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 エピソード記憶の記銘に関連する神経基盤の解明に関しては、近年の[[脳機能イメージング]]研究が果たした役割は大きい。脳機能イメージング研究が盛んになる以前は、[[脳損傷]]患者を対象とした神経心理学的研究が、エピソード記憶の神経基盤の解明の主な手段であったが、記憶の障害は想起させることによって初めて観察可能なものであるため、その障害が記憶の「記銘」における問題か、「想起」における問題かを分離することは、孤立性[[逆向性健忘]]などの特殊な症状をもつ症例を除いて、方法論上困難であった。しかし、脳機能イメージングを用いた研究の場合、「記銘」の過程と「想起」の過程を分離して検証することは比較的容易であるため、従来の脳損傷患者を対象とした研究では難しかった「記銘」に関連する神経基盤の検証が進められてきている。   
 エピソード記憶の記銘に関連する神経基盤の解明に関しては、近年の[[脳機能イメージング]]研究が果たした役割は大きい。脳機能イメージング研究が盛んになる以前は、[[脳損傷]]患者を対象とした神経心理学的研究が、エピソード記憶の神経基盤の解明の主な手段であったが、記憶の障害は想起させることによって初めて観察可能なものであるため、その障害が記憶の「記銘」における問題か、「想起」における問題かを分離することは、孤立性[[逆向性健忘]]などの特殊な症状をもつ症例を除いて、方法論上困難であった。しかし、脳機能イメージングを用いた研究の場合、「記銘」の過程と「想起」の過程を分離して検証することは比較的容易であるため、従来の脳損傷患者を対象とした研究では難しかった「記銘」に関連する神経基盤の検証が進められてきている。   


 エピソード記憶の記銘に関連する神経活動を検証するために、最近の脳機能イメージング研究では、[[subsequent memory パラダイム|subsequent memory(SM)パラダイム]]<ref><pubmed>15866193</pubmed></ref>を用いた方法が多く採用されている。このパラダイムでは、記銘時の実験条件を後の想起が成功したか(subsequently remembered)、失敗したか(subsequently forgotten)によって分類し、後の想起が失敗した記銘時の試行よりも、後の想起が成功した記銘時の試行において有意に活動が増加した[[difference in memory effect]]([[Dm効果]])脳領域を求めることによって、記銘の成功(successful encoding)に関連する神経活動のパターンを同定することができる。したがって、この方法を用いる場合は実験参加者個人の行動データをもとにして試行ごとに条件を設定する必要があるため、事象関連デザインを用いた[[fMRI]]実験を用いる必要がある、しかし、実験条件ごとの課題の困難さの違いなどの副次的な要因の影響を受けにくいため、より「純粋な」記銘に関連する神経活動のパターンを同定することが可能になる。   
 エピソード記憶の記銘に関連する神経活動を検証するために、最近の脳機能イメージング研究では、[[subsequent memory パラダイム|subsequent memory(SM)パラダイム]]<ref><pubmed>15866193</pubmed></ref>を用いた方法が多く採用されている。このパラダイムでは、記銘時の実験条件を後の想起が成功したか(subsequently remembered)、失敗したか(subsequently forgotten)によって分類し、後の想起が失敗した記銘時の試行よりも、後の想起が成功した記銘時の試行において有意に活動が増加した([[difference in memory effect]], [[Dm効果]])脳領域を求めることによって、記銘の成功(successful encoding)に関連する神経活動のパターンを同定することができる。したがって、この方法を用いる場合は実験参加者個人の行動データをもとにして試行ごとに条件を設定する必要があるため、事象関連デザインを用いた[[fMRI]]実験を用いる必要がある、しかし、実験条件ごとの課題の困難さの違いなどの副次的な要因の影響を受けにくいため、より「純粋な」記銘に関連する神経活動のパターンを同定することが可能になる。   


 エピソード記憶の記銘過程に重要な脳領域のひとつは、[[海馬]]・[[海馬傍回]]を含む[[側頭葉]]内側面領域である。近年の脳機能イメージング研究では、エピソード記憶の記銘において、側頭葉内側面に含まれるいくつかの領域が異なった役割を担っていることが示唆されている<ref><pubmed>17707683</pubmed></ref>。すなわち、記銘時の前方の海馬傍回の活動は後の想起時のfamiliarityの過程を反映し、海馬と後方の海馬傍回の活動は後の想起時のrecollectionの過程に関連するとされる。さらに、想起時のrecollectionに関連する海馬と後方の海馬傍回の記銘時の活動の間にも異なった役割があり、後方の海馬傍回はエピソード記憶の文脈情報の処理に関与する一方、海馬はエピソード記憶の文脈と前方の海馬傍回で処理されるエピソード記憶の項目とを連合する役割を担っているようである。エピソード記憶の記銘におけるこのような側頭葉内側面領域での機能解離に関しては、現在も盛んに研究が進められている。   
 エピソード記憶の記銘過程に重要な脳領域のひとつは、[[海馬]]・[[海馬傍回]]を含む[[側頭葉]]内側面領域である。近年の脳機能イメージング研究では、エピソード記憶の記銘において、側頭葉内側面に含まれるいくつかの領域が異なった役割を担っていることが示唆されている<ref><pubmed>17707683</pubmed></ref>。すなわち、記銘時の前方の海馬傍回の活動は後の想起時のfamiliarityの過程を反映し、海馬と後方の海馬傍回の活動は後の想起時のrecollectionの過程に関連するとされる。さらに、想起時のrecollectionに関連する海馬と後方の海馬傍回の記銘時の活動の間にも異なった役割があり、後方の海馬傍回はエピソード記憶の文脈情報の処理に関与する一方、海馬はエピソード記憶の文脈と前方の海馬傍回で処理されるエピソード記憶の項目とを連合する役割を担っているようである。エピソード記憶の記銘におけるこのような側頭葉内側面領域での機能解離に関しては、現在も盛んに研究が進められている。   
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 エピソード記憶の記銘過程に関連する他の脳領域として、先行研究では[[前頭前野]]、特に左[[下前頭回]]が重要な役割を果たしていることを示している。たとえば、WagnerらによるfMRI研究<ref><pubmed>9712582</pubmed></ref>は、後の想起が成功した単語を記銘している際に、後の想起が失敗した単語を記銘している際と比較して、有意に左下前頭回の活動が増加することを報告している。この左下前頭前野の活動は意味記憶の想起時にもよく認められていることから<ref><pubmed>10769304</pubmed></ref>、エピソード記憶の記銘と意味記憶の想起は同時に起こっており、前述した「処理水準効果」の基盤となっていると考えられている。   
 エピソード記憶の記銘過程に関連する他の脳領域として、先行研究では[[前頭前野]]、特に左[[下前頭回]]が重要な役割を果たしていることを示している。たとえば、WagnerらによるfMRI研究<ref><pubmed>9712582</pubmed></ref>は、後の想起が成功した単語を記銘している際に、後の想起が失敗した単語を記銘している際と比較して、有意に左下前頭回の活動が増加することを報告している。この左下前頭前野の活動は意味記憶の想起時にもよく認められていることから<ref><pubmed>10769304</pubmed></ref>、エピソード記憶の記銘と意味記憶の想起は同時に起こっており、前述した「処理水準効果」の基盤となっていると考えられている。   


 エピソード記憶の記銘過程に重要なもう一つの脳領域として、近年の脳機能イメージング研究では、後方の[[外側頭頂葉]]と[[内側頭頂葉]]([[楔前部]]、[[後部帯状回]]、[[脳梁膨大部後方領域]])の関与を指摘している。たとえばDaselaarらによるfMRI研究<ref><pubmed>15528092</pubmed></ref>は、エピソード記憶の記銘に関連した外側頭頂葉や内側頭頂葉の活動はベースラインの活動よりも低下し、さらに後の想起が成功した記銘時の試行と後の想起が失敗した記銘時の試行とで比較すると、後の想起の成功に関連する試行において活動の低下は顕著であったことを報告している。なぜエピソード記憶の記銘に関連してこのような活動パターンが頭頂葉で認められるのかについては未だ明らかではなく、今後のさらなる研究が必要である。  
 エピソード記憶の記銘過程に重要なもう一つの脳領域として、近年の脳機能イメージング研究では、後方の[[外側頭頂葉]]と[[内側頭頂葉]]([[楔前部]]、[[後部帯状回]]、[[脳梁膨大部後方領域]])の関与を指摘している。たとえばDaselaarらによるfMRI研究<ref><pubmed>15528092</pubmed></ref>は、エピソード記憶の記銘に関連した外側頭頂葉や内側頭頂葉の活動はベースラインの活動よりも低下し、さらに後の想起が成功した記銘時の試行と後の想起が失敗した記銘時の試行とで比較すると、後の想起の成功に関連する試行において活動の低下は顕著であったことを報告している。なぜエピソード記憶の記銘に関連してこのような活動パターンが頭頂葉で認められるのかについては未だ明らかではなく、今後のさらなる研究が必要である。


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