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Masatakawatanabe (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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目次 | 目次 | ||
1)前頭眼窩野のなりたち | |||
2)前頭眼窩野の情動・動機づけ機能 | |||
3)前頭眼窩野のニューロン活動とfMRI研究 | |||
4)意思決定と前頭連合野腹内側部 | |||
5)前頭連合野腹内側部とソマティック・マーカー仮説 | |||
6)前頭眼窩野と感情障害 | |||
1)前頭眼窩野のなりたち 前頭眼窩野は前頭葉の腹側面(下部)に位置している(図1)。前頭連合野の他の重要部位である外側部が視床の背内側核小細胞部から入力を受けるのに対し、眼窩野は視床背内側核の大細胞部から入力を受けている。前頭眼窩野の後ろよりの部分には味覚、嗅覚、内臓感覚の入力がある。より前方にある部分(13野の前よりの部分と11野)には、視覚、聴覚、体性感覚情報入力があり、これらの情報と前頭眼窩野の後ろ部分からの味覚、嗅覚情報との連合が生じている。眼窩野はまた扁桃核、海馬、視床下部、線条体とも密接な結び付きがある。 2)前頭眼窩野の情動・動機づけ機能 前頭眼窩野に損傷を受けた患者では、情動・動機づけ機能に障害がみられ、パーソナリティーが浅薄でルーズになる傾向が見られる。また食べ物に対する好みが損傷前と変化する。不適切な多幸感やいらいら感、性的放縦、パラノイア、感情鈍磨、衝動性なども報告される。眼窩部の損傷患者はまた、何かが目に入ると,それで何かしなさいとも,手を触れていいとも言われていないのに,躊躇なくそれを取り上げ,いじる,というような行動(利用行動utilization behavior)を示す傾向もある[1]。 学習行動でよく見られるのが「消去」における障害と「逆転学習」の障害である。すなわち、ある反応をすると好ましいものが得られることを一旦学習した後、その反応をしてももはや好ましいものは得られない、という事態になっても(消去事態)、前頭眼窩野損傷患者はその反応をいつまでも続ける傾向にある。またAは正(好ましいものと結びついている)、Bは負(好ましくないものと結びついている)の信号であることを学習した後に、今度はAが負、Bが正の信号であることを学ぶ、という「逆転学習」も損傷患者には困難になることも知られている。 この脳部位を破壊したサルにおいても、消去がなかなか生じない、逆転学習が困難である、という人と同じ障害が見られる。さらに破壊ザルが、「報酬価値を減少させる」操作に敏感でないことも知られている。すなわち、ほぼ同じ価値(おいしさ)を持つX,Yという食べ物があったとして、Xだけたくさん食べさせる、という操作をすると、通常のサルなら、Yという食べ物を取るのには熱心でも、Xを取るのは熱心でなくなる。ところが前頭眼窩野を破壊したサルはYに対してと同じようにXをとるためにも熱心になることが知られている。 | 1)前頭眼窩野のなりたち 前頭眼窩野は前頭葉の腹側面(下部)に位置している(図1)。前頭連合野の他の重要部位である外側部が視床の背内側核小細胞部から入力を受けるのに対し、眼窩野は視床背内側核の大細胞部から入力を受けている。前頭眼窩野の後ろよりの部分には味覚、嗅覚、内臓感覚の入力がある。より前方にある部分(13野の前よりの部分と11野)には、視覚、聴覚、体性感覚情報入力があり、これらの情報と前頭眼窩野の後ろ部分からの味覚、嗅覚情報との連合が生じている。眼窩野はまた扁桃核、海馬、視床下部、線条体とも密接な結び付きがある。 2)前頭眼窩野の情動・動機づけ機能 前頭眼窩野に損傷を受けた患者では、情動・動機づけ機能に障害がみられ、パーソナリティーが浅薄でルーズになる傾向が見られる。また食べ物に対する好みが損傷前と変化する。不適切な多幸感やいらいら感、性的放縦、パラノイア、感情鈍磨、衝動性なども報告される。眼窩部の損傷患者はまた、何かが目に入ると,それで何かしなさいとも,手を触れていいとも言われていないのに,躊躇なくそれを取り上げ,いじる,というような行動(利用行動utilization behavior)を示す傾向もある[1]。 学習行動でよく見られるのが「消去」における障害と「逆転学習」の障害である。すなわち、ある反応をすると好ましいものが得られることを一旦学習した後、その反応をしてももはや好ましいものは得られない、という事態になっても(消去事態)、前頭眼窩野損傷患者はその反応をいつまでも続ける傾向にある。またAは正(好ましいものと結びついている)、Bは負(好ましくないものと結びついている)の信号であることを学習した後に、今度はAが負、Bが正の信号であることを学ぶ、という「逆転学習」も損傷患者には困難になることも知られている。 この脳部位を破壊したサルにおいても、消去がなかなか生じない、逆転学習が困難である、という人と同じ障害が見られる。さらに破壊ザルが、「報酬価値を減少させる」操作に敏感でないことも知られている。すなわち、ほぼ同じ価値(おいしさ)を持つX,Yという食べ物があったとして、Xだけたくさん食べさせる、という操作をすると、通常のサルなら、Yという食べ物を取るのには熱心でも、Xを取るのは熱心でなくなる。ところが前頭眼窩野を破壊したサルはYに対してと同じようにXをとるためにも熱心になることが知られている。 | ||
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5)前頭眼窩野と感情障害 前頭眼窩野の損傷患者ではうつ病になるリスクが高いことが知られているが、うつ病はこの脳部位がもつ情動・動機づけ制御機能が適切に働かないことと関係していると考えられる。うつ病患者ではこの脳部位の体積が減少していることが知られている。一方、安静時の脳代謝や脳血流量を調べると、この脳部位の活動がうつ病患者では増加していること、適切な治療がされるとこの増加がなくなることが示されている。この活動の増加は、うつ病患者がくよくよ考えることに関係しているとも考えられる。 情動・動機づけ制御機能に障害が考えられるものに「社会病質」Psychopathyもある。これは他人の痛みを感じることがなく、他者に暴力的な反応をしても罪の意識を感じず、同じ犯罪を繰り返し行う行動傾向を指す。社会病質者では、前頭眼窩野の活動性が(うつ病)と違って低いが、この脳部位の損傷で社会病質者になるという報告はない。社会病質者の多くには扁桃核に障害があり、その結果として前頭眼窩野の働きに障害が出ると考えらえている。 前頭眼窩野の情動・動機づけ機能は神経伝達物質のドーパミン,セロトニン、ノルエピネフリン,GABA(ガンマアミノ酪酸)などによって支えられている。その中でセロトニンはこの脳部位の情動機能を支えるのに最も重要な神経伝達物質である。PET研究によると、うつ病は前頭眼窩野のセロトニンの働きの異常が関係していると考えられる。うつ病治療に用いられる薬物の多くは前頭眼窩野のセロトニンの働きを高めるように作用する。 トリプトファン(たんぱく質に含まれるアミノ酸)はセロトニンの前駆物質であるが、このトリプトファン成分だけ除去した食事を実験的に続けると、回復していたうつ症状がぶり返す場合があることが知られている。健常人にトリプトファンを除去した食事をしてもらうと、前頭眼窩野の損傷患者で見られるように、攻撃的傾向が増したり、逆転学習の障害が見られたりする。サルにおいてセロトニンを神経伝達物質とするニューロンは、長期の報酬予測の制御に関係していることも知られている。人では、実験的にトリプトファンを欠乏させると短期的思考が多くなり、過剰にすると長期予測の割合が増すという報告もある。うつ病患者では、特に前頭眼窩野の脳内セロトニン低下により長期予測機能が低下しており、結果として目先のことしか考えられないという短期的思考になり、将来に希望が持てなくなるという仮説も提示されている。 | 5)前頭眼窩野と感情障害 前頭眼窩野の損傷患者ではうつ病になるリスクが高いことが知られているが、うつ病はこの脳部位がもつ情動・動機づけ制御機能が適切に働かないことと関係していると考えられる。うつ病患者ではこの脳部位の体積が減少していることが知られている。一方、安静時の脳代謝や脳血流量を調べると、この脳部位の活動がうつ病患者では増加していること、適切な治療がされるとこの増加がなくなることが示されている。この活動の増加は、うつ病患者がくよくよ考えることに関係しているとも考えられる。 情動・動機づけ制御機能に障害が考えられるものに「社会病質」Psychopathyもある。これは他人の痛みを感じることがなく、他者に暴力的な反応をしても罪の意識を感じず、同じ犯罪を繰り返し行う行動傾向を指す。社会病質者では、前頭眼窩野の活動性が(うつ病)と違って低いが、この脳部位の損傷で社会病質者になるという報告はない。社会病質者の多くには扁桃核に障害があり、その結果として前頭眼窩野の働きに障害が出ると考えらえている。 前頭眼窩野の情動・動機づけ機能は神経伝達物質のドーパミン,セロトニン、ノルエピネフリン,GABA(ガンマアミノ酪酸)などによって支えられている。その中でセロトニンはこの脳部位の情動機能を支えるのに最も重要な神経伝達物質である。PET研究によると、うつ病は前頭眼窩野のセロトニンの働きの異常が関係していると考えられる。うつ病治療に用いられる薬物の多くは前頭眼窩野のセロトニンの働きを高めるように作用する。 トリプトファン(たんぱく質に含まれるアミノ酸)はセロトニンの前駆物質であるが、このトリプトファン成分だけ除去した食事を実験的に続けると、回復していたうつ症状がぶり返す場合があることが知られている。健常人にトリプトファンを除去した食事をしてもらうと、前頭眼窩野の損傷患者で見られるように、攻撃的傾向が増したり、逆転学習の障害が見られたりする。サルにおいてセロトニンを神経伝達物質とするニューロンは、長期の報酬予測の制御に関係していることも知られている。人では、実験的にトリプトファンを欠乏させると短期的思考が多くなり、過剰にすると長期予測の割合が増すという報告もある。うつ病患者では、特に前頭眼窩野の脳内セロトニン低下により長期予測機能が低下しており、結果として目先のことしか考えられないという短期的思考になり、将来に希望が持てなくなるという仮説も提示されている。 | ||
図の説明 図-1: ヒト(左)とサル(右)の前頭前野外側部(上)と前頭眼窩野(下)。図中の数字はブロードマンの領野。 | 図の説明 | ||
図-1: ヒト(左)とサル(右)の前頭前野外側部(上)と前頭眼窩野(下)。図中の数字はブロードマンの領野。 | |||
文献 1)Lhermitte F. 'Utilization behaviour' and its relation to lesions of the frontal lobes. Brain 1983, 106:237-255. | 文献 1)Lhermitte F. 'Utilization behaviour' and its relation to lesions of the frontal lobes. Brain 1983, 106:237-255. | ||
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5)Fellows LK, Farah MJ. The Role of Ventromedial Prefrontal Cortex in Decision Making: Judgment under Uncertainty or Judgment Per Se? Cerebral Cortex 2007 17: 2669-2674. | 5)Fellows LK, Farah MJ. The Role of Ventromedial Prefrontal Cortex in Decision Making: Judgment under Uncertainty or Judgment Per Se? Cerebral Cortex 2007 17: 2669-2674. | ||
その他 前頭眼窩野に関する参考書 1) Cerebral Cortex Special Issue The Mysterious Orbitofrontal Cortex (2000) 10 (3) | その他 前頭眼窩野に関する参考書 | ||
1) Cerebral Cortex Special Issue The Mysterious Orbitofrontal Cortex (2000) 10 (3) | |||
2) Schoenbaum G et al. (Eds) Critical Contributions of the Orbitofrontal Cortex to Behavior (Annals of the New York Academy of Sciences) Wiley-Blackwell 2011 | 2) Schoenbaum G et al. (Eds) Critical Contributions of the Orbitofrontal Cortex to Behavior (Annals of the New York Academy of Sciences) Wiley-Blackwell 2011 |
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