハエ]]で同定され、細胞の[[wikipedia:ja:発生|発生]]・[[wikipedia:ja:分化|分化]]の制御に関わる遺伝子として知られる[[minibrain]]のヒトホモログであるが、DYRK1Aを含む[[wikipedia:YAC|YAC]]のトランスジェニックマウスで記憶学習能力の異常が報告されている<ref><pubmed> 9140392</pubmed></ref>。更にはDYRK1Aが[[wikipedia:DSCR1|DSCR1]]/RCAN1と共同して転写因子[[wikipedia:jNFATc|NFATc]]の機能を抑制し、これがダウン症症状の発現に寄与するとの報告もある<ref><pubmed> 16554754</pubmed></ref>。最近では転写因子[[Olig1]]/Olig2がある種の[[抑制性神経細胞]]の数を増やし、これが神経活動の過剰抑制につながり、ダウン症の知能障害につながるとの報告など<ref><pubmed> 20639873</pubmed></ref>がある。しかしながら、これらの遺伝子のダウン症発症に於ける実際の意義については確定的な事が言える状況では到底無く、それらを明らかにし、更には実際の治療に結びつけて行く為には今後更なる検証、研究が必要である。 | ||
==関連項目== | |||
*[[トリソミー]] | |||
*[[染色体不分離]] | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == |