「ラメリポディア」の版間の差分

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=== 脱重合と脱分枝   ===
=== 脱重合と脱分枝   ===


 [[Image:Actin debranching.png|thumb|right|300px|'''図2 脱分枝の模式図'''<br>[[Coronin]]の分枝起始部への結合により、coroninおよびArp2/3複合体がフィラメントから解離する。さらに、coroninとの結合を介して[[slingshot]]が分枝起始部に局在する(図上側)。Slingshot によって活性化された[[ADF]]/[[コフィリン]]によってアクチンフィラメントが切断され、脱分枝が起こる(図下側)。]]アクチンフィラメントは、[[ADF]]/[[コフィリン]]や[[ゲルゾリン]]などによって切断され、マイナス端(脱重合端、矢じり端、pointed-end)から脱重合が起こる。フィラメントに組み込まれたアクチンは、ATP型からADP型となることが知られているが、これらのフィラメント切断分子はADP型アクチンとの親和性が高いため、プラス端から離れた部位で切断が起こりやすいと考えられる<ref><pubmed> 12663865 </pubmed></ref>。また、コフィリンがアクチンフィラメントに結合することによって、そのフィラメントに結合していたArp2/3複合体が解離し、脱分枝が起こるという報告もある<ref><pubmed> 19362000 </pubmed></ref>。コロニンはコータクチンとArp2サブユニットとの結合を競合的に阻害し、Arp2/3複合体のアクチンフィラメントからの解離を促す。Arp2/3複合体解離後、coroninが代わって分枝起始部に存在し、分枝構造が不安定化する。さらに、コロニンは、ADF/コフィリンを脱リン酸化し活性化するスリングショット(SSH)との結合ドメインを有しているため、coronin結合部位でフィラメントが切断され、結果として脱分枝が起こる<ref name="ref10" /><ref name="ref18"><pubmed> 17350576 </pubmed></ref>。また、アクチン同様、Arp2サブユニットも重合開始に伴ってATP型からADP型に変換される<ref name="ref19"><pubmed> 15094799 </pubmed></ref>。ATP加水分解活性を失うと、分枝形成の効率は変わらないものの、分枝構造の安定化がみられることから、ADP型のArp2を認識する何らかの分子、あるいはリン酸基を失うことによる構造変化によって、脱分枝が促進されると考えられる<ref><pubmed> 16862144 </pubmed></ref>。(図2)
 [[Image:Actin debranching.png|thumb|right|300px|'''図2 脱分枝の模式図'''<br>[[コロニン]]の分枝起始部への結合により、コロニンおよびArp2/3複合体がフィラメントから解離する。さらに、コロニンとの結合を介して[[スリングショット]]が分枝起始部に局在する(図上側)。スリングショット によって活性化された[[ADF]]/[[コフィリン]]によってアクチンフィラメントが切断され、脱分枝が起こる(図下側)。]]アクチンフィラメントは、[[ADF]]/[[コフィリン]]や[[ゲルゾリン]]などによって切断され、マイナス端(脱重合端、矢じり端、pointed-end)から脱重合が起こる。フィラメントに組み込まれたアクチンは、ATP型からADP型となることが知られているが、これらのフィラメント切断分子はADP型アクチンとの親和性が高いため、プラス端から離れた部位で切断が起こりやすいと考えられる<ref><pubmed> 12663865 </pubmed></ref>。また、コフィリンがアクチンフィラメントに結合することによって、そのフィラメントに結合していたArp2/3複合体が解離し、脱分枝が起こるという報告もある<ref><pubmed> 19362000 </pubmed></ref>。コロニンはコータクチンとArp2サブユニットとの結合を競合的に阻害し、Arp2/3複合体のアクチンフィラメントからの解離を促す。Arp2/3複合体解離後、コロニンが代わって分枝起始部に存在し、分枝構造が不安定化する。さらに、コロニンは、ADF/コフィリンを脱リン酸化し活性化するスリングショットとの結合ドメインを有しているため、コロニン結合部位でフィラメントが切断され、結果として脱分枝が起こる<ref name="ref10" /><ref name="ref18"><pubmed> 17350576 </pubmed></ref>。また、アクチン同様、Arp2サブユニットも重合開始に伴ってATP型からADP型に変換される<ref name="ref19"><pubmed> 15094799 </pubmed></ref>。ATP加水分解活性を失うと、分枝形成の効率は変わらないものの、分枝構造の安定化がみられることから、ADP型のArp2を認識する何らかの分子、あるいはリン酸基を失うことによる構造変化によって、脱分枝が促進されると考えられる<ref><pubmed> 16862144 </pubmed></ref>。(図2)


=== アクチン後方移動  ===
=== アクチン後方移動  ===
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=== トレッドミル  ===
=== トレッドミル  ===


