「嗅内野」の版間の差分

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[[Image:Fig1 copy.jpg|thumb|right|300px|図1 ヒト、サル、ラットの脳における嗅内野の位置  PR、嗅周野。ER、嗅内野。PH、海馬傍皮質。POR、後嗅皮質。]][[Image:Grid.jpg|thumb|right|300px|図2 ラットのグリッド細胞 (左上)ラットが走った軌跡を黒線で示し、スパイク発火があった地点を赤点で示した 。(左下)30分間のデータをもとにグリッド細胞の平均発火頻度マップを作成した。(右)グリッド細胞と場所細胞の空間マップの例を背側-内側の軸に沿って示す。]]英: entorhinal cortex  
[[Image:Fig1 copy.jpg|thumb|right|300px|図1 ヒト、サル、ラットの脳における嗅内野の位置  PR、嗅周野。ER、嗅内野。PH、海馬傍皮質。POR、後嗅皮質。参考文献(1)より抜粋。]][[Image:Grid.jpg|thumb|right|300px|図2 ラットのグリッド細胞 (左上)ラットが走った軌跡を黒線で示し、スパイク発火があった地点を赤点で示した 。(左下)30分間のデータをもとにグリッド細胞の平均発火頻度マップを作成した。(右)グリッド細胞と場所細胞の空間マップの例を背側-内側の軸に沿って示す。参考文献(4)より抜粋。]]英: entorhinal cortex  


== 位置と細胞構築  ==
== 位置と細胞構築  ==
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== 結合  ==
== 結合  ==


嗅内野の浅層から海馬体(hippocampal formation)へ投射される軸策繊維を[[貫通繊維]](perforant path)と呼ぶ<ref><pubmed> 17765711</pubmed></ref>。貫通繊維の内、第2層から投射されるものは主に[[歯状回]](dentate gyrus)と[[CA3]]領域に、第3層から投射されるものは[[CA1]]領域と海馬台にそれぞれ結合する。嗅内野の浅層が海馬体に入力信号を与える一方で、嗅内野の深層(第5層)は海馬体(海馬台とCA1領域)からの出力を受け取る。嗅内野と皮質の主な結合については、サルの場合は[[海馬傍皮質]]と[[脳梁膨大後部皮質]](retrosplenial cortex)からの入力が尾側に、嗅周野からの入力が吻側に与えられる。ラットでは[[梨状皮質]](piriform cortex)からの入力が嗅内野全体で最も強い。梨状皮質は嗅覚に関わる。梨状皮質に次いでは、嗅内野の外側領域では[[嗅周野]]と[[島皮質]](insular cortex)、そして前頭皮質(frontal cortex)から、内側領域では[[帯状皮質]](cingulate cortex)や後部視覚野からの入力が主に見られる。これら皮質からの入力は嗅内野の浅層に届き、嗅内野から皮質領域に対する出力は深層より投射される。  
嗅内野の浅層から海馬体(hippocampal formation)へ投射される軸策繊維を[[貫通繊維]](perforant path)と呼ぶ<ref><pubmed> 17765711</pubmed></ref>。貫通繊維の内、第2層から投射されるものは主に[[歯状回]](dentate gyrus)と[[CA3]]領域に、第3層から投射されるものは[[CA1]]領域と海馬台にそれぞれ結合する。嗅内野の浅層が海馬体に入力信号を与える一方で、嗅内野の深層(第5層)は海馬体の海馬台とCA1領域からの出力を受け取る。嗅内野と皮質の主な結合については、サルの場合は[[海馬傍皮質]]と[[脳梁膨大後部皮質]](retrosplenial cortex)からの入力が尾側に、嗅周野からの入力が吻側に与えられる。ラットでは[[梨状皮質]](piriform cortex)からの入力が嗅内野全体で最も強い。梨状皮質は嗅覚に関わる。梨状皮質に次いでは、嗅内野の外側領域では[[嗅周野]]と[[島皮質]](insular cortex)、そして前頭皮質(frontal cortex)から、内側領域では[[帯状皮質]](cingulate cortex)や後部視覚野からの入力が主に見られる。これら皮質からの入力は嗅内野の浅層に届き、嗅内野から皮質領域に対する出力は深層より投射される。  