 単一のアクチンフィラメントでは、プラス端で重合が、マイナス端で脱重合がそれぞれ起こる、[[トレッドミル]]と呼ばれる現象が見られる。ラメリポディアにおいても先端部でアクチンフィラメントの重合・分枝形成が起こり、後方で脱重合・脱分枝が起こるため、網目構造全体としてトレッドミル状態にある。単量体アクチンやArp2/3複合体、コータクチンなどは、ラメリポディア先端部付近に多く存在しており、先端部から遠ざかるにつれてその量は減少する<ref name="ref4" /><ref name="ref6" /><ref name="ref23"><pubmed> 18309290 </pubmed></ref>。さらに、WAVEは先端部に集積している&gt;<ref><pubmed> 11282031 </pubmed></ref>。また、coroninは、ラメリポディア先端部からやや細胞中心側に離れた位置に多く存在している<ref name="ref10" /><ref name="ref19" />。ADF/コフィリンはラメリポディア内に均一に存在するが、ADP型アクチンに結合することや、slingshot SSHの局在がcoroninによって規定されることから、ADF/コフィリンによる脱重合は、ラメリポディアの先端付近では起こりづらいと考えられる<ref name="ref18" /><ref name="ref23" />。このような分子の局在によって、網目構造全体がトレッドミル状態となると考えられる。また、ラメリポディア先端部での盛んな重合・分枝形成を維持するために、後方部でフィラメントの切断、脱分枝および脱重合の結果フィラメントから解離した単量体アクチンやWASP/WAVEなどは、細胞周辺部へと向かう細胞質の流れにのって運ばれ、先端部でリサイクルされる。この細胞質の流れは、ミオシンによるアクチン網目構造の後方移動に依存して生み出される<ref><pubmed> 19767741 </pubmed></ref>。  
 単一のアクチンフィラメントでは、プラス端で重合が、マイナス端で脱重合がそれぞれ起こる、[[トレッドミル]]と呼ばれる現象が見られる。ラメリポディアにおいても先端部でアクチンフィラメントの重合・分枝形成が起こり、後方で脱重合・脱分枝が起こるため、網目構造全体としてトレッドミル状態にある。単量体アクチンやArp2/3複合体、コータクチンなどは、ラメリポディア先端部付近に多く存在しており、先端部から遠ざかるにつれてその量は減少する<ref name="ref4" /><ref name="ref6" /><ref name="ref23"><pubmed> 18309290 </pubmed></ref>。さらに、WAVEは先端部に集積している<ref><pubmed> 11282031 </pubmed></ref>。また、コロニンは、ラメリポディア先端部からやや細胞中心側に離れた位置に多く存在している<ref name="ref10" /><ref name="ref19" />。ADF/コフィリンはラメリポディア内に均一に存在するが、ADP型アクチンに結合することや、スリングショット スリングショットの局在がコロニンによって規定されることから、ADF/コフィリンによる脱重合は、ラメリポディアの先端付近では起こりづらいと考えられる<ref name="ref18" /><ref name="ref23" />。このような分子の局在によって、網目構造全体がトレッドミル状態となると考えられる。また、ラメリポディア先端部での盛んな重合・分枝形成を維持するために、後方部でフィラメントの切断、脱分枝および脱重合の結果フィラメントから解離した単量体アクチンやWASP/WAVEなどは、細胞周辺部へと向かう細胞質の流れにのって運ばれ、先端部でリサイクルされる。この細胞質の流れは、ミオシンによるアクチン網目構造の後方移動に依存して生み出される<ref><pubmed> 19767741 </pubmed></ref>。  


== 機能  ==
== 機能  ==
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=== ADF/コフィリン  ===
=== ADF/コフィリン  ===


 ADF/コフィリンのアクチンフィラメントの切断・脱重合活性は、[[LIMキナーゼ]](LIMK)による[[リン酸化]]により抑制され、SSHによる脱リン酸化により活性化される<ref><pubmed> 9655398 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11832213 </pubmed></ref><ref><pubmed> 7615564 </pubmed></ref><ref name="ref32"><pubmed> 20133134 </pubmed></ref>。LIMKは、[[Rhoファミリー低分子GTP結合タンパク質]]の[[Rho]]や[[Rac]]によって活性化される<ref><pubmed> 10559936 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10436159 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10652353 </pubmed></ref>。また、SSHはアクチンフィラメントへの結合により活性化し、[[14-3-3]]との結合は、SSHのアクチンへの結合を阻害する<ref name="ref32" /><ref><pubmed> 19329994 </pubmed></ref>。ADF/コフィリンの活性化は、ラメリポディア伸長に対して正負両面の影響を及ぼす。アクチンフィラメントの切断は網目構造を破壊するが、キャッピングタンパク質がプラス端に結合したフィラメントでは、切断によりプラス端が露出し、フィラメントが伸長できる状態になる。また、切断・脱重合による単量体アクチンのリサイクルは、先端部での重合を促進する<ref><pubmed> 18391171 </pubmed></ref><ref name="ref38"><pubmed> 22445336 </pubmed></ref>。実際、軸索ガイダンス因子によるADF/コフィリンの活性化は、成長円錐の誘引・反発のどちらの誘発要因にもなり得る<ref><pubmed> 17606869 </pubmed></ref><ref><pubmed> 20506164 </pubmed></ref>。このような違いは、ラメリポディア動態を適正に制御するためのADF/コフィリン活性の度合いが、細胞内環境に依存して変わるためではないかと推測されている<ref name="ref38" />。  
 ADF/コフィリンのアクチンフィラメントの切断・脱重合活性は、[[LIMキナーゼ]](LIMK)による[[リン酸化]]により抑制され、スリングショットによる脱リン酸化により活性化される<ref><pubmed> 9655398 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11832213 </pubmed></ref><ref><pubmed> 7615564 </pubmed></ref><ref name="ref32"><pubmed> 20133134 </pubmed></ref>。LIMKは、[[Rhoファミリー低分子GTP結合タンパク質]]の[[Rho]]や[[Rac]]によって活性化される<ref><pubmed> 10559936 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10436159 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10652353 </pubmed></ref>。また、スリングショットはアクチンフィラメントへの結合により活性化し、[[14-3-3]]との結合は、スリングショットのアクチンへの結合を阻害する<ref name="ref32" /><ref><pubmed> 19329994 </pubmed></ref>。ADF/コフィリンの活性化は、ラメリポディア伸長に対して正負両面の影響を及ぼす。アクチンフィラメントの切断は網目構造を破壊するが、キャッピングタンパク質がプラス端に結合したフィラメントでは、切断によりプラス端が露出し、フィラメントが伸長できる状態になる。また、切断・脱重合による単量体アクチンのリサイクルは、先端部での重合を促進する<ref><pubmed> 18391171 </pubmed></ref><ref name="ref38"><pubmed> 22445336 </pubmed></ref>。実際、軸索ガイダンス因子によるADF/コフィリンの活性化は、成長円錐の誘引・反発のどちらの誘発要因にもなり得る<ref><pubmed> 17606869 </pubmed></ref><ref><pubmed> 20506164 </pubmed></ref>。このような違いは、ラメリポディア動態を適正に制御するためのADF/コフィリン活性の度合いが、細胞内環境に依存して変わるためではないかと推測されている<ref name="ref38" />。  


=== WASP/WAVE  ===
=== WASP/WAVE  ===
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 コータクチンは、[[extracellular regulated kinases]] (ERK) 1/2による[[wikipedia:JA:セリン|セリン]]残基の[[wikipedia:JA:リン酸|リン酸]]化により活性化され、このセリン残基の非リン酸化変異体では、ラメリポディアが不安定化する<ref><pubmed> 21079800 </pubmed></ref>。srcキナーゼによるチロシン残基のリン酸化は、コータクチンの活性を抑制する<ref><pubmed>  9153252 </pubmed></ref>。反発性因子による成長円錐の崩壊に、このsrcキナーゼ依存的なコータクチンリン酸化の関与を示唆する報告がある<ref><pubmed>  15254079 </pubmed></ref>。  
 コータクチンは、[[extracellular regulated kinases]] (ERK) 1/2による[[wikipedia:JA:セリン|セリン]]残基の[[wikipedia:JA:リン酸|リン酸]]化により活性化され、このセリン残基の非リン酸化変異体では、ラメリポディアが不安定化する<ref><pubmed> 21079800 </pubmed></ref>。srcキナーゼによるチロシン残基のリン酸化は、コータクチンの活性を抑制する<ref><pubmed>  9153252 </pubmed></ref>。反発性因子による成長円錐の崩壊に、このsrcキナーゼ依存的なコータクチンリン酸化の関与を示唆する報告がある<ref><pubmed>  15254079 </pubmed></ref>。  


=== coronin ===
=== コロニン ===


 CoroninのArp2/3複合体への結合は、プロテインキナーゼC (PKC) によるリン酸化によって抑制される<ref><pubmed>  16027158 </pubmed></ref>。また、同部位は、SSHによる脱リン酸化制御も受ける<ref name="ref18" />。CoroninはSSHのアクチンへの結合を媒介するため、coroninの制御によって、ADF/コフィリンの活性が調節される。実際、coroninのノックダウンによって、細胞内のリン酸化コフィリン量が増加する<ref name="ref18" />。  
 コロニンのArp2/3複合体への結合は、プロテインキナーゼC (PKC) によるリン酸化によって抑制される<ref><pubmed>  16027158 </pubmed></ref>。また、同部位は、スリングショットによる脱リン酸化制御も受ける<ref name="ref18" />。コロニンはスリングショットのアクチンへの結合を媒介するため、コロニンの制御によって、ADF/コフィリンの活性が調節される。実際、コロニンのノックダウンによって、細胞内のリン酸化コフィリン量が増加する<ref name="ref18" />。  


=== ミオシン  ===
=== ミオシン  ===

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