== 機能  ==
== 機能  ==


嗅内野は内側側頭葉記憶システム<ref name="refsq" />の構成要素として、海馬に対する入出力ゲートとしての役割を持つ。そのため、[[宣言的記憶]]が正常に機能するために必須の領域である。ところが単なる中継地点としてだけではなく、嗅内野自身が新たに付け加える機能については、まだ良く分かっていない。こうしたなか、空間情報処理またはナビゲーションに関わる嗅内野の神経メカニズムが、げっ歯類を使用した電気生理学的研究によって明らかにされつつある。Moser達のグループはラットの嗅内野の内側領域ににおいて[[グリッド細胞]]と呼ばれるニューロンを発見した<ref><pubmed> 15965463</pubmed></ref>。グリッド細胞は複数の場所受容野を持ち、さらにそれら場所受容野は等間隔に規則正しく配列して6角形または3角形の格子を形成している(図2)。場所受容野間の間隔は背側部から腹側部に向かうに従い広がっていく。グリッド細胞がコードする幾何学的な空間情報は海馬に供給され、場所細胞(place cell)が示す神経活動パターンに寄与する。グリッド細胞はげっ歯類だけでなく、ヒトにおいても存在することが[[機能的核磁気共鳴画像]]を使った実験において示唆されている<ref><pubmed> 20090680</pubmed></ref>。嗅内野の内側領域にはグリッド細胞の他にも、動物がどの方角を向いているかによって反応強度が異なる頭部方向性細胞(head-direction cell)が見つかっている<ref><pubmed> 15961670</pubmed></ref>。嗅内野の内側領域が空間情報処理と関わる一方、外側領域はオブジェクトといった非空間情報の処理により関わると考えられている。  
嗅内野は内側側頭葉記憶システム<ref name="refsq" />の構成要素として、海馬に対する入出力ゲートとしての役割を持つ。そのため、[[宣言的記憶]]が正常に機能するために必須の領域である。ところが単なる中継地点としてだけではなく、嗅内野自身が新たに付け加える機能については、まだ良く分かっていない。こうしたなか、空間情報処理またはナビゲーションに関わる嗅内野の神経メカニズムが、げっ歯類を使用した電気生理学的研究によって明らかにされつつある。Moser達のグループはラットの嗅内野の内側領域ににおいて[[グリッド細胞]]と呼ばれるニューロンを発見した<ref><pubmed> 15965463</pubmed></ref><ref><pubmed> 19021254</pubmed></ref>(図2)。グリッド細胞は複数の場所受容野を持ち、さらにそれら場所受容野は等間隔に規則正しく配列して6角形または3角形の格子を形成している。場所受容野間の間隔は背側部から腹側部に向かうに従い広がっていく。グリッド細胞がコードする幾何学的な空間情報は海馬に供給され、場所細胞(place cell)が示す神経活動パターンに寄与する。グリッド細胞はげっ歯類だけでなく、ヒトにおいても存在することが[[機能的核磁気共鳴画像]]を使った実験において示唆されている<ref><pubmed> 20090680</pubmed></ref>。嗅内野の内側領域にはグリッド細胞の他にも、動物がどの方角を向いているかによって反応強度が異なる頭部方向性細胞(head-direction cell)が見つかっている<ref><pubmed> 15961670</pubmed></ref>。嗅内野の内側領域が空間情報処理と関わる一方、外側領域はオブジェクトといった非空間情報の処理により関わると考えられている。  


== [[アルツハイマー病]](Alzheimer’s disease)  ==
== [[アルツハイマー病]](Alzheimer’s disease)  ==
